【デジタルリスク対策のプロに聞く】企業ブランドの失墜を防ぐ、SNS炎上対策

さまざまなSNSの普及により、企業などの組織だけではなく、個人も情報をどんどん発信できる現代。それにともなって、多くの人々の拡散によって企業側が炎上トラブルに晒される機会も多くなっています。今回は、企業のリスク管理担当者やリーダーが知っておきたい、SNSの炎上トラブルの傾向や対応方法について、SNSなどのソーシャルリスクに詳しい株式会社エルテスの國松 諒氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- SNSの炎上トラブルは増加。発生メディアもTwitterやYouTube、TikTokなど多岐にわたる。

- SNSでトラブルが発生した際には、責任者を決め、一次情報を集約することが重要。誤った情報により生まれたデジタルタトゥーへの対策は、隠す動きを取るのではなく、企業の本来の姿を適切に世の中に発信することが大切。

- SNSやネット上の反応は、その事象を評価する一つの要素。決断の要素として重要なのは、企業としてのポリシーや考え方。

- SNSの炎上トラブルだけを注視して対策するのではなく、企業が抱えるリスクを回避するための一つの手段としてSNSリスク対策を行うという考え方が適切。

SNSの利用増加により、炎上トラブル件数は増加

——SNSの炎上トラブルの数や規模などの推移について教えてください。

集計方法にもよりますが、基本的に増加傾向だと考えています。YouTubeやTikTokなどあらゆるメディアがトラブルの発端となり、最終的にTwitterで話題が波及、まとめサイトに残り続けるというパターンが多いですね。また、SNS上の炎上をテレビやネットニュースなどのメディアが取り上げるケースもあり、社会的に大きな影響力を持つ炎上なども発生しています。

——近年の炎上トラブルの内容に傾向はありますか?

「近年こういった傾向がある」というものではなく、その時々で傾向が変わっています。SNSの炎上トラブルは話題になった事案の模倣が多く登場する傾向にあるので、一つのトラブルがその年の炎上トラブルの傾向に大きく影響します。直近だと、飲食店でのお客さまの迷惑行為などによる炎上トラブルが多く見受けられましたよね。これは、お客さま側が目にした炎上トラブルを模倣することが増えるという側面もありますが、SNS上で似たような事案を発見しようとするユーザーの目が増えてくるがゆえの傾向です。

企業の炎上トラブルだと、昨年従業員の営業中の違法行為がドライブレコーダーや防犯カメラなどに映ったことが発端になった事案もいくつか立て続けに発生しました。これもまた、SNSユーザーが「こういったことがSNSで話題になるのだ」と認識したことで発見の目が多くなり、炎上トラブルに発展したケースです。これらは、防犯カメラやスマートフォンなどデバイスの普及と進化によって、証拠が残り、大きな炎上に繋がるSNSリスクともいえるかもしれません。

——ほかには、企業がSNSで炎上するケースとしてはどのようなものがありますか?

意図的ではないものの、製品やサービスに不備があったパターンもあります。このケースでは、その不備への対応方法についても炎上トラブルの火種になることがあります。その他にも、所属企業を明かした従業員が運営するプライベートアカウントでの不適切な言動で企業も批判を浴びた事例もあります。

あとは、一般消費者には少し縁遠い話題になりますが、内部告発なども一例として挙げられますね。労働環境への不満やハラスメントの告発を従業員がSNS上で行ったことを発端に炎上トラブルに発展するケースです。つまり、「日常的に存在する企業リスク」がSNSで発露してしまいます。従来から存在していたリスクがSNS上に漏れ出すことが多くなったというイメージです。炎上トラブルを単なる「SNS上でのトラブル」とだけ認識して対応することは得策ではありません。

ネット上で発信された情報を企業側が隠す行動はNG

——SNS発端でトラブルが発生した際は、どのような流れで動くのがよいのでしょうか?

