【独占取材】生成AI向け半導体の覇者。時価総額1兆ドル超え「エヌビディア」徹底解説
2023/7/19
ChatGPTの登場もあり、多くの人々と企業から脚光を集める生成AI。すでにさまざまな業界に変革をもたらしており、その大きなモメンタムは世界中に広がっています。まさに企業にとっても、新たなビジネスチャンスとなる可能性は大きく、生成AIの活用は今後の事業成長における鍵となるでしょう。
こうしたなか、 1993年の創業以来、「アクセラレーテッド コンピューティング」の先駆者として業界を牽引してきたのがエヌビディアです。同社の提供するさまざまなコンピューティング プラットフォームは、企業の生成AI開発に活用されており、「生成AI革命」の担い手として事業を展開しています。エヌビディアが見据える生成AIの可能性や、AI時代を切り拓くビジネスの未来について、エヌビディア合同会社 テクニカル マーケティング マネージャーの澤井 理紀氏にお話を伺いました。
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ゲーム向け半導体チップ開発から「AIコンピューティングカンパニー」へ
1993年に創業したエヌビディアは、現在もCEOを務めるジェンスン・フアンと、クリス・マラコウスキー、カーティス・プリエムの3名で立ち上げた会社です。当時はPCで3Dゲームができなかった時代でしたが、1995年に発売した半導体チップ「NV1」は、その課題を解決する画期的な製品となり、その頃に人気だった格闘ゲーム「バーチャファイター」(SEGA)に利用されるなど、ビジネスの礎を築いていきました。
そして、1999年には世界に先駆けて「GPU」を発明し、PCゲーミング市場の拡大に大きく貢献したほか、コンピューターグラフィックスの発展にも大きな影響を与えました。2006年には半導体のなかの仕組みからソフトウェアの開発環境までを含めたアーキテクチャ「CUDA」を開発し、大規模なシミュレーションを行うスーパーコンピューターなど、グラフィックス以外のさまざまな場面でGPUが汎用的に使われるようになりました。
現在、世界的に生成AIが大変注目を集めていますが、2012年にトロント大学の研究チームがエヌビディアのGPUを用いたディープラーニング(深層学習)モデルを使い、画像認識コンテストで優勝した頃から、「今後のコンピューティングはディープラーニングが重要になる」と確信したのです。そこからエヌビディアは、半導体やシステム、ソフトウェアなど全てのコンピューティングプラットフォームをAIに最適化させていく取り組みを行うようになりました。現在では、AIの統合的なコンピューティングプラットフォームを通じて、企業のAI開発やインフラ構築を加速させる「AIコンピューティングカンパニー」としての地位を確立しています。
特定の領域やタスクに強い生成AIをつくるには「カスタマイズ」が必要
コンピューターを使って学習・分析・予測を行うことが、一般的にAI(人工知能)と呼ばれています。そのAIのなかで、大量のデータと統計的な手法を使ってモデルを学習させ、新しい情報を予測するものが機械学習(マシンラーニング)です。この機械学習を、ニューラルネットワーク(人間の脳の働きを数理モデル化したもの)という、より複雑なモデルを学習させて、推論していくものがディープラーニング(深層学習)であり、ビデオの解析、音声認識など視覚や聴覚に関わるような領域で今も進化を続けている技術です。
最近トレンドとなっている生成AIは、ディープラーニングの一種です。特殊な言語モデルであれば「Transformer(トランスフォーマー)」というアルゴリズムを使って、データのなかのパターン(傾向)を学習し、新しいコンテンツを文脈にしたがって生成するのが大きな特徴です。つまり、従来のAIとの違いは「学習データをもとにゼロから新たなコンテンツをつくれる」こと。Transformerという言語モデルの登場で、文章や画像、映像、音楽といったデータから特徴を抽出できるようになり、それを大規模なAIモデルに適用することで、より汎用的な知識を獲得できるようになったわけです。
──生成AI開発においては、どのような課題が考えられますか?
