VTuber領域で2社目、VTuber事務所「ホロライブ」運営のカバー上場。 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #6〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、VTuber事業を手がける「カバー株式会社」を取り上げる。同社は、2023年3月27日に東証グロース市場に上場した。初値は1,750円で公開価格の750円を上回った。

VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営する、カバー株式会社とは

2016年6月設立のカバー社は、VR卓球ゲーム「Ping Pong League」やARアプリケーション「hololive」をリリースしながら、さまざまなVTuberアイドルやVTuberグループを立ち上げてきた。現在では、VTuberプロダクション「ホロライブプロダクション」の運営や関連グッズの販売、所属VTuberを起用したプロモーションなどの事業を中心に展開している。

VTuberとは、「バーチャルYouTuber」のことで、2D・3Dのアバターを用いてYouTubeなどで活動する動画配信者のことを指す。カバー社のプロダクションでは所属タレントとして多数のVTuberを抱えており、動画配信やライブイベントを行っている。在籍するVTuberは70名以上で、関連する全てのYouTubeチャンネルの登録者総数は2022年12月時点で7,200万人を超えている。同様にVTuber事業を展開する企業としては、2022年6月にVTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR株式会社が東証グロース市場に上場しており、注目を浴びる領域となっている。

カバー社は、2022年3月期の売上高が約136億6,300万円で、営業利益は約18億5,500万円だった。2023年3月期は第3四半期累計で売上高が約128億200万円、営業利益が約17億3,400万円となっている。

急成長する事業と積極的な海外展開

ホロライブプロダクションに所属するVTuberのIPはカバー社に帰属している。人気IPを生み出し、それを軸にさまざまな展開を広げるビジネスモデルだ。例えば、同プロダクションに所属するVTuber「宝鐘マリン」は、YouTubeのチャンネル登録者数が236万人、Twitterのフォロワー数が150万と人気を誇っている。2022年3月期の売上構成比は、配信/コンテンツ事業が約38%、マーチャンダイジング(グッズ販売)事業が約35%、ライブ/イベント事業が約16%、そしてライセンス/タイアップ事業が約10%となっている。各事業の売上高の成長率は前年比で約100%〜約220%と、大きく成長している。

また、カバー社は海外展開にも積極的だ。運営するVTuberプロダクションは、英語圏向けやインドネシア語圏向けのものもあり、北米ではYouTubeチャンネル登録者数431万人の「Gawr Gura(がうる・ぐら)」、東南アジアではYouTubeチャンネル登録者数199万人の「Kobo Kanaeru(こぼ・かなえる)」など、それぞれの地域で人気VTuberを抱えている。2022年12月時点で、YouTube配信における月間の海外再生数比率は41%だった。もちろん、VTuberの配信活動だけでなく、グッズ販売など付随する事業でも海外向け商品の開発や販売などを展開しており、今後もさらに拡大する予定とのことだ。
『事業計画及び成長可能性 に関する事項 2023.3.27』 より

『事業計画及び成長可能性 に関する事項 2023.3.27』 より

2024年を見据えた「メタバース」構想

カバー社は、中長期戦略として三つのステップを挙げている。一つ目は「強いIPの開発とファンベースの確立」で、すでに達成済、二つ目は「コマース展開と先行投資」で、現在進行中としている。そして、三つ目のステップが「メタバース事業『ホロアース』の展開」だ。VTuberとファンが交流できる場としてメタバースプラットフォームの開発を進め、2024年内の一般向けサービス開始を目指している。VTuber側はもちろんのこと、ファン側もアバターでメタバースに入ることで、VTuberと同じ空間を共有することができる。コンテンツの配信や交流を行えるほか、主力事業であるグッズ販売に関しても、メタバース上で利用できるデジタルグッズを扱うことで購買につなげる狙いだ。現在、一部の機能はβ版として公開されており、2023年4月の発表時点で、2022年11月の公開からの累計入場者数は約19万人となっている。メタバースを活用した新しいエコシステムをつくろうとする試みは、カバー社のみならず、VTuber産業自体の裾野をさらに広げる可能性を秘めている。
「ホロアース」―『事業計画及び成長可能性 に関する事項 2023.3.27』 より

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