日系自動車メーカーは中国IT企業との連携でEV領域での巻き返しを図れるか【2024中国のスマートEV自動車最新事情 前編】

自動車のEV開発および普及という観点では、日本の先をいく中国市場。劣勢を強いられている日系大手自動車メーカーは、中国IT大手企業との連携を発表するなど、対応策を模索しています。今回は、中国スマートEV自動車市場における最新事情を紹介します。

トヨタ・日産など、日系大手自動車メーカーが中国IT企業と連携

世界で最も重要な自動車見本市の一つである、「北京国際自動車ショー」が四年ぶりに開催されました。 トヨタは、初日に中国IT大手の騰訊控股(英語:Tencent、日本語:テンセント、以下「テンセント」)との戦略提携を行い、今後中国で販売するEV自動車において、AI・クラウド・ビッグデータなどの3分野で協力することを発表しました。13億人以上 が利用する※SNS(「WeChat」や「QQ」)を運営するテンセントは、現在、自動車分野を成長領域と位置づけており、一方のトヨタはテンセントとの連携でEV開発を加速する考えです。テンセントが強みとするAIやクラウド、デジタルエコシステムなどを、トヨタのソフトウエア定義型車両(SDV)など、多彩なモビリティサービスと融合させ、より豊かなモビリティ体験を提供していく方針です。さらに、テンセントは自動車産業のデジタル化・スマート化の推進に注力しており、これまで中国国内外100社以上の自動車メーカーやモビリティ技術企業と提携、累計1,500万台以上のスマート自動車にサービスを提供しています。

※テンセント社が2023年5月に発表したデータに基づくhttps://static.www.tencent.com/uploads/2023/05/17/7b07c1a2b0befc1a89a6fc4219ed6cae.pdf

同日、日産も百度(英語:Baidu、日本語:バイドゥ、以下「バイドゥ」)と協業の検討を開始すると発表しました。バイドゥと連携しながら、AI技術を活用して車室設計やサービスの向上に取り組み、顧客に価値ある商品を提供、よりローカライズ化を進めていく方針です。

一方、ホンダは4月16日、中国で新たなEV車ブランド「燁(イエ)」シリーズを立ち上げています。新ブランドでは、華為技術(英語:HUAWEI、日本語:ファーウェイ、以下「ファーウェイ」) など、中国テクノロジー企業との連携を強化し、ファーウェイ製のディスプレイを採用したほか、音声認識AIを手掛ける科大訊飛(英語:iFLYTEK、日本語:アイフライテック)の技術なども採用しています。

中国自動車市場における、日系自動車メーカーの低迷

国別の自動車ブランド市場シェアの推移

国別の自動車ブランド市場シェアの推移

引用:36kr.com
中国自動車市場において、日系ブランドは苦戦を強いられ、シェアは2年連続で低下しています。中国自動車工業協会によると、2023年1-3月期の日系シェアは13.8%にとどまり、ドイツ系の20.4%、中国系ブランドの59.6%に対し大きく水を開けられています。2020年時点では、中国系メーカーのEV自動車市場シェアは38%でしたが、2023年には56%に急増。中国メーカーは、政府の強力な支援を受け、EV自動車の価格競争力と先端技術力を高め、日系自動車の顧客を奪っているのが現状です。

筆者は、2024年3月に深圳へ出張に行き、街中で走っている家庭用自動車やバスの70%以上がEV自動車になっていることを体感しました。北京はやや遅れていますが、それでもガソリン自動車とEV自動車の比率は半々ほどです。世界最大のEV自動車市場である中国は、日系メーカーにとって致命的な状況となりつつあります。中国勢が勢いを増している要因の一つに、開発期間があります。従来、3~5年を要していた新車開発を、中国企業は約2年に短縮し、次々と新型車を投入しています。開発力で劣る日本自動車メーカーは、単独でこのような状況に対抗することは困難であるため、中国市場での生き残りをかけ、中国IT大手との提携を選んでいるのではないでしょうか。トヨタは、自社独自でも車載OSの「Arene」を開発中ですが、200機能を超えるボイス操作対応の実装には時間を要し、2025年以降を予定しています。このように、時間がかかりすぎることもあり、中国IT大手企業との連携で開発期間の短縮を目指していくようです。

自動車業界において、影響力を高める中国IT企業

自動車業界における中国IT企業の影響力は大きく、特にファーウェイの存在感が高まっています。ファーウェイ独自の車載OS「Harmony OS」を搭載したEV自動車が人気を博しているほか、小米(英語:Xiaomi、日本語:シャオミ)や比亜迪(英語:BYD、日本語:ビーワイディー)など、ほかの企業とも提携しています。ファーウェイは、中国の伝統自動車大手メーカー奇瑞汽車(英語:Chery Automobile、日本語:キズイキシャ、以下「キズイキシャ」)、第一汽車(英語:FAW、日本語:ダイイチキシャ)、東風汽車(英語:Dongfeng、日本語:トウフウキシャ)、上海汽車(英語:SAIC、日本語:シャンハイキシャ)、長安汽車(英語:Changan Automobile、日本語:チョウアンキシャ)とともに、中国自動車伝統メーカー「ビッグ5」の内の1社である)や、中堅の賽力斯集団(英語:Seres Group、日本語:セレス・グループ、旧:重慶小康工業集団股分有限公司、以下「セレス・グループ」)と提携し、自社の車載OSを搭載したEV自動車ブランドを立ち上げています。
Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+キズイキシャ=智界S7

