ショートメッセージには気をつけろ! 山岸純弁護士に聞く、最新ネット詐欺事情。

インターネットが普及し始めた90年代から存在するネット上の詐欺。近年ではAmazonや日本郵便など、実在する企業名を騙ってメールを送り、架空の代金請求や個人情報を抜き取る詐欺が主流になっています。スマートフォンの普及により誰もが詐欺に遭う可能性の高い現代において、我々はどのような対策を取ればよいのでしょうか? 最新の詐欺事情に精通している山岸 純弁護士に、多様化する詐欺の手口から身を守るためのリテラシーについてお話を伺いました。

Amazonや日本郵便など、大企業の信用を借りた詐欺メールが横行

――最近のネット詐欺の具体的な手口や方法について教えてください。

基本的にネットで主流の詐欺において、まったく新しいタイプの詐欺はほとんどありません。従来からある詐欺が手を替え品を替え存続しているのです。そのなかでも多いのが信用詐欺です。最初に優しい態度を示したり、大企業の名前を出したりして相手の信頼を得て最後に詐欺を行う。隣に引っ越してきた人が贈りものを持って挨拶に来て、毎日玄関前を掃除してくれれば、自然とその人に信頼を寄せるようになりますよね。そのように相手を油断させて詐欺を行うのが信用詐欺です。

ネット上ではAmazonや日本郵便の信用を借りた詐欺メールが横行しています。一から信用を構築するのではなく、すでにある信用を借用するのがネット上の手口です。スマートフォンのショートメッセージに、Amazonから「購入代金が支払われていません」とか、日本郵便から「荷物を預かっています」といったメールが来たら、多くの人は心当たりがあるので、焦って記載されたURLをクリックしてしまうかもしれない。

クリックしたあとに問われるのはその人のリテラシーです。多くの詐欺サイトには違和感のある日本語が使われているので、リテラシーがあればその時点で詐欺と判別できます。ただし、今では海外旅行を予約するときに海外のサービスを使う人も増えてきました。そこで、英文の詐欺メールが来たら「何か予約に不手際があったのかも?」と多くの日本人は心配になり、個人情報を入力してしまうかもしれません。

ショートメッセージに届くお知らせには細心の注意を

――そういった明確に詐欺と判別しにくいメールが来たときの対処法を教えてください。

日本語の文面であれば見抜くことはそう難しくありません。文面が「あなた」から始まるメールはほぼ詐欺だと考えてけっこうです。英語は「YOU」から始まる文章が多いのですが、日本語でいきなり「あなた」から始まる文章を書く人はいませんよね。

あとは、携帯番号を知っていれば送れるショートメッセージに届く「お知らせ」はとにかく疑うことです。ただし、これも完璧な防衛策ではありません。僕は海外のレストランを予約する際にとある予約サイトを使いますが、ここの連絡がショートメッセージに届くんです。僕はそのメールに対しても「本当にクリックしていいのか?」と疑うようにしています。

――最近は本物と見分けがつかない巧妙なつくりのEC詐欺サイトがあるので、リテラシーの高い人でも騙されてしまうと聞きました。

常に「ひょっとしたら詐欺かな?」という発想を持っていないと、誰でも騙される可能性があります。例えば、僕が仕事中にA4のコピー用紙を切らした場合、すぐにAmazonから補充をするのですが、その瞬間僕はAmazonのことを疑っていません。ログインしていれば画面の右上に自分の名前が出ているし、疑いようもないわけですよ。でも、そこで詐欺サイトに飛ばされていたら僕はもうお手上げなんです。多くの人はURLなんて細部までチェックしないし、そこで騙されてしまいます。

僕は弁護士になる前はソムリエをしていましたが、今でもワインを飲む際はブドウの種類と産地を必ず確認する癖がついています。大事なのはこの意識です。Amazonなどからのお知らせが届いてURLをクリックしたときは、そこが本当に正しいURLなのか、スペルは正しいかなど調べる癖をつける。この基本を守ればある程度は詐欺を回避できるでしょう。

専用のアプリまで用意した大がかりなFX詐欺で、1,000万円単位の被害も

――インターネット関連の詐欺は90年代から存在しますが、どのような変遷を辿ってきたのでしょうか?

ネット詐欺の歴史はアダルトサイト系の詐欺から始まっています。90年代はアダルト系の詐欺が主流でした。多かったのが有料アダルトサイトを騙った料金督促ですね。ある日「あなたが見た○○サイトの支払いが滞っています」といったメールが来てURLをクリックすると、黒の背景に赤字の「警告」などといったおどろおどろしい映像とともに時間のカウントダウンが始まる典型的なつくりのサイトに飛ばされるんです。

「上記期限内に指定の料金を振り込まないと裁判手続きが始まります」といった脅迫めいたメッセージが書かれているのですが、多くの男性が身に覚えがあるので「ひょっとして、あのサイトかな?」と思い騙されてしまうわけです(笑)。

その他にも、海外の宝くじの当選通知を装った詐欺メールもありましたが、こういった詐欺はひっかかりやすい人だけを対象にしたものであり、万人向けの詐欺ではないんですね。不特定多数にメールを送りますが、ターゲットになるのはそのなかの本当にごく一部だけです。それに対してAmazonを騙った詐欺はネットショッピングを利用する万人がターゲットになります。2000年代以降、長らく詐欺の主流となっています。

