AIで企業のDXを支援する「株式会社ABEJA」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #9〜

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多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。

本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、DX推進を支援するデジタルプラットフォーム事業を手がける「株式会社ABEJA」を取り上げる。同社は、2023年6月13日に東証グロース市場に上場した。初値は4,980円で公開価格の1,550円を上回った。

独自開発のAIを活用し、企業のDXを支援

ABEJAは、2012年に設立された、AIを活用し企業のDX推進を支援している企業だ。DX推進について、コンサルティングからAIシステムの構築、実際の運用、人材育成まで、幅広く展開している。DX推進支援の実績は、2016年9月からの累計で300社を超えるという。また、小売業界に向けた、店舗への入店から購買までの顧客行動を可視化するDXツール「ABEJA Insight for Retail」や、AIをビジネスに実装する上で課題や問題点となる「AI倫理」に関するコンサルテーションサービスも提供している。

同社は、2012年に発表された、機械学習の一種である「ディープラーニング」をきっかけとして設立されたという。創業当初から研究開発に取り組み、それらが現在の事業にもつながっており、AI開発やAIを活用したDX推進の技術を溜めてきた。AI業界では世界のなかでも最先端とされるGoogleやNVIDIAが出資していることでも話題となった企業だ。

ABEJAは、2022年8月期の売上高が約19億7,800万円、営業損失は約1億6,300万円だった。2023年8月期は第2四半期累計で売上高が約14億700万円、営業利益が約3億4,500万円となっている。

DX推進の中心にあるプラットフォーム

ABEJAのDX推進支援で中心に存在しているのが「ABEJA Platform」という、DXの実行に必要なソフトウェア群を持つプラットフォームだ。ABEJA Platform上には、データのインプットやセキュリティ対応ができるツールや、汎用的なAIモデルなど、さまざまな「パーツ」がある。実際のDX推進では、顧客のニーズや課題に合わせ「パーツ」のなかから必要な要素を組み合わせることで独自のシステムを構築する。このような仕組みにより、毎回0からシステムをつくり上げるよりも、開発速度が向上し、早期の運用開始を実現しているのだ。さらに、顧客へのサービス提供を通じて、「パーツ」の種類や開発ノウハウがプラットフォーム上に蓄積されることで、品質の安定とさらなる開発速度の向上が見込まれる。このように、ABEJA Platformにより各案件のDXを効率よく進められ、多くの案件で活用されればされるほど、ABEJA Platformが強化されるという好循環をつくり出しているのが大きな強みだ。

自社で開発する「大規模言語モデル」

2023年3月、ABEJAは大規模言語モデル(LLM)の「ABEJA LLM Series」をABEJA Platformに搭載し、商用サービスとして提供を始めた。LLMを提供することで顧客のDXをさらに進める狙いだ。生成AIサービスで懸念されているセキュリティ面に配慮し、個人情報や機密情報を検知して適切な処理を施すことができる技術を取り入れた。さらに、LLMの活用においては導入や運用よりも、その前段階に課題が多いとして、同年7月には、ABEJA LLM Seriesのサポート範囲を、戦略策定やビジネスプロセスの構築などへと拡大した。ChatGPTの登場により2022年末から生成AIブームが巻き起こっているが、同社はLLMの研究開発を2018年から進めていたという。上場後の株価が、初値から下落傾向の続く企業も多いなか、ABEJAの株価は7月上旬時点で7,000円前後を推移している。同社への注目度の高さを表しているようにも見えるが、生成AIの利用や導入が進む一方、LLM自体の競争も激化しており、今後の世界的な流れにも注目だ。

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