中国最前線

ブームは復活する。中国が主導するVRコンテンツ時代

仮想現実(VR)市場が開かれてから数年が経つ。コンシューマー向けのVRゴーグルが発売され、日本国内でもVRコンテンツが一気に広まったが、今ではブームも落ち着きつつある。そんな中で、中国ではVR業界の著しい成長が続いているという。市場をけん引するのは、VRテーマパーク「ソー・リアル(SoReal)」を展開するSky Limit Entertainment社(当红齐天集团)だ。同社のVRテーマパークにあるアトラクションはいずれも自社研究・共同開発・知的財産権授権されたもので、その技術力に世界中のテクノロジー企業が注目している。同社のSoRealを取材するとともに、副社長 Ma Zihan氏に市場の展望を伺った。

若者を集めるVRアトラクション施設「SoReal」を体験

北京市内のショッピングモールの地下、約5000平方メートルの空間に居を構えるのが、VRを利用したアトラクションを提供するSoRealだ。

今回、実際の施設内のアトラクションを体験させてもらった。

7つのゲームエリアに10種類ほどのアクションゲームがある、最も人気があるゲームは大空間を自由に移動できる多人数協力型のゲーム(PVP)と多人数でチームに別れ対戦するゲーム(PVE)である。
VR空間とリンクした現実空間を自由に動き回りつつ現れる敵を銃で倒していく。ゲーム内で移動するには、実際に同等の距離を動く必要があるが、これがリアルな体験を生み出している。慣れないうちは、現実空間に障害物がないかと気にして歩くのを躊躇してしまったが、5分ほどプレイするとそうした感覚も薄れ、ゲームの世界に没頭することができた。それでいて物陰から登場する敵が迫ってくる恐怖や、大型ロボットに見下ろされる不思議な感覚など、どれもVRならではの体験だ。
また、同様の技術を応用して、プレイヤー同士が2チームに別れて銃撃戦を繰り広げるゲームも人気だ。こちらはインテルと共同で大会も開催しているという。実際の空間は平面だが、ゲーム上では3階建て」のフィールドを移動できるようになっていた。現実空間に左右されない、VRならではの自由な体験があることを教えてくれる良いゲームだった。
一方こちらは、360°で展開される映像コンテンツを楽しめるVRシアターだ。このときは、現在世界中で人気を集めているSF小説の世界をモチーフとした15分程度の作品が公開されていた。もちろんこちらも没入型で、主人公視点で物語を楽しむことができる。ストーリー展開に伴い、座席が稼働する仕組みで、例えばヘリコプターに乗り込むシーンでは、実際に空の上を飛んでいる感覚を得ることができた。

独自に開発したゲームで大会を開催しユーザーを獲得したり、シアター作品のために人気小説とタイアップしたりするなど、SoRealのコンテンツに対するこだわりは強い。

それもそのはずで、SoRealを運営するSky Limit Entertainment社の創業者陣には、中国映画界を代表する巨匠チャン・イーモウ(張芸謀)監督が名を連ねているのだ。何を隠そう、2022年に予定されている北京オリンピック(冬季)の開会式の演出も、チャン・イーモウ(張芸謀)監督が総監督を務めている。中国を代表するクリエイターが同社のコンテンツの面白さを主導しているといえる。

軍用から転用した独自技術でVRの可能性を拡げる

質の高いコンテンツを送り出し続けているSky Limit Entertainment社だが、その事業は単なるアトラクション施設の運営にとどまらない。国営プロジェクトへ参画し、AVIC TRUST、Lenovo Capital、Mango V Foundation、深圳韦玥创意投资集团、Intelといった名だたる企業を、グループの戦略投資株主として迎えている。彼らの本来の強みは、コンテンツの下地となる技術を独自開発していることにあるのだ。

Ma Zihan:弊社の乗り物設備は軍用技術を民用化にしています。コア技術チームは中国航天集団から来た方で、昔は多数の軍事産業領域の重要プロジェクトに参加し、ロケットエンジン装置や、戦車シミュレーター等を経験してきました。モーションシミュレーションと多自由度運動システム領域で深い経験を持っています

自社技術に自信を持つ副社長の Ma Zihan氏は、SoRealは経営戦略の一部でしかないと話す。北京王府井にあるSoReal施設は、ただ対外的に同社のアウトプットを展示する窓口なのだという。

