楽天グループとOpenAIが協業。楽天は生成AIをどう活用していくのか【Rakuten Optimism 2023イベントレポート】

AI

ChatGPTが世界中を賑わし、ビジネスシーンに大きな影響を与えている「生成AI」。仕事の生産性向上、クリエイティブの創出、プログラムコードの生成など、さまざまな創作活動をAIが代替する時代が到来している今、私たちは「人間とAIの協働」をどのように考えればよいのでしょうか。

今回は、楽天グループ主催のビジネスカンファレンス「Rakuten Optimism 2023」より、楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長 三木谷 浩史氏によるオープニングキーノートと、「AIの未来の話をしよう:「人間+AI」の協働で世界はどう変わるか?」をテーマにしたトークセッションの様子をレポートします。

OpenAI社との協業で新たな顧客体験の創造に挑戦

オープニングキーノートの冒頭では三木谷氏が「世界は新たな革命開始」と話し、生成AIの登場はインターネットやスマホの出現以来の大きなパラダイムシフトだと説明しました。単にインターネットショッピングや教育のあり方が変わるのではなく、社会の構造を大きく変革させるほどの可能性を秘めているわけです。

キーノート内で楽天グループはChatGPTを開発するOpenAI社と、最新AI技術によるサービス開発における協業で基本合意し、国内外の消費者およびビジネスパートナーに向けて、最新の対話型AI(人工知能)技術による新たな顧客体験の創造に挑戦していくことを発表しました。
サプライズゲストとしてオンラインで登場した、OpenAI社のCEO サム・アルトマン氏は「楽天グループと一緒に最新のAI技術を活用して、有益なビジネス機会をつくっていきたい」とコメントしました。楽天グループはEコマース、トラベル、クレジットカード、オンライン銀行・証券、モバイルなど、世界に類を見ないデータリッチ企業として、独自の経済圏を形成しており、それらのサービスやプロダクトへのAI活用が、さらなる事業発展につながっていくわけです。

今回の基本合意によって、OpenAIのプラグイン・アーキテクチャを活用したデータ分析や業務の自動化、最適化などを行い、さまざまなビジネスシーンに対話型AI技術を取り入れていくとのこと。楽天エコシステムとOpenAIの先進的なAI技術が融合することで、世界中の人々に新たな価値を生み出すのではないでしょうか。

人間の創造性をAIの力で補強する

続いてのトークセッションでは、新技術の開発やイノベーションの推進を担う楽天技術研究所から、ティン・ツァイ氏(楽天グループ株式会社 専務執行役員 CDO テクノロジーサービスディビジョン グループシニアマネージングエグゼクティブオフィサー)とエヴァ・シマンスカ氏(楽天グループ株式会社 テクノロジーサービスディビジョン執行役員 楽天技術研究所グローバルヘッド)。

そして、楽天グループの保険代理店事業を行う幸﨑 えみ子氏(楽天グループ株式会社 執行役員、楽天インシュアランスプランニング株式会社 執行役員 マーケティング戦略本部長)と、基本合意を締結したOpenAI社からはジェームス・ダイエット氏(OpenAI Head of Strategic Accounts)が登壇し、人間とAIの協働やその未来についてディスカッションが繰り広げられました。

ティン:皆さん、こんにちは。本日、このステージでAIの未来についてお話しできることをとても嬉しく思います。現在、AIを取り巻く環境は非常にエキサイティングな様相を呈しています。ヘルスケア、モバイル、ショッピング、物流、教育、アカデミアなど、大手企業から中小企業まであらゆる場所でAI技術の可能性を模索しているような状況です。とりわけ、大規模言語モデル(LLM)においては、AIモデルを人間の価値観に合わせることができ、強力な自然言語インターフェースによって、誰もがAIモデルとコミュニケーションが可能になったのです。
AIのユースケースは主に三つの典型的なものにまとめることができます。まず、AIは非常に多くの情報を吸収する能力があり、共通点の抽出やテキストの要約などに長けています。それによって、私たちは新しいスキルや新技術をより早く学べるようになりました。

第二に、コンテンツを創造する能力があること。そして三つ目は自動化です。AIは顧客と対話するための自然言語能力を持つようになり、私たちが行っている手作業の多くを自動化することができるようになりました。そのため、私たちはより自由な時間を持つことができ、顧客との対話を楽しめるようになったわけです。

