DX戦略

TVer取締役とテレ東名物Pが語る、テレビと配信の未来【後編】 「王様」ではなくなったテレビを、それでも僕らが愛する理由

テレビが「お茶の間の王様」とされていたのも今は昔。2021年5月にNHK放送文化研究所が発表した「10代、20代の半数がほぼテレビを見ない」という調査結果は大きな話題を呼びました。そんなテレビの今を「中の人」たちはどのように受け止めているのでしょうか。そこでお話を伺うのが、民放公式テレビポータル「TVer」の取締役兼事業本部長である蜷川 新治郎氏とテレビ東京のクリエイティブプロデューサーを務める伊藤 隆行氏。後編では、視聴者の感性に起きている変化から、レコメンド機能の理想的なあり方、テレビが担うべき根源的な役割まで、幅広くお届けします。

ざっくりまとめ

- 視聴者側の視聴方法もどんどん変化。倍速再生や盛り上がった部分のみを視聴など、ユーザビリティを高める必要性も。

- テレビこそが、最もエンタメ格差を生まない映像コンテンツ。テレビの究極的な役割とは「国民の情緒や文化度を育むこと」。

- テレビならではの公共性を大切にしながら、より多様で面白い番組づくりを。

「作り込み」よりも、テレ東的な「生っぽさ」が好まれる時代へ

―ちなみに蜷川さんは、伊藤さんが手がけた番組のなかで、お気に入りのものはありますか?

蜷川:私はさまぁ~ずさんが大好きなので、『モヤモヤさまぁ~ず2』は初回からリアルタイムで見てました。『池の水ぜんぶ抜く』とかも好きです。伊藤さんは、作り込まれすぎていない、素材感のある番組づくりが上手ですよね。それはテレ東さん全体の持ち味なのかもしれないけど。

伊藤:そういう意味ではYouTuberの「やってみた」に近いのかもしれません。もうタイトルで全部言っちゃってますから。まさに『池の水ぜんぶ抜く』とタイトルで伝えた上で、「それでは結果をご覧ください」と。

蜷川:伊藤さん自身が出演もされている『巨大企業の日本改革3.0「生きづらいです2021」』も、絶妙の「生っぽさ」です。MCの加藤 浩次さんと伊藤さんが、大企業の新規事業担当者の方にお話を聞きにいくという番組なのですが、こういうビジネスエンターテイメントって、今まではなかったと思うんです。明日のビジネスに直結するニュースというわけでもないし、がっつり作り込んだエンタメでもない。その中間くらいで、感覚としてはWebでマーケティングのセミナーなどを聴いている感覚に近いもかもしれません。

伊藤:企業の皆さんも「私、これどこまで話していいんだっけ?」と、探り探りお話しされるから、その感じが「生っぽさ」につながってるのかもしれないですね。

あとはやっぱりMCの加藤さんのキャラクターも大きいです。加藤さんって、制作側の「テレビをやっちゃってる感」にすごく敏感なんですよ。僕たちは「ここでアバン*を入れて、盛り上がるためにフリをつくって……」みたいに、ついつい手癖で考えてしまいがちなんだけど、加藤さんは「それって本当に必要なの?」というのを常に意識されている。そこは僕たちも見習っていきたくて。企画にしても編集にしても、テレビのなかで当たり前とされてきたフォーマットを一回取り払った上で考えてみることが、これからは大切だと思います。視聴環境が変化したことで、視聴者の感性もどんどん変化していっていますからね。

*オープニングよりも前に流される映像のこと

「おいしいところだけつまみ食い」のテレビ視聴もアリ

蜷川:感性だけじゃなくて、視聴方法もどんどん変わっています。分かりやすいのは「倍速再生」です。そんなの昔では考えられなかったけれど、今では当たり前の視聴方法になりつつある。TVerでも倍速再生機能を実装しています。ドラマの作り手さんとかは「あの1秒の間にこだわったのに、0.5秒にされちゃうのかよ!」と思うでしょうから、難しい問題ではあるのですが……。いずれにしても、私たちが視聴者に通常速度での視聴を強いるべきではないと思うんです。

伊藤:あ! 『倍速でご覧ください』っていう番組があったら面白いかも。みんながスローで動いたり喋ったりしていて、倍速にしたらちょうどよくなる、みたいな(笑)。すみません、なんの話でしたっけ?

