「好奇心」と「コミュニケーション力」を磨き、AI時代をサバイブする【スタディサプリ教育AI研究所 所長・GUGA理事 小宮山氏による「AI時代の教育変革」連載 第4弾<後編>】

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人とAIの共存が当たり前になっていく社会において、教育のあり方を再定義し、アントレプレナーシップ教育を推進する必要がある。この考えのもと、リクルート スタディサプリ教育AI研究所の所長であり、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)で理事を務める小宮山 利恵子氏が、「AI時代の教育変革」をテーマに教育現場の実情や事例を紐解く連載企画。

第4回となる今回は小宮山氏へのインタビューを通じ、AI時代に必要な学びのスタイルについて考えます。後編では「仕事」「遊び」「学び」を一体化させる生き方、失敗を恐れずに行動を起こすことの重要性、学びのサンクコスト、生成AI時代に求められるポータブルスキルなどについて伺います。

「仕事」も「遊び」も「学び」も全て楽しむ

――以前のインタビューでも触れられている「メタ認知」は、自分の軸や手持ちのカードを認識するにあたって、必要となるものでしょうか?

そうですね。「(さまざまな学びの)このカードとこのカードを組み合わせたら、面白いことができそうだな」という視点にはメタ認知が必要です。最終的にはどんなことでも面白がれるようになると強いですよね。どんな経験も楽しめれば、それは最高の人生でしょう。

――確かに、学びには人生を豊かにする側面があるかと思います。

孫泰蔵さんとの対談でもお話しましたが、私は「仕事」と「遊び」と「学び」が一体化しているんです。遊んでいるように見えて仕事をしていたり、仕事をしているように見えて学んでいたりと、明確な区切りがありません。「仕事」も「遊び」も「学び」も全てが楽しめたら、人生がもっと楽しくなると思います。

一点私が気になるのは、日本人の失敗に対する恐怖心です。これまでの教育は、いかに速く確実に正解を出すかを求めてきました。そこでは効率的な勉強法や、できるだけ失敗を避けることが重要になる。でも、これからの時代はそもそも正解が分からなかったり、正解が1つではない場合も当たり前になってくるので、まずは行動を起こすことが求められます。失敗したら改善して、もう一度チャレンジすればいいんです。それをスピーディーに繰り返すことで成功に近づくでしょう。

――失敗への恐怖心をいかに取り除くかが大切ですね。

周囲は他人のことをそこまで見ていません。誰も自分のことは見ていないと思い、必要以上に自意識過剰にならず、まずはやってみることが大事だと感じます。
私は以前、米国公認会計士の資格を取るために必要な受講料を払って学んだことがありました。毎日3~4時間の勉強を続けて、アメリカの大学の会計に関する単位も取ったのですが、2カ月くらいで「自分には合わないな」と感じ、スパッと諦めたんです。

無理やり自分を奮い立たせないと続かないことに対して、時間や労力を費やすのはもったいないと思ったのです。苦手なことを続けているとそれだけで精神的にも辛いですし、辞めると決断したときは本当にスッキリしました(笑)。会計が必要になれば、それが得意な人と組めばいい。

生成AI以降の時代は「好奇心」と「コミュニケーション力」が大事

――生成AIの登場は、小宮山さんの学びに対してどのような影響がありましたか?

大きくガラッと変わりましたね。リアルの世界で人間にしかできないことを学ぶ方向にシフトしました。その結果が寿司職人の修業や狩猟免許、唎酒師の取得につながっています。コロナ禍ではキャンプインストラクターの資格も取りました。

これらに共通するのはAIに代替されにくい仕事だということです。より具体的には「人間による高度なコミュニケーション」を意識しています。回転寿司の寿司職人はロボットに置き換えられつつありますが、カウンターでお客さんと対峙する寿司職人には高度なコミュニケーション力が求められるので、すぐに取って代わられるリスクは少ないと考えています。

もう1つは、再現性がないもの。AIは過去のデータをもとに学習しているので、どうしても答えが再現性のあるものになりがちです。そこで私は再現性のない、1回限りのものに興味があります。

――1回限りの価値の高い体験に惹かれているのでしょうか?

そうですね。それ以外にも、体験しないと分からないことや、人間にしか体験できないことに興味があります。狩猟の世界では、罠を仕掛けるときに人間の勘が求められます。過去のデータからシカやイノシシの通り道を推測することは可能ですが、それでもまだまだ分からないことが多い。経験豊富な猟師の勘のほうが鋭いこともあるので、私はそういった人間が持つ直感にも興味があります。

――AI時代を生き抜くうえで、ビジネスパーソンに求められるポータブルスキルはどのようなものでしょうか?

