導入企業が明かすChatGPT・生成AIの活用方法【Generative AI Business Day X イベントレポート】

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ChatGPTの登場により、一躍脚光を浴びるようになった「生成AI」。実際に企業の現場でも導入され始め、その効果や活用方法に期待と注目が集まっています。今回は、そのような知見やノウハウを持つ企業が集い、ChatGPTや生成AIの活用事例や展望を明かしたオンラインイベントをレポートします。

2023年8月29日、「Generative AI Business Day X」が開催されました。本記事では、そのなかのセッション「事例から学ぶ、大企業は生成AIでどう変革するか」を取り上げます。本セッションでは、日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者の成田 敏博氏、株式会社ベネッセホールディングス 部長 國吉 啓介氏、ディップ株式会社 CIO 鈴木 孝知氏が登壇し、小澤 健祐氏がモデレーターを務め、各社のChatGPTや生成AIを活用する実態が語られました。

各社、ChatGPT活用を積極的に推進

小澤:まずは順番に各社の生成AIに関する取り組みについて簡単にご紹介をお願いします。

成田:日清食品ホールディングスは従業員が全体で1万5,000人弱おり、そのなかの約5,000名が今、ChatGPTの日清食品版である「NISSIN AI-chat powered by GPT-4」を利用しています。このサービスは自前で構築したもので、現在社内で活用されています。元々は、今年の4月に行われた入社式で、安藤 宏基CEOがChatGPTを用いて生成したメッセージを新入社員に伝えました。そのなかで、こうしたテクノロジーを賢く駆使することで短期間に多くの学びを得てほしいという話があったのです。その入社式の日から方針の検討を始め4月25日に「NISSIN AI-chat」を公開しました。最初は説明会を行ったり、ウェブの社内報で掲載したりと社内に対しての周知・啓発に力を入れました。
コンプライアンス対策にも気を遣っており、最初にログインした際にはCEOのメッセージとして、テクノロジーを活用してほしいと旨と共に、一部にはリスクもあるので、自分で内容を確認すべきという文章を出しています。また、プロンプトエンジニアリングの研修も行っており、現在は「初級者・中級者・上級者」というレベル別で社内でトレーニングを展開しています。

日清食品としては、まず営業領域に対して生成AIを活用するよう力を入れています。具体的にどのような業務で使うことができるかを掘り下げながら進めているところです。現在は、営業からマーケティング、経営企画、財務経理などに対しても横展開を進めています。

國吉:生成AIという技術が出てくることで、今までは専門家がプログラミングをしないとつくれなかったものが、かなりカジュアルに使えるようになると思っており、我々も衝撃を受けています。ただ、実際に触ってみないと、どのようなことができるか分からないので、まずは「触る」ということを、社内の一人ひとりができるような環境をつくりたいと思い、「Benesse Chat」というチャットサービスを社内向けにつくりました。今は、アイデアのブレストやプログラムを書くサポートなどの用途で使いながら、自分たちでよいと思ったものをサービスに変えていこうとしています。

お客さまにも生成AIの価値を感じていただきたいと思い、夏休みシーズンには、小学生の親子に向けて自由研究のテーマを一緒に見つけるサービス「自由研究お助けAI」をつくってリリースしました。保護者の方も、こうした新しい技術がどのようなものかという不安もあれば、一方で、新しい可能性を感じている方もいらっしゃるので、一緒に生成AIがどのようなものかを学びながら実際に使ってみて、役立てていただくようなサービスになっています。

鈴木:ディップはバイトルなどを運営しており人材紹介事業を中心に展開しています。最近ではDX事業にも力を入れており、採用担当者や、お店の店長といった弊社のお客さまの定型業務を自動化するようなツールやSaaSも扱っています。今後さらに、人間に代わってAIが就職活動・転職活動を支援するAIエージェント事業の展開を会社として打ち出しています。弊社は約3,000人の従業員がいる組織で、そのなかにAIの活用を促進する「dip AI Force」というバーチャル組織を設立しました。各部署にAIアンバサダーを配置しようとしたところ、3,000人中250人がやりたいと手を挙げ、AIアンバサダーとして活動しています。社員がつくり、各組織や「dip AI Force」で厳選したプロンプトが200個あり、それらを社内のデータベースで公開しています。今は、そのプロンプトをいかに3,000人の従業員に使ってもらうかに力を入れています。

