LINEヤフー・一休に学ぶ、データ・AIの活用事例 「データ・AIを使いこなす『人・組織』になるには」勉強会レポート

データ分析やAI活用の重要性はますます高まっており、どのような業種・業務においても無視できない存在になっています。しかし、元々IT技術に触れておらず、そのきっかけもなかなか掴めないという人も多いのではないでしょうか。

LINEヤフー株式会社は、2024年1月29日、キラメックス株式会社と連携し、生成AIの業務活用などを学ぶことができる「データ・AI活用人材育成プログラム」を法人向けに提供開始しました。本プログラムは、未経験者や初心者でもIT技術を使いこなせるよう、「文系デジタル人材」の育成支援を目指しています。この発表に合わせて、両社は同日、「データ・AIを使いこなす『人・組織』になるには」をテーマとした勉強会を開催しました。今回は、本勉強会のなかで行われたトークセッションをレポートします。

トークセッションでは、株式会社一休 代表取締役社長の榊 淳氏と、LINEヤフー株式会社 人事総務統括本部 ピープルアナリティクスラボチームの佐久間 祐司氏が登壇しました。各社のデータ活用に関する取り組みが語られた後は、「データ・AI を使いこなす『人・組織』」をテーマに、一休とLINEでのデータ活用事例や、その具体的な進め方が明かされました。

データとAIを活用し、一人当たり営業利益一億円超に貢献

はじめに、榊氏から一休でのデータ活用に関する取り組みについて説明がありました。一休は、2022年度の売上高が約343億円で、営業利益が約185億円となっており、営業利益率は50%を超えています。現在の正社員は170名ほどですので、一人当たりの営業利益が一億円を超えている計算になります。事業規模の違いこそありますが、この数字自体はGoogleやAppleに並ぶものです。榊氏は、一休がこれほど成長している理由について、「データとAIを上手く活用できているからではないか」と話します。

一休のデータ活用の基本として、データ分析によるパーソナライズが挙げられます。例えば、同じ検索条件でも、ユーザー一人ひとりの過去の行動履歴に応じて、検索結果をパーソナライズし、異なる結果を表示しています。また、予約しそうでしなかったユーザーにクーポンを提示して背中を押すこともあるとのことです。その際、このユーザーがこの宿を予約する確率は何%で、いくらのクーポンを提示すればその確率はどの程度変わるかを計算しています。榊氏は「ここまで分析しているのが弊社の特徴」と胸を張ります。また、ユーザーの過去の行動を分析するだけでなく、リアルタイムでも同様のデータ分析を行っています。今サイトを見ているユーザーが購入を迷っていると判断すれば、そのユーザーに応じたクーポンを提示するのです。榊氏は、一休のデータ活用について「データを分析し、一人ひとりのお客様の状況に応じてパーソナライズしたレコメンデーションやプライシングを行っています」と総括しました。
次に、佐久間氏がLINEヤフー統合前のLINE時代に手掛けた人事領域でのデータ活用について紹介しました。佐久間氏が入社した2017年当時、LINEは急激な成長フェーズにありました。毎年30%社員が増え、定期発令が年に24回あり、組織図が2週間ごとに更新されていたのです。そのため、組織別の人数や退職率を算出しても、その有用性が2週間ほどで低下し、人事担当者はそれらの計算に忙殺されていたと言います。また、稼働中のサービスが100ほどあり、「どこで誰が何をしているかが把握しきれない状況」(佐久間氏)でした。このようななか、佐久間氏は散在するデータを一元化し、分析可能な状態にするところから始めることになります。人事が使用するさまざまなシステムはそのままにした上で、そこから出力されるデータを集め、統合データベースをつくりました。そして、その統合データベースから「人事情報の一覧化」「ダッシュボードによる組織状態の可視化」「定型化しにくいデータの分析」という3つのアウトプット先を設けました。ダッシュボードに関しては、組織別の人員構成から採用の進捗、勤怠実績など200以上作成したと言います。佐久間氏は、「ダッシュボードは各システムと連携し自動更新されるため、業務の大幅な効率化に繋がりました」と成果を明かしました。

