【Digital Shift Times 5周年企画】フィナンシェ國光氏が語るWeb3の世界。「プラットフォーマーありきの時代から”個の時代”へ」

「分散型ネットワーク」「非中央集権的な構造」「NFTや独自トークンの普及」「個人間での送金やデータ販売が可能」といった特徴を持つWeb3の世界。一時は「暗号資産」「メタバース」といったキーワードとともに多くのメディアを席巻しましたが、その波が沈静化した今、あらためてWeb3ムーブメントを見直します。GAFAMに代表される巨大プラットフォーマーが覇権を握るWeb2(※1)の世界と比較して、Web3の世界に移行するとネット空間はどのように変化するのか。株式会社フィナンシェ 代表取締役CEO、株式会社Thirdverse 代表取締役CEO/Founderの國光 宏尚氏に伺いました。

※1 Web2:2000年代中期以降に発生したムーブメント。それまでのWebサイトは閲覧がメインだったが、SNSをはじめとする双方向的、ユーザー参加型のサービスが数多く登場した。

「スマホ」「ソーシャル」「クラウド」から「メタバース」「Web3」「AI」へ

――Web3に関するこれまでの変遷について、Web2時代と対比する形で教えてください。

僕の考えるIT業界で重要な要素は「デバイス」と「データ」と「データの活用方法」の3点です。転機となったのは2007年で、まずこの年にiPhoneが発売されました。Twitter(現「X」)やFacebookのようなSNSが爆発的に伸びて、前年にはAmazon Web Services(AWS)が登場しています。スマホというデバイスが誕生して、SNSにより個人のデータが収集できるようになり、クラウド経由でデータが活用できるようになりました。GAFAMは「スマホ」「ソーシャル」「クラウド」の3分野を制することで時価総額を爆増させました。

ただ、これら3分野も成熟期を迎えており、次の新しいパラダイムに移りつつあります。スマホに代わるデバイスとしてVR・ARグラスが登場、Web3により価値というデータをやり取りできるようになり、AIによりクラウドベースでディープマイニングされたLLMが誰でも活用できるようになります。次の時代はすなわち「メタバース」「Web3」「AI」の時代だと僕は考えています。

メタバースではMeta QuestとApple Vision Proが先行し、Web3ではビットコインなどの暗号資産、AIではOpenAIやNVIDIAが台頭してきており、すでに新しいゴングは鳴らされています。日本企業はWeb2の流れには出遅れましたが、これからのレースでは逆転できる余地があるかもしれません。

従来の踏襲ではない、Web3ならではのサービスを

――日本が逆転の可能性を秘めているのは、どの分野でしょうか?

消去法になりますが、AIは厳しいでしょう。AIの大元である半導体チップ、LLMなどの開発はアメリカに分があります。NVIDIAを越える半導体チップや、OpenAI、Metaを越えるLLMを開発できる日本企業はないでしょう。Web3で世界に通用する会社が出てくるとしたら、プロトコルではなく、コンシューマー向けの製品やサービスを開発する会社だと考えています。かつ、メタバースならでは、Web3ならでは、AIならではのサービスをつくり作り出したところが世界で勝つ可能性を秘めていると思います。

例えばスマホゲームで成功したタイトルを見ると、スマホのタッチパネルを活かした操作性、いつでも友だちとつながれるソーシャル性、すき間時間に遊べる手軽さというスマホならではの強みを活かした特性をもっています。現状のWeb3の世界はルールが制定され、暗号資産などのインフラが整備され、いよいよアプリケーションが投入されるフェーズになりつつあります。このアプリケーションの戦いを制するかどうかが分かれ目です。

――そのアプリケーションの戦いにおいて、狙うべきジャンルはありますか?

