プラットフォーマー研究

管理会社出身のテックカンパニー。不動産DXを推進する「株式会社スマサポ」 〜IPOから読み解く、デジタルシフト #4〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。
本記事では、デジタルシフトを実現しながら新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、不動産DX事業を手がける「株式会社スマサポ」を取り上げる。同社は、2022年12月29日に東証グロース市場に上場した。初値は2,250円で公開価格の800円を上回った。

不動産DXを推進するサービスを展開、「株式会社スマサポ」とは

スマサポ社は、2012年、不動産管理事業などを扱う株式会社宅都ホールディングス(現 株式会社TAKUTO INVESTMENT)の社内ベンチャーとして設立された。当初の社名は「株式会社グローバルエージェント」だったが、2016年に「株式会社スマサポ」へ商号を変更し、2019年に独立した。入居者満足度調査サービス「スマサポサンキューコール」や入居者アプリ「totono」など、主に不動産管理会社向けのソリューションを提供し、不動産業界のDXを進めている。2022年8月には、大東建託パートナーズ株式会社やENECHANGE株式会社との資本業務提携を発表した。

2022年9月期の売上高は20億4,100万円で、営業利益は7,600万円だった。2021年9月期は7,000万円の赤字となったが、これは展開していた新電力事業での原価高騰によるもので、2023年9月期においては新電力事業から完全に撤退しているとのことだ。

スマサポ社の上場は、2022年最後の新規上場であった。上場日である12月29日には買い注文の多さから初値が付かず、翌30日になり2,250円で初値が付いた。

管理会社と入居者のコミュニケーションをデジタル化。プラットフォームサービスなどを展開

スマサポ社の主力サービスは入居者満足度調査サービス「スマサポサンキューコール」と入居者アプリ「totono」だ。スマサポサンキューコールは、不動産管理会社から委託を受け、入居者に「契約理由」や「住み心地」などのアンケート調査を行い、管理会社に伝えることで入居者満足度の向上につなげるサービスだ。また、新しい入居者にはインターネット回線やウォーターサーバーなどの提携サービスを紹介する。入居者が提携サービスに申し込むと紹介手数料が発生し、これがスマサポ社と管理会社の収益になるというビジネスモデルだ。管理会社はこのサービスを無料で利用できる。本サービスは、2022年9月期時点で、契約する管理会社数が870社、それらの管理会社を通じた入居者とのコンタクト数は24万件以上となっている。
スマサポサンキューコール

スマサポサンキューコール

totonoは、管理会社と入居者のコミュニケーションをデジタル化するプラットフォームサービスだ。入居者はアプリをダウンロードすれば、契約情報の確認や解約の申請などをアプリから行うことができる。管理会社側は、アプリを通じた情報発信や、チャット形式での問い合わせ対応が可能になり、現地に赴いての掲示物の張り出しや電話対応などの業務を効率化することができる。管理会社には月額のサブスクリプションモデルで提供しており、入居者は無料で利用可能だ。また、スマサポ社は入居者のデータを活用し、アプリ内で保険やレンタル家具などの提携サービスを案内することで手数料を得ている。2022年9月期時点で、契約する管理会社数は72社、アプリのダウンロード数は6万を超えている。今後、さらに提携サービスを増やすことでプラットフォームとしての基盤を強化する狙いだ。
入居者アプリ「totono」ー チャット形式の問い合わせ画面

入居者アプリ「totono」ー チャット形式の問い合わせ画面

デジタル化の進まない不動産業界。「管理会社出身」の視点で変革へ

不動産業界はデジタル化が特に遅れている業界の一つといわれている。実際に、以前デジタルシフトタイムズが行った【業界別・デジタルシフト実態調査】でも、「デジタルシフトに消極的な業界」として「農業・林業・漁業・鉱業」に次いで2位となった。そのような不動産業界のなかでも、スマサポ社は元々、不動産管理会社から生まれた企業であることから、管理会社特有の課題に着目した。管理会社は、小規模事業者が多いという特性があり、各社で商習慣や様式が統一されておらず、デジタル化が進んでいなかったという。また、管理会社の収益構造は家賃の3〜5%程度を得るという薄利多売モデルのためDXが進みにくいとのことだ。その前提を理解した上で、テクノロジーを活用し、管理会社の業務効率化と収益改善を目指した。管理会社が無料で利用できるスマサポサンキューコールで顧客を獲得し、サブスクサービスのtotonoの拡大による収益化を目指す戦略だ。アナログといわれる不動産業界で、「管理会社出身」という独自の視点からDX推進に挑戦している。

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