中国最前線

コロナ禍の影響を大きく受ける中国小売業は、どこに活路を見出しているのか

5月25日に、政府は全国において緊急事態宣言を解除しました。しかし、「第2波・第3波」に対する懸念もあり、経済回復の見通しは未だ立っていません。特に今回のコロナ禍においては小売業への影響が大きく、インバウンド需要の冷え込みも多くの企業に打撃を与えています。

withコロナ・afterコロナ時代に、今後小売企業はどのような変化を遂げていくのでしょうか?同じく新型コロナウイルスによって小売業に大きな打撃を受け、日本より一足先に経済回復を進める中国小売業の事例について、株式会社オプトホールディング、中国事業推進室のゼネラルマネージャー李 延光(LI YANGUANG)氏に寄稿いただいだ。

中国では小売業の倒産が相次ぐ

まずは、中国の小売業がどのような影響を受けているか詳しく見ていこう。

2020年1月23日の武漢封鎖以降、国や地方政府が発令した全面隔離の政策によって、人々は強制的に家から出られない状況になった。中でも最もダメージを受けた業種は小売業だ。

実店舗の来客数は激しく落ち込み、店によっては営業自体が政府に禁止された。店舗の家賃や従業員の賃金、ローンの返済に追われたスーパーマーケットや個人商店は倒産に追い込まれることとなった。中国で著名な民間の経済評論チャンネル「曉報告」の調査によると、2020年1月~2月の間で倒産した企業は約24.7万社に上るという。特に新型コロナの感染者が多かったエリアでは、卸と小売業の倒産が多く、全体に占める割合は8.5万社(34.4%)だった。また、参考までに中国国家統計局の公式発表によると、2020年1月~2月の社会小売流通総額は52,130億元(約79兆円)で、前年同期比で20.5%の減少、その内、商品小売流通総額は47,936億元(約73兆円)で、前年同期比17.6%減少となっている。

大型商業施設の停滞とEC大手の躍進

現在、中国と地方政府は感染拡大が一段落したとみて、「復旧」を強くアピールしている。閉鎖していた商業施設等の営業再開は急速に進んではいるが、ウォルマートや蘇寧易購(中国の大手家電量販店)、イオンモールといった大型商業施設には客足が戻りきっていない。消費の復活が遅れれば、小売業界での淘汰や再編圧力が強まるのは間違いないだろう。しかし実は、中国の小売業は今回の新型コロナの感染拡大以前から厳しい状況にあり、今回のコロナ禍でそのスピードが急速に拡大したにすぎない。

中国では、2003年のSARSの大流行をきっかけに、Eコマースが急成長を遂げた。実店舗を構えるオフライン企業は急速に勢いを失い、例えば日系の伊勢丹、高島屋、イトーヨーカドー、欧米系のマークス&スペンサー、パークソン等が相次いで閉店した。

当時も、中国カルフール(フランスにグループ本社のあるスーパーマーケットチェーン)が、ECに注力する中国最大級の家電量販店・蘇寧易購に買収されるなど、業界の再編が進んでいる。さらにアリババやテンセント、京東(JD.com)等のEコマースの雄がスーパーや百貨店を次々と飲み込んでいったのだ。

新型コロナによって引き起こされている状況は、SARSの時に似ている。EC大手は、この機会に乗じ、ECとオフライン店舗とのさらなる融合をもくろんでいる。

オフライン小売企業の活路はライブコマース!?

実店舗での販売がメインである小売企業が新型コロナによる損失を減少するために、とった施策のひとつが、ソーシャルマーケティングとライブコマースだ。ECを整備することはもちろん、従業員達がソーシャルメディア(Weibo、Wechat、小紅書、Tiktok、Kwai等)を活用して、積極的に顧客とつながり、商品をアピールしている。YouTuberのような存在を思い浮かべてもらえれば良い。またライブコマースとは、動画配信サービスを活用し、視聴者(消費者)とリアルタイムに、双方向でつながる販売手法のことだ。

リモートでも消費者と強いつながりを作ることができるライブコマースは、今や伝統的な高級ブランドも注目する手法だ。あるブランドでは、創業者や経営幹部、店長、従業員を含めた全員が動き、それぞれの世代に合わせた生中継を行い、自社ブランドを宣伝し、消費者とのコミュニティを築くことで、商品を販売した。

アリババが運営するオンラインモールTaobaoが開示したデータによると、Taobaoで行われるライブコマース生中継の平均視聴人数は11762人/回(2020年1月24日時点)から51658人/回(2020年2月8日時点)まで上昇しているという。生中継が行われる数も、コロナ以前では一日平均183回だったのが540回まで増えたという。