――これまで多くのネット詐欺を見てきたかと思いますが、特に被害額の大きかった詐欺について教えてください。

1,000万円単位の被害を出したFX詐欺です。スイスフランの投資詐欺で、円とスイスフランの相場を表示するアプリケーションまでつくっている手の込んだものでした。その相場自体は完全にデタラメなのですが、注文をすると相場に動きが生じたり、いかにも本物らしくつくりこまれているんですね。これも円とスイスフランの相場を調べていれば被害は防げましたが、ここまで手が込んでいると被害者としても疑う視点がなかったのでしょうね。

この詐欺では、架空のFXの運営会社と入金先の名義が異なっていました。普通は運営会社=入金先ですが、なぜかそれぞれ別の企業名なんですね。その時点で詐欺だと気付くことができたはずです。

――やはり「専用のアプリもあるのだから、詐欺であるはずがない」といった安心感が出てきてしまうのでしょうか?

そうかもしれません。僕もあのアプリを見たときは正直驚きましたから。ただ、こういった相場を利用した詐欺も昔から存在するものです。江戸時代に設立された大阪の堂島米会所でも虚偽の米相場を騙る詐欺がありました。当時は江戸と大阪に大きな“移動時間の壁”があったので、詐欺も頻繁に行われていたそうです。

ネット詐欺を防ぐには、日々の心がけだけではなく「教育」も重要

――実際にネット詐欺の被害に遭った場合はどのように行動すればよいのでしょうか?

ネット上で完結する詐欺の場合、大元にたどり着くのはほぼ不可能でしょう。ほとんどは海外にサーバーが置かれているし、具体的な人物とも接触していないので、その時点で犯人を突き止めることはできません。数万円の被害で犯人を追い詰めるために行動を起こしても、被害額以上に費用がかかるので現実的ではありません。やはり詐欺グループも被害者が「手痛い勉強代」として諦められるくらいの金額を狙っているんですよね。

けれども特殊詐欺やFX詐欺においてはその限りではありません。先ほどのFX詐欺においても人が介在していますので、そこから糸口は掴めるでしょう。よくあるケースが、喫茶店などで知人を介してFXに詳しい人物を紹介され、名刺交換から始まり説明を受けて親しくなっていき、架空のFXに引き込まれていくというパターンです。こういった詐欺は犯人を追うことができますが、ネット上で完結している詐欺で犯人を捕まえるのは極めて難しいでしょう。

――山岸さんの見立てとしては、今後出てくる新しい詐欺の手法はどんなものが予想されますか?

まず、考えられるのがインターネットで誕生した新しいサービスに関連する詐欺です。ネット上で多くの人の注目を集めるようなサービスが生まれたら、そこに便乗するなんらかの詐欺が生まれるでしょう。そして、最近の傾向としては政府の給付金に関連する詐欺も増えてきています。給付金とは異なりますが、先日も「一定期間が過ぎると郵便貯金の権利が消滅する」というニュースが話題になりましたよね。このニュースにつけ込んで、高齢者をターゲットに「このままでは財産が没収されてしまいますよ」といった文句でなんらかの詐欺を働く組織も出てくるはずです。

――最近注目されている「リスキリング」「副業」といったキーワードに関連して、副業詐欺のようなものも活発になっているのでしょうか?

副業詐欺自体はネット以前から存在する古典的な詐欺ですが、確かに副業詐欺が活発になる可能性はあります。「パソコン一台でできる簡単な仕事」と謳って高い教材を購入させる典型的な詐欺ですね。冒頭でお話ししたとおり詐欺のタイプは昔から変わりませんが、現在はその手法が細分化され複雑になっているので、常に意識をしていないとどんな人間でも騙されるリスクがあります。

けれども、どんなに意識をしていても引っかかるときには引っかかってしまうのが詐欺です。政府が詐欺被害を防ぐための啓発ポスターを各地に貼っていますが、それだけでは限界があるのも事実です。「身に覚えのない請求には注意しましょう」と啓発しても、これだけネットショッピングが普及した時代に自分が購入した商品をすべて把握している人は少ないでしょう。

――「この点にさえ気をつけていれば、詐欺は防げる」といった予防法がないのは、悩ましいところですね。

日々の心がけに加えて、子どもの頃から詐欺を知るための教育が大切だと僕は考えています。小中学校、もしくは高校や大学でもかまいません。大人になる前から詐欺についての知識や対策を深めれば、その子どもたちが社会に出たときに、きっと詐欺の被害を減らせるでしょう。これからの時代に必要なのは詐欺を防ぐための教育です。

山岸 純

山岸純法律事務所 弁護士

早稲田大学法学部卒。平成 17 年 10 月に弁護士登録、東京弁護士会所属。企業や医療法人、社会福祉法人等の顧客の法律事務を担うほか、中央省庁の法律顧問も務める。専門分野は公益通報者保護法、医療法、企業法務全般など。依頼者が紛争解決のために最良の弁護士を選ぶための手助けをする「弁護士連合」発起人。最近はYoutubeチャンネル「弁護士TV」で時事ネタ対談を掲載している。

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