AIスペシャリスト・チャエン氏に聞く! 生成AIを使ったSNS活用法と実践の3ステップ
2023/10/5
生成AIの社会実装を目指す上では、「前例のない問い」に対してビジネスの再構築や変革が必要となり、最適解の追求をしていかなくてはなりません。だからこそ、DX推進と同様に生成AIを導入したその先を見据え、AIの知識や可能性を理解することが重要になります。
一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)は、各分野におけるさまざまなAI有識者が結集し、知識や経験に基づいた情報を発信したり、資格試験「生成AIパスポート」を提供したりする団体です。その協議員の一人が、株式会社デジライズ 代表取締役を務める茶圓 将裕(@masahirochaen)さん。X(旧 Twitter)では最新のAIトレンドや活用事例などの情報を発信しており、「AIスペシャリスト」として多くの企業で顧問に就任するなど、多方面で活躍しています。今回は茶圓さんに、生成AIを使った実践的なSNS活用法から、生成AIを取り巻く環境の現在地や未来について、幅広くお話を伺いました。
Contents
大注目の生成AI市場の現状と、企業導入の現在地
生成AIが毎日のようにメディアで報じられるようになって以来、「ChatGPT」を使って業務効率化や生産性向上に向けた取り組みを行う企業が増えています。大企業では自社独自で生成AIをカスタマイズして、既存ビジネスに取り入れる動きもあります。一方、トレンドの波はひと段落したと考えており、この先はいかに既存ビジネスへの組み込みやマネタイズへつなげていけるかが重要になってくるでしょう。
現状の生成AI市場は、GPUメーカーのNVIDIAのようにAI開発に必要不可欠なハードウェアを提供する企業、大規模言語モデル(LLM)をベースにソフトウェアのインフラを構築するOpenAIやマイクロソフト、Googleといった企業、そして我々のようなChatGPTを使ってアプリケーションを提供する企業のような三つのレイヤーに分かれています。
今回の生成AIブームは「間違いなくゲームチェンジが起きる」と確信するほど、インパクトの大きいものだと感じています。ChatGPTが騒がれ始めた2022年11月から半年間ほどはお酒も飲みに行かず、ひたすらChatGPTを使うことに没頭していましたね。これまでの歴史を振り返ると、インターネットやスマホの登場は約10年おきに大きな革命が起きており、まさに生成AIもそれに匹敵するようなテクノロジーだと思っています。
── 茶圓さんはAIスペシャリストとして、SNSのX(旧 Twitter)でAIに関する情報発信を行っていますが、Xをメインに活用しているのはどのような理由がありますか?
Xは投稿のハードルが低く、かつギークでITリテラシーの高いユーザーが多いプラットフォームなので、情報発信の場として有効活用しています。そのため、Xを生成AIのリサーチの中心に据え、最先端のAI情報を発信している海外の有識者をフォローし、気になったところを深堀りすることを繰り返しながら、情報のキャッチアップを行っています。
テクノロジー関連の情報発信については、数年前から取り組んでおり、最初は中国のシリコンバレーといわれる深センのITトレンドに関する情報を取り上げ、その後もキャッシュレスやWeb3関連の情報を取り扱うようになり、ChatGPTが出てきたタイミングで生成AIの最前線をキャッチアップするようになりました。気になるテクノロジーやトレンドにはアンテナを張るように意識しており、だからこそ生成AIの将来性にも気づいたわけです。
私は主に「アカデミックなAIの研究や仕組み」「エンジニアの視点」「ビジネスサイド」の三つの領域にフォーカスして情報収集を行っています。これら全てを網羅的にキャッチアップし、どの視点からも生成AIを語れるように意識しています。
企業のSNS発信や広報活動における生成AIの活用方法
ネタを探す際の「リサーチ」、画像や文章などの素材をつくる「投稿作成」、コンテンツを発信した後の「分析」と、三つのステップがあります。
まず「リサーチ」についてですが、人間は過去の経験則に応じてアイデアを生み出していくのに対して、AIは人間が想像しないようなアイデアを出してくれるのが強みです。ある論文では「人間よりもAIのほうがクリエイティブ力に長けている」という見解もあるほどで、生成AIに色々なパターンのアイデアを出してもらい、そこから人間が精査していく、というように役割を分担するのがよいと思います。
次のステップである「投稿作成」では、生成AIを用いて文章や画像などの素材づくりができることから、投稿時の省力化や業務効率化につながるといえるでしょう。画像生成AIでは「Stable Diffusion」や「Midjourney」などが有名ですが、これからは「Adobe Firefly」がビジネスシーンでは普及していく可能性が高いと感じています。なぜかというと、Adobe Fireflyは著作権フリーの画像をAIに読み込み、学習させているので商用利用にマッチしているからです。
動画に関しては、現時点の生成AIで質の高いコンテンツをつくることは難しいように思いますが、徐々にランウェイなどの動画は生成AIでつくれるようになってきています。ただ、現状はクリエイティブの制作会社のクオリティには勝てないため、利用シーンは限定されてしまうと思います。質を求めないような用途でのショート動画制作などであれば、生成AIも有効活用できるかもしれません。