ライブコマースの形も進化を遂げている。百貨店や、ショッピングモール、商店街等は「クラウド・ショッピング」をテーマに、オンラインイベントを開催している。いくつかの店舗が同時にライブコマースを行い、消費者は気になるテナントをオンライン上で回る仕組みだ。気になる商品があればチャットを使って、店員と消費者が直接コミュニケーションを取ることもできる。

こうした取り組みが各所で行われた結果、中国では消費者のライブコマースを活用した販売(買い物)習慣が急速に育ってきている。

ブランドが直接消費者とつながる世界へ

オンラインでの購買習慣が根付いた結果、ECの販売額は伸びてきている。3月8日は中国で“婦人の日”とされ、成人女性向けの商品が売れる日だが、華創証券の証券レポートによると、オンライン高級化粧品売上が前年比で爆増する結果となった。セール期間が延長されたという背景もあるが、例えば日系の資生堂は取引総額(GMV)を開示していないがグローバルブランドトップの伸び率(前年比)をたたき出した。
また、以下は筆者調べだが、企業の創業者が自らライブコマースの出演し、驚くほどの売上を上げている事例も少なくないようだ。

・Ctrip(旅行会社)董事長 梁建章 10回で合計3.3億元(約50億円)を売上
・Smartisan(通信機器メーカー)創業者 羅永浩 7回で合計4.1億元(約62億円)を売上
・盒马鲜生 CEO 候毅 1回で合計500万匹のザリガニを売った
・格力電器(家電メーカー)董事長 董明珠 3回で合計10億元(約150億円)を売上
・百度(Baidu)創業者 兼 董事長 李彦宏 1回で合計1000個の書籍福袋を売った
・京東(JD.com)CEO 徐雷 1回で合計26億元(約390億円)を売上

これらのブランドは、今後のマーケティング施策や販売チャネルの選定を一新するだろう。マーケティング予算の使い道も益々デジタルマーケティングにシフトしていくはずだ。

このように中国ではオフライン店舗のオンライン化が急速に進んでいる。メーカー側が独自にオンラインで販路を築くという動きもあれば、小売店もECを拡大していっている。メーカーから小売り、消費者へと商品が流れていく伝統的な流通モデルは、形を変えていくかもしれない。事態収束の先に広がる小売業界は、今以上の変化を迎えることになるだろう。

人気記事

住友生命が「保険を売らない」フラッグシップ店を銀座の超一等地に出店した理由。住友生命社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授対談

住友生命が「保険を売らない」フラッグシップ店を銀座の超一等地に出店した理由。住友生命社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授対談

デジタルシフトが加速するなか、大きな変革を求められている保険業界。そんななか「リスク」に備えるだけではなく、リスクを「減らす」健康増進型保険“住友生命「Vitality」”を提供するなど、デジタルの力でいち早く事業変革を実践しているのが住友生命保険相互会社です。今回はそんな同社が8月24日に銀座にオープンさせたばかりの「住友生命『Vitality』プラザ 銀座Flagship店」を舞台に実施された、同社の社長高田幸徳氏と立教大学ビジネススクール田中道昭教授の対談の模様をレポート。前編では、高田社長自ら銀座Flagship店をご案内いただきながら、銀座の一等地に「保険を売らない」保険ショップをオープンさせた狙いや、Vitalityによって住友生命が実現したいビジョンについてお話を伺いました。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

大手ゲーム会社も注目!今後のNFT市場をゲームが牽引する理由。

大手ゲーム会社も注目!今後のNFT市場をゲームが牽引する理由。

今年に入り、突如として注目度の高まった「NFT(非代替性トークン)」というキーワード。アート業界のバズワードとして認識している人も多いかもしれません。ところが実は、NFTはゲーム業界の未来、IP(知財)コンテンツの未来を考える上でも欠かせないキーワードであることをご存知でしょうか。そこで今回お話を伺ったのが、世界No.1を記録したNFTを活用しているブロックチェーンゲーム『My Crypto Heroes』(現在の運営はMCH社)を開発したdouble jump.tokyo株式会社の代表取締役 上野 広伸氏です。この新たなテクノロジーは、ゲームの世界にどのような変化をもたらすのでしょうか。そのポテンシャルに迫ります。

デジタルシフトカンパニーへの変遷、中核企業だったオプト3分割の真の狙いとは。デジタルホールディングス 取締役 グループCOO 金澤大輔氏に立教大学ビジネススクール田中道昭教授が迫る

デジタルシフトカンパニーへの変遷、中核企業だったオプト3分割の真の狙いとは。デジタルホールディングス 取締役 グループCOO 金澤大輔氏に立教大学ビジネススクール田中道昭教授が迫る