(笑)。視聴方法が変化している、というお話でした。たしかに、見るべきコンテンツが溢れすぎていて時間が足りない、というのは感覚としてすごくよく分かります。

蜷川:そうなんですよ。だから「盛り上がったシーンだけを見たい」というつまみ食い的な需要も当然あるはずで。現在のTVerの仕様では、番組の頭から再生することしかできないので、そこはユーザーの皆さんにストレスをかけている部分だと思います。テレビ局の方は、やっぱり最初から通して見てもらいたいのかもしれませんが……。

でも、友だちとかに見てもらいたいシーンをSNSでピンポイントにシェアできるようになったら、タッチポイントとしてもすごく有効じゃないですか。SNSからワンクリックで指定のシーンに飛べて、文脈が気になったら最初から見てもらえばいい。具体的な施策についてはTVer社内でも賛否両論ありますが、テレビをもっと見てもらうために、ユーザビリティを高めていくことが、私たちの役割だと考えています。

テレビほど平等な映像コンテンツは、ほかにない

―そういった工夫をしていくことが、プラットフォームとしてのTVerさんの生き残り戦略にもつながっていくわけですよね。

蜷川:うーん、実は私個人としてはTVerが生き残ることよりも、テレビというコンテンツをより多くの人に届けることこそが大切だと思っているんです。この記事はTVerの社員も読むだろうから、本当はこんなこと言っちゃいけないんだけれど……。それでも誤解を恐れず極論するなら、これからもテレビが多くの人に見てもらえるのであれば、プラットフォームはどこでもいい。私たちが一番大切にしていくべきなのは、ビジネスモデルの構築も含めて、テレビという文化を、いかに持続可能なものにするかを考えていくことだと思うんです。とはいえ理想はもちろん、テレビとともにTVerというプラットフォームが成長していくことですよ。そこはくれぐれも誤解なきように。

―もちろんです。それにしても、蜷川さんがそこまでテレビを大切にするのはなぜなのでしょう?

蜷川:私は世の中からエンタメ格差をなくしたいんです。経済的な理由からNetflixやHuluを見ていない人って、意外と少なくありません。つまり今でもテレビこそが、最もエンタメ格差を生まない映像コンテンツなんです。だから私はテレビを大切にしたい。

TVerがCM型のビジネスモデルを採用しているのも、同じ理由からです。ひょっとしたら「ドラマが全部観られるプラットフォームです」と謳って、サブスクリプションモデルにしたほうが、TVerの収益性は高まるのかもしれません。けれど、それではエンタメ格差を助長してしまいます。やっぱりテレビは誰でも見られるコンテンツであるべきだと思うんです。言い換えると、私はTVerというサービスを通じて、テレビがこれまで担ってきた「マス」としての役割をしっかりと機能させていきたいんですよ。

伊藤:多くの人に見られるマスなコンテンツがあることって、僕もすごく重要なことだと思います。『ドラゴン桜』でも『世界の果てまでイッテQ!』でもいいんですけど、高い視聴率を叩き出す番組って、見ている人に気づきを与えてくれるものじゃないですか。「こんな勉強法があるんだ」とか「この国にはこんな風習があるんだな」とか。もちろんみんな何かを学ぶためじゃなくて、ただ面白いから見ているだけなんだけど、特に子どもたちはそうやって日々何気なくテレビを見るなかで、「世の中ってこうなってるんだ」と学んでいくものだと思うんです。

すごく硬い言い方になってしまうけど、テレビの究極的な役割って「国民の情緒や文化度を育むこと」に尽きるんじゃないでしょうか。もうちょっと柔らかく言うと、テレビを通じて「世界はこんなに豊かだし、人間にはこんなにたくさんの感情があるんだ」ということに気づいてほしい。これは別に高尚な番組を見てほしいということではなくて。くだらないバラエティでもいいんですよ。「メチャクチャくだらないけど、なぜか笑っちゃうな」とか、そういう感性だって持っていないよりも持っているほうが、人生は豊かになるじゃないですか。

マスであり、多様である。そういうあり方が理想的

―伊藤さん自身が番組を手がけるときも、マスに届くことを意識されるのですか?

伊藤:いや、それはまた別の話で。今お話ししたのは、テレビというマスメディア全体が担うべき役割のことです。個々の作り手はマスであること、つまり視聴率をとることではなく、これまでにない番組をつくることを大切にするべきだと思います。そうじゃないと、多様性が失われてしまう。

そうはいっても、これって今のテレビ業界が全然できていないところでもあるんです。皆さんも、うすうす感じていると思いますが、今のテレビってすっかり画一化されてしまいましたよね。どの局でも同じような番組ばかりつくっている。それはやっぱり視聴率を意識しすぎたからで。でも、昔のテレビはそうじゃなかった。もっと一つひとつの番組に独特の匂いがあったし、味があった。それが失われてしまったことが、テレビ、特にバラエティ番組がかつての魅力を失ってしまった理由の一つだと思うんですよ。

蜷川:たしかにTVerでもドラマに比べてバラエティって、全然見られていないんですよね。これはNetflixとかでもおそらく同じで、ネットの世界ではバラエティ番組は消費されにくい傾向があります。