一つはDeFi(分散型金融)と呼ばれる、非中央集権的な金融です。二つめは、ブロックチェーンによって暗号資産などを獲得できるWeb3ゲーム。最後はSocialFi(※2)です。これはWeb2時代も同じで、FinTechとゲームとSNSのサービスが大きく成長しています。

※2 SocialFi:金融とSNSを融合させた仕組み。中央集権的な仲介者が不要で、個人間で資産のやり取りが可能。

プラットフォームに頼らずとも、個人が影響力持てるDAO(分散型自律組織)

――國光さんが代表を務めるフィナンシェが提供する「FiNANCiE」のサービスについて、DAO(分散型自律組織)の観点から特徴を教えてください。

まず、SNSの盛り上がりによりインフルエンサーが増加して、YouTubeやTikTok、サブスク系のファンクラブサービス、クラウドファンディングなど、さまざまなサービスが生まれました。これらはファンとインフルエンサーをつなぐサービスですが、問題なのが応援するファンにメリットがない点です。その点、FiNANCiEは誰でもトークンを発行できるので、トークンを購入してくれる多くのファンを集めることができれば、当人の人気も上がり、トークンの価値も上がってきます。トークンは独自の二次流通マーケットで売買できるので、値上がりした状態で売買すればファンも利益を得られます。

そして今、インフルエンサーのビジネスは踊り場にきていると僕は思っています。TikTokやYouTube、Facebook、XなどのSNSが軒並みタイムラインをアルゴリズム表示に変えたことで、インフルエンサーの「フォロワー数」という強みが薄れてきました。100万人のフォロワーがいても全員に情報が届くわけではない。つまり、Web2の巨大プラットフォーマーがインフルエンサーの影響力を奪おうとしているわけです。

FiNANCiEは自分のトークンを所有してくれる人がファンなので、単なるフォロワーとはつながりの濃度が違います。インフルエンサーが自分でトークンを発行して、多くのファンに所持してもらうことで、プラットフォームに頼らずに影響力を維持できる。FiNANCiEはそのような未来を描いています。

――非中央集権的なサービスだからこそのシステムですね。

ただ、現状のFiNANCiEはまだ僕たちが運用する中央集権型のサービスです。万が一、僕らが明日から規則を変えたり、トークンの発行を中止したりする可能性もなくはありません。しかし、いずれブロックチェーン上でFiNANCiEが構築できるようになれば、僕らに頼らずともネットワーク上に存在するDecentralized(非中央集権的)なサービスになるでしょう。僕はFiNANCiEで國光CT(コミュニティトークン)というトークンを発行していますが、これをブロックチェーン上で発行できるようになると、中央集権的な管理者がいない個人の暗号資産が流通する世界になります。

インターネット上で価値をやり取りできるようになった、非中央集権的な仕組み

――脱中央集権的という文脈で伺いますが、Web3によって社会はどう変わるとお考えですか?

まず、Web3の世界では、インターネット上で価値をやり取りできるようになった点が重要だと考えています。これまでのインターネットは、EメールもLINEも情報のやり取りしかできませんでした。価値をやり取りするには、クレジットカードのネットワークや、SWIFT(スイフト)のような金融機関のネットワークを使う必要がありました。それがブロックチェーンの登場により、リアルのネットワークを介さなくても、メールを送る感覚で価値を送ることができるようになりました。ゲームとファイナンスを組み合わせたGameFiのように、ゲームで遊ぶと稼げる仕組みも生まれています。これが一つの大きな変化です。

もう一つが将来の非中央集権的なネットワークの誕生です。YouTubeやTikTokでは理由も分からずにアカウントがブロックされるケースがあります。せっかく時間をかけてコンテンツを投稿してフォロワーを増やしても、管理者の一存でなくなるリスクがある。非中央集権的なネットワークであればそのような理不尽は減り、ユーザーやインフルエンサーが権利やパワーを取り戻すことができます。Web3により、そのような世界が実現すると僕は考えています。

國光 宏尚

gumi ファウンダー
Thirdverse 代表取締役CEO / ファウンダー
フィナンシェ代表取締役CEO / ファウンダー
Mint Town代表取締役CEO / ファウンダー
gumicryptos capital Managing Partner

1974年生まれ。2004年5月株式会社アットムービーに入社。同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュース及び新規事業の立ち上げを担当する。2007年6 月、株式会社gumiを設立し、代表取締役社長に就任。2021年7月に同社を退任。2021年8月より株式会社Thirdverse代表取締役CEOおよびフィナンシェ代表取締役CEOに就任。2021年9月よりgumi cryptos capital Managing Partnerに就任。2023年5月、株式会社Mint Town代表取締役CEOに就任。

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