2020年7月にオプトホールディングから社名を変更したデジタルホールディングス。従来のインターネット広告代理事業に代わり、企業のデジタルシフトを支援する事業を中核に据え、日本社会の挑戦の先陣を切り、社会のデジタルシフトを牽引する存在となっていくことを掲げています。 デジタルマーケティングの先進国アメリカでは個人情報を保護する法整備が進み、Web上でのクッキーの使用に大きな制限がかけられた結果、ウォルマートのような膨大な顧客データを持つ企業が自らメディア化する流れが生まれています。そんな中、日本の広告産業はどう変化していくのか。また企業のデジタルシフト事業を中核に据えたデジタルホールディングスはどう変化していて、変革の先にどんな未来を見据えているのか。元株式会社オプトの代表取締役社長CEOにして、現在は株式会社デジタルホールディングス 取締役 グループCOOを務める金澤大輔氏をゲストに迎え、立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

Clubhouseをはじめ、新勢力が次々と参入し、拡大を見せる音声コンテンツ市場。その中で、民放開始から70年の歴史に「大変革」を巻き起こしているのが“ラジオ”です。放送エリアの壁を取り払う、リアルタイムでなくても番組を聴けるようにするといった機能で、ラジオをデジタル時代に即したサービスに生まれ変わらせたのは、PCやスマートフォンなどで番組を配信する『radiko(ラジコ)』。今回は、株式会社radiko 代表取締役社長の青木 貴博氏に、現在までのデジタルシフトの歩みと将来の展望について、お話を伺いました。

【保存版】全企業の経営者・DX推進者に贈る、デジタルシフトを成功に導く10箇条

【保存版】全企業の経営者・DX推進者に贈る、デジタルシフトを成功に導く10箇条

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、デジタル化が遅れていると言われ続けていた日本でも「デジタルシフト」「DX」という言葉を聞かない日はありません。しかし、その重要度や緊急度に対して、正しく認識できていない企業・経営者はまだ多いというのが現状です。 アメリカのコンサルティングファーム「イノサイト」によると、S&P500を構成する企業の平均寿命は年々低下してきており、2027年にはわずか12年になると予想されています。自動車に保険、ヘルスケアから不動産まで、GAFAをはじめとする巨大テック企業の影響を受けない業界は、今や皆無と言っても過言ではありません。あらゆる業種・業界が飲み込まれる「デジタル産業革命」待ったなしの現在、具体的にどのような手順、心構えでデジタルシフトに臨むべきなのか? 事業ドメインをデジタルシフト事業へと変更し、多くの産業・企業のDXを支援している株式会社デジタルホールディングス 代表取締役会長の鉢嶺 登氏は、「中途半端にDXに着手する企業は大抵失敗する」と語ります。

マツダの天才エンジニアとして知られた人見氏が本音で語るDX!Appleなど巨大テック企業が参入するなか、日本の自動車メーカーの生き残り戦略とは?

マツダの天才エンジニアとして知られた人見氏が本音で語るDX!Appleなど巨大テック企業が参入するなか、日本の自動車メーカーの生き残り戦略とは?

100年に一度の大変革期を迎えている自動車業界。そのなかで日本の自動車メーカーの行く末に「猛烈な危機感がある」と明かすのは、かねてよりマツダの天才エンジニアとして知られ、現在はシニアイノベーションフェローを務める人見 光夫氏だ。Appleをはじめとした巨大テック企業たちが自動車業界への参入をこぞって表明する今、既存の自動車メーカーが生き残りをかけて望むデジタルシフト戦略とは。ここでしか聞けない、本音が満載のインタビューです。

人×デジタルの力でウェルビーイングに寄り添える生命保険会社へ。住友生命社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談

人×デジタルの力でウェルビーイングに寄り添える生命保険会社へ。住友生命社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談

デジタルシフトが加速するなか、大きな変革を求められている保険業界。そんななか「リスク」に備えるだけではなく、リスクを「減らす」健康増進型保険“住友生命「Vitality」”を提供するなど、デジタルの力でいち早く事業変革を実践しているのが住友生命保険相互会社です。今回はそんな同社が8月に銀座にオープンさせたばかりの「住友生命『Vitality』プラザ 銀座Flagship店」を舞台に実施された、同社の社長高田幸徳氏と立教大学ビジネススクール田中道昭教授の対談の模様をレポート。後編では、4月1日の就任から半年を経た高田社長の所感をはじめ、同社が掲げる新たな事業戦略、高齢化社会においてVitalityが果たす役割、生命保険業界の未来などについてお話を伺いました。

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。