生成AI登場で、産業・社会・生き方はどう変わる? 澤円氏×小宮山利恵子氏×國本知里氏 トークセッションレポート

AI

ChatGPTの登場により一躍注目を浴びるようになった「生成AI」。その進歩のスピードは非常に速く、日々、新たな技術やサービスが登場し、話題になっています。こうした技術革新に合わせて、生成AIを社会へ適切に実装させようとする取り組みも生まれています。

2023年7月13日、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)は戦略発表会を開催しました。前半では、GUGAのミッションやビジョンが公表され、同協会が手がける資格試験「生成AIパスポート」の説明や今後の戦略が語られました。後半は、「CHANGE THE STANDARD 〜 生成AIによって、産業・社会はどんな変貌を遂げるか? 〜」をテーマにトークセッションが行われました。本記事では、このセッションの内容をレポートします。

トークセッションでは、株式会社圓窓 代表取締役 澤 円氏、株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長 小宮山 利恵子氏、Cynthialy株式会社 代表取締役 國本 知里氏が登壇し、GUGA理事の花島 晋平氏がモデレーターを務め、企業導入、教育、人材、AI技術の各視点から生成AIが社会に及ぼす影響や今後の展望について議論が交わされました。

生成AIを自分ごと化し、生涯学び続けることが重要

花島:それでは早速、一つ目のテーマです。生成AIの社会実装を実現するために重要なポイントは何でしょうか?

澤:私はテック業界に30年ほどいるのですが、「テクノロジーは詳しい人がやればよい」という考え方が続いてきたと思っています。しかし最近、さすがにもうそういう訳にはいかなくなった。これは「DX」というキーワードも同じです。「IT屋さんがやればよい」という話ではなく、皆が取り組まなければならないことなのです。生成AIも、そのような位置付けで捉える必要があると思います。そのため、まずは皆が「これは自分ごとである」と思うことがポイントです。

小宮山:これだけテクノロジーの進展が速い社会では、生涯学び続ける必要があると思っています。企業や個人が学び自体に対する考え方を変えなければなりません。ある調査によると、日本の社会人の1日の平均学習時間は6分間しかないと言われています。他の先進国と比べても、とても少ない。そのため、まずマインドセットを変え、その上で企業は、学んだ人を評価する具体的な施策を行うことが必要だと思います。

花島:ありがとうございます。次のテーマに移ります。生成AI活用スキルを学ぶことの価値やキャリア形成にもたらす影響について伺いたいと思います。

國本:今後、個人単位でのスキルセットの多様化や拡張が起きると考えています。今までは一つの専門性を学ぶために「3年間頑張れ」と言われてきましたが、生成AIによって、これが崩れてきています。例えば、ChatGPTを使えばデータ分析を誰でもできますし、画像生成AIを使ってデザイナーになれるなど、専門性を身につけることが簡単になりました。個人が生成AIを通してたくさんの専門性を身につけるということが起こると思いますし、それが非常に大事だと感じています。

小宮山:企業側の課題という視点でお話しさせていただくと、スキルの可視化をするためにも、これからは外部との連携がとても重要です。各社員がどういうスキルを持っているか、企業はおそらく把握できていないと思います。企業にとっては、スキルセットの整理もこれから非常に重要になります。

フェイクを見極める技術の活用と個人のリテラシー向上が鍵に

花島:では、生成AIの普及により、今後想定される課題とその対処法をお聞かせください。

澤:昔は「課題」がすごく明確でした。洗濯板と洗濯機に例えると、洗濯板で洗濯をしていた時代は、洗濯機の有用性が非常に分かりやすかった。課題が明確で、その解決方法も単純でした。しかし、10年前の洗濯機と今の洗濯機では、解決される課題にはどれくらいの差があるでしょうか。これは、大部分の課題が解決され、課題がどんどん小さくなっているということです。今では、「課題を見つける」ということ自体が課題でもあります。そのような複雑な課題を見つけるには手間がかかりますが、それを生成AIがやってくれる。課題探しに必要としていた時間が短縮されるのは、素晴らしいことです。

ただし、そうなると、企業側は差別化をすごくしづらくなる側面もある。生成AIが業務を代替することで、その部分で強みを発揮していた企業は、アドバンテージがなくなってしまう。そして、その先にある、誰もまだ解決したことがなく、方法論が生み出されていないところで差別化をしなければならなくなります。本当に人がやらなければならない領域では、さらなるクリエイティビティや、イノベーションを起こす力などが問われることになると思います。

國本:生成AIによって、フェイクの情報も簡単に生成できてしまうことが今後課題になると思います。フェイクニュースやフェイク画像も生まれていますが、今は本当に見分けがつきません。ChatGPTもそうですが、本当っぽいことを返してくる「ハルシネーション」という問題もあります。今後、生成AIが生み出したものを業務で使う際に、正しいかどうか分からないのに、「多分、大丈夫だろう」と個人で勝手に判断して顧客に提供してしまうということも増えると思いますし、すでに問題になってきています。海外の動きと同様に、日本政府もフェイクを見破るためにAIの活用を進めるようです。フェイクを見極めるには、そのような技術を活用しながら、個人としてのリテラシーも高めるという、両方が必要になると思います。

時間に余裕が生まれることで、人生全体のリデザインも必要に

花島:最後のテーマです。生成AIによって、産業はどのように姿を変え、どのような社会へと変化していくと予想されますか?

