【ソニーネットワークコミュニケーションズ×Priv Tech対談】個人情報保護法改正およびCookie規制に対し、今、企業がすべき対応策とは
2021/7/12
大手ソニーグループに属し、ISP事業などを手がけるソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(以下、ソニーネットワークコミュニケーションズ)。2022年の4月に施行される個人情報保護法の改正やApple・Googleが進めているCookie規制にともない、いち早くプライバシー管理の対応に着手しています。
今回は、ソニーネットワークコミュニケーションズの森氏、宮原氏に加え、コンサルティングを務めた、プライバシーテックサービスを提供するPriv Tech株式会社(以下、Priv Tech)の代表取締役 中道氏、角田氏にご参加いただき、「個人情報保護法改正およびCookie規制による企業のプライバシー管理」について、株式会社デジタルアイデンティティの花田がお話を伺います。
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お客様のプライバシーに対する意識の高まりがプライバシー対応強化のきっかけ
中道:弊社Priv Techは2020年の3月に設立した株式会社ベクトル(以下、ベクトル)と株式会社インティメート・マージャー(以下、IM)によるジョイントベンチャーです。資本比率としてはベクトルが85.1%、IMが14.9%です。事業領域は来年の4月に施行される個人情報保護法改正、Appleや Googleが今まさに進めている3rd Party Cookie規制に対応するご支援ですね。
● プライバシーに配慮したデータ活用
● DMP・CDP導入などを中心としたデジタルマーケティング
● 法律順守のためのツールプロダクト・コンサルティングサービス
上記のようなサービスを提供しています。
宮原:私たちはソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社のISP事業部で、20年以上ISP (インターネットサービスプロバイダー)の「So-net」を運営しております。私たちのチームでは、事業部のデジタルマーケティング推進を行っています。
森:同じくISP事業部のマーケティング部の部長をやっています。
花田:プライバシー管理に関する情報は刻々と変化していますが、Priv Tech様のコンサルティングを受ける前はどのような課題を感じていましたか?
森:もともとCookieレスの時代が来ることや、個人情報の規制が進むことは気になっていました。So-netはソニーグループのISPで会員数も300万人ほどいて、これからお客様に対してプライバシー対策の準備が大事になる危機感がありました。
今回コンサルティングを受けたきっかけは、法律など外部的な要素もありますが、何よりも大きかったのはお客様の意識の変化です。法改正やCookie規制に対するお客様の意識が高まってきており、課題が顕在化した時点で対応するのでは遅いと考えていました。So-netではいろいろなデータ・個人情報を扱っていますし、AppleやGoogleの動きも大きかったです。
花田:Trust 360(Priv Techの同意管理プラットフォーム)はCookieに関する対応策ですが、So-net様ではプライバシー対策のほうが優先度は高かったのでしょうか?
森:お客様とCookie対応のどちらも優先度は高いです。ダイレクトマーケティングでは広告のボリュームが大きく、さらにお客様の意識も高まっていますからね。
Priv Techに依頼した決め手は「攻め」と「守り」のバランス
森:宮原の問題提起がきっかけで、いくつかの詳しい事業者に話を聞くことになりました。Priv Tech様と話を進めていくなかで「素早くプライバシー規制に対応すべき」と感じ、コンサル依頼をすることになりました。
花田:ありがとうございます。Priv Tech様に依頼された経緯を教えていただけますか?
森:危機感を持ち始めたタイミングと同時期に、ベクトルの長谷川社長にPriv Tech様をご紹介いただいたことがきっかけです。実際にお話を聞かせていただいて、非常に優秀なブレーンの方々だと感じました。法令に対応してお客様のデータを守らないといけない。さらに、現時点で許されているデータをお客様のためになるように使いながらマーケティング活動をして、効果的な施策を打っていくことも必要でした。Priv Tech様とならこうしたバランスを取りながら進めることが可能、と判断したのが決め手の一つです。
お客様の個人情報を守る・規約を変えるのは「守り」。Cookieに頼らないユーザーへのアプローチが「攻め」になります。我々はリスクヘッジばかりしたいわけではないんです。お客様を増やすことも必要ですし、でも守りもしないといけない。
Priv Tech様は事業自体を理解されていて、いわゆる机上の空論を述べるようなコンサルティングではありませんでした。法律を守るのは当たり前で、さらに攻めもしないといけない。攻めと守りの必要性を理解していたので、リアルな相談ができました。
花田:なるほど。中道様はソフトバンクのご出身でデータの活用やマーケティングをされていましたよね。そうした「攻め」と現在携わっている領域の「守り」、両方を兼ね備えた経歴があるからこそ、今回の話にマッチしたのかもしれませんね。
Priv Tech様はCMP(個人データ利用の同意管理プラットフォーム)の提供が中心だったと伺いましたが、コンサルティングサービスを始めた経緯を教えていただけますか?