Ma Zihan:技術は展示しないと誰の目にも触れられず、広まっていきません。SoRealはいわば私達の技術展示をする場所なんです。世界的に見ても、VRを扱う会社は2パターンに分類されます。ひとつはコンテンツのみを制作する会社。もうひとつはハードウェアや設備の研究開発のみを行っている会社。現在我々みたいに自ら独自コンテンツクリエイティブ及びウェアラブル端末研究開発ができる会社は非常に少ない。ハードウェアと言っても、ゴーグルの開発は行っておらず、VR体験を拡充させるための技術、例えば位置情報等を計測するためのバックパック型コンピューターに、シアター用の座席などを開発しています

ゴーグルの開発を競う企業が多くいる中で、周辺機器の開発に特化していることが多くの企業から提携を求められる理由だという。
Ma Zihan:実は私たちは、世界初のInside Outテクノロジーで大空間VR体験を実現した会社。よく驚かれるのが、それを監視カメラなしに実現していることです。私達のアトラクション施設を見回してもプレイヤーの位置や姿勢を把握するための監視カメラは設置されていません。そうした外部センサーなしで、バックパック型のコンピューターひとつでプレイヤーの位置、姿勢をVR映像に反映することができるという技術に対し、マイクロソフトも興味を示し、共同開発を行っています

外部センサーが不要というのは、VR市場を広げていく上で大きなメリットになる。というのもVRコンテンツを提供するための設備投資コストが格段に安くなるからだ。5G環境が整うことで、このメリットを生かしたコンテンツ開発が大きく期待されており、チャイナモバイルといった中国の大手通信会社との共同プロジェクトも進んでいるという。

Ma Zihan:5Gが普及してもSoRealで提供するようなアトラクションには大きな変化はないかもしれません。しかし、同じ体験を個人が自宅などで体験できるようになります。そのためにコンシューマー向けの製品も開発中です。市場はますます広がっていくでしょう

デジタルシフト時代の覇権争い。VRもキーワードのひとつ

この数年で技術開発も進み、機器自体もコンパクトになった。ハード面でもインフラ面でも手軽さを手に入れ、さらなる普及期に足を踏み入れようとしているVR市場へ大きな期待をかけるのが中国政府だ。Sky Limit Entertainment社は、政府とともに、訳266万平米もある土地で、VRをテーマとしたスマートシティの建設に取り掛かっているという。
※開発エリアの写真(歴史のある鉄工所を利用する予定)

※開発エリアの写真(歴史のある鉄工所を利用する予定)

インターネットの時代はアメリカが世界のトップだったといえよう。しかし、これからはAIやブロックチェーンといった新たなテックトレンドが社会・経済を変革していく。これらのテクノロジー開発で先頭に立ち、世界経済の発展をけん引するのはアメリカではなく中国かもしれない。そんな重要なテックトレンドのひとつとして、VRが中国政府に注目されているのだ。

市場の拡大予測とともに事業規模も大きくなるSky Limit Entertainment社だが、その根底にあるのは、中国の文化を広めたいという想いだとMa Zihan氏は語ってくれた。

Ma Zihan:日本は漫画やアニメ、ゲームといったコンテンツで、自国の文化を世界に広めています。韓国は韓流ドラマですね。一方中国はそうしたコンテンツによる文化の発信が弱いんです。VRを活かしたコンテンツで、中国の新しく面白い文化を世界へ広げていきたいですね
Ma Zihan 副社長(左)とチャン・イーモウ氏(右)

Ma Zihan 副社長(左)とチャン・イーモウ氏(右)

人気記事

TVer 取締役とテレ東名物Pが語る、テレビと配信の未来【前編】 YouTubeもNetflixも、テレビの敵ではない?

TVer 取締役とテレ東名物Pが語る、テレビと配信の未来【前編】 YouTubeもNetflixも、テレビの敵ではない?

テレビが「お茶の間の王様」とされていたのも今は昔。2021年5月にNHK放送文化研究所が発表した「10代、20代の半数がほぼテレビを見ない」という調査結果は大きな話題を呼びました。そんなテレビの今を「中の人」たちはどのように受け止めているのでしょうか。そこでお話を伺うのが、民放公式テレビポータル「TVer」の取締役事業本部長である蜷川 新治郎氏とテレビ東京のクリエイティブプロデューサーを務める伊藤 隆行氏。前編では、コネクテッドTVの登場によって起きた変化や、YouTubeやNetflixといった競合コンテンツとの向き合い方についてお届けします。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