澤:生成AIと共存していくということが、より一層問われると思います。冒頭で触れた「自分ごとにする」ということに加え、恐れすぎないことがすごく重要です。生成AIが存在する世界になってしまったので、それが無い世界にはもう戻れません。先ほども話題に出た、フェイクや何かしらの悪意のある行為も織り込んで、全部をリデザインしていかなければならないということです。

小宮山:教育領域についてお話ししたいと思います。AIが導入されることによって、抜本的な改革がなされ、DXが進もうとしていると感じています。これまで教育業界は、100年以上変わってこなかった。今、GIGAスクール構想で1人1台、端末が配られていますが、そのようなテクノロジーを取り入れる動きによって、あらゆるものの再定義が必要になると思います。「教育とは何か」「学校とは何か」「先生とは何か」、また、生成AIがより直接的に関係するところでは「作品とは何か」などです。人の手だけではなく、AIも使うことを前提とした場合、そもそも作品とは何なのか、というところから議論しなければならない状況が始まっていると思います。先生という存在も、これまでは教えることが9割でしたが、それよりも伴走する役割のほうが求められるのではないかと考えています。

國本:今後は、個のエンパワーメントがさらに広がっていき、個を支える産業が増えると思っています。今までは、専門性がないから会社などの組織に所属して、いろいろな人と協働してきました。しかし、今では、ChatGPTに新規事業のアイデアを聞いて、コードも書いてもらって、画像やLPをつくることもできる。今後さらに技術が進むと、コードを書かなくても自然言語からプロダクトを生成できることにもなるかもしれません。そうなった際、今までは会社に所属しなければならないと思っていた人たちが、自分だけでも頑張れると考えるようになる。生成AIが起業の後押しになり、個として頑張る人たちを支援するようなサービスやサポートも増えてくると思います。

花島:さらに先に目を向けると、どのような未来になると思われますか?

澤:嫌なことをしなくても済むという方向に進むのは、間違いないでしょう。あるいは、面倒くさいことがどんどん消えていく。嫌なことは生成AIにやってもらって、本来の仕事に集中できます。生成AIのよいところは、同じことをしつこく言っても怒らないところです。何度も同じ質問をしても問題ありませんし、同じミスがあっても責められることはないので、心理的安全性が非常に高いのです。それは、「面倒くさいことをお願いしてもいいのかな」「こんなこと聞いてもいいのかな」と尻込みしていた気持ちを全て吸収してくれるとも言えます。そうすると、本当にやりたいことに思いきり時間を使うことができる。それはすごくよいことだと思っています。

小宮山:今の澤さんのお話に被せると、ある学校で、AIが搭載されたロボットで英語学習をすると、先生が相手だと恥ずかしがってしまうけれど、ロボット相手だと恥ずかしさがなくなって学習時間が伸び、それに伴って学力も向上したという事例があります。生成AIを使った学習効果の向上がこれから見込まれるのではないかと思います。

國本:私自身、働き方が変わったのがすごく嬉しいです。日本人は働きすぎてしまう側面があると思いますが、最近、今までは10時間ほどかかっていた資料づくりが、生成AIを使って1時間くらいで終わったということがありました。すると、余った時間がどんどん出てきます。今までは仕事が人生の中心だった人も多くいると思うのですが、今後は、仕事以外も含めた人生全体のリデザインが必要になってくると感じています。

花島:ありがとうございます。お話は尽きないのですが、本日はここまでとさせていただきます。皆さま、ありがとうございました。

國本 知里

Cynthialy株式会社 代表取締役 

早稲⽥⼤学⼤学院修了後、外資ITのSAPにてHR SaaS エンタープライズ営業、外資ITベンチャーにてアジア領域の事業開発等を経験。2022年10⽉にCynthialyを創業し、企業向け生成AIリスキリング研修事業やクリエイター向けの生成AIスクール事業を展開。3,500名以上登録イベント「Generative AI Business Day」等を主催し、生成AIのビジネス活用を広げている。

小宮山 利恵子

株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所所長

国立大学法人 東京学芸大学大学院准教授。早稲田大学大学院修了。衆議院、ベネッセ等を経てリクルートにて2015年より現職。東京工業大学リーダーシップ教育院、ANA、熊本県八代市等のアドバイザーを兼務。テクノロジー/AI、五感を使った教育、アントレ教育の領域を中心に国内外問わず幅広く活動。

澤 円

株式会社圓窓 代表取締役

元・日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。DXやビジネスパーソンの生産性向上、サイバーセキュリティや組織マネジメントなど幅広い領域のアドバイザーやコンサルティングなどを行っている。複数の会社の顧問や大学教員、Voicyパーソナリティなどの肩書を持ち、「複業」のロールモデルとしても情報発信している。

花島 晋平

生成AI活用普及協会 理事

2014年からweb3.0やXRなどテック企業を中心に20以上の企画に対して投資・事業参画。
ニューヨークの映像テック企業NYSE上場に投資関与したことをきっかけに、2021年に開発会社・会計事務所など、経営するサービスを一括化し、企画開発・システム開発・資本政策・上場までワンストップで実現する投資会社「BM Investment株式会社」を設立。
2023年生成AIの台頭を受け生成AI活用普及協会を企画開発。

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