インフラを内製化し、リアルタイムの顧客サービスを実現

各社の取り組みの紹介の後は、「データ・AI を使いこなす『人・組織』」をテーマに議論が進められました。榊氏は、データやAIを活用しようと考えたきっかけを聞かれると、「当然の成り行きでした」と、当時のIT業界を振り返ります。榊氏が一休に入社した2012年から2013年は、GAFAMの勢いが増していました。GAFAMのデータ活用は進んでおり、データ活用を経営の最優先事項に据えていたほどです。そのため、GAFAMの動きを見ていた榊氏にとっては、データ活用は当然だったとのことです。また、榊氏は自身の「データ」に対する見方について説明しました。経営者という事業側の立場から見れば、「データ」は、ほとんどの場合で「顧客行動データ」のことを指し、それは顧客の行動そのものだと言います。榊氏は、「データ」という言葉からは「乾いたテクニカルなもの」というイメージが連想されがちですが、そうではなく、「データ」を「ほぼ顧客そのもの」だと認識していますと話します。その上で「データを活用する」ことは「『顧客に良い施策を教えてもらうこと』と同じ」と語りました。

佐久間氏は、LINEでのデータ活用について、当時の具体的な進め方を明かしました。データ活用に着手した当初は、活用できるデータが整備されていなかったため、分析もダッシュボード作成もできず、一人分の仕事もなかったと言います。また、人事評価のデータは半年に一回しか入ってこないため、それだけでは分析を始められても得られる結果に限界があると見越していました。まずは分析しがいのあるデータを入れるためデータ基盤をつくろうとしました。ただ、社内には「エンゲージメントサーベイを導入して運用する」という側面を強調したと言います。「データ分析の担当者です」と自己紹介すると、「それは一体何なんだ」と言われ身構えられてしまうため、最初は「エンゲージメントサーベイの担当者」と称し、サーベイ業務を推進しました。そして、エンゲージメントサーベイが溜まってくると、「もうちょっと分析したい」や「使い勝手を良くしたい」という話が増え、自然とデータ基盤の整備やBIツールの導入などが行われていったとのことです。
一方、榊氏は、一休のデータ活用の特徴である「リアルタイム性」を強調します。一休のデータ活用は、まずユーザーの購入データの分析から始め、次に購入には至らなかったユーザーの閲覧情報を見られるようにしたとのことです。ここまでのデータ分析は、多くの企業が行っているかもしれません。しかし、榊氏は一休の強みについて「私たちがもう一歩進んでいるのは、この閲覧情報をリアルタイムに把握していること」と語ります。多くの企業では、ユーザーのサイト訪問情報はGoogleアナリティクスなどの外部ベンダーを使っています。その場合、データは一度外部に溜まるので、そのデータをリアルタイムに見ることは難しい状況です。しかし、「今、ユーザーがサイトを見ている」という情報がなければ、先ほどのようなリアルタイムの顧客サービスを提供することができません。そこで、一休は、「インフラを内製化し、リアルタイム性を実現しました」(榊氏)と言います。内製化しようと考えた理由として、Amazonの存在をあげました。Amazonがリアルタイム性を有していたため、自分たちでもできるはずだと考えたのです。その際、当初はエンジニアから、「うちではそんなものはできない」と言われたそうです。しかし、「Amazonより扱うデータ量が小さいのだから、Amazonができて私たちができない理由はない」と相談し、エンジニアを巻き込んでともにデータ活用を進めていきました。「Amazonはできるから、うちもできる」などのように「明確なゴールがあると、エンジニアは才能を発揮します」と、榊氏は話しました。

佐久間氏も、LINEでデータ活用を進める際、周囲を巻き込むことが必須だったと言います。佐久間氏は、各システムの担当者に「ご迷惑をおかけしません。追加で作業をしていただくことはありません」と伝えていました。また、前述の通り現場は業務で忙殺されていたので、「お役に立てることはありますか。皆さんの業務を効率化します」と言い、徐々に業務の自動化を進めたとのことです。これにより、「人事にもデータを扱うことができる人がいる」と認識されるようになりました。その結果、「こういうことを一緒にできないか」という相談が少しずつ増えていきました。佐久間氏は、「分析結果を持っていって『これが正しいから言うことを聞け』ということは一切なく、『皆さんの業務を効率化します』という姿勢から進めました」と、データ分析を推進するコツを明かしました。

榊 淳

株式会社 一休 代表取締役社長

慶應義塾大学大学院理工学研究科修了後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。
米スタンフォード大学大学院にてサイエンティフィック・コンピューティング修士課程修了。
ボストン コンサルティング グループ、アリックスパートナーズを経験し、2013年に一休へ入社。
2016年に社長就任。

佐久間 祐司

LINEヤフー株式会社 人事総務グループ ピープルアナリティクスラボチーム

大学卒業後、ワトソンワイアット、面白法人カヤックなどを遍歴。
同志社大学心理学研究科前期博士課程修了後、メタップスを経て2017年にLINE入社。
社内のピープルアナリティクス環境を構築し、現在はシステム企画・運用・分析などを幅広く担当。

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