AIと最新テクノロジーで、変化する子育て。子育ての常識はどう変わる?

2022年の育児・介護休業法の改正により、男性の育児休暇取得を推進する義務が企業に課せられるようになりました。政府は男性による育休取得率を2025年に50%、2030年に85%まで引き上げることを目標にしており、男性の育児参加がますます進むと予想されています。そんな時代背景もあり、注目を集めるのが子育てテック企業。今回は赤ちゃんの泣き声をAIで解析する機能を開発したファーストアセント 代表取締役CEOの服部 伴之氏と、デジタルシフトタイムズ編集部から、小学校1年生の女児と5歳の男児を持つ良田と、2歳の男児と3カ月の男児の父である大迫による鼎談を実施。AIや最新テクノロジーが子育てをどのように変革するのか。その現状と展望について意見を交わします。

10年前とは急変、男性の育児参加事情

――コロナ禍による生活様式の変化や男性育休の普及により、子育て環境や人々の意識はどう変化したと感じていますか?

服部:ファーストアセントは11年前から育児記録のアプリを提供していますが、当時は男性の育児参加率も低く、夫婦間で育児記録を共有する機能については反対する主婦の方が多数派でした。これは私自身の子育て経験なのですが、ある日妻が外出するので私が赤ん坊のミルクを飲ませることになったときに、どのくらいの量を与えればよいのか分からなかったんです。「たしか先週は40mlだったけど、子どもはすぐに成長するから60mlにしたほうがいいのかな」などいろいろ考えたんですが、それを妻に聞くのは気が引ける。そこで育児記録の共有機能を思いついたのですが、主婦の方からは「うちの夫はたいして育児もやらないのに、育児記録を見てあれこれ口出しされたら迷惑です」という反応が大半でした。

当時と比べて現在は男性の育休も当たり前ですし、コロナ禍での在宅勤務の高まりもあって男性が子育てに参加するのは当然になりましたよね。かつては子育てをする男性は「イクメン」なんて呼ばれていましたが、今やそれは普通のことです。

良田:うちには小学校1年生の7歳の娘と5歳の息子がいます。娘が小さい頃は、私が美容室に行く際には、夫に向けてものすごく長い子どもの取扱説明書を書いていました(笑)。当時から今のような育児記録のアプリがあれば、夫に子どもを預けた外出がもっと手間なくできたのかなと思います。息子が赤ん坊の頃はコロナの時期だったので、夫婦ともに在宅の時間が増え、子育ての情報格差みたいなものは小さくなりましたね。そういう意味では、コロナ禍前後で育児が変化したのを実感します。

保育園との連絡や日々の生活に欠かせない子育てテック

――大迫さんと良田さんのお二人は、どのような子育てテックのサービスを利用しているのかを教えてください。

大迫:私は2歳の男児と3カ月の男児の子育てをしています。保育園との連絡で「CoDMON(コドモン)(※1)」を使っていますが、息子がその日どのように保育園で過ごしていたかを知っているだけで家庭での夫婦の会話が変わるんですよね。多分、その情報がなかったら子どもに関する夫婦間での会話は今より少なかっただろうと思うと、目から鱗の気分です。連絡帳の製本サービスもあるので、後から見返せるのが嬉しいですね。

あとは「みてね(※2)」を使って子どもの写真や動画を両親や親戚とシェアしています。「みてね」を活用することで子どもの成長をタイムリーに共有できて遠方の関係人口を増やせるので、これも今の私にとっては欠かせないテクノロジーです。

※1 CoDMON:園児・児童や職員の入退室時間の記録や、保護者との連絡機能を持った保育・教育施設向けの業務支援ツール。
※2 みてね:こどもの写真や動画を共有、整理するサービス。


良田:私も大迫さんと同じ「CoDMON」と「みてね」を活用しています。あとは夫婦で子育てのスケジュールを共有できる「TimeTree(※3)」も使っていますね。自分の仕事用カレンダーと夫婦の共有カレンダーがあって、登録忘れがよく発生してしまうので、そこの連携ができたらもっと嬉しいですね。

子育て関連ではないですが、うちは動画配信サービスも頻繁に利用しています。平日の夜は夫が遅くまで仕事をしていることが多く、私が家事をする間、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、ディズニープラスの動画を観ていてもらうことが多いです。利用するきっかけは、YouTubeのショート動画にハマってしまった子どもを矯正するためでした。ショート動画に慣れすぎたせいか、次々に動画をザッピングし、20分くらいのアニメも落ち着いて観られない状況に。今ではコンテンツをしっかりと見切るだけの集中力がついただけでなく、「なんで悲しい話は雨が多いのかな?」なんて一緒に考える親子のコミュニケーションのきっかけにもなっています。

※3 TimeTree:複数人でスケジュールの共有を可能にするアプリ。

赤ちゃんの泣き声をAIで解析し、豊かなコミュニケーションを

―― ファーストアセント社が提供する「パパっと育児」の特徴について教えてください。

服部:簡単に説明しますと子どもの睡眠時間やミルクの時間などを記録して共有できるアプリですが、一番の特徴は赤ちゃんの泣き声をAIで解析して泣いた理由を判別できる機能を備えていることです。