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M5

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M5

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M9 SUV

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M9 SUV

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M7

Huawei+セレス・グループ=AITO問界M7

Huawei+セレス・グループ=AITO問界Mシリーズの車内

Huawei+セレス・グループ=AITO問界Mシリーズの車内


4月24日に開催された、北京国際自動車ショー開幕直前の発表会において、ファーウェイの自動車ソリューション事業の最高責任者である靳玉志氏は、自信たっぷりに「十数年前に通信領域でトップになり、今も抜かれていない。スマートEV自動車領域でも同じことができる」と語っています。中国自動車工業協会のデータによると、2024年1~3月期の中国の新エネルギー車販売で、ファーウェイと共同開発したSUVの「AITO問界M7」は約7万5000台と、テスラ「モデルY」の10万3000台に次いで中国で人気を博しています。

スマホメーカーのシャオミ、EV自動車の発売開始

ファーウェイに限らず、中国大手スマートフォンメーカーのシャオミも、2024年3月28日に初の乗用スマートEV自動車SU7を発売。「走るスマホ」と銘打ち、車からスマホで家電を操作したり、スマホから車を操作できる便利な機能も実現しています。
2024年3月21日、シャオミ本社内で筆者     撮影

2024年3月21日、シャオミ本社内で筆者 撮影

筆者は、3月の中国出張の際、シャオミ本社を訪問し、リリース直前の新車SU7の特別撮影許可を得たほか、自動車事業のコアメンバーとディスカッションをしてきました。シャオミの造車事業は10年間計画であり、創業者兼CEOの雷軍氏が自らリードしています。2013年、創業者兼CEOの雷軍は、二度、テスラのイーロンマスクと会っており、中国最初のテスラEV自動車の保有者でもあります。

また、2014~2021年の間、主に資本経由で三電技術(電池、モーター、電気制御)システム、自動運転、自動車部品などの領域において、多数の企業に投資し、シャオミ造車のための基盤づくりと環境整備を行いました。2021年3月には、シャオミは、正式にスマートEV自動車製造領域への進出を発表、2021年4月には「小米汽車」の商標登録を完了し、2021年9月に「小米汽車有限公司」を正式に設立しました。さらに、2021年11月頃、北京の経済開発区はシャオミと提携契約を締結し、「小米汽車」は北京経済開発区に入居しています。そして、2023年9月には、北京の自社自動車製造工場の第一期が完成し、年間約15万台の生産が可能となっています。

その後、2023年11月には、シャオミ初の車種「SU7」が中国工信部の新エネルギー車カタログに掲載され、12月には自動車技術発表会を開催。このような流れをへて、2024年3月28日には、初の車種「SU7」の販売を正式に開始しています。

シャオミの造車事業が成功した背景には、シャオミの創業者兼CEO雷軍氏が小米汽車のCEOになったことや、外部の吉利汽車(英語:Geely Automobile、日本語:ジーリー)(ボルボ・グループ、ロータス・カーズ、メルセデス・ベンツ・グループ、アストン・マーティンの株主)、北京汽車(英語:BAIC、日本語:ビーエーアイシー・モーター)、BMW、メルセデス・ベンツからヘッドハンティングをして、外観デザイン・内装デザイン・車両設計・総合管理システムなどの領域における世界トップ人材を誘致したことにあるでしょう。車両の量産製造については、50億元(約1,050億円)を投資して、北京亦庄の自社製造工場の一期工程を023年9月に完了しています。そちらでは、700台あまりの最先端のロボットを駆使して、100%の自動生産と自動計測を実現しました。近い将来、スマートEV自動車を生産していく予定であり、二期工程は2025年に完成するとのこと。この二期工程を経て、年間約30万台のXiaomi SU7シリーズ自動車の生産が可能となる予定です。

スマホとスマートEV自動車を連携したエコシステムを構築

競合する米テスラの「モデルS」と比べて、シャオミの車両は半値以下の価格ながら、性能は上回るといいます。スマートフォンメーカーならではのアプリサービスと、破壊的な価格戦略を組み合わせた新しい自動車製造販売のビジネスモデルを提示したと言えるでしょう。

アップル社は、「Apple Car」の構想を断念しましたが、その一方で、シャオミがスマートフォンとスマートEV自動車をスムーズに組み合わせたエコシステムを構築したのです。正式販売前に徐々に情報を出し、ユーザーの期待値を上げ、反応を見ながら価格を決めるところや、車体の色のカスタマイズの豊富さなども含め、スマートフォンと同じように、スマートEV自動車をつくり上げていると言えるでしょう。さらに、シャオミのこの破壊的な価格戦略は自動車業界のゲームルールを変える可能性があります。

スマートフォン以外にも、アプリを活用してコンテンツ収益を上げる構想で、ユーザーの生涯収入とLTVを見込んだ収益モデルを目指しています。シャオミには、既にスマートフォンや家電製品で培ったブランド力とユーザー基盤があるため、既存のスマートフォンや家電製品などを販売しているフラッグシップ店舗 はEV車のアフターサービス拠点として、今後はEV車、スマートフォン、家電製品、スマートホーム、省エネルギー管理などの総合サービスを提供する可能性があるかもしれません。中国発の、ほかの新興スマートEV自動車メーカーとは異なり、シャオミには既に安定的な収益源があるため、新規事業EV車だけに依存しない余地も十分にあるでしょう。最新の開示情報によると、4月末までに約8.81万台 の注文を受け取っており、7,058台のシャオミ SU7シリーズ車両を納入しています。


後編では、過渡期を迎えていると言われる中国EV自動車市場の現状と、自動運転事情について紹介します。

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