OpenAIに対抗。実業家 イーロン・マスク氏が率いる生成AI企業「xAI(エックスエーアイ)」〜海外ユニコーンウォッチ #17〜

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「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の非上場企業を伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほど珍しいという意味だ。かつては、MetaやX(旧、Twitter)もそう称されていた。本連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は、生成AIサービスを提供する「xAI(エックスエーアイ)」を取り上げる。イーロン・マスク氏が率いるxAIは、同氏がCEOを務めるテスラ社への技術供与の可能性も報じられている。

イーロン・マスク氏が手掛ける生成AI企業「xAI」

xAIは、2023年に設立された、生成AIサービスを提供するアメリカの企業だ。同社を率いるのは、電気自動車メーカーの「テスラ」や宇宙事業を手掛ける「スペースX」、SNS「X」などを経営する実業家のイーロン・マスク氏だ。マスク氏は、生成AIサービスの先がけである「ChatGPT」を開発するOpenAIの立ち上げに関わったが、その後、たもとを分かった経緯がある。xAIは、「宇宙の本質を理解する」をミッションに掲げ、「人類の理解と知識の探究を支えるAIツールを作りたい」と語っている。そのような考えのもと同社が開発している生成AIサービスが「Grok(グロック)」だ。「Grok」は対話型の生成AIで、同社は「ほぼ全てに回答でき、どのような質問をすべきかも提案できる」ことが特徴だとしている。現在はXの有料ユーザーが利用できる。

xAIは2024年5月、シリーズBラウンドとして60億ドル(約8700億円)の資金調達を実施したと発表した。会社設立を発表した2023年7月から約1年弱での巨額の資金調達であり、市場の注目を集めた。この間、xAIはAIモデルを「Grok-0」「Grok-1」「Grok-1.5」「Grok-1.5V」と更新し続け、2024年8月にはさらなる改良を行なった「Grok-2」と「Grok-2 mini」のベータ版を公開した。シリーズBラウンドで調達した資金は、「xAIの最初の製品を市場に提供し、高度なインフラを構築し、将来の技術の研究開発を加速するために使う」としており、今後の開発にも意欲を示している。

xAIが開発する最新モデル「Grok-2」

2024年8月に発表された、xAIが開発するAIモデルの最新版「Grok-2」は、従来のモデルと比べ、チャットやコーディング、推論の能力が向上している。同社によると、ベータ版のリリース時点でOpenAIの「GPT-4-Turbo」やAnthropicの「Claude 3.5 Sonnet」を上回るスコアを記録しているという。現在はXの有料版ユーザーに提供されており、画像生成機能も試験的に導入されている。同社は今後、検索能力の強化やX上の投稿に対するより深い洞察の獲得、返信機能の改善などを進めていくとのことだ。

データの宝庫である「X」との連携と、プライバシーの課題

xAIは、「X社と緊密に連携し、私たちの技術を5億人を超えるXユーザーに提供する」としており、X上のデータをxAIの開発にも活かしている。生成AIの開発には多くのデータが必要となる。その観点で、X上にある多くのデータをxAIの開発に活かすことができる環境は同社の強みであると考えられる。しかし一方で、Xのデータを活用することは、プライバシーの問題にも直面してくる。実際に、個人のデータの取り扱いに厳しいEUでは、同意のないデータ利用が問題視され、アイルランドデータ保護委員会がX社にxAIによるデータ活用の停止を求めている。生成AIを開発するうえで、「データの宝庫」を持つことは有利ではあるが、近年のプライバシー保護の潮流を無視したデータの利活用を進めれば、一転して自らの首を絞めることになりかねない、ということに注意が必要だ。

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