ChatGPT プラグイン提供企業が増加中。オプト田中宏明氏が語る対話型AIの可能性
2023/7/12
ChatGPTの機能を大幅に拡張するサービスとして2023年5月13日より本格展開されたChatGPTのプラグイン。現在、プラグインを利用できるのは有料プランである「ChatGPT Plus」のユーザーのみですが、すでに国内外でさまざまな企業がプラグインの開発・提供を開始しており、その後(6月15日)発表されたFunction callingなども相まって、今後の対話型AIは大きな進化を遂げることが予想されます。ChatGPTのプラグインでどんなことが可能になり、AIの未来はどう変わるのか。株式会社オプトのAIソリューション開発部で部長を務める田中宏明氏に伺います。
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ググるだけでは分からなかった答えを、ChatGPTのプラグインが教えてくれる時代
ChatGPTのプラグインは月20ドルの有料版である「ChatGPT Plus」のユーザーのみが使用可能です。 「Plugin store」にアップされているプラグインの数を数えてみたところ、本格リリース直後の2023年5月13日時点では75個でしたが、1ヶ月半経った現在、その数は562個と、7.5倍に増えています。これらのプラグインを活用することで、今までのChatGPTでは不可能だったことができるようになります。
ChatGPTはとても賢い対話型AIですが、たとえばURLを貼ってもリンク先のページを読むことができなかったり、基本的にはテキストや簡単な表、プログラミングのコードぐらいしか返すことができませんでした。それがプラグインを使うことで、URLを貼ればリンク先を読み込んで答えてくれたり、答えをグラフにして表示したり、音声や動画を出力したり、もしくはWeb上から正確な情報を引っ張ってきてくれたりと、できることの幅が一気に広がります。頭脳しか持たなかったChatGPTに五感や手足が加わったとイメージしてもらえばよろしいでしょうか。プラグイン(および6/15に発表されたFunction callingなど。次回以降の記事で解説予定)によりChatGPTへのインプットとアウトプットの方法が大幅に増えていくでしょう。
――プラグインの具体的な事例を教えてください。
現在のChatGPTやその進化系であるGPT-4は、基本的に2021年9月までのデータを学習しているため、最近のことを聞いても、正しい答えが返ってこないことが多いです。ところが、「Browse with Bing」というOpenAI公式のプラグインを使うと、その場で検索・探索した上で答えを返してくれるので、最新の情報を踏まえた回答が得られます。(注:「Browse with Bing」は、有料記事ページのURLを与えると内容が読めてしまう事象が見つかったことから、2023年7月6日現在、一時的に提供が停止されています。 )例えば「2023年5月の広島サミットで決まったことをまとめてください」と質問すると、エビデンスとなる記事のリンクとともに回答してくれるんです。また別のプラグインでは、データの分析や可視化も可能です。 例えば次の2枚の画像は、NoteableというプラグインをONにした状態のGPT-4に、東京都が公開する地域別移動人口データ(CSV)のURLを与え、分析のデモをするように頼んだ結果です。 都内の各地域間の移動による人口の増減をグラフにしてくれました。 なお、出力されたテキストを見ていて面白いのは、読み込みエラーが起きても、自ら仮説を立てて対策し、自己解決しているところです。
次の2枚の画像は、「荒波に立ち向かう、日本のソフトウェアエンジニア」というお題で動画を作成してもらった例です。たった一行の指示でこのような動画が出来上がるのは、驚きです。
プラグインを提供する日本企業はまだ少数派だが、今後増加する可能性も
大手だとカカクコム社の「食べログ」「価格.com」「価格.com 旅行・トラベル」「求人ボックス」、LIFULL社の「LIFULL HOME'S」などがありますね。(2023年6月12日時点)食べログであれば「横浜で大人2人、子ども2人で利用できるイタリアンのお店を探してください」と入力すると、条件に合致したレストランが一覧で表示され、クリックすると、日程や人数を入力済みの画面に遷移します。これらのプラグインを導入することで食事や買い物、旅行、仕事探しが便利になるでしょう。大手以外では日本酒SNSの「さけのわ」が提供するプラグインがあります。日本酒の味の好みや地方などの条件を入れることでお勧めの銘柄を教えてくれます。
――まだまだ日本企業が提供するプラグインは少ないのでしょうか?
