画像生成AIの登場で根本から変わる広告制作

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 生成AIが広告業界を根本から変えてしまう技術であることは、どうやら間違いないと言えそうです。テキスト生成AIに加え、画像生成技術の登場が新たな可能性を切り拓くことで、広告クリエイティブの制作プロセスは全く新しいものに生まれ変わりつつあります。

今回は、この変化の最前線にいる、Re Data Science株式会社 代表取締役社長、高田悠矢氏に、その背景や具体的な内容について解説していただきます。

生成AIとは何か? 識別と生成

 2022年11月30日に公開されたChatGPTは、早くも翌年1月にはユーザー数が1億人を超え、「生成AI」という言葉が一般にも広く知れわたるきっかけとなりました。ChatGPTは、私たち人間と流暢に会話ができます。「会話ができる」ということは、文章の「生成」能力を持っているということです。「生成」ができるAIであれば、文章以外のもの、例えば、画像や音楽を生成するAIも「生成AI」というカテゴリに含まれます。現在、この生成AIを活用したビジネスが急速に拡大しており、ボストンコンサルティンググループでは、生成AIの市場規模(Total Addressable Market)について、2027年に1,200億ドル(約17兆円)規模になると予想しています。

 機械学習や深層学習の分野では「識別」と「生成」という“対”の用語があります。極端に簡略化すると、ある画像を入力とし、出力として犬という分類の判定結果を返すような仕事を「識別」、犬というテキスト情報を入力とし、もっともらしい犬の画像を出力する仕事が「生成」となります。

 識別のためのモデルは、この新しい生成AIと対比して「従来のAI」と呼ばれることがあります。この部分について補足しておきたいのですが、「従来の」という表現は「古臭い」「廃れた」とかいった意味ではなく、従来のAIが生成AIに“取って代わられた”というわけでもありません。「識別」と「生成」はあくまで“仕事の違い”であるという点が重要であり、どちらも現在進行形で進化を続けています。また、これらを組み合わせることで新たな価値を創り出すことができます。

「識別」と「生成」の対比
※図表内の画像の生成にはAdobe Fireflyを使用

画像生成AIの台頭と問題点

 現在話題になっている画像生成AIは、スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の研究者が発表した2015年の論文「Deep Unsupervised Learning using Nonequilibrium Thermodynamics」や、カリフォルニア大学バークレー校の研究者が発表した2020年の論文「Denoising Diffusion Probabilistic Models」が基礎になっていると思われます。

 そして2020年の論文からたったの2年、2022年になると、Open AI 「DALL-E 2」、Google 「Imagen」、「Midjourney」、Stability AI 「Stable Diffusion」といった画像生成AI製品が相次いでリリースされました。この頃、一部は社会への悪影響を懸念して公開を限定したりするなど、さまざまな議論が生まれました。フェイクニュース等の問題については、多くのテレビ番組等で話題になりましたので、記憶にある方も多いかと思います。つまり、ほんの数年前の基礎的な研究成果が、とてつもないスピードで現実の製品として具現化され、ある種の社会現象まで起こしながら一気に一般社会へ普及したというわけです。しかしながら、意外にもこのタイミングでは、広告業界に対する影響は一部に止まり、大きく波及することはありませんでした。

 その理由は「著作権」にあります。例えば、他人が描いた絵を自分の作品として発表したら、それが著作権違反になるのは明白です。では、他人が描いた絵を入力データとして読み込み、学習を行ったAIモデルから出力された絵の場合はどうなるのでしょうか。この点は、広告業界では致命的なものとなります。重要なのは“それが明確に著作権の侵害にあたると判断されるか否かによらず”致命的であるということです。何故なら、著作権に関する批判を受ける“可能性がある”絵や画像を、広告クリエイティブとして使用した場合、それが実際に著作権の侵害にあたらないとしても、広告主のブランドイメージを傷つけてしまうからです。故に、とてつもないスピードで現実の製品として具現化され、一気に一般社会に普及した画像生成AIですが、広告ビジネスの周囲に立ちはだかる壁の前で、一時的に立ち往生していました。