伊藤:これだけユーザーの価値観が多様化しているなかで、どの局でもクイズバラエティばかり流していたら、そりゃそうなりますよね。例えば、ファッションを題材にしたバラエティってあります? ありませんよね。でも僕はあっていいと思う。題材はなんでもいいんですよ。将棋でも文学でもいい。もう少し勇気を持って、ニッチでも深く愛されてるようなジャンルを取り上げていくべきです。ネットを活用すれば、これまでバラエティを見ていなかった層にだってリーチできるかもしれないんですから。まさにその辺りはTVerさんのレコメンド機能にも期待する部分ですね。

蜷川:たしかに、そうですね。ただ課題になるのは、「そのユーザーが好きそうな番組だけ」をレコメンドしていていいのか、ということです。YouTubeなどはまさにそうですが、一つの動画をみるとそれと似たような動画ばかりがオススメされますよね。基本的にはレコメンドって、垂直方向へと興味関心を掘り下げていくものなんです。コンバージョンレートを追求するなら、そのほうが合理的ですからね。

伊藤:たしかにウチの子どもたちも、ゲーム実況とかをひたすら観たりしています。あれは正直、ちょっとどうかなと思うよね(笑)。さっき話していた「世界の豊かさ」に気付くきっかけなんか全然ないんだもん。

蜷川:そうなんですよ。だからやっぱり水平方向に興味関心を広げていくようなレコメンドは絶対に必要だと思っていて。多少コンバージョンレートが落ちたとしても、ロングタームでみればテレビの豊かさを維持していくためには欠かせない取り組みだと思います。

テレビはテレビらしく。それこそが何よりの生存戦略

―ここまで、さまざまな観点からお話を伺ってきましたが、ほかに伊藤さんがこれからのTVerさんに期待することはありますか?

伊藤:もうだいたい話しちゃった気がします(笑)。まあ強いて言うなら、今のTVerさんのブランディングはちょっと硬すぎる気もするので、もっと気楽な感じでもいいかもですね。テレビってやっぱり楽しいものですから。僕もね、今、すごく楽しくなっていて。やっぱりTVerさんが登場したおかげで、作り手としての自由度はグッと上がったと思うんですよ。例えば、番組の尺にしたって、今のテレビでは見かけないようなものをつくれるかもしれない。やっぱりネットって、ショートコンテンツが好まれるから、「毎日更新する3分縛りのコント番組」とかがあってもいいかも、とかね。とにかく、今までにないものをつくりたいし、つくらなきゃいけないと思っています。まあ、僕が一番最初につくった『人妻温泉』みたいな番組はもう無理かもしれないですけどね(笑)。

蜷川:エロに対する規制は、ネットのほうが厳しいからね。

伊藤:あれはエロじゃなくて、テレ東の伝統である「おしゃれエロ」じゃないですか!

蜷川:まあそれはいいとして、少しマジメに話すなら、私たちはYouTubeとは違って、アルゴリズムでNGな番組を弾くことはしていないんですよ。ちゃんと人の目と手で判断しています。それは「エロはダメ」とか「低俗だからダメ」と一律に判断してしまうと、失われてしまう多様性があるからです。まあ、そういう意味では「おしゃれエロ」が生き残る可能性もゼロではないかもしれない(笑)。

―なるほど(笑)。反対に、蜷川さんがこれからのテレビ局に期待するのはどんなことでしょうか?

蜷川:やはりテレビはテレビらしくあってほしいということでしょうか。YouTubeやNetflixを目指す必要はないんです。今日私たちが確認してきたように「エンタメ格差を生まない」とか「気づきを与える」とか「文化に貢献する」とか、そういうテレビならではの公共性を大切にしながら、より多様で面白い番組をつくっていってほしいですね。私たちも全力でそのお手伝いをしていきます。一視聴者としては伊藤さんのバラエティも、もっと観たい。私もテレビをもっと楽しんでいきたいですね。
蜷川 新治郎
株式会社TVer 取締役事業本部長 兼 株式会社テレビ東京コミュニケーションズ取締役

1994年 日本経済新聞社入社 インターネットサービスの開発を担当。
2008年 異動希望かなわず「日経辞めて、テレ東へ転職」コンテンツ戦略、インターネットサービス全般、局横断サービスの立ち上げ、企画開発、システム構築を担当。
2020年より現職
伊藤 隆行
株式会社テレビ東京 制作局 クリエイテイブビジネス制作チーム 部長 クリエイティブプロデューサー

1995年 早稲田大学政治経済学部を卒業後 株式会社テレビ東京に入社。編成局編成部を経て制作現場へ。「モヤモヤさまぁ~ず2」「池の水ぜんぶ抜く大作戦」「やりすぎ都市伝説」「内村のツボる動画」「ゴッドタン」など数多くのバラエティ番組を立ち上げる。
2020年 制作局内に新設されたクリエイティブビジネス制作チームの部長となり、他部署連携、グループ会社、外部パートナーと協業し、放送だけに留まらないマルチユース型のコンテンツを1年で約50企画以上展開。コンテンツメーカーとしてテレビ局の企画力、制作力の可能性を提案、最大化する。

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