イーロン・マスクのTwitter就任から約1年。青い鳥が消えた「X」は今後、どう変わる?

2022年4月、イーロン・マスク氏は26億ドルでツイッター株を取得し、ツイッター社における最大株主になったことを発表。このとき、ツイッター株は、2013年のIPO以来で最大となる27%の上昇を記録しました。2022年10月27日、マスク氏によるツイッター買収が完了し、その後「X」へと名称やおなじみの青い鳥のロゴが変更。何かと話題の尽きないマスク氏のツイッター就任から約1年の軌跡と展望について、シンガポール在住ライターで、グローバル企業の動向に詳しいLivit Singapore CTOの細谷 元氏に解説していただきました。

なぜツイッターだったのか、買収の狙いとは

テスラとスペースXのCEOを務めるマスク氏がツイッター(現X)の買収意向を公に発表したのは2022年4月のこと。現在では、「ツイッター」から「X」に名称変更されただけでなく、旧ツイッターにはないさまざまな機能が導入され、その様相は大きく変化しました。そもそもマスク氏はなぜツイッターを買収しようと考えたのでしょうか。海外メディアでは、マスク氏はツイッターの運営方針に批判的であり、同ソーシャルメディアにおける「言論の自由(free speech)」と「民主主義(democracy)」の原則を徹底させるために、買収したというのが理由の一つとして報じられていました。

マスク氏がツイッター買収に向け水面下で動きはじめたのは、2022年1月31日。この時期から、マスク氏はツイッター株の購入を開始しています。2022年4月4日には、マスク氏は26億ドルでツイッター株9.2%を取得し、ツイッター社における最大株主になったことを発表。このとき、ツイッター株は、2013年のIPO以来で最大となる27%の上昇を記録しました。

これを受け、ツイッター社は取締役会への参加を促すため、マスク氏を招待しました。マスク氏は、招待自体は受け取ったものの、取締役会への参加に関しては、慎重なアプローチをとり、最終的には取締役会には参加しない方針を明らかにしました。取締役になった場合、ツイッター株を14.9%以上保有できなくなることに加え、公に同社に関する発言ができなくなることが理由だったと推察されています。

このタイミングでマスク氏がツイッター社に求めていたのは、同社の非公開化でした。2022年4月14日には、マスク氏はツイッター株を1株54ドル20セント、計430億ドルで取得し、非公開化する案をツイッター経営陣に提案。もし経営陣が拒否した場合、他の手段で株式取得を進めることが示唆された提案だったため、「敵対的買収(hostile takeover)」に分類される買収案だったと報じられています。

ツイッター買収の文脈でマスク氏は自身のことを「言論の自由・絶対主義者(free speech absolutist)」だと説明し、同社買収の目的が資産を増やすためではなく、言論の自由を守るためだと主張しています。このとき、米メディア「ワシントン・ポスト」の報道によると、マスク氏はツイッターにおけるリベラルの過剰な介入に注目しており、ツイッター買収によってそれを追放することを約束。この背景として、トランプ前大統領のツイッターアカウントや保守メディアとされる「The Babylon Bee」のアカウントが立て続けにBAN(※)される事態が発生しており、言論の自由が脅かされる脅威がマスク氏をツイッター買収に駆り立てた直接的な要因ともいわれています。

※英語で「禁止」の意味。“アカウントがBANされた”は「アカウントが停止された」という意味で使われる。

組織改革と青い鳥の消滅まで

2022年10月27日、マスク氏によるツイッター買収が完了。このとき同氏は「the bird is freed(鳥は解き放たれた)」というツイートを発信しています。ツイッターの新たな所有者となったマスク氏がまず着手したのが、旧経営幹部らの解雇です。当時就任したばかりのパラグ・アグラワル最高経営責任者(CEO)、ネッド・シーガル最高財務責任者(CFO)、ビジャヤ・ガッデ最高法務責任者(CLO)、ゼネラルカウンセルのショーン・エジェット氏の4人のトップ幹部を解雇。経営幹部らは、マスク氏が敵視する不当なコンテンツモデレーションポリシーの責任を負う立場であることから、真っ先に解雇のターゲットとなりました。コンテンツモデレーション問題では、特にガッデCLOの責任が問われています。

