TVer 取締役とテレ東名物Pが語る、テレビと配信の未来【前編】 YouTubeもNetflixも、テレビの敵ではない?

テレビが「お茶の間の王様」とされていたのも今は昔。2021年5月にNHK放送文化研究所が発表した「10代、20代の半数がほぼテレビを見ない」という調査結果は大きな話題を呼びました。そんなテレビの今を「中の人」たちはどのように受け止めているのでしょうか。そこでお話を伺うのが、民放公式テレビポータル「TVer」の取締役事業本部長である蜷川 新治郎氏とテレビ東京のクリエイティブプロデューサーを務める伊藤 隆行氏。前編では、コネクテッドTVの登場によって起きた変化や、YouTubeやNetflixといった競合コンテンツとの向き合い方についてお届けします。

ざっくりまとめ

- NetflixやTVerの登場で、テレビも視聴率至上主義からコンテンツ収益を最大化することに意識が変化

- コネクテッドTVの普及により「いつでもどこでも好きなものを見られる」メリットをテレビも享受できるように

- 「テレビ離れ」しているのは、電波の受信機にすぎなかった従来のテレビのこと

- ほかのコンテンツからユーザーを「奪う」のではなく、「選んでもらう」スタンスで、テレビのあり方を考えていくべき

テレビというコンテンツの価値を最大化したい

蜷川さんは元々、テレビ東京に勤めていらしたと伺いました。その当時、お二人は先輩後輩の間柄だったのですか?

伊藤:僕のほうが一つ歳下なんですがテレ東には先に入社していて、蜷川さんが後から転職されてきた。でも、しばらくは何の接点もありませんでしたよね。最初に話したのっていつでしたっけ?

蜷川:初めて喋ったのは2013年だね。大橋 未歩アナウンサー(当時)に会いたくて、私が伊藤Pにお願いしちゃったっていう。

伊藤:そうだ、みんなで飲みに行ったんですよね。そしたらその日以来、蜷川さんが僕の現場にやってくるようになって。大きな一眼レフをぶらさげて。

蜷川:担当していたWeb用の素材を自分で撮りにいってたんです。テレビ局って、畑違いの分野から転職してきた人間にはちょっと冷たい人もいるんですが、伊藤さんは全然そういうところがなくて。だから現場にもお邪魔しやすかったんです。

伊藤:蜷川さんの現場での姿を見ていると「コンテンツ愛がある人なんだな」ということはすぐ分かりました。とはいえ、蜷川さんは頭が良いからか、元々がデジタル系出身だからか、僕たちとは扱う言語が違うなと感じることも多くて。とにかくカタカナ語が多い。そこれそ「プラットフォーマー」とか。でもまあ、最近ではテレビ局でもしょっちゅうカタカナ語を耳にするようになりましたけれどね。なにせ今は「コンテンツビジネス」が主流の時代ですから。

―まさに今日はそのあたりのお話を伺いたいと思っていました。コンテンツビジネスが主流になってきたのは、いつ頃からですか?

蜷川:ここ5年くらいでしょうか。以前からコンテンツビジネスに挑戦する番組は、あるにはあったんです。でも、ほとんどの番組は「いかに視聴率を稼ぐか」で頭がいっぱいで。けれどNetflixをはじめとする動画配信サービスの普及や、TVerのようなプラットフォームの登場などによって、テレビ局もようやく「テレビをインターネットで見ること」を受け入れざるを得なくなった。そうなると視聴率ばかりを気にしてもいられないから、少しずつ「テレビ番組というコンテンツから得られる収益を、いかに最大化するか」という方向に意識が変化してきて、今ようやくそちらがスタンダードになったという感じです。

伊藤:この数年で、みんなが一気に手のひらを返しましたよね。特にこの一年で、その流れが加速した気がします。面白いのは、僕らテレビ側の人間だけじゃなくて、視聴者側もバタバタッと態度を変えていることです。ウチの家族なんてまさにそうなんだけど、今までよりもテレビを楽しんでいると思います。

起きているのは「テレビ離れ」ではなく、「受信機離れ」

―それはコロナ禍の影響でしょうか?

伊藤:それよりもコネクテッドTVの普及が大きいと思います。実は僕のウチも、先日ようやくテレビを買い換えたんです。使いはじめてみると想像以上の快適さに驚きました。分かりやすいのは子どもたちの反応です。今まではスマートフォンや携帯ゲーム機の小さな画面にかじりつくようにYouTubeを見ていたのが、今ではしょっちゅうテレビの前にいる。僕も以前のように見たい番組を録画予約しておかなくても、「ドラゴン桜でも見ようかな」と思ったらその瞬間にピピッとTVerを開けばよくなった。「TVerって超便利じゃん!」と改めて実感しました(笑)。

蜷川:実際にTVerのデバイス別再生数は、テレビがPCを上回りつつあります。要するにコネクテッドTVによって、「いつでもどこでも好きなものを見られる」というインターネットのメリットを、ようやくテレビが享受できるようになってきた。

そのことに、この一年で多くの人が気付いたのだと思います。だから、「テレビ離れ」と言いますが、ユーザーが離れているのは電波の受信機に過ぎなかった従来のテレビだと思うんです。コンテンツとしてのテレビを楽しむ人は、まだまだ大勢いるはずです。

「視聴率」と「再生回数」の持つ意味は、まったく別物

―とはいえコネクテッドTVではNetflixやYouTubeも視聴できますよね。そうしたコンテンツに流れているユーザーを「もう一度テレビの方に引き戻したい」という想いはあるのでしょうか?