なぜ日本企業のDXはうまくいかないのか。シリコンバレーで活躍するパロアルトインサイトCEO 石角友愛氏と立教大学ビジネススクール田中道昭教授が、要因を徹底解説

なぜ日本企業のDXはうまくいかないのか。シリコンバレーで活躍するパロアルトインサイトCEO 石角友愛氏と立教大学ビジネススクール田中道昭教授が、要因を徹底解説

緊急事態宣言の度重なる延長、オリンピック開催是非の議論と、依然混沌とした状況が続く日本とは裏腹に、シリコンバレーではワクチンの複数回摂取が進み、市民がマスクなしで屋外を出歩く風景が見られ始めているそうです。コロナ禍と呼ばれる約1年半の間、アメリカのメガテック企業、ベンチャー企業はどのような進化を遂げたのか。DXを迫られる日本企業は何を学ぶべきなのか。『いまこそ知りたいDX戦略』、『“経験ゼロ”から始めるAI時代の新キャリアデザイン』の著者であり、パロアルトインサイトCEO、AIビジネスデザイナーの石角友愛さんをゲストに迎え、立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

「銀行は将来、もはや銀行である必要がない」デジタル時代の金融に求められるものとは。SMBCグループ谷崎CDIO×東大・松尾教授×デジタルホールディングス 鉢嶺

「銀行は将来、もはや銀行である必要がない」デジタル時代の金融に求められるものとは。SMBCグループ谷崎CDIO×東大・松尾教授×デジタルホールディングス 鉢嶺

コロナ禍を経て、全世界のあらゆる産業においてその必要性がますます高まっているDX。DXとは、単なるITツールの活用ではなく、ビジネスそのものを変革することであり、産業構造をも変えていくほどの力と可能性があります。そして、全ての日本企業が、環境の変化を的確に捉え、業界の枠を超え、積極的に自らを変革していく必要があります。 今回は、AIの第一人者であり東京大学大学院教授である松尾 豊氏にご協力いただき、デジタルホールディングス代表取締役会長 鉢嶺 登氏と共に、金融業界大手の中でいち早くデジタル化に着手した三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)の谷崎 勝教CDIO(Chief Digital Innovation Officer)にお話を伺います。DXの必要性を社内でどう伝え、どのように人材育成を進めてきたのか、また金融・銀行業界はDXによってどう変わっていくのか。デジタルならではのメリットとは。SMBCグループの取り組みに迫ります。

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

Clubhouseをはじめ、新勢力が次々と参入し、拡大を見せる音声コンテンツ市場。その中で、民放開始から70年の歴史に「大変革」を巻き起こしているのが“ラジオ”です。放送エリアの壁を取り払う、リアルタイムでなくても番組を聴けるようにするといった機能で、ラジオをデジタル時代に即したサービスに生まれ変わらせたのは、PCやスマートフォンなどで番組を配信する『radiko(ラジコ)』。今回は、株式会社radiko 代表取締役社長の青木 貴博氏に、現在までのデジタルシフトの歩みと将来の展望について、お話を伺いました。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

アコム新社長 木下政孝氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授対談。デジタルネイティブ企業が金融業に参入し、キャッシュレス化が加速するなか、アコムが描く未来戦略とは

アコム新社長 木下政孝氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授対談。デジタルネイティブ企業が金融業に参入し、キャッシュレス化が加速するなか、アコムが描く未来戦略とは

2021年6月23日開催のアコム株式会社の株主総会および総会終了後の取締役会において、木下政孝氏が新社長に就任しました。1993年に業界で初めて自動契約機「むじんくん」を導入し、2016年に「イノベーション企画室」を設立するなど、金融業界でも積極的に新しい取り組みやデジタルシフトを推進してきたアコム。新社長である木下氏は今どんな想いで会社のトップに立つのか。激動のコロナ禍を経た上で見えた、デジタルでは担えない、人の役割とは何なのか。立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

Walmart、Amazon、Peloton。コロナ禍で米メガテック企業に起きた変化から日本企業は何を学ぶべきか。シリコンバレーで活躍するパロアルトインサイトCEO石角友愛氏、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が徹底議論

Walmart、Amazon、Peloton。コロナ禍で米メガテック企業に起きた変化から日本企業は何を学ぶべきか。シリコンバレーで活躍するパロアルトインサイトCEO石角友愛氏、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が徹底議論

緊急事態宣言の度重なる延長、オリンピック開催是非の議論と、依然混沌とした状況が続く日本とは裏腹に、シリコンバレーではワクチンの複数回摂取が進み、市民がマスクなしで屋外を出歩く風景が見られ始めているそうです。コロナ禍と呼ばれる約1年半の間、アメリカのメガテック企業、ベンチャー企業はどのような進化を遂げたのか。DXを迫られる日本企業は何を学ぶべきなのか。『いまこそ知りたいDX戦略』、『“経験ゼロ”から始める AI時代の新キャリアデザイン』の著者であり、パロアルトインサイトCEO、AIビジネスデザイナーの石角友愛さんをゲストに迎え、立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。