「運動ノーガチ勢」の習慣を変えた。chocoZAP急成長の裏にある、徹底したDX施策

サービス開始から1年5ヶ月で会員数100万人を突破するなど、快進撃の続くchocoZAP(チョコザップ)。店内はトレーニングマシンだけでなく、セルフエステやセルフ脱毛の機器、マッサージチェアやワークスペースが並ぶ、至れり尽くせりの空間となっています。従来のジムがターゲットにしていた「筋トレガチ勢」ではなく、徹底的に初心者フレンドリーにした戦略が功を奏し、40都道府県に1,160店舗※の出店を達成しました。完全無人化のchocoZAPの躍進を支えるDX戦略について、RIZAPグループ 代表取締役の瀬戸 健氏に伺います。
※2023年11月14日時点

「chocoZAP」急成長の狙いと秘訣

――「chocoZAP」のサービス開始から1年半が経過して、昨年の11月には会員数101万人、1,160店舗を突破しました。この急成長の理由について教えてください。

私たちは、今までトレーニングに強いこだわりを持ついわゆる「ガチ勢」の方をターゲットにしてきました。アメリカのフィットネス利用率は20%を超えていますが、日本では3%程度です。ジムでトレーニングをすることの敷居が高く、生活に浸透しきっていないのが日本です。その現状を変えるには、運動をもっと手軽で簡単なものにする必要があると考えました。コンビニのように24時間利用できて、服も靴も替える必要がなく、日常の延長で来ていただき気軽に利用してもらう。生活の中で特別視されていた運動を民主化したのがchocoZAPです。

――CMでも着の身着のままで利用できることを訴求していますが、従来のジムとchocoZAPはイメージが大きく異なります。

アメリカは屋内でも土足ですし、皆さん普段着でそのままトレーニングをしています。日本人は几帳面にシューズもトレーニングウェアも用意しますが、それが潜在的にハードルを上げていました。けれども、日常生活でエスカレーターではなく階段を使うだけで身体にいい効果があることは、さまざまな実験で証明されています。これまでジムに行っても本格的な雰囲気についていけず、肩身の狭い思いをしてきた方は数多くいらっしゃるかと思いますが、chocoZAPはそういった方々にご利用いただくことを想定しています。

もし、私がマラソン人口を増やそうと思ったら、いきなり走ることはしません。まずはみんなで会話をしながら散歩をして、慣れてきたら少しずつ走ってみる。楽しみを徐々に覚えてもらうため、敷居の低いアプローチからスタートすることが大切です。

無人なのにトレーナーが再来館を促す!?

――ライザップで培ったノウハウが盛り込まれているという、chocoZAPのアプリについて教えてください。

これまで、ライザップは20万人近くの方にご利用いただいていますが、その中でトレーナー達によって培った、長年蓄積したデータを活用して開発したのがchocoZAPのアプリです。chocoZAPへの入館、日々のカラダや運動の記録、マシンの使い方の解説、トレーナーによるエクササイズ動画の閲覧などが可能です。皆さんもお正月休み明けなど、いざトレーニングに取り組むも三日坊主で終わってしまった経験があるのではないでしょうか。デジタルは場所や時間などの物理的な制約を超え、再現性が非常に高いのが特徴です。あらゆる方に効果的で効率的な運動、ダイエットのメソッドを届けられます。私たちはデジタルを目的ではなく、あくまでも手段として捉えています。

――一定期間来館のない人に対してアプリで通知がいく仕組みもあると伺いました。

この通知にはかなり多くのパターンを用意していまして、普通に来館を促すメッセージだったり、「○○日来館がありません」と伝えたり、運動の効果をアピールしたり、トレーナーが励ましてくれたり、中にはトレーナーが土下座をするパターンも用意しています(笑)。これらの手法をすべてABテストにかけて、どのアプローチを取れば来館から継続率の向上につながるのかを分析しています。

chocoZAPでは、週1回以上の来館者が8割を超えています。一般のジムは入会から1年経つと半数以上の方が退会するというデータがあります。明確な数字を出してはいませんが、chocoZAPの継続率はそれを大幅に上回ります。

店舗DXにより、稼働率の悪いマシンをなくす

――マシンの利用時間や稼働率を分析するAIカメラをはじめ、どのような店舗DXに取り組んでいるのでしょうか?

