NTTデータが「睡眠データ」を解析する狙いとは。東京・品川に2024年8月、スリープテックホテルを開業

2024年8月に品川にオープンした「ナインアワーズ品川駅スリープラボ Powered by NTT DATA(以下、ナインアワーズ品川駅スリープラボ)」。NTTデータとカプセルホテル事業を手掛けるナインアワーズの協業により生まれたこのホテルは、赤外線カメラ・集音マイク・体動センサーで睡眠中のデータを解析し、宿泊客は後日発行されるレポートにより睡眠状態を知ることができます。

国内大手のIT企業 NTTデータが、このタイミングでホテル事業に進出した理由はどこにあるのでしょうか。同社 第二インダストリ統括事業本部 食品・飲料・CPG事業部の横堀 涼氏と佐治 響氏に伺います。

ホテル運営を通じて、健康と密接な関係がある「睡眠データ」

――ヘルスケア領域において、貴社がカプセルホテル事業に参入された背景を教えてください。

横堀:NTTデータの主なクライアントは食品メーカーですが、多くのお客さまが中長期戦略で「食と健康」にフォーカスされています。私たちは「Food & Wellness」というテーマでいくつかの事業を手がけるなかで、「500人PoC環境サービス」という取り組みを通じ、NTTデータ社員約1,200人の健診データやバイタルデータ、ゲノムデータなどを食品メーカーに提供し、さまざまなコラボレーションを展開してきました。

健康は食や運動、睡眠とも密接な関係があり、特に睡眠は注目されています。以前、スタートアップと連携し、毎日の食事データを解析しようと試みましたが、全ての食事を記録する手間が大きく、なかなかうまくいきませんでした。そこで、ナインアワーズ社と協業でカプセルホテルを運営し 、自らデータを計測する発想に切り替えました。カプセルホテルの運営自体が目的ではなく、睡眠データを得るためにカプセルホテル事業に進出しました。

――貴社の従業員の方を対象にしたPoCでは、どのような知見が得られましたか?

横堀:以前、肥満度や肝機能、血糖値など最新の健診データを持つ40人の社員を対象に「睡眠解析PoC」を実施しました。対象者にはナインアワーズに一泊してもらい、睡眠時の眼球の動きやいびき、心拍数、身体の動きなどのデータ解析を行いました。その後、健康管理機能を持つスマートウォッチのGoogle Fitbitを使用し、自宅で30日間の睡眠データを計測、最後に脳波計測を行い分析しました。

佐治:取得した睡眠データをインプットデータとして分析し、似たような睡眠データの人同士でグルーピングしたところ、睡眠の傾向と健康には密接な関係があることが分かりました。健康な人には同じような睡眠の傾向があり、不健康な人にも同じような睡眠の傾向が見受けられました。この分析手法が進歩すれば、睡眠データをもとに将来の生活習慣病のリスクを予測できるようになるかもしれません。この分析をさらに精緻にするために、カプセルホテルを運営しながらデータを収集することが今後の目標です。

横堀:ちなみに、今後は睡眠データ以外のデータもGoogle Cloud Platformを活用し、ウェルネスデータを管理していく予定です。

カプセルホテルという閉鎖空間だからこそ、精緻なデータを収集することが可能

――どのようなセンサーや機器を用いて睡眠データを収集するのでしょうか?

横堀:眼球の動きや血流をチェックする赤外線カメラ、いびきを確認する集音マイク、寝返りと心拍、呼吸を感知する体動センサーの3つで睡眠時のデータを解析します。これらはもともとナインアワーズ社の技術ですが、今後は睡眠と相関があるといわれている臓器の体温である深部体温や、血糖値、脳波を計測できるセンサーも追加する予定です。睡眠時に身体にいろいろなセンサーをつけるのはストレスになるため、抵抗のないフリクションレスな形で計測をします。基本的には、ただ寝てるだけで計測できる状態がベストだと考えています。

――人によっては閉鎖的なカプセルホテルがストレスになる可能性もあると思いますが、そのストレスがデータ計測に影響を与える懸念はないのでしょうか?