またバイトルなどでは、ネット上に仕事の紹介記事が載りますが、原稿作成の担当者がその紹介文をつくっています。弊社の場合も、CEOやCOOの号令の元で行っており、AIの活用も含めて、2年後に生産性を1.8倍にするという数値目標があり、毎週、数値目標を確認しながらAI活用を進めています。

ChatGPT活用の上での課題と対策

小澤:ありがとうございます。それでは、最初のテーマに入りたいと思います。「どんな体制・意思決定で生成AIを進めているのか」というものですが、國吉さんから順番にお願いいたします。

國吉:ベネッセでは社長直轄で、CDXOが率いる「Digital Innovation Partners(デジタルイノベーションパートナーズ)」という組織があり、そこが中心となって進めました。この組織には、私の所属するデータ系の部門の他、ITやデジタル、人材系などさまざまな部門が入っています。例えば、インフラの話ではIT部門の人が入ったり、私たちはデータの観点で入ったりと、いろいろな観点の人たちと話すことができること、そして、社長直轄なので経営層とダイレクトに話しながら一気に進められることがポイントとなっています。
鈴木:ディップでは最初に三つのプロジェクトを立ち上げました。AI事業を立ち上げるプロジェクト、全社でChatGPTやAIを活用するプロジェクト、そして、部署ごとに各業務に特化した部門別のAI活用を行うプロジェクトという三つです。いきなりChatGPTを使って「すごく便利だ、みんな使おう」となったわけではなく、私自身もそうですが、よいプロンプトを見て初めて「こんなに使えるんだ」という気づきを得て、使い始めるというケースがあったので、いかに全社・各組織に伝えるかを検討するなかで、バーチャル組織やAIアンバサダーをつくらなければならないと考えました。

成田:日清食品の場合、最初の体制は、情報システム部門のなかで希望者を募るというやり方でした。先ほどお話しした入社式の日に、ChatGPTを社内に展開していく上で有志を募り、10人くらいのメンバーが現行の業務をやりながら携わる形でチームを組成しました。今もそのチームが全社的な事務局を務めています。一方、先ほど営業やマーケティング、経営企画などに横展開するとお話ししましたが、それらに関しては、各部署とプロジェクトを組成しており、プロジェクトのオーナーは各部門の部門長です。各部署で、どのような業務に使えるのか、どのようなプロンプトが有用なのかをブラッシュアップしています。このように、元々はIT部門のなかで有志を募った上で、各部門と連携して、それぞれ社内に対して横展開をしているという体制です。

小澤:それでは、次のテーマに移ります。「推進にあたり出てきた課題とその対策」について伺いたいのですが、成田さんからお願いします。

成田:いわゆるリスクに関してはそれほど課題にはなっていません。一方で、やはり利用者の裾野をいかに広げていくかが課題です。また、実際に社内向けサービスを使うなかで、「最新のデータを参照したい」「社内システムと連携してほしい」など、非常に多くの要望が出ており、それらの対応をしています。「具体的にどう活用すればよいかまだ分らない」という声はありますが、進めようとすることに対しては各部署ともに非常に好意的だと感じています。

國吉:我々は、外部に向けて、特にお子さんが使うとなると、変なことを入力したり、答えを直接聞いたりするような場合も出てくるので、利用者や利用シーンによって、どのように技術を切り出して、上手くサービスとして提供していくかというところに課題がありました。どこまでを自由にして、どこからは制約や制限をかけていくかを、答えのないなかで探さなければならないところがすごく大変でした。