今は一部の先進的な人が注目している状況なので数は少ないですが、時が経つにしたがってWeb上でサービスを展開する企業は多く参入してくる可能性があります。大手企業になるとリーガルチェックなど多くの部署間の調整が必要になるので多少の時間はかかるでしょうが、すでにいろいろな企業がプラグインを開発していると思われます。提供する企業からすると掲載料なども不要ですし、サービスの集客チャネルになるのでやってみようと思う企業は多いのではないでしょうか。ただ、これは次回以降にお話したいと思いますが、プラグイン化の流れとは別に、各企業がOpenAI APIを使って自社のアプリケーションにChatGPTを「組み込む」流れもあり、今後、むしろそちらがより主流になっていく可能性もあります。このあたりは、引き続き動向を注視していきたいと思っています。
――今後、プラグインが増えていくと、目的に対してどのプラグインを使用していいのか分からなくなるケースも発生することが予想されます。そこをサポートするようなプラグインも登場するのでしょうか?
あり得ると思います。なお近い話として「AI Agents」というプラグインは、「○○について調べたいけれど、どういった手順で進めればいいのか分からない」といった質問に対して具体的な手順を教えてくれます。AIがアクセスできないデータがあったとしても、そこを踏まえて「この手順を取ればこのデータは取得できます」といったことまで教えてくれます。
――日本において有料版のChatGPT Plusはどのくらい普及すると予想しますか?
ユーザーインターフェースが未だに英語なので日本人にとってはやや取っ付きにくい面があると思いますが、人口あたりのChatGPTのユーザー数を見ると日本人はかなり多いといわれています。今後、日本語に対応すればもっとユーザーは増えるでしょう。
――個人での利用と企業での利用、どちらのユーザーが多いのでしょうか?
おそらく個人ユーザーのほうが多いと思われます。一部の企業では社員のChatGPT Plus利用料を負担するといった例もありますが、全体を見るとまだまだ少数派かと思います。現時点でGPT-4やプラグインの価値を認識している企業はまだまだ少ないので、今後に期待できるかと思います。
Google「Bard」がプラグインに参戦すれば、AI市場がより活性化する?
GPT-3.5とGPT-4に大学入学共通テストの英語(読解)の問題を解かせたところ、正答率は、GPT-3.5の76%に対してGPT-4は90%をマークしたそうです(受験者平均は61%)。 国語、倫理/政治経済についてもGPT-3.5とGPT-4では大きな開きがあり、特にGPT-4は、国語以外はすべて受験生の平均を上回ったそうです。
――今後、ChatGPTをはじめとする対話型AIはどのように進化していくとお考えでしょうか?
第一線の研究者ですら、予想していなかったことが起きているので、先のことを予想するのは正直、難しい状況です(苦笑)。 一つポイントとして、ChatGPTなどのLLM(Large Language Model)と呼ばれる大規模言語モデルを利用する側でいるのか、もしくは構築する側になるのか、という論点があります。現状、多くの企業はLLMを利用する側にいますが、LLMを一から構築するのは大きなコストがかかる、というのもその理由の一つです。
ですが、効率的にLLMを構築する技術も進歩しており、いずれは自社で構築する企業も増えてくるでしょう。なお、現時点でも、自分たちが持っているデータを追加でLLMに学習させるファインチューニングを行うことで、より専門分野に特化した対話型AIの構築が可能です。
――ファインチューニングの具体的な事例を教えてください。
たとえば(特に病例が比較的少ない病気に関して)「患者がこのような症状を訴えているが、原因として何が考えられるか?」といった専門性の高い問いについては、ChatGPT自体はあまり適切な答えを持ち合わせていないと思います。そこで実際にそういった病例を集めたデータを追加学習させることで、より正確な答えを出すことができるようになる、といったイメージです。
――ChatGPT以外のAIについて気になる動向があれば教えてください。
やはり気になるのはGoogle版ChatGPTともいえる「Bard」ですね。具体的な日程はまだ発表されていませんが、YouTubeをはじめGmail、マップ、スプレッドシートなどのプラグインも出てくるでしょう。 Google以外で、Metaなども盛んにLLMの研究開発を進めています。今はまだ、ChatGPTが人々の話題の多くを占めていますが、BardやMeta、そしてオープンソースのLLMなど、今後、それらの動向からも目が離せません。
田中 宏明
株式会社オプト
AIソリューション開発部 部長
外資系コンサルティング会社に新卒で入社後、2006年株式会社オプトに入社。SEMコンサルタントに従事。SEO部署の立ち上げ、SEM研究所の立ち上げを経て2009年にクロスフィニティ株式会社へ異動。ソーシャルゲームやポータルサイトの立ち上げに参画する。2011年に国内初のCRO(コンバージョン率最適化)サービスを立ち上げ事業化をした後、AIソリューション開発に従事する。2019年に株式会社オプトのエンジニア組織、オプトテクノロジーズに異動。2020年よりAIソリューション開発部にて部長を務める。