しかし同時に、まだ多くの課題が残っているといえます。AIモデルの安全性をどう担保するのか。すべてのユーザーが最新のAI技術を活用するための費用対効果をどのように高めていくのか、といったことです。私たち、楽天技術研究所のビジョンは「人間の創造性をAIの力で補強すること」です。このビジョンを達成するための強力なパートナーがOpenAI社であると考えています。

AIは中小企業の経営者に大きな影響をもたらす

ティン:OpenAI社は、AI技術を人類全体のために役立て、社会に価値を創造するために設立されました。一方、楽天グループはスタートアップの集合体であり、イノベーションと起業家精神に溢れています。両社が生み出すシナジー効果により、人間とAIの協働で生まれる未来を創っていければと考えています。ここで、オンラインで参加しているジェームスさんと話してみたいと思います。
ジェームス:本日はお招きいただきありがとうございます。楽天グループとご一緒できることをとても嬉しく思っています。今回の連携により、特に中小企業の経営者に対して、AI技術が大きな影響をもたらすと考えています。今までは、本来やるべきでない仕事に時間を割いてしまっており、仕事のやりがいや成果を十分に感じられないことも少なくありませんでした。そのような課題を、AIが代替して仕事を引き受けることで、経営者がもっとビジネスに集中し、パフォーマンスの向上や成長につなげるために、より多くの時間を費やすことができるようになるでしょう。

ティン:今回、楽天グループとパートナーシップを結んだのはどのような理由があるのでしょうか?

ジェームス:私たちにとって重要だったのは、技術的に優れたチームと仕事をする機会をつくることでした。優秀なソフトウェア・エンジニアとともに、これから世の中に大きなインパクトを与えられると思うと、気持ちが高まります。

ティン:ジェームスさん、ありがとうございました。ここからは楽天グループのAI戦略についてもう少しお話ししていきたいと思います。楽天グループは日本だけでなく世界57カ国、90,000社以上のビジネスパートナーと提携しており、全世界に1億人のユーザーを抱えています。楽天グループの持つデータ・チャネルとオペレーションを、最新のAI技術と組み合わせることで、ビジネスに新たな価値や利益をもたらすことが可能だと考えています。OpenAI社の知識とユーザーコンテキストを結び付けることで強固な技術基盤を構築し、よりよいサービスの提供を目指しています。

また、私たちのデータ資産を活かして、AIモデルを強化し続け、安全性と信頼性を確保しながら独自の価値を見出していきたいと考えています。私たちはAI技術を、オペレーション、マーケティング、ビジネスプロセスの自動化など、できる限り企業経営におけるすべてのファンクションに適用していくつもりです。

楽天グループでのChatGPT導入事例

幸﨑:私からは楽天グループ内におけるChatGPTの導入事例をご紹介させていただきたいと思います。まず、国内で証券総合口座数を900万口座持つ楽天証券の事例となります。こちらでは、楽天独自で開発したAIモデルにChatGPTを組み合わせ、投資初心者向けのアドバイスツール「投資AIアシスタント(ベータ版)」を2023年7月から提供を始めています。投資の知識や方法などの情報を提供することで、投資に関するお客さまの悩みを解決することを目的に開発したものとなっています。

次は、楽天保険グループの事例です。楽天生命、楽天損保、楽天ペット保険といった異なる3種類の保険商品をワンストップで提供している会社でして、今回はそのなかでも対面の代理店チャネルの事例になります。以前から業務効率化を図るために、代理店向けの専用端末にAIアシスタントの「ARIA」を導入していました。今回、ChatGPT APIを連携させることで、よりバーチャルアシスタントとしての機能が高まりました。お客さまとの自然な会話体験を創出し、利便性やサービス品質の向上に努めていくとともに、将来的には保険金請求手続きやマーケティングなどにも、AIを積極的に活用していく予定です。

「人間の知能」と「人工知能」の組み合わせがイノベーションを生む

エヴァ:皆さんこんにちは。私たちは、マーチャント(出店者)と顧客を念頭に置いて、イノベーションを推進しています。ここで、次のようなシナリオを想像してみましょう。ドレスや靴、香水など、独自の商品をデザインし、製造するブランドがあります。毎年、新商品やスタイルを発表しますが、莫大なマーケティング予算もチームもありません。そのため、大手ブランドと競争して顧客の注目を集めるのは難しいでしょう。