伊藤:僕個人は、そうは思っていなくて。ユーザーの消費行動や時間の使い方に、僕たちが口を挟むことが、そもそもおかしいんですよ。テレビが「お茶の間の王様」だった時代があまりにも長かったから、今でもユーザーをコントロールできると錯覚する人もいるのかもしれません。

蜷川:スマホをテレビの「仮想敵」と考えている人にも、同じような錯覚がある気がします。テレビ局がネットへのコンテンツ提供に二の足を踏んでいた理由の一つに、「そんなことをしたら、スマホにどんどんユーザーをとられてしまう」という恐怖感があったと思うんです。けれど人々は単にスマホが便利だから使っているだけで、テレビ局がコンテンツを提供しようがしまいが、スマホユーザーはどんどん増えていくに決まっていますよね。

YouTubeへの展開だって、テレビ局はもっと早い段階から力を入れるべきでした。テレビがYouTubeをがっちり抑えていたら、YouTuberブームだって起きていなかったかもしれない。まあ、これはタラレバですけどね。

伊藤:YouTuberは面白いですよねぇ。みんな良い意味ですごくバカでさ(笑)。彼らも、僕たちの敵じゃないんですよ。敵だと思っている人は、YouTubeを「裏番組」だと誤解しているんじゃないですかね。

蜷川:そうそう。さっきも言ったようにインターネット時代のコンテンツは「好きなときに見られること」が前提だから、そもそも「裏番組」という考え方自体が意味を持たないんですよね。それに視聴率と再生回数っていうのはまったくの別物です。視聴率は100%が上限で、あとはそこから数字が減っていくだけじゃないですか。だからその有限な数字を「奪い合う」っていう感覚になっちゃうわけです。けれどネットコンテンツの再生回数には、上限がありません。つまり、あるYouTubeチャンネルが何百万という再生回数を叩き出したとしても、TVerの再生回数が減るわけじゃないんです。

タッチポイントをつくることが、プラットフォーマーの務め

伊藤:もちろん、視聴率という枠組みが完全に無効になったわけではありません。でも、その数字だけに一喜一憂する時代は終わった。同じように再生回数だけを追いかけてもしょうがない。そういう意味でも、ほかのコンテンツからユーザーを「奪おう」ではなく、無数のコンテンツのなから「選んでもらおう」というスタンスで、テレビのあり方を考えていくべきなのだと思います。

蜷川:テレビを選んでもらうために、私たちのようなプラットフォーマーも「届け方」を工夫していかなければなりません。とにかく今は新聞が読まれなくなり、かつて視聴者とテレビをがっちりとつないでいた「新聞のラテ欄(番組表)」が機能していない。今晩どんな番組をやるかなんて、みんな知らないんです。

だから今後は、ニュースサイトやSNSとの連動もますます重要になるでしょうね。情報の出し方も、もっと工夫しなければならない。例えば、ユーザーの住んでいる地域ごとに、レコメンドの仕方を変えたりもできるかもしれません。ロケ番組だったら、「あなたの住んでいる街で、あの人がこんなことをします」といったように。いずれにせよ、「こんな番組があって、ここにアクセスすれば見られますよ」ということをしっかりと伝えていくこと。すごく基本的なことですが、これからもテレビを選んでもらうためには、タッチポイントを増やすことから、地道に取り組んでいくべきだと思っています。

蜷川 新治郎

株式会社TVer 取締役事業本部長 兼 株式会社テレビ東京コミュニケーションズ取締役

1994年 日本経済新聞社入社 インターネットサービスの開発を担当。
2008年 異動希望かなわず「日経辞めて、テレ東へ転職」コンテンツ戦略、インターネットサービス全般、局横断サービスの立ち上げ、企画開発、システム構築を担当。
2020年より現職

伊藤 隆行

株式会社テレビ東京 制作局 クリエイテイブビジネス制作チーム 部長 クリエイティブプロデューサー

1995年 早稲田大学政治経済学部を卒業後 株式会社テレビ東京に入社。編成局編成部を経て制作現場へ。「モヤモヤさまぁ~ず2」「池の水ぜんぶ抜く大作戦」「やりすぎ都市伝説」「内村のツボる動画」「ゴッドタン」など数多くのバラエティ番組を立ち上げる。
2020年 制作局内に新設されたクリエイティブビジネス制作チームの部長となり、他部署連携、グループ会社、外部パートナーと協業し、放送だけに留まらないマルチユース型のコンテンツを1年で約50企画以上展開。コンテンツメーカーとしてテレビ局の企画力、制作力の可能性を提案、最大化する。

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