店舗のAIカメラで、どのマシンがどれだけの時間利用されているのかを観測して、稼働率の低いマシンは順次取り替えています。Aのマシンは常に誰かが利用しているけれど、Bのマシンは常に空いている。これは、サービスとして欠品と過剰在庫が発生している状況です。このようなミスマッチをデジタルで可視化をして、需要と供給の100%マッチングを目指します。私たちは、私たちの事業をシェアリングエコノミーと捉えていますので、重要なのは稼働率であり、24時間営業でお客さまが必要なものを提供することだと考えています。

――ジムでシェアリングエコノミーという視点は斬新ですね。

マシンの稼働が最適化できていないと、3M(ムリ・ムダ・ムラ)が発生します。chocoZAPは、店舗の混雑率もアプリで確認できますから、混んでいる時間帯を避けてご利用いただけます。デジタルでマシンの稼働率、店舗の混雑率を可視化して、それらの資産が生み出す価値を常に最大化できるよう努めています。

――SNSの声を見ると、マシンの故障や不具合についての意見が見受けられます。トラブルにはどのように対応しているのでしょうか?

マシンの故障や転倒などの異常の検知は1日4,000件以上、遠隔監視センターに通知が来ます。それらを常時チェックして対応していますが、中には故障ではなく電源が抜けているだけであったり、ピンがしっかりと刺さっていなかったりするケースもあります。chocoZAPは初心者の方を対象にしているため、私たちからマシンの使い方を丁寧に説明する義務と責任があります。アプリでの説明だけでなく、例えば店舗内のアナウンス等、様々な方法でマシンの使い方や注意点をわかりやすく案内する必要があると考えております。

マシンの使用方法によってはワイヤーが切れやすくなったり、ネジが緩んできたりすることもありますし、私服でのトレーニングはマシンの間にほこりが溜まりやすくなるデメリットもあります。月額2,980円という価格を維持しながら、そのような状況にどのように対応して改善していくか。そこが課題です。

商品の習慣化を低コストで実現する、新しいサンプリング

――昨年の11月に実施したヘルシア緑茶「100万本サンプリング」について教えてください。

これにより、ヘルシア緑茶を飲んだ方の体重や活動量、来店頻度がどのように変化したのかなど、データとして分析できます。ヘルシアの受け取りには、一定の行動ハードルを設けており、能動的にご参加いただいた方のデータが得ることできます。そのため、より鮮明な解像度で、体重、体脂肪率等の体組成データの変化が把握できます。

『習うより慣れろ』といいますが、商品を実際に試してもらうことはマーケティングとして非常に効果的です。運動とセットでヘルシア緑茶を飲んでもらい、生活習慣の一部にしていただく。こういったことは、CMを放映するだけではなかなかできません。商品習慣化までの入口を、低コストでお客さまに提供できるということで、好評をいただいております。

トレーニングのイメージを変え、運動を生活の一部にする

――では、御社の考える「ジムのコンビニ化」という概念についてあらためて教えてください。

私たちが目指すのは、コンビニのように親しみやすく、24時間営業でいつでも気軽にアクセスできるジムです。トレーニングマシンだけでなく、マッサージやホワイトニングの機器も取りそろえていますから、最初はそれらを利用するだけでもかまいません。自然と足を運びたくなるようなきっかけを提供して、まずは店舗に来ていただく。そこから5分でも運動をする習慣につながればいいと考えています。初心者の方の運動習慣のきっかけになるのであれば、楽しくて足を運びたくなるサービスを積極的に提供していきます。

chocoZAPのサービスはシェアリングエコノミーですから、家や会社の近くだけでなく、全国どこでも、出張先でも便利に利用できるのが望ましい形です。あらゆる場所に出店をして、より運動を身近にしていく。運動とはキツイものではなく、楽しみながら続けるものというイメージに変えていきたいですね。

瀬戸 健

RIZAPグループ 代表取締役

1978年生まれ。2003年に健康コーポレーションを設立、'06年上場。'12年からパーソナルトレーニングジム「RIZAP」を手がける。'16年、RIZAPグループ株式会社に社名変更。ヘルスケア・美容、ライフスタイル、インベストメント事業など、60を超えるグループ会社を束ねる。

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