角田:もともと弊社はCMPのベンダーなので、主力商品「Trust 360(トラスト360)」の提案がメインでした。個人情報保護法に関しては今でこそガイドラインが出ましたが、当時は「何をレギュレーションにしてどう対応すればいいのか?」と相談されることがよくありました。その対応策としてCMPのご提案に加え、本格的なコンサルティングを始めました。
中道:最近はコンサルティングのお問い合わせが多くなっています。「個人情報保護法が変わるにあたってどうしたらいいのか分からない」といったように、もっと手前からの相談が増えているんです。So-net様の場合も同じように、手前から整理する流れになりました。
プロジェクトにかかった期間は3ヵ月弱。大企業ならではの課題も
宮原:よい面としては、蓄積されたノウハウがありますし、運用ルールが決まっているなどガバナンスがしっかりしています。世の中の好例や成功例などを把握しているため、お客様の情報を守るためにどうすべきか方針が明らかになっている点です。
ただ今回は国内向けの法律が変わるのに合わせて、ガバナンスと事業でのデータ活用とのバランスをとる必要があるので、落としどころを決めるのには苦労しました。そこがPriv Tech様のコンサルティングに期待した部分でもあります。
花田:プロジェクトは合計でどのくらいの期間がかかりましたか?
角田:期間はトータルで3ヵ月弱かかりました。勉強会が1ヵ月くらい、コンサルティングが3ヵ月くらいです。
花田:なるほど。プロジェクトを進めるにあたり、Priv Tech様とSo-net様はどのようなやり取りをされたんでしょうか?
角田:流れは以下の通りです。
・勉強会の開催
当時は、森様や宮原様のようにプライバシー管理に対する感度が高い方がいらっしゃるものの、すべての部門でナレッジがそろっていたわけではありませんでした。そこでソニーネットワークコミュニケーションズの社内で、基本となる知識ベースを底上げするために勉強会を開催しました。
・各部門の現状把握
そのあとは営業部門や宮原様たち以外のマーケティング部門、セキュリティ事務局に現状の対応をヒアリングしました。
・Webサイトのスキャン
各部門へのヒアリングと同時に、Webサイト側のタグやCookieのスキャンをしました。So-netさんが運営されている大きなサイトも含めて、全5サイトが対象です。
・対応方針の整理
最終的に得た情報をすべて整理し、2022年の個人情報保護法改正で業務に影響する箇所を精査し、必要な対策のご提案をさせていただきました。
花田:ありがとうございます。具体的にどのような内容をヒアリングされたんですか?
角田:プラットフォーマー側の規制と、個人情報保護法改正がどう影響するかの二つを確認しました。Cookieに関しては「アプリを使っているか、アプリで何をしているか」をスキャンして、気になる部分をヒアリングした次第です。個人情報保護法の改正では改定ポイントがいくつかあるので、影響しそうな箇所を抽出してユーザーからの開示請求に対するスキームなどを質問させてもらいました。
花田:Cookie規制によって配信ができなくなる、ターゲティングができなくなる話がありますが、代替のソリューションもご提案されたのでしょうか?
角田:代替案の一つとしてコンテキストターゲティングがあることは提案し、他のサービスとの違いもご説明しました。ただ、どのサービスにするか決める段階には至っていません。次のステップは、それぞれのサービスとSo-net様がおこなっている施策がフィットするかを見ることですね。
単純な「広告の法律」ではない。お客様が納得した上で情報を提供してもらうサイクルにシフトしていく
勉強会の内容を、社内のメンバーには単純に「広告の法律」と捉えてほしくなかったのです。そのあたりのバランスはかなり気を使って相談させていただきました。お客様には、きちんと理解してご納得いただいた上で情報を提供してもらう必要があります。よいサービスを受ける代わりとして、情報を使わせていただくサイクルにシフトしていかないといけないのだということを伝えていただくようにしました。そのため、総じて3rd Party Cookieの代替に関しては補足事項として扱い、中心には置かないようにしていただきました。
早い段階で社内の共通認識となるベースを確立。120%の成果を実感
宮原:一番よかったのは、個人情報保護法の改正および、Cookieレスの世界に向けた準備に対する理解が深まり、早い段階で社内の共通認識ができたことです。また現状把握を行い、幸い現時点では、大きな問題はないことを改めて確認することができて安心しました。次はガイドラインができ次第、残っている課題に対して適宜対応する段階です。全体としてうまくできたなと思っています。
花田:そうなんですね。共通認識をつくる意味では、勉強会の効果が大きかったのでしょうか?