生成AIはありとあらゆるデータを使い、プロンプト(指示文)を入力することで、一般的な回答が返ってくるわけですが、例えば生成AIで生み出したキャラクターでさまざまな角度の絵をつくりたい場合には、そのキャラクターにおける知識や情報が足りず、専用のAIを使わないと実現できません。
同様に、社内の膨大なデータや自社製品の細かな情報を活用し、ビジネス課題の解決を図る際には、「生成AIのカスタマイズ」が必要不可欠になります。特定の領域やタスクに強い、最適化された生成AIをつくるには、知識や情報をファインチューニングさせ、プロンプトを調整していくことが大事になってくるため、この点においては基盤構築や運用面に課題があると考えています。
生成AI開発におけるエヌビディアの役割と強み
デジタル化に伴いビジネスモデルの変革が求められ、企業のデータ活用や自動化が進むにつれ、AIによるイノベーションの促進がより重要になります。エヌビディアはハードウェアとソフトウェアの両面で、AIによるブレイクスルーを支援しています。ハードウェアに関しては、AI向けに最適化された高性能なGPUをはじめとする製品を提供しており、圧倒的な性能の向上や電力効率を実現するうえ、拡張性も高いことから、多くの企業から選ばれるものとなっています。
2017年にTransformerが登場して以来、さまざまな研究者や開発者がAIモデルを生み出し、それに伴ってパラメーター数(機械学習モデルの動作制御における値)の爆発的な増加をもたらしました。それに耐えうる演算リソースを確保しようとすると、一つのGPUや1台のサーバーでトレーニングさせるには不可能なデータサイズにまで増大してしまったのです。そのため、複数のGPUやサーバーを用意し、大規模な演算処理環境でトレーニングさせなければならない状況へと変化したわけです。このような理由から、エヌビディアの高性能GPUを採用し、大規模な演算処理が行える体制づくりに取り組む企業が増えています。
OpenAI社が開発を行うChatGPTは、生成AI市場をリードし、世界的に大きなユーザー数を抱えるサービスですが、最新のGPT-4モデルのさらなる普及やユーザー数の増大に向け、エヌビディアのGPUを導入いただいております。日本でもさくらインターネットやソフトバンク、サイバーエージェント、三井物産といった大企業にエヌビディアの最新の「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を大規模なAI開発基盤の構築に向けてご採用いただいています。
ソフトウェアにはチャットボットや翻訳、テキスト生成などの生成AIモデルを迅速に構築する「NVIDIA NeMo」、生成AIを活用した画像、動画などのビジュアルコンテンツに最適化された「NVIDIA Picasso」、バイオサイエンスの研究者向けに創薬の加速を促す「NVIDIA BioNeMo」などが含まれており、企業の持つ多様なユースケースに応じて、生成AIのカスタマイズを可能にするソリューションを提供しています。
生成AIは、iPhoneが登場して以来の大変革をもたらす
エヌビディアのAIコンピューティングを導入し、大規模なAI開発やAI研究に取り組む企業はグローバルで1,600社ほどに上ります。加えて、生成AIを用いたユースケースについては以下の二つがあります。
①ServiceNow
社内業務のシステムを一元管理するServiceNowとパートナーシップを結び、独自にカスタマイズした生成AIによってワークフローの自動化を強化し、企業全体の生産性向上をもたらします。サポートデスクの運用効率化においても、蓄積されたナレッジや応対フローをもとにしたチャット要約に生成AIを用いることで、精度の高い「バーチャル アシスタント」の実現を可能にしています。
②WPP
世界最大の広告代理店グループであるWPPとともに、デジタル広告に生成AIを活用したコンテンツエンジンの開発を進めています。クリエイティブチームの業務効率化や、高品質なコンテンツ制作のサポートはもとより、生成AIを使うことで、個々にパーソナライズされた広告配信を可能にする仕組みの実現に向け、取り組んでいるプロジェクトになります。
──最後に、生成AIの導入を加速させたい日本企業に向けたメッセージをお願いします。
生成AIが発展していくことで、さまざまな産業分野が恩恵を受け、革新的な変化を生み出すでしょう。その一方、生成AI市場はまだ始まったばかりで、どのようにビジネスへ活用していけばよいのか、まだ模索段階の企業が多いのではないでしょうか。また、情報漏洩などのセキュリティ面や、情報の正確性などの課題も多くあります。このような課題に取り組む企業をエヌビディアのパートナーを含むエコシステム全体で支援したいと考えており、その直近の取り組みとして、日本企業がとるべき第一歩について共に考え、その取組みを支える最先端ソリューションを一挙にご紹介する「NVIDIA 生成 AI Day」を今月開催するので、ご関心のある方はぜひご参加ください。
また、コンピューティング カンパニーとしては、パフォーマンスの向上やスケーラビリティの観点から、より強力な技術を追求し、今後を見据えたアーキテクチャの設計ができるように尽力したいと考えています。
今まさに、2008年にiPhoneが登場して以来の大変革と言っても過言ではない、時代の転換点が訪れています。これからもエヌビディアが「生成AI革命」の最前線を発信し続けていきたいと考えています。
澤井 理紀
エヌビディア合同会社 テクニカル マーケティング マネージャー
ソリューションプロバイダーにて、ビジュアライゼーションアプリやVRシステム開発に携わり、2009年にNVIDIA入社。プロフェッショナルビジュアライゼーションのソリューションアーキテクト、vGPUソリューション事業開発、コンシューマーマーケティングを経て、現在はテクニカルマーケティングを担当。