製品やサービスに関する外部トラブルと、内部告発などの内部トラブルでは性質が違うので、対応が変化する部分はありますが、基本的に第一に行うべきことは、責任者を決めて一次情報をすべて集約させることですね。どのような人物を責任者に据えるかという点も重要です。SNSでのトラブルは、通常のトラブルよりも情報に虚実が入り混じることが多いのですが、そのようなSNSの性質を理解し、トラブルに関するノイズを除去できる人物が適任ですね。

また、この責任者には「ユーザーがどんなことを知りたがっているのか?」ということを正確に捉えて外部に回答を出せる能力が必要になります。少しでもズレた回答をしてしまうと「ごまかそうとしているのでは? 何か隠蔽しているのでは?」と疑われてしまいます。このようなSNSに関するリスクリテラシーとコミュニケーション能力のある人物を担当者に選び、トラブルの渦中となっている現場の状況を分かっている人物と密にコミュニケーションを取る、というフローがよいと思います。

——虚偽情報が真実のように広がってしまった場合は、どのような対応を取るのが適切でしょうか?

虚偽情報が話題になっているからと言ってすぐに企業側が訂正に動くという行動は、正しい情報が伝わらないことよりもリスクが大きいです。企業側がその話題に触れたことでさらに話題が大きくなってしまうこともありますし、ユーザーは企業側の主張を「強い立場からの発言」と受け止めて、素直にその主張を聞き入れないということもあります。

ただ、現代のネットユーザーは非常にネットリテラシーが高いです。そういった人たちのなかには、出回っている情報に対して「本当かな?」と疑問を持ってリサーチする人が少なからずいます。そういった人たちが情報を探したときに、正確な情報を拾えるような状態にしておくことが大切ですね。具体的には、ユーザーの誤解を招きそうな製品の動作や、普段からユーザーによる問い合わせが多い事項について、事前に公式SNSなどで正確な情報を積極的に発信しておく、などです。

現状、このような対応をしている企業の多くは炎上トラブル対策ではなく、ユーザーに対して分かりやすい情報を積極的に出してコミュニケーションを取る方針を普段から大切にしていることが多いですね。これが間接的に炎上トラブル対策になっています。企業としての「当たり前」の動きがトラブルの鎮火に寄与するという現象は、二次拡散やメディアの記事化によるデジタルタトゥー(※)への対応にも似たようなことがいえますね。

※デジタルタトゥー:デジタルとタトゥー(刺青)の二つの単語を組み合わせた造語。将来の自分にとって不利益なデジタル情報が、文字や画像、動画といった形で、SNSやブログ、検索エンジンを含むインターネット全般に残り続けてしまうこと。

——デジタルタトゥーに関してはどのような対応がベターなのでしょうか?

世の中に出た情報を忽然と消し去る方法は、現代においては悪手になってしまいます。誤った情報により生まれたデジタルタトゥーの対策は、隠す動きを取るのではなく、企業の本来の姿を適切に世の中に発信し、自分たちに関する情報をアップデートしていくという方法がよいですね。「攻めが最大の防御」というイメージです。Googleの検索エンジンも、新しい情報を評価して、最新の企業状態に即した情報を上位に表示させる傾向があるので、こと企業に関していえば、誤った情報が好ましくない形でデジタルタトゥーとして残り続けるというケースは少なくなっています。

——この対応は炎上トラブルの他のケースに対してもいえそうですね。

いわゆるネット上の有識者といわれる人も増えているため、企業側のごまかしや嘘は見抜かれてしまい、さらなる批判が発生しています。誠実な対応という大原則が、これまで以上に求められるでしょう。

内部告発が火種になるトラブルに関しても同様です。この場合は企業として外に出せない情報も多く、炎上してしまうと対応が難しくなってしまいます。SNSというツールを通して個人が企業に対する交渉力を持ち始めたということを理解し、実際に起きた事象を徹底的に調査して両者で納得のいく形に落とし込むことが、結果的に火種になるような情報がSNSに出ていくことを防げるのではないでしょうか。

企業内の意識統一もリスク回避の一端に

——それらの対応を実現するために、組織体制やオペレーションの構築で重要なことはありますか?