宮原:そうですね。ISP事業部の課長など、現場で中心となって動くメンバーに対して、勉強会で最初に知識をインプットできたのはよかったです。勉強会の開催は思ったとおりの効果が出ました。法令対応が各部署の今期のミッションに盛り込まれており、改めて勉強会の内容が思った以上に浸透させられたことを実感しています。
角田:So-net様の案件では事前にほとんどのメンバーが勉強会に参加されたので、ヒアリングも進めやすかったですね。他の会社さんでは「個人情報保護法ってなんですか?」と聞かれたこともあり、そもそもの前提からお話ししないといけないこともありました。
中道:この手の話はマーケティング・情報システム・法務など、領域が多岐に渡ります。マーケティング部門主導だと厳しい場合もあるのですが、今回は課長以上の方にご参加いただけたので、スムーズにヒアリングできたのかと思います。他社さんだと、部門をまたいで共通理解をつくるのは苦戦するところでもあります。
花田:ありがとうございます。今回So-net様がPriv Tech様のコンサルティングを受けて、これがあればさらに役に立つと思うことがあれば教えてください。
宮原:今回はある程度範囲を絞ったので、もちろんやっていないこともあります。ただお願いした課題に対しては、120%の成果を出してもらいました。引き続き課題となるのは、詳細を詰めていくときに橋渡しとなる役割の必要性です。
Priv Tech様には、一緒に事業を進めていくパートナーとしてセキュリティ部門など他部署との架け橋になってもらいました。プロジェクトを進めるなかで、そういった部署とは普段使う言葉や観点が違うこともありました。今後もそうした部分の架け橋をうまくご対応いただけると嬉しいなと感じています。
これからはお客様が「提供する情報」を選ぶ時代。企業はパートナーを見つけて、プライバシー管理に早々に着手するべき
宮原:規制がかかり、データが使えなくなるのはある意味ピンチです。ただ、事業活動やマーケティングを見直す機会でもあります。消費者のプライバシーが保護されるのは基本的にはいい話なので、このような機会に早めに着手し、Priv Tech様のようなパートナーに入っていただいて組織横断で改めて考える機会になったのは良かったと、今振り返っても改めてそう思います。
花田:貴重なご意見ありがとうございます。今後、プライバシー管理に対して企業はどうあるべきでしょうか?
森:個人情報保護法改正によってプライバシー管理関連の対応に追われる方々も今までの方法がうまくいかないことが分かるのではないでしょうか。つまり、ピンチをチャンスに変えないといけないんですよね。So-netの営業のメンバーも肌感覚で意識し始めていますが、これからは本当によいと思ったものをお客様が選択する時代がきます。
今までの運用広告のようにただバナーを出すのではなく、若いメンバー自身が考えていくなど、新しい時代に備えた積み重ねを早く始めるべきかと。遅ければ遅いほど、本当にピンチになってしまうと思います。早めにやることによってチャンスに変わるんです。そうした意味も踏まえて、今回のコンサルティングでは若手から役員まで皆を巻き込んで早めに着手できたのはよかったですね。
花田:ありがとうございます。今回のコンサルティングはSo-net様にとってプライバシー管理について考えるきっかけとなり、新たな取り組みに賛同してもらえる環境づくりができたのではないでしょうか。
これからプライバシー管理対策に着手される企業にも、早めの行動を心がけることの大切さが伝わったと思います。So-net様、Priv Tech様、今日はお集まりいただきありがとうございました。
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
ISP事業部 マーケティング部 部長
ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
ISP事業部 マーケティング部 データマネジメント課
メンバー
Priv Tech株式会社
代表取締役
Priv Tech株式会社
ゼネラルマネージャー
株式会社デジタルアイデンティティ
※本記事は2021年7月29日に一部内容を更新しました。