大迫:今朝その機能を使ってみたら「眠たい」が70%、「怒っている」が20%と表示されて、指示どおりに少しなでてあげたらすぐに泣き止んだので効果を実感しています。普段だったらいろいろ試行錯誤するところですが、アプリの指示に従ったら5分以内には寝てくれて驚きました。

服部:それはよかったです。この泣き声解析を使うことで「旦那さんに子守りを頼んでいるときに赤ちゃんが泣き出しても、自分でなんとかしてくれるようになった」という声をいただくようになりました。それまでだと、旦那さんが子守りをしているときに赤ちゃんが泣き出すとすぐ奥さんに任せていたものが、アプリの指示をもとに自力で解決できるようになったようでとても好評でした。

当社は医療機関と共同で論文を執筆しておりまして、学会にも出ていますが、その際に「あなたはAIに子育てを任せるんですか?」といった質問をされたことがあります。私たちは赤ちゃんを泣き止ませるのための単なるツールを提供するのではなく、赤ちゃんの気持ちをより深く知ることを助けるためのツールを提供し、赤ちゃんとのコミュニケーションをより豊かなものにする助けをしたいと考えています。

子育てテックへの心理的な障壁を取り除き、子育ての常識を変える

―― 子育てにテクノロジーを活用することへの拒否感について、日本と海外における差はありますか?

服部:拒否感でいうと日本人のほうが強いと感じます。例えばアメリカでは育休の制度がないので、なるべく早くに職場復帰してベビーシッターに任せるのが一般的です。そうなると心理的な抵抗云々よりも、便利なツールやサービスはどんどん採用していくスタイルが自然になります。

良田:先日、食事の宅配サービスを展開している事業者さんとお話をしていたんですが、やはり冷凍食品やミールキットを使うことへの抵抗感を持つ方が一定数いるのは事実のようです。私はできるだけ子どもに向き合う時間を確保したいし、自分のキャリアも積んでいきたい。その両立のためには何かしらの時間を削る必要が出てくるので、そういった便利な食品や子育てテックは採用していきたいと考えています。テクノロジーの進歩や女性の社会進出、男性の育休の普及に向けた政府の動きなど複合的な要因で、以前よりも子育てテックは採用しやすい環境になっているかと思います。

大迫:うちは子育てテックや便利な子育てグッズを採用するか否かの最終的な判断は妻が行っていますが、やはりテレビやWEBニュースなどで一方的に見るだけではすぐに取り入れようとはならないと思うんですよね。大事なのは情報の伝わり方です。自分では使わないと思っていたグッズやサービスでも、知り合いが使っているのを見ると「使ってみようかな」と思うときがありますし。子育ての価値観は十人十色なので、普段なら手を出さないであろう製品でも知り合いが便利に使っていたら、ちょっと使ってみようかなという気になりますね。

服部:たしかにパパ友が使っている姿を間近で見ることが、そのサービスを知るには一番かもしれません。サービスの中身の伝え方については私たちも誤解されがちなので、そこは常に気を配っています。

――ではファーストアセント社の今後の展望について教えてください。

服部:私たちが掲げている「テクノロジーで子育てを変える」というミッションのとおり、これからもストレスを減らし、子育てを豊かにするツールを提供していきます。最近は各地の自治体さんからも子育て支援についてご相談いただく機会が増えました。私たちはアプリ開発だけでなく、専門家によるセミナーや相談会も開催して、テクノロジーやAIを活用した子育ての意義について広く周知を行っています。

これは泣き声解析の機能をリリースした当初のエピソードなのですが、「お腹が空いた」という結果が出る頻度が高い赤ちゃんがいて、その都度おやつを与えていたら一気に体重が増えて、医師から怒られてしまった、という問い合わせをいただいたことがあります。赤ちゃんは大人と違い満腹中枢が発達していないので、与えれば食べてしまうということがあります。この場合、アプリの解析結果を単純に信じてしまうのではなく、満腹中枢が大人と違うことを把握して「うちの子は食いしん坊だな」と思いつつ、気を紛らわせる対応などをして頂く必要があります。AIを正しく育児に活用してもらい、赤ちゃんとのコミュニケーションをより豊かなものにする。これが私たちの当面の目標です。

服部 伴之

株式会社ファーストアセント 代表取締役CEO

1998年東京大学大学院工学系研究科を修了。株式会社東芝で研究者として従事。その後IT業界へ転身し、ベンチャー企業のCTOや技術責任者などを歴任。
2012年に「テクノロジーで子育てを変える」をミッションに掲げるベビーテックベンチャー、株式会社ファーストアセントを創業。
代表取締役CEOとして、育児記録アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」や寝かしつけをサポートするベッドライト「ainenne」を企画開発。

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