全員に必須になるのは「好奇心」だと思います。企業が求める人材についてのアンケートでは、毎回上位に「好奇心旺盛な人」がランクインします。好奇心があれば自分から行動するし、リサーチもするし、人との出会いも増えるでしょう。

好奇心は大前提として、コミュニケーション力も必要になると考えています。対人間はもちろん、生成AIの活用においてもコミュニケーション力は求められますし、人間の高度なコミュニケーションを生成AIが再現することは今は難しいので、そこにチャンスがあります。

「そこそこでいい」の気持ちで学び始める

――小宮山さんの学びに対する好奇心は、どのように養われたのでしょうか?

子どもの頃は外で遊ぶのが大好きで、家ではゲームばかりやっていました。当時の学校の成績は中の下くらいでしたが、小5のときに新しい担任の先生が「利恵子さんは、このままで大丈夫です」と、初めて私を肯定してくれたんですね。そこから勉強をするようになり、中学からは奨学金をもらうために必死で勉強しました。

ただ私は基本的に、今は好きなことに多くの時間やエネルギーを割きたいと思っています。自分の嫌いなこと、やりたくないことを極力排除していった結果、好きなものだけが残ったわけです。自分に合わないことは無理に学ぼうとせず、それが得意な人に任せます。

もう1つ大事なのは、最初から完璧に、100%身につけようとしないことです。「そこそこできればいい」くらいの意識でスタートして、それを長く続けることで深い学びにつながるのだと思います。

――最初からハードルを高く設定しないことも大切ですね。

私が小型船舶操縦免許を取ったときも、いきなり一級からではなく二級からチャレンジしました。なぜかというと、一級には海図の試験があって、それに苦手意識があったからです。最初は二級だけでいいと思っていましたが、やはり一級が欲しくなって海図の勉強もコツを覚えたらすんなりクリアできました。自分の中に海図に対する偏見があったんですね。

――これまでの対談を振り返って、印象に残っている話を教えてください。

まずは初回の岡田武史さんとの対談です。今はFC今治高校 里山校の学園長をされていて、今年8月のオープンスクールに参加したら満席でした。岡田さんの提唱する「ヒストリック・キャプテン(※)」は、教育が目指す理想のリーダー像だと思います。あとはやはり、孫泰蔵さんとの対談ですね。孫さんも「仕事」と「遊び」と「学び」が一体化している人で、最終的にはその形に行くんだなと。

※ヒストリック・キャプテン:岡田氏の提唱するリーダー像。「心身ともにタフで、変化に適応する能力と主体性をもって周囲の人を巻き込み、世界の歴史を動かせるキャプテンシップを持ったリーダー」。

――ビジネスパーソンが新しい学びへの一歩を踏み出すにあたってのエール、もしくはアドバイスをお願いします。

いきなり大それたことをやろうと思わなくて大丈夫です。大切なのは、1日少しずつの学びです。1%の努力を365日続けると37倍に成長するという話もあります。1日5分でも、難しければ1分からのスタートでも大丈夫。仕事で必要な資格を取るには机上での勉強が必要ですが、そうでなければYouTubeやVoicyなどを活用して目や耳から学ぶこともできます。そして、学んだことはアウトプットすることです。Xでもnoteでもインスタグラムでも、学びと発信はセットです。

私はこれまで、人からの評価を一切気にせず、自分が面白いと思うことを少しずつ学んできただけです。今は自分の子どもも大きくなったし、第二の人生を生きているような感覚で、正直いつ死んでも後悔はありません。皆さんも、「この学びは将来役に立つのか?」なんてことは考えず、自分の好きな学びを続けてほしいと思います。

小宮山 利恵子

株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所 所長/一般社団法人生成AI活用普及協会 理事

衆議院、ベネッセ等を経てリクルートにて2015年より現職。国立大学法人 東京学芸大学大学院准教授。東京工業大学リーダーシップ教育院、ANA、熊本県八代市等のアドバイザーを兼務。テクノロジー/AI、五感を使った教育、アントレ教育の領域を中心に国内外問わず幅広く活動。著書に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路出版、2020年)、『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA、2019年)など。早稲田大学大学院修了。

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