
着想はムクドリの群れ。AIによる広告の大量生成・選抜、そして方針転換【生成AI時代の新たな広告制作 #4】
2024/10/9
AIによる大量生成、AIによる選抜
第1回は、2023年9月が広告業界における歴史的転換点となったことについて触れました。画像生成AIの活用は、2023年中頃までは著作権の問題により限定的でした。しかし、2023年9月に、学習のためのデータセットに著作権の問題が発生する可能性があるデータを一切使わないことでこの問題をクリアしたAdobe Fireflyが商用利用可能となり、これを起点に、広告業界における画像生成AIの活用が一気に進むこととなります。
第2回は、私たちがこの”2023年9月”にタイミングを合わせて行った取り組みについて紹介しました。オプトとRe Data Scienceが共同で、同月に開催した「生成AIを活用したクリエイティブ制作コンテスト」では、通常であれば数枚のクリエイティブを制作することが限界である(少なくとも2桁の枚数の制作は難しい)時間制限のなかで、参加した半数以上のチームが100枚以上を制作するなど、生成AIツールによる制作量には非連続的な変化があることがわかりました。
加えて、こうした制作量の変化を価値につなげるには「大量の候補のなかから、効果が良いと考えられるクリエイティブを事前に選抜する」必要がある点にも触れ、選抜のために必要な効果予測AI:Open CTR Predictorを、この”転換点”である2023年9月の翌10月にローンチしたことをお伝えしました。
第3回は、オプト・アドビ・Re Data Science共同で新たに実施したコンテストを紹介しました。当コンテストでは、誰でもかんたんに魅力的なコンテンツを作成できるアプリ:Adobe Expressを併用することで、デザイン未経験者においても、こうした「”生成AIによる大量生成”と”効果予測AIを用いた選抜”」を伴う”新たなクリエイティブ制作フロー”を実現可能であることをお伝えしました。
ここまでは「生成AI時代の新たなクリエイティブ制作」として「AIによる大量生成」と「AIによる選抜」について注目してきました。第4回となった今回は、新たに「AIによる方針転換」に注目していきます。
鳥の群れから着想した、AIによるクリエイティブの方針転換
あるいは、選択された候補が「真の正解」に近く、実際の配信でも十分な成果が得られたとしても、その状況は永久には続かず、累積配信期間が増すにつれ、徐々に効果は低減していくと考えられるため、一定期間を過ぎれば、新たな別の「真の正解」を制作する必要が出てくるはずです。
つまり、鳥の群れと同様に「クリエイティブの群れ」も、大きく旋回し、その進路を変えるべき局面が存在するということです。今回はこの部分について解説していきます。
プロジェクト:Murmuration
大枠の考え方としては、生成AIによる大量生成を前提としたクリエイティブ制作において、適切にPDCAサイクル「Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)」を回す方法を検討するという話に尽きますが、より具体的には「材料生成・デザイン(つくる)」「予測・選抜(えらぶ)」「配信(つかう)」というプロセスを一巡した後に、配信実績を踏まえて、次の「材料生成・デザイン(つくる)」のプロセスを制御する仕組みづくりということができます。
ここで一度”適切な旋回”について考えるためにディープラーニング技術の根幹の1つの埋め込み(embedding)について説明します。埋め込みとは、画像やテキストなどのデータをベクトル(※)で表現することです。後半では具体事例として「画像のケース」を示しますが、ここではまず「テキストのケース」で直感的な説明を行います。
※ベクトル:複数の数字が並んでいる様子
例えば、「犬」「猫」「秋田犬」という単語があったとします。これを長さ3のベクトルで表すことを考えます。ベクトルのなかで、一番上の行に記載された値を「犬か猫か」を示すもの、真ん中の行に記載された値を「猫か否か」を示すもの、一番下の値を「秋田犬か否か」を示すものとします。(図表2)
私たちは「材料生成・デザイン(つくる)」「予測・選抜(えらぶ)」「配信(つかう)」というプロセスを一巡した後に、配信実績を踏まえて、次の「材料生成・デザイン(つくる)」における生成プロセスを制御する仕組みをつくりたいと考えていました。以下では、この仕組みについて、架空の化粧品商材を例に説明していきます。
中段「CASE:B」では、左側から順に、容器よりも中身の質感の表現を大きく見せたもの、訴求文を横書きに変えたもの、訴求文章をメインとしたものになります。類似度指標の水準は「CASE:A」よりも一段下がります。
下段「CASE:C」、左の「メイン画像を女性としたもの」や真ん中の「雑誌風としたもの」では、指標の水準は中段の「CASE:B」よりもさらに大きく下がっています。また、右のケースは、これらの変更を掛け合わせ「メイン画像を女性とし、更に雑誌風」とすることでもう一段、指標の値が下がることを示しています。
現実はもう少々複雑ですが、一旦、わかりやすさを優先して単純化すると、すでに十分に成果の出ているクリエイティブがあり、それと一定程度似ているものが欲しい状況では「CASE:A」のような方針が求められることになります。この場合は、類似度が一定より高くなるように生成過程を制御すればよいわけです。
今後は、”クリエイティブの大きな群れが一緒に飛び、旋回する状態”、すなわち、複数のAI機構の組み合わせによってつくりだされた”Murmuration”により、クリエイティブ制作のPDCAサイクル「Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)」の質を高めることで、多くの企業の成長を支援をしていきたいと考えています。

高田 悠矢
Re Data Science株式会社 代表取締役社長
2010年 工学系修士課程修了後、⽇本銀⾏⼊⾏。景気動向や金融システムに関する統計分析業務に従事したほか、資金循環統計やGDP統計(内閣府出向時)の推計手法設計に携わる。2015年 株式会社リクルート⼊社。戦略策定のための統計分析や、リコメンドエンジンの開発、⼈事課題に対する統計分析・機械学習手法の適用、⾃社データを活用した経済指標の開発・発信など、データ起点のさまざまな取り組みの企画・実行を担う。2021年 Re Data Science株式会社を創業。機械学習技術を用いた新規事業企画・開発支援、データ解析等を行う。