まずは、トラブルの火種をいち早く検知するために、日々のモニタリングや情報収集が重要ですね。そしてもう一つが、従業員に対するSNSリスク研修です。人によって「企業が日常的に内包しているリスクがSNSでの炎上トラブルに繋がりうる」という認識にばらつきがある場合が多いためです。また、従業員への研修に加えて、管理職向けの教育も必要になります。SNSの情報を重要視しない管理職がいた場合、「こういったことがSNSで投稿されている」という報告を聞き流してしまい、本来企業として対応すべきリスクを見逃してしまう可能性があります。気がついたときには対応が難しい状態になってしまっている、という事態にもなりかねません。

——消費者の迷惑行為によって被害を被った場合、企業側が厳正な処分を行うことについてはどう思われますか?

最近は、迷惑行為を行った消費者に対して法的な対応を取る企業が増えていますし、それに共感する世間の声も多いです。しかし、その対応が絶対的に正解とはいえない部分があるのです。数年前、同じように厳正に対処した企業に批判が集まり、トラブルが長期化した例もあります。どう転じるかは、時流による部分が大きいですね。世間的な合意が形成されているタイミングであれば有効ですが、ここを少しでも読み間違えると企業が過剰に叩かれる要因になってしまいます。

また、SNSやネットでの反応は、その事象を評価する一つの要素でしかありません。決断の要素として重視すべきは、企業としてのポリシーや考え方です。批判が上がる可能性を加味した上でも、企業・業界イメージの存続や今後の抑止力などのメリットがあるのであれば、消費者相手であっても厳正に対処することは間違いではないと考えています。炎上トラブルを起こした側と起こされた側、どちらの立場であっても、SNSやネット上のみのトラブルという捉え方をすべきではありません。

トラブルになるポイントは目まぐるしく変化。トレンドを収集する力が重要

——これからのデジタル時代に求められるリスクリテラシーについて教えてください。

リスクトレンドの変化について、リアルタイムで把握することが必要になると思っています。その時々にセンシティブに捉えられている話題をキャッチアップして、どの話題を慎重に取り扱うべきかを見極めるリテラシーですね。例えば近年だと、性差別をイメージさせる発言や、性という話題自体を軽んじるような発言は、炎上トラブルにつながることが多くあります。しかし、同じ話題でもトラブルになりやすいポイントは目まぐるしく変化しています。その機微な変化を正確に捉えることが重要です。これまで、こういったトレンド動向のキャッチアップはマーケターや広報が担っていることが多かったのですが、同時にリスク管理の担当者にも求められるようになっています。

——リスク回避のためには、あらゆる業務を包括的に管理する必要があるのですね。

そもそも現在はデジタルやマスなどのメディアごとに取り扱う話題に境がなくなっているため、「SNSでの炎上トラブル」を定義すること自体がしっくりこなくなっているのではないかと思います。SNSの炎上トラブルだけを注視して対策していくのではなく、企業が抱えるリスクを回避するための一つの手段としてSNS対策を行うという考え方が適切ですね。情報やトレンドのキャッチアップ、そして真摯な対応など、企業として本質的な判断をしていくことが、結果的にSNSやネットにおける炎上トラブルへの対応にもなると考えています。

國松 諒

株式会社エルテス ソリューション本部 リスクモニタリング部 部長

2015年エルテス入社後、デジタルリスク事業のセールスおよびカスタマーサクセス担当者として、500社以上の企業案件に従事。2019年より現職に就任し、日々変化するデジタルリスクの中で、事業活動を通して企業を取り巻くリスクとその対応策を開発、提供を行っている。

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