画像生成AIを活用した広告制作の生産性とその効果【生成AI時代の新たな広告制作 #2】
2024/5/9
データ解析・機械学習技術を用いたサービス開発を手掛けるRe Data Science株式会社の代表であり、株式会社オプトとともに画像生成AIを取り入れた広告制作に取り組む高田悠矢氏によると、広告業界にとって2023年9月は、本当の意味での画像生成AI登場のタイミングであり、クリエイティブ制作の「当たり前」が根本から変わる歴史的転換点と言えるとのこと。
この歴史的転換点を経て「低コストで多くのクリエイティブのバリエーションの広告の制作が可能」となったことを証明すべく、高田氏らは、同月に「生成AIを活用したクリエイティブ制作コンテスト」を開催しました。このコンテストにより、どのような事実が明らかになったでしょうか。
今回は、当コンテストの詳細に触れつつ「広告制作において、画像生成AIをどのような価値に繋げていくのか」についても解説をいただきます。
Contents
10倍を超えた制作本数
こちらのコンテストでは、3~4人が一つのチームとなり、制限時間3時間/1商材(合計6時間)というルールのもと、以下の2つの架空の商材における広告クリエイティブの制作を行いました。
前回のコラムでは「私が着目し、提案や関連製品の開発を行っている領域はクリエイティブの“大量生成”です。これは、言い換えれば“低コストで多くのクリエイティブのバリエーションが制作可能”である点に注目したということです。」と述べましたが、当コンテストでは、この点を明示的に証明することができたと言えます。
量を効果に転換するには
結局のところ、どれほど多くのクリエイティブのバリエーションを制作しても、実際に配信する数は限られます。また、コンテストにおける制作現場を観察すると、あくまで傾向としてですが、制作点数と制作に費やす時間の関係は以下のようになっていることがわかりました。
これらが意味するのは、10枚以上の大量のクリエイティブを制作するケース、すなわち、図中で言えば右側の領域においては、生成AIを活用することにより制作工数が大幅に削減されて生産性が著しく高まるものの、数枚のみを作成するケース、図中で言えば左側の領域においては、制作工数が概ね変わらず、生産性は殆ど向上しないという事実です。つまり、実際に配信するであろう枚数のみを制作するような場合においては、生産性の向上は期待できないということになります。
では、生成AIによって可能となるクリエイティブの“大量生成”ならびに“低コストで多くのクリエイティブのバリエーションが制作可能”である点を、どのように価値に転換させることができるでしょうか。
ここで、私たちが行った試算を紹介します。当試算では、オプトより2022年に配信したディスプレイ広告のうち「配信先、商材、媒体、日時等の条件が全て同一で、クリエイティブのみが異なる事例」に対応するデータの一部を抜き出して使用しています。「諸条件が全て同一のクリエイティブ」が3つあるようなケースを40ケース、合計120件のデータを用意いたしました。
※CTR(Click Through Rate):ユーザーに広告が表示された回数(impression数)のうち、広告がクリックされた回数の割合のこと。
最適なクリエイティブをどう選ぶのか
識別のためのモデルは、この新しい生成AIと対比して「従来のAI」と呼ばれることがあります。この部分について補足しておきたいのですが、「従来の」という表現は「古臭い」「廃れた」とかいった意味ではなく、従来のAIが生成AIに“取って代わられた”というわけでもありません。「識別」と「生成」はあくまで“仕事の違い”であるという点が重要であり、どちらも現在進行形で進化を続けています。また、これらを組み合わせることで新たな価値を創り出すことができます。
実は、前述のコンテストにおける勝ち負けは、単に「より多くのクリエイティブを制作したら勝ち」という判定基準ではなく、この効果予測AIのプロトタイプを用いて「もっとも効果が高いと判定されたクリエイティブを制作したチームが勝ち」という判定基準にしていました。当ルールでは、多くのクリエイティブを制作すればするほど、効果が高いと判定されるクリエイティブを制作できる確率は高まるので、多くのクリエイティブを制作することはもちろん有利に働きます。しかし、優勝チームをはじめとした上位チームは、それだけではなく、どのようなクリエイティブが効果予測AIに“良いクリエイティブ”と判断されるかを観察しながら、まるでAIと壁打ちをするかのようにPDCAをまわすことで、より効率的に最適化を図るなど更なる工夫をしていました。
また、このコンテストで用いた効果予測AIのプロトタイプですが、コンテストを開催した2023年9月、すなわち、著作権の問題をクリアした画像生成AIが登場し、広告業界が歴史的な転換点を迎えた月、の翌月である2023年10月に”Open CTR Predictor“という名前で正式にローンチしております。
Open CTR Predictorは、こうした新しいクリエイティブの制作フローを普及させるため “どなたでも、無料で”お使いいただけるかたちで提供しています。この機会にぜひ気軽に使ってみてください。
Re Data Science株式会社 代表取締役社長
2010年 工学系修士課程修了後、⽇本銀⾏⼊⾏。景気動向や金融システムに関する統計分析業務に従事したほか、資金循環統計やGDP統計(内閣府出向時)の推計手法設計に携わる。2015年 株式会社リクルート⼊社。戦略策定のための統計分析や、リコメンドエンジンの開発、⼈事課題に対する統計分析・機械学習手法の適用、⾃社データを活用した経済指標の開発・発信など、データ起点のさまざまな取り組みの企画・実行を担う。2021年 Re Data Science株式会社を創業。機械学習技術を用いた新規事業企画・開発支援、データ解析等を行う。