プライバシーの時代だからこそ改めて考える広告の「力」と「課題」、そして「未来」

広告は「絶対悪」なのか?

昨今、GoogleやFacebookなどWeb広告事業をメインにビジネスを行っている巨大ITプラットフォーマー達に対して、法律やベンダーレギュレーションによってメスが入ろうとしています。詳細はまた別の機会に触れようと思いますが、簡単に説明すると、彼らはユーザーのプライバシーやパーソナルデータを用いてビジネスを行い、広告でマネタイズをしています。これに対してGDPR*といった個人情報関連の法律や、AppleのITP*といったベンダー主導の規制など、ここ数年で大きな動きがあります。世論を見ていてもこの動きに賛同する方々が多いのではないでしょうか。

リターゲティング広告なども、ユーザー視点からすると常に追われている鬱陶しさや、なぜ自分の属性にあった広告が出続けるのか、といった気持ち悪さもあります。広告のイメージは、いま底を付いている状態かもしれません。

では、広告とは何か?広告は絶対悪なのか?

今回は、このあたりをテーマに書いていきます。

*GDPR(General Data Protection Regulation)):EU一般データ保護規則。欧州議会、欧州理事会および欧州委員会が策定した新しい個人情報保護の枠組み。2018年より施行されている。
*ITP(Intelligent Tracking Prevention): Apple社が行う広告トラッキング防止機能のこと。

広告の力

昔、ヤフーに在籍していたころ、上の人に言われ、とても印象的で覚えている言葉があります。

「広告は、モノを無料にする力がある」

今さら感があるかもしれません。
でも、この言葉を本質的に深く理解している人は少ないと思います。

普段あまり意識していないと思いますが、広告があることで、無料でモノやサービスを利用できるという恩恵を受けていることが多々あります。
一番身近なところで言うと、TVが代表的かもしれません。民放が放映するTV番組にはCMと呼ばれる広告が流れています。TV局は広告主企業から広告出稿費用を受け取って事業を行っています。その他にも、webやアプリの領域だと、Googleの検索やGmail、SNSのFacebook、Instagramなどなど、挙げると切りがないくらいにありますね。
そしてTVもそうですが、GoogelやFacebookも今では我々の生活になくてはならないものになっています。

このように、広告はモノやサービスを無料にするという「力」を持っているのです。
そして、ユーザーはモノやサービスを無料で使えるという「恩恵」を受けています。

Web広告の課題

では、なぜいま広告事業者(web広告などのプラットフォーマー)たちへの法律や規制が強まっているのでしょうか?
それは、冒頭にも軽く触れましたが、ユーザーのプライバシーを置き去りにして、自分たち主導の広告事業をしてきたからです。(他にも独占禁止法の観点など、様々な課題がありますが、今回はプライバシーやパーソナルデータに着目します)
3rd Party Cookieという仕組みを用いて、ユーザーの閲覧情報の一部(閲覧ページ情報や属性、興味関心データなど)が、Webサイトや事業者に横断して共有されてきました。

この3rd Party Cookieという仕組みがユーザー視点からすると分かりにくくて、そしてブラックボックスなんです。

ぼくは広告業界が長いため、仕組みは十分理解していて、特段気持ち悪さを感じないのですが、仕組みを理解していなければ、ユーザー側からすると不信感に繋がってしまいかねないですよね。

こういった課題を常に広告プラットフォーマーたちは抱えており、そこにようやくメスが
入るようになったのがここ数年です。

それでも、ぼくは広告の可能性を信じる

前項までで広告の「力」と「課題」に関して書きました。
ユーザーは広告の恩恵を受けていますが、事業者はプライバシーを蔑ろにしたビジネスを展開してしまっていました。そこに世論も高まり、そして法律やベンダーレギュレーションも厳しくなってきました。AppleやGoogleなどのベンダー自ら、先述の3rd Party Cookieの規制強化も始まってきています。

これでようやく、ユーザーのプライバシーが守られた広告やデジタルマーケティングの仕組みが提供されるようになると考えています。

これからの広告は、もはや広告ではなく、「information」や「recommend」といった意味合いが強くなると思います。また、法規制(GDPRや日本の改正個人情報保護法)により、Cookieの利用に関し、ユーザー同意を求められるケースも増えていきます。

大事なのは、下記2点です。
・ユーザーに理解をしてもらう
海外と比べて特に日本のユーザーは、自分のデータを守るという意識が低いです。無料でサービスが使えるという恩恵を受けているにも関わらず、です。今後は事業者側が正しくユーザーに理解をしてもらえるように働きかける必要があります。
・ユーザーの同意に基づいて、ユーザーのためにデータを使わせてもらう場合、UX向上のためや、デジタルマーケティングのためにCookieの利用が必要なケースもあると思います。その際は法令を遵守した形での同意取得が重要となってきます。

このようにプライバシーが守られた広告が広がっていくことにより、我々はプラットフォーマーや事業者からモノやサービスを、無償もしくは低価格で、そして安心して利用することができるようになります。
広告の「未来」は、「with Trust」の概念と共に、です。広告はカタチを変えながらますます伸びていくと思います。そして、我々により良いサービスを提供し、生活の一部となって支えてくれるはずです。

それらの裏側で、プライバシーを守るために使われているテクノロジーを、我々は「プライバシー・テック(Privacy Tech)」と呼んでいます。


広告の「未来」に、そしてそのコア技術となっていく「プライバシー・テック(Privacy Tech)」に注目していただければと思います。
中道 大輔
Priv Tech株式会社 代表取締役
株式会社ベクトル Chief Privacy Officer 兼 新規事業戦略室 室長

ソフトバンク株式会社やヤフー株式会社にて、データビジネス領域の事業開発や新規事業を複数経験。キャリアを通じて、データ軸やデジタルマーケティング領域でのビジネス開発を得意とする。    
2020年3月Priv Techを設立し、ベクトルグループにジョイン。Priv Techでは、GDPRや改正個人情報保護法への対応ソリューションの提供など、プライバシーファーストな事業を展開。また、親会社ベクトルにてCPO(Chief Privacy Officer)と新規事業戦略室 室長に就任。CPOでは、ベクトルグループを横断して、ユーザーのプライバシーやパーソナルデータを守る関所としての意思決定機関を、新規事業戦略室ではPriv Tech以外にも新規事業の戦略立案を行う。

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