鈴木:我々は「誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会の実現を目指す」というビジョンを持っており、そこに行き着くために、AI活用では5段階のステップを考えています。5段階のなかで今は2段階目にいて、これから3段階目以降を目指し、最後まで到達するとビジョンが達成できるということです。これらを見える化することで、今やらなければならないことや、プロンプトをつくること自体が目的ではなくその先に目標があることを理解してもらうようにしています。

小澤:最後に参加者からの質問に答えていただければと思います。「導入成果の定量的評価方法についてどのように考えていますか」といただいていますがいかがでしょうか。

國吉:まず企画を考えている人が、自分自身で体験してみて、よいところを感じられるようにしています。まさに夏休みの企画もそうですが、自分たちで企画して、新しくこれをやりたいという声がたくさん社内のなかで出てきている状況です。今は、そのような実際に体験してサービスを考えるというところを評価軸というか、ポイントにしています。

成田:業務の工数削減では、ChatGPTを使う前にかかっていた時間と、使用後にどれくらいの時間が削減されるのかを、一旦、無理やりにでも出してみます。それらを積み上げた上で、AIを完全に活用できた際に、大体、年間1人あたりどれくらいの作業工数の削減が見込めるかを、あえて出しています。この数値にできる限り近づけられるよう、これからチャレンジしていこうとしています。

鈴木:弊社は定量化にこだわっており、時間で考えると、1人あたり月に1万1,000分くらい働いています。その1万1,000分を、「この業務では68分、この業務では112分」のように、100個ほどの業務に分けています。その上で、「AIによって、この112分の業務は何分になったか」を見ています。例えば、「原稿を書く時間が今まで132分だったのが118分になった」などです。この仕組みは、AIのためにつくった訳ではなく、元々あったものなので非常に計測がしやすくなっています。

小澤:ありがとうございます。では、これで本セッションを終了とさせていただきます。皆さま、ありがとうございました。

成田 敏博

日清食品ホールディングス株式会社 執行役員 CIO グループ情報責任者

1999年、新卒でアクセンチュアに入社。 公共サービス本部にて業務プロセス改革、基幹業務システム構築などに従事。2012年、ディー・エヌ・エー入社。グローバル基幹業務システム構築プロジェクトに参画後、IT戦略部長として全社システム企画・構築・運用全般を統括。その後、メルカリ IT戦略室長を経て、2019年12月に日清食品ホールディングスに入社。2022年4月より現職。

國吉 啓介

株式会社ベネッセホールディングス 部長

デジタルサービスの企画・開発、業務プロセス変革の企画・実行、データ分析組織の立ち上げ、AIを活用したサービス企画・開発などを担当し、現在はベネッセグループにおけるAIやデータ利活用によるDX推進に従事。データと言葉をつなぎ、問いをたて、新しい価値を生み出す力に、大きなポテンシャルを感じており、その方法論や力の身につけ方にも興味があり、滋賀大学データサイエンス学部インダストリアルアドバイザーや筑波大学大学院ビジネス科学研究科非常勤講師などでも活動中。

鈴木 孝知

ディップ株式会社 CIO

NTT、日経BP、リクルートなど9社を渡り歩き、炎上プロジェクトや不振事業、赤字会社など、一貫して『立て直し』に携わる。CMO、CIO、CPO、CISOなど、Webビジネスにかかわる仕事であればなんでもやる。AIもはじめました。歳とともに「働くことの面白さをみんなに伝えたい!」という気持ちが強くなり、「誰もが働く喜びと幸せを感じられる社会の実現を目指し」ているディップに根を下ろす。

小澤 健祐

AINOW編集長

「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。AI分野で1000記事以上を執筆。AI専門メディア「AINOW」編集長、株式会社Cinematorico 共同創業者COO、SDGs専門メディア「SDGs CONNECT」編集長、45歳からのキャリア自律支援メディア「ライフシフトラボ・ジャーナル」編集長、株式会社Carnot PRディレクター、、株式会社テックビズ 広報、フリーカメラマン、日本大学文理学部 次世代社会研究センター プロボノ。ディップ株式会社 dip総合研究所、採用チーム。

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