横堀:そこは逆で、カプセルホテルという閉鎖空間だからこそ適切なデータが計測できると考えています。ベッドから落ちる心配もないですし、カメラの画角から外れることもありません。閉鎖された遮音空間だからこそ精密なデータ収集が可能です。

――今後はどのような追加機能を予定していますか?

横堀:NTTデータは「千年カルテ」という電子カルテシステムも提供しています。今後はそういったサービスとの連動にもチャレンジしたいですね。やはり、普段の生活を送るなかで自然にデータを計測できるのが理想です。年に一度の人間ドックは重い腰を上げて行きますが、データの計測は障壁があると諦めてしまいますからね。カプセルホテルに泊まるだけで睡眠データが取れるように、より普段の生活に近い環境で実装していくことが重要だと考えます。

睡眠以外のデータと連携させることで、より精緻な健康管理が可能に

――業界内からはどのような反応がありましたか?

佐治:サービス開始以来、旅館やビジネスホテルなど観光業界の皆さまからのお問い合わせが増えました。カプセルホテル以外の環境でも睡眠データを収集することができるのか、興味を持っていただきますが、カプセルホテル以外では現状難しいということをお伝えしています。特に旅館の場合は「観光を楽しむこと」が目的になるため、「日々の生活のなかでデータを収集する」という私たちのコンセプトからは外れてしまう側面があります。やはり、旅館に泊まるときは純粋に旅行を楽しんでいただくのがよろしいかと思います。

――今後の出店予定について教えてください。

横堀:現在、NTTグループが所持する不動産で活用できる物件がないか探している最中です。基本的には都内、政令指定都市のなかでは福岡を考えています。やはり、ビジネスとして成り立たないことには意味がありませんから。人口減少の続く日本だけでなく、将来的には海外展開も視野に入れています。NTTデータはNTTグループの海外事業を統合しており、世界に約19万人の仲間がいます。バルセロナやニューヨーク、ロサンゼルスなどの都市に展開できれば面白くなるでしょう。

カプセルホテルは建築家の黒川 紀章氏がコンセプトしたもので、日本が発祥の地です。コンセプトに面白さを感じてくれる海外の方は多く、海外でも受け入れられる余地があると考えています。

――では最後に、貴社の今後の展望について教えてください。

横堀:ナインアワーズ品川駅スリープラボの強みは、睡眠データの取得を抜きにしても、通常のカプセルホテルとしてビジネスが成立する点です。ホテルの出店が増えれば増えるほど、世界最大級のビッグデータに近づいていきます。

まずはこの事業自体をスケールするために国内の店舗数を増やし、エンゲージメントを高めながら世界にもチャレンジしていきます。もう1つはデータ同士の連動です。先ほどお話しした「千年カルテ」のデータに加え、運動や食事のデータも日常的に取得できるようになると、個人の「健康的な状態」と「病気になったときの状態」のデータを一貫して捉えることが可能です。普段の運動や食事が健康にどう影響するのか見えてくるので、人間ドックでしか把握できない症状や、生活習慣病の兆候をより早く察知できます。未病の時点で症状の悪化をくい止め、人々が心身ともに健康で、よりよい生活を送れる未来をつくりたいと考えています。

横堀 涼

株式会社NTTデータ 第二インダストリ統括事業本部 食品・飲料・CPG事業部 第1ビジネス統括部 統括部長

食品・飲料・消費財業界の経営管理、SCM、CX領域を中心としたコンサルティング及びシステム導入サービスの提供に加え、Food&Wellness Platform、スリープテックホテルを中心とした事業開発に従事。

佐治 響

株式会社NTTデータ 第二インダストリ統括事業本部 食品・飲料・CPG事業部 第1ビジネス統括部 ビジネス担当 主任

マーケティングリサーチや新ブランド開発に従事したのち、Food&Wellnessの事業開発担当として入社。ウェルネスデータを活用したビジネスの専任として、500人PoCやスリープラボ事業などを実施 。

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