 しかし、その壁は2023年に入り破壊されます。「著作権の問題を解決した製品」が急遽発表されたのです。まず、2023年3月にアドビ社からAdobe Firefly ベータ版という製品がローンチされました。そして半年後の2023年9月には「ベータ」が取れ、Adobe Fireflyが正式に商用利用が可能となります。この「2023年9月」が、広告業界にとって本当の意味での画像生成AI登場のタイミングであり、広告クリエイティブ画像制作の「当たり前」が根本から変わる歴史的転換点と言えるでしょう。Adobe Fireflyに搭載されている生成AIは、学習のためのデータセットに著作権の問題が発生する可能性があるデータを一切使っていません。アドビ社はIllustratorやPhotoshopといったデザイナー、クリエイター向け製品で有名な会社であるアドバンテージを活かし、AIの学習のために必要な大量のデータセットを自前で確保することに成功したのです。    

 この著作権フリーの画像生成AIでは、例えば、ポケットモンスターシリーズの有名なキャラクター「ピカチュウ」の名前を入力しても、いわゆる私たちが想起するピカチュウは出てきません。
Adobe Fireflyによる生成例
「笑顔のピカチュウ」という入力

画像生成AIは広告制作をどう変えるのか?

 このような背景のもと、2023年9月以降、広告業界において画像生成AIの商用利用が可能になっています。言うまでもなく、広告業界やクリエイティブ制作という文脈における画像生成AIの活用は今後も多くの企業によってなされ、あらゆる方向・切り口からさまざまな活用方法が模索されていくと考えられます。ゆえに、以下で申し上げることは、あくまで私個人の見解となりますが、私が着目し、提案や関連製品の開発を行っている領域はクリエイティブの「大量生成」です。これは、言い換えれば「低コストで多くのクリエイティブのバリエーションが制作可能」である点に注目したということです。画像生成AIの素晴らしい点を挙げればキリがありませんが、この点は非常に重要だと考えています。このあたりからは、抽象度の高い机上の空論のような話をしても意味がないと思いますので「具体的に何をしたのか」という話に移ります。

 前章では、2023年3月にアドビ社からAdobe Firefly ベータ版という製品がローンチされ、その後、Adobe Fireflyが正式に商用利用が可能となった「2023年9月」が、クリエイティブ制作の「当たり前」が根本から変わる歴史的転換点と言える、とお伝えしました。私は、この2023年3月のAdobe Fireflyのベータ版のローンチを受けて「大量生成可能」、すなわち「低コストで多くのクリエイティブのバリエーションを制作可能」である点を大々的に示すイベントの企画を立案しました。

 こちらのイベントは、株式会社オプトと共同で実施することとなり、開催のタイミングを正式な商用利用の皮切りの時期に合わせようと狙いを定め準備を進めました。そして、Adobe Fireflyが正式に商用利用が可能となった2023年9月に「生成AIを活用したクリエイティブ制作コンテスト」を実施することができました。このコンテストでは、通常であれば数枚のクリエイティブを制作することが限界といった(少なくとも2桁の枚数の制作は難しい)時間制限のなかで、参加した半数以上のチームが100枚以上の制作に成功しており、生成AIツールによる制作量の非連続な変化を十分に示すことができました。以下が、当該コンテストで制作されたクリエイティブの一例です。
生成AI活用コンテストで作成されたクリエイティブの一例
仮想の化粧品:OPT COSMEの広告

仮想のライブ配信サービス:OPT LIVEの広告

 当コンテストの詳細や、そこからの展開「低コストで多くのクリエイティブのバリエーションが制作できること」をどのように価値に繋げていくのか、といった話題は次回以降で触れていきます。
高田 悠矢
Re Data Science株式会社 代表取締役社長

2010年 工学系修士課程修了後、⽇本銀⾏⼊⾏。景気動向や金融システムに関する統計分析業務に従事したほか、 資金循環統計やGDP統計(内閣府出向時)の推計手法設計に携わる。2015年 株式会社リクルート⼊社。戦略策定のための統計分析や、リコメンドエンジンの開発、 ⼈事課題に対する統計分析・機械学習手法の適用、 ⾃社データを活用した経済指標の開発・発信など、データ起点のさまざまな取り組みの企画・実行を担う。2021年 Re Data Science株式会社を創業。機械学習技術を用いた新規事業企画・開発支援、データ解析等を行う。

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