日本初 宇宙ベンチャーIPO、月面開発を目指す「株式会社ispace」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト#7〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、月面開発を目指す「株式会社ispace」を取り上げる。同社は、2023年4月12日に東証グロース市場に上場した。初値は1,000円で公開価格の254円を上回った。

宇宙事業を手がけるベンチャー企業「株式会社ispace」とは

ispaceは2010年に設立された、宇宙事業を手がけるスタートアップだ。宇宙という広範なテーマのなかでも、月面開発を中心に扱っている。ispaceは元々、月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に参加していた日本のチーム「HAKUTO」を運営していた。レースは2018年に終了したが、同社はそれ以降も日本発の民間月面探査と新しい宇宙産業構築を目指し、事業を展開している。現在は、月探査ミッションを統括するプログラムとして、当時の「HAKUTO」に「Reboot(再起動)」の意を込めた「HAKUTO-R」を進めている。

事業としては、ispaceのランダー(月着陸船)やローバー(月面探査車)に搭載可能な貨物を預かり月へ輸送する「ペイロードサービス」と、ランダーやローバーにスポンサーとしてロゴ掲載をしたり、技術面・事業開発面で協業したりする「パートナーシップサービス」が中心だという。今後は、獲得した月のデータ(画像データや資源情報など)を顧客に提供する「データサービス」を確立する計画とのことだ。

ispaceは、2022年3月期の売上高が約6億7,400万円で、営業損失は約40億5,600万円だった。2023年3月期は売上高が約9億8,900万円、営業損失が約110億2,300万円となっている。
主要サービス

主要サービス

年間1万人が月に訪れる世界がやってくる!? ispaceの目指す世界

ispaceは、「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンとして掲げている。その上で、「Moon Valley 2040」という、2040年代までに1,000人が月面に居住し、年間1万人が月に訪れる世界を構想している。「月」に焦点を当てた理由としては、月に存在すると言われる「水」の存在をあげている。水を活用することで月が宇宙での「燃料補給中継基地」として発展する可能性があるというのだ。地球と月を一つのエコシステムとして捉える計画で、月を「生活圏」にすることを目指している。同社は、これらの目標を実現すべく、長期間にわたるマイルストーンを設定し、一つずつ着実にクリアしているところだ。直近ではランダーの月面着陸やローバーによる月面探査が中心だが、その後には、水資源の探査や地球と月を結ぶ輸送サービスプラットフォームの構築など、次々と大きな計画が控えている。
月に焦点を当てる理由

月に焦点を当てる理由

月面着陸成功に向けて、挑戦を継続

ispaceは2023年4月26日、「HAKUTO-R」の一環として、民間企業では世界初となる、ランダーの月面着陸を予定していた。当日は宇宙事業関係者のみならず、世間の注目を浴びたが、予定時間になっても成功の発表はされなかった。同社はその後、ランダーとの通信が途絶えたことや、燃料の推定残量が無くなったことなどから、月面着陸の完了は困難と判断した。ランダーは、月面へハードランディング(衝突)した可能性が高いとし、詳細の解析を進めている。この結果を受け、同社の株価は急落した。月面着陸予定日まで2,000円前後で推移していた株価は、5月には1,000円を割るまでに落ち込んだ。ispaceは、「今回の結果を受けてもなお、不確定なリスクを恐れず、挑戦の歩みを決して止めることはいたしません」と発表しており、引き続き月面開発を目指すことに意欲を見せる。株価が下がる一方で、未知なる宇宙ビジネスに果敢に挑む同社を支持する声もあがるなか、今後は多額の費用を必要とする宇宙事業を支える資金を捻出できるかが鍵となる。上場という節目を迎えたispaceだが、2040年代を見据えた壮大な計画はまだ始まったばかりだ。

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