楽天では新しいテクノロジーを開発するときに、マーチャントがよりよいビジネスを展開できることを念頭に置いています。AI技術を活用すれば、例えば春のセールをプロモーションしたいときでも、商品の画像をアップロードし、キャンペーンの内容を簡単に説明することで、創造性に富んだアウトプットを生成できるようになるでしょう。それはビジュアル的な訴求のみならず、市場のあらゆる規制にも準拠し、顧客のもとへパーソナライズされた形で自動的に配信されます。また、画像生成AIを用いれば、ブランドのクリエイター自らも広告塔としてキャンペーンに起用することができます。これからもAIという新しいテクノロジーで、マーチャントや顧客をエンパワーしていけるように尽力していく予定です。

ティン:私たちの重要な戦略は、「人間の知能」と「AI(人工知能)」を組み合わせることです。イノベーションとスピードの両方を追求し、社会に価値をもたらし、すべての人々へ貢献していくことが楽天のカルチャーだといえます。人間には感情があり、創造性があるゆえに、それらをAIの力で強化することで、私たちは無限の可能性を見出すことができるのではないでしょうか。
三木谷 浩史
楽天グループ株式会社 代表取締役会長兼社長

1965年神戸市生まれ。1988年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現 みずほ銀行)に入行。1993年ハーバード大学にてMBA取得。日本興業銀行を退職後、1996年クリムゾングループを設立。1997年2月株式会社エム・ディー・エム(現 楽天グループ株式会社)を設立し、同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。現在、楽天グループとして、Eコマース、フィンテック、モバイル、デジタルコンテンツなど多岐にわたる分野で70以上のサービスを提供する。また、2011年より東京フィルハーモニー交響楽団理事長を務めるほか、2012年6月に発足した一般社団法人新経済連盟の代表理事を務める。アルミノックス™プラットフォームと呼ばれる技術基盤を基に、医薬品・医療機器の開発を行う、楽天メディカル社(旧社名:アスピリアン・セラピューティクス社) の副会長兼Co-CEOも務める。
ジェームス・ダイエット
OpenAI Head of Strategic Accounts

2006年から2011年まで地球環境・技術財団の理事長を務めたのち、2012年にはホワイトハウスで国家経済会議のメンバーになる。2014年から2016年までCastlight Healthでチーフ・オブ・スタッフ/プロダクト・マネージャーを、2016年からはStripeでグローバル製品販売・決済最適化部門の責任者など、さまざまな職務を歴任。現在はOpenAI社で戦略アカウント責任者を担っている。
ティン・ツァイ
楽天グループ株式会社 専務執行役員 CDO テクノロジーサービスディビジョン グループシニアマネージングエグゼクティブオフィサー

大学でコンピューターサイエンスの修士号を取得後、ワシントン大学でMBAを取得。その後、ネットワーク通信におけるソフトウエアエンジニアとしてキャリアを開始。Microsoftではニュース&フィードチームのジェネラルマネージャーを務め、Googleではジオサーチおよびアシスタント担当のシニアディレクターに従事。楽天では現在、CDO(チーフ・データ・オフィサー)およびテクノロジーサービスディビジョングループシニアマネージングエグゼクティブオフィサーを務め、データやAIに関する戦略・サービス・エンジニアリング、ならびに、楽天技術研究所で行われている研究の責任者を務めている。
幸﨑 えみ子
楽天グループ株式会社 執行役員、楽天インシュアランスプランニング株式会社 執行役員 マーケティング戦略本部長

証券会社等勤務を経て、2006年から楽天証券㈱、楽天生命保険㈱にてマーケティング業務のマネージャーを歴任し、2018年より楽天インシュアランスプランニング㈱執行役員(現職)、2022年より楽天グループ㈱執行役員(現職)。
エヴァ・シマンスカ
楽天グループ株式会社 テクノロジーサービスディビジョン執行役員 楽天技術研究所グローバルヘッド

楽天入社前に務めたアジア最大級の通信会社シンガポール・テレコムでは、データ収益化グループの創設メンバーを務め、モバイル広告を含む位置情報サービスの調査および製品マーケティングを指揮した。現在は楽天技術研究所グローバルヘッド兼楽天株式会社執行役員として、新技術の開発を率いており、イノベーションを推進する役目を担っている。

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