事件・事故・災害・コロナにどこよりも早い通知を SNS情報・AIを駆使するJX通信社が報道機関にもたらすデジタル革命
2020/10/12
新型コロナウイルス感染症の流行により、さまざまな分野でデジタルシフトが加速しました。情報収集のあり方もその一つ。なかでも報道機関をはじめ多くの企業で注目されているのが、SNS情報を活用した情報収集サービス。これまで人手をかけることが当たり前とされていた情報収集は、AIによって大幅に自動化、効率化されているのです。
SNS情報を活用した情報収集サービスを手掛けるのは、「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」を目指す報道ベンチャー企業の株式会社JX通信社。彼らが提供するサービスで、報道の現場はどう変わったのか。企業の情報収集のあり方はどう変わっていくのか。代表取締役社長の米重 克洋氏にお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- SNS情報の活用で、企業も一般ユーザーも鮮度の高い情報を得られるようになる
- なかでも報道機関の情報収集は大幅に効率化され、人の手が必要な業務によりリソースをさけるようになった
- SNS情報の活用で、一般企業も管理費の削減など、大幅なコスト削減が可能になる
- 事件や事故、災害に限らず、情報の集め方を変えることで、企業のリスクヘッジができる可能性もある
SNSの活用で情報収集をより早く、より効率的に
我々は、「テクノロジーで『今起きていること』を明らかにする報道機関」というビジョンを掲げ、緊急情報や企業のリリース情報を、SNSを活用して集め、適切な形でさまざまな場所に届けています。
コロナ以前から取り組んでいるサービスとしては、ITを活用しSNSの情報を元に事故や事件、災害の情報を収集し、報道機関や公共機関、企業などに配信するサービス「FASTALERT(ファストアラート)」があります。昨今、一般の方々が事件や事故の現場に居合わせ、その状況をSNSで発信することが増えているため、発信された情報を独自のアルゴリズムで解析し収集することで、記者が駆けつけるより早く、半自動的に情報を集めることができるのです。
また、一般ユーザー向けには速報特化型アプリ「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」というサービスを提供しています。こちらはWeb上の「速報」を探し出してまとめるサービスで、「スマートフォンで最も速くニュースを知る手段」となることを目指しています。
コロナ流行後は、我々の技術を駆使し、コロナが社会や経済に対してどんな影響を与えているかを明らかにすることが求められていると考え、新たなサービスの提供も始めました。
例えば、統計情報を集約し、集めた情報をポータルサイトやニュースサイトを運営する企業に提供し始めました。ありがたいことに、おそらくユーザーの方々が目にした情報の多くは、我々が提供したデータが元になっていると思います。
それ以外にもNewsDigestに、コロナの感染事例を集約し、ユーザーが、クラスターのあった場所を避けて移動できるようになりました。当然ながら社会的にコロナへの関心は非常に高く、ここ最近でNewsDigestのトラフィックは大きく増加しています。
情報収集の自動化で、人がやるべき仕事に集中できるように
これまで人手がかかっていた作業を大幅に効率化し、本当に報道機関がやるべき仕事にリソースを割けるようにした点が大きな変化だと考えています。
我々は、報道機関の役割は大きく2種類あると思っています。
一つは、言論機会としての役割です。記者が「ここには不正が潜んでいるのではないか」「これを解明すると大きなスクープになるのではないか」と仮説を持って調査、取材をすることを指します。ある意味では権力に対する監視のような役目も担っています。
もう一つは、世間の人々に必要な情報を提供する、ライフラインとしての役割です。災害が起きた際、その状況を伝えることなどがこれにあてはまります。
言論機会としての役割は人間でないとできない部分が非常に多く、プロのジャーナリストの方々にはそちらに集中してもらうべきだと思いますが、ライフライン的な役割の方にリソースが割かれてしまっている現状があります。
我々のサービスを活用すれば、情報収集の自動化が可能です。また、独自のアルゴリズムにより鮮度の高い情報だけを集めることができます。
各種報道機関が自社の事業をビジネスとして存続させるには、当然収益を最大化し、コストを最小化する必要があります。しかし、今の報道機関は広告収入がどんどん下がっている一方で、コストがかかり続ける現状があり、赤字が膨らんでいます。
売上を上げる方法を考える必要がありますが、いかにコストを抜本的に下げるのかも同時に議論すべきです。報道機関はあらゆる産業の中でも労働集約的な側面が強く、人海戦術がとられてきました。デジタル化を進め、人の手がかかっていた仕事を効率化していけば、大きくコストを抑えることにつながると考えています。
ー具体的にどんな仕事がデジタル化できるのか教えてください。
例えば報道の世界には「警伝」と呼ばれる、記者が警察や消防に2時間に1回ほどのペースで「何か事件はありませんか?」と電話をかける仕事があります。しかし今は、SNSの方が情報伝達のスピードが早く、人口の多い都市部はその傾向がさらに強いです。SNSを活用しより最新の情報が取得できるようになれば、警伝の手間を削減できます。
その結果、より突っ込んだ取材をするのに時間をかけるなど、これまでとリソース配分の仕方を変え、より付加価値を高めるアクションが起こせると思います。
一般ユーザーに監視をしてもらうことで、大幅なコスト削減に
報道機関と同様に、SNSを活用した効率的な情報取得の方法を確立することで、大きくコストを削減できる可能性があります。
例えば我々のお客さまのなかには、電力会社さまや通信会社さまがいらっしゃいます。彼らは日本全国にたくさんの設備を持ち、それらを管理するためにカメラやセンサーなどを駆使し、常時異常がないか監視を行っていました。ところがSNSを活用することで、いわば全国民に異常がないかどうか監視してもらうことが可能になりました。何か異常が起きた場合、その近くに居合わせた人が察知し、SNSなどに情報を載せます。その情報をリアルタイムで収集することで、電力会社や通信会社はすぐに異常に気付き、スピーディーに対応できるのです。
異常発見の役割をSNSに切り替えられれば、その分これまで監視設備にかかっていたコストが大きく削減できます。
ーデータ活用における注意点があれば教えてください。
何のためにどういうデータを集めるのかを明確にし、整理しなければ、正しく活用することは難しいと思います。これはデータを読み解くためのリテラシー以前の問題です。アジェンダがなければ正しく活用できませんし、必要なデータも集められないのだと思います。
集める情報を増やし、企業のリスクヘッジにも貢献したい
最近はますますSNSを通じて一般の方々がどんどん情報を発信する時代になっています。発信された情報をどう優良な情報に変換するのかは、我々が今非常に力を入れている部分であり、これからも取り組み続けたいテーマでもあります。
今までは災害や事故、事件に限った情報収集を行っていましたが、これからは他の情報も取得できるようにしたいと考えています。例えば、企業が直面するリスクを回避するために、風評被害に関する情報が集められると良いのではと考えており、企業が日常的に直面しやすいリスクに関する情報を集め、提供する仕組みの開発を行っています。
我々が、これまで政府や報道機関に対して提供してきた知見を活用し、より多くの企業さまのリスクヘッジに貢献できるよう、引き続きサービスを磨いていければと思っています。
株式会社JX通信社 代表取締役社長
1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。