一部報道によると、マスク氏は幹部らの解雇を「正当な理由」で行ったと主張。これにより契約条項の一部が無効となり、数千万ドルに上る退職手当の支払い義務がなくなったといわれています。役員報酬を調査する「Equilar」は、アグラワルCEOの退職手当は5,740万ドル、シーガルCFOは4,450万ドル、ガッデCLOは2,000万ドルほどになると報道しています。幹部らは、マスク氏を相手取った訴訟を起こすこともできますが、その場合、マスク氏と幹部らがかつて激しい論争を繰り広げた、ツイッターのボット問題における真相に触れることになり、幹部らは不利な立場に立たされる可能性があるとされています。

幹部の解雇に続き、マスク氏は社員の大量解雇にも踏み切っています。当初は約7,500人の社員のうち、5,625人に相当する75%を削減する計画であったとのことですが、最新の報道によると、実際は当初の計画を超える社員が解雇されているともいわれています。2023年4月23日、英メディア「BBC」のインタビュー記事のなかでマスク氏は、約8,000人いた社員は現在1,500人ほどだと述べています。また米メディア「Forbes」は2023年7月12日に、マスク氏は7,500人いた社員を6,000人以上削減し、現在の社員数は1,300人ほどであると報道しています。

ツイッター社は、マスク氏が新設したホールディングス企業X Holdingsの完全子会社X Corp.に吸収され消滅。これに伴い取締役会も解散しました。その後しばらく、X Corp.が提供するSNSサービスとして「ツイッター」は存在していましたが、最近の「X」への名称変更により、完全消滅することとなりました。
出典元:マスク氏「X」より

マスク氏によるビジネスモデルの刷新

買収後、しばらくマスク氏がX(ツイッター)のCEOを務め、その間に有料ユーザー向けの青バッジ、ファクトチェック機能であるコミュニティノートなどの新機能を導入し、当初目指していた「言論の自由」を体現する体制を構築してきました。2023年6月にマスク氏の後任として、NBCUniversalの広告営業責任者だったリンダ・ヤッカリーノ氏がXのCEOに就任したことで、X改革は加速しつつあります。

大改革の一つがツイートの文字数制限の拡大です。ツイッターではもともと140文字が上限でしたが、脱ツイッター改革の一環で、有料ユーザーのツイート上限は2万5,000文字まで拡大されました。また、クリエイター支援として、有料ユーザーへの収益シェア機能を導入。YouTubeのように、クリエイターは広告収益の一部を得られるようになりました。
長文投稿が可能になったことに加え、今後は音楽や動画に関する機能が拡充される可能性があります。Xはこのほど、「@music」のハンドルネームを既存ユーザーから取得していますが、既存ユーザーの同意なしに取得したため物議をかもしています。@musicハンドルによって、何らかの音楽機能が導入されるものと思われます。さらに動画に関しては、2時間の動画がアップロードできるようになったほか、現在ビデオコール機能の実装が進められています。これまでのツイッターとは大きく異なる機能が続々実装されていますが、これらはマスク氏が描く次のステップへの布石であり、その動向が注目されています。

「X」はスーパーアプリに進化

マスク氏はXについて、どのような未来を描いているのでしょうか。米メディアの見立てによると、マスク氏は、旧ツイッターをベースにワンストップでなんでもできるアプリ「スーパーアプリ」を実現しようとしているといいます。スーパーアプリとは、中国テンセントの「WeChat」やシンガポールの「Grab」など、支払い、買い物、デリバリー注文、配車サービスなどあらゆるサービスを利用できるアプリのことを指します。

マスク氏の伝記を執筆したウォルター・アイザックソン氏によると、マスク氏は1999年に、オンラインバンク「X.com」を立ち上げた際に、ワンストップであらゆる金融サービスを提供するという構想を描いていました。それが、ツイッターの買収によって、実現可能になったのです。

Xはどのような進化を目指すのか、新CEOであるヤッカリーノ氏がその未来像を伝えています。「Xは、制限のない相互作用の未来の姿。それは、オーディオ、動画、メッセージ、支払い/金融サービスを中核とし、アイデア、商品、サービス、機会のグローバルマーケットプレイスを構築するものである」。

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