三つ目の「分析」では、例えばXの投稿データをChatGPTに入れると、ChatGPTの機能である「Advanced Data Analysis(旧Code Interpreter)」が自動でグラフを作成し、人間が気づかない部分まで可視化してくれます。既存の分析ツールでは、投稿の内容ごとにカテゴライズすることが難しいので、まさに大規模言語(LLM)のよさが出ているユースケースです。例えば本文の内容を文章パターンによって分析し、どういう文章構成にすれば読了率が向上するのか、あるいはページビュー数が伸びるのかなどの傾向を予測することもできるでしょう。
このような生成AIの活用方法がある一方で、「ChatGPTに個人情報や機密情報を入力してはいけない」という意見をよく聞きます。私がリスクとして挙げるのは「OpenAIがハッキングされること」と「ID/パスワードの2段階認証が突破される」ことの二つですが、セキュリティに敏感になりすぎて、生成AIの可能性を閉じる必要はないと思っています。リスクヘッジの観点で、機密情報や個人情報の漏洩に配慮することはもちろん大切ですが、「どのようにChatGPTをビジネスに活かせるか」を考えることが現段階では最も重要だと捉えています。
生成AIの活用で大切なのは「やる気」と「向き不向きの理解」
新しいことを試し、自分ごととして考えるために、まず大切なことは「やる気」です。生成AIの活用に慣れるまでは「使わないほうがラク」だと感じる場面もあるでしょう。それでも挫けずに、生成AIの可能性を理解し、積極的に活用し続けるモチベーションがあるのか。目標のために、頑張ろうとする気持ちを持てるかが肝になってきます。
そして、最先端のテクノロジーを理解し、肌感覚をつかむためには、当然ながら生成AIに触れてみることが大切です。ChatGPTを実際に使うことで、自然で流暢な対話を体験できますし、“それっぽい回答”が生成される場合もあることが分かると思います。そうすると、生成AIを活用する上では「ファクトチェック」をすることが大切だと気づくでしょう。自然な流れで会話が進んでいくなかで、「本当にそのアウトプットが正しいかどうか」を常に見極める意識を持つ必要がありますね。
プロンプトのつくり方については「立場」を明確にし、「条件」を細かく記載し、「出力形式」を指定するという基本的なフォーマットはありますが、最初はそこまで気にせずに使っても問題ないと思います。アイデア出しでは「〇〇の新規事業をつくりたいのでアイデアを10個教えてください」といったプロンプトでも、十分なアウトプットが期待できるでしょう。
また、生成AIを活用する上では「向き不向きの理解」をすることが大切です。Googleは検索エンジンとして優れており、知りたい情報源を探していくのに最適なツールです。一方で生成AIは、0→1を生み出すことに長けており、新規事業のアイデアや企画出し、プログラムコードの自動生成などクリエイティブ領域を得意としています。すべてを生成AIに移行しようとするのではなく、特徴を把握して使い分けることがポイントです。
人間とAIの介在価値を完全に線引きする必要はない
私個人としてはこれまで、世界のAIツールを検索するサービス「AI Database」や社内秘書AIアシスタント「Knowledge AI」、AI LINE Bot制作ツール「Star AI」など、生成AIのプロダクトをいくつもリリースしてきましたが、これらをもっとブラッシュアップし、toB向けにも提供できるように展開していければと考えています。加えて、「生成AIを学習して自社の事業へ活かしたい」という法人需要の高まりから、法人向けのAIリスキリング事業にも注力していく予定です。
AIの未来に関する個人的な意見ですが、人間とAIの介在価値を完全に線引きする必要はないと考えています。そこまでAIに対して恐怖感を抱く必要もなく、流れに身を任せるくらいの気持ちでAIと付き合うとよいのではないでしょうか。
現時点で、AIは「生産」ができるものの「消費」はできません。AIが「お金を稼ぐ」ことができれば、新たな経済圏が生まれてきます。例えば、ゲームといった仮想空間にChatGPTのようなLLMを搭載したキャラクターを放ちます。そして、そのキャラクターたちにクリプトウォレットを持たせて、仮想空間上でお互い自由に取引をさせる。
そうすると、そこに経済圏が生まれて、一部のAIキャラクターが莫大な富を作るといったことも可能でしょう。そして、その収益をオーナーである人間が徴収する。それがひいてはベーシックインカムのようなものになっていく。そのような将来が到来することも十分に考えられるでしょう。
茶圓 将裕
株式会社デジライズ 代表取締役/一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員
学生時代に英語圏での1年間の留学後、上海に渡り動画求人サイトの事業で起業。帰国後は日本初世界のAIツールを検索サービス「AI Database」や社内秘書AIアシスタント「Knowledge AI」、著名人向けAI LINE Bot制作「Star AI」などAI関連サービスを次々とリリース。現在はTwitter等でAI情報発信を行い、AI専門家としてTBSテレビやABEMAにも複数回出演。(Twitterフォロワーは9.2万人)GMO AI & Web3株式会社 顧問、生成AI活用普及協会 協議員も兼任。