【デジタル月間企画】日本は「デジタル敗戦国」から脱却できるか。岸田政権のデジタル政策

2021年から日本では「毎年10月の第一日曜日・月曜日」が「デジタルの日」、デジタルの日を含む「毎年10月」が「デジタル月間」と制定されています。Digital Shift Timesでは、2021年からデジタルの日やデジタル月間に合わせた企画を行ってきました。本年は、岸田政権が進めているデジタル領域に関する政策を振り返ります。

岸田政権は主要政策となる「新しい資本主義」の一つのテーマとして「デジタル社会への移行」を挙げており、そのなかで「行政のデジタル化」「マイナンバー制度の利活用」「デジタル田園都市国家構想の実現」「AIへの取組」の4項目を掲げています。本記事では、この4項目について、それぞれの現状の進捗や直近の動向を解説します。

「行政のデジタル化」進捗

「行政のデジタル化」は、デジタル庁を中心に進められています。デジタル庁は2021年9月に発足して以来、さまざまな領域のデジタル化を進めており、2023年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に沿ってデジタル社会の実現を目指しています。デジタル庁では新たな施策として、データに基づいて政策の成果や進捗を分かりやすく伝えるためのダッシュボードを公開しています。現在は、マイナンバーカードの普及・利活用状況や各法令のアナログ規制の見直し状況などが公表されており、今後も継続するとしています。また、行政手続の電子化も進められています。行政手続の申請・届出をインターネット上で行うことができる「e-Gov電子申請サービス」の対応件数は2022年7月末の4,114件から2023年7月末では5,579件に増加し、電子申請の件数は前年度比約14%増の2,587万件、事業者向け補助金申請システム「Jグランツ」の利用事業者数も約1.5倍に増加しました。
デジタル庁・総務省・地方自治体が連携し、地方自治体のデジタル化も推進されています。地方自治体の基幹業務に関わるシステムは、今までそれぞれ個別に機能の変更や拡張が行われており、維持管理や改修の負担が大きいことや、クラウドの活用が進みづらいことなどが課題となっていました。これを解決するため、地方自治体のシステムの標準化を目指しています。システムを標準化することで、業務の効率化や住民サービスの利便性向上が期待されています。2023年3月、地方自治体の基幹業務システムの標準仕様書が改定されました。これに合わせて、5月にデジタル庁が地方自治体をサポートする体制である「標準化リエゾン」を設置しました。現在は、2026年3月末までにシステムを移行することを目指しています。
出典元:2023/8/30 デジタル庁作成資料「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化における移行支援体制について」

マイナンバー制度の利活用

デジタル社会の基盤として、デジタル庁を中心に進められているのが、マイナンバーの活用です。マイナンバーは、住民票を持つ日本国内の住民に付与される12桁の番号で、個人を迅速に特定できることや、行政手続をスムーズに行えるなどのメリットがあります。自身のマイナンバーを証明・確認できるツールが「マイナンバーカード」です。マイナンバーカードを使うことで、オンラインでの行政手続やコンビニでの住民票の写しの発行などが可能になります。政府はマイナンバーカードの普及を推進しており、2023年9月24日時点で申請率は約78%となっています。

マイナンバーカードは今後、運転免許証や健康保険証と一体化される方針で、利便性の向上が期待される一方、トラブルも発生しています。自身のマイナンバーカードが別の人の健康保険証や公金受取口座と紐づけられる「誤登録」や、マイナンバーカードを用いたコンビニ交付サービスで別の人の住民票が発行されてしまう「誤交付」などが起きているのです。原因は、手作業での紐付けによる人為的ミスや、システムのエラーなどとされています。日本の人口とトラブルの件数を比較し「ミスの発生率は低い」と評価する意見がある一方、行政にこのようなミスがあること自体を問題視する批判の声も高まりました。2023年9月には、政府の個人情報保護委員会が、公金受取口座の誤登録を問題視し、デジタル庁を行政指導しました。10月31日までに対応状況を報告するようデジタル庁に求めています。また、今回の問題の調査と再発防止にあたっている「マイナンバー情報総点検本部」は、11月末までに個別データの点検を実施するとしています。

デジタル田園都市国家構想の実現

「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術を活用し、地方を活性化させ持続可能な経済社会を目指すもので、従来の「地方創生」をデジタル技術により加速させ、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目標にしています。現在、この構想に基づき、優良事例や先進事例の支援と、その横展開が推進されています。「行政サービス」「防災」「医療・健康・子育て」などの主要分野で優良事例となるサービスやシステムについて、2023年末を目処に、標準的な要件・機能を整理したモデル仕様書の作成・発表を目指しています。また、国は「スマートシティ・スーパーシティ」や「SDGs未来都市」など地域ビジョンのモデルとなる「モデル地域ビジョン」を示しています。この実現に向け、施策間・地域間の連携を推進しており、同じく2023年末に向けてフォローアップし、財政上の優遇措置や伴走支援などを拡充するとしています。
デジタル田園都市国家構想の重点項目

デジタル田園都市国家構想の重点項目

また、構想の実現に向けた機運を醸成するため「Digi田(デジでん)甲子園」を実施しています。「Digi田甲子園」は、地方公共団体や民間企業などがデジタル技術を活用し地域課題の解決に取り組む事例を募集し、表彰する取り組みです。最新となる令和4年度「冬のDigi田甲子園」では、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社が福井県で実施した、ビッグデータの活用により危険エリアを予測し対策することで交通事故を未然に防ぐ取り組みが優勝しました。「Digi田甲子園2023」の募集も開始されており、10月22日が締め切りとなっています。

AIへの取組

AIに関しては「利用の促進」「リスクへの対応」「開発力の強化」の3本柱に沿って取り組むとしています。特に、直近1年間は2022年11月にリリースされたChatGPTをはじめとする「生成AI」が世界中で注目を浴びています。政府は、AIのポテンシャルとリスクの両方に対応するため、東京大学大学院の松尾 豊教授を座長とする「AI戦略会議」を設置しました。この会議は5月に初会合が開かれ、生成AIの活用やリスクへの対応、開発力の強化などを議論しています。ここで議論された内容は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に反映され、今後の政策に活かされる計画です。

また、新しい技術である生成AIは世界的にルールが未整備であることから、「国際的なルール構築に向けた主導的役割の発揮」を目指すことも掲げられています。2023年は日本がG7の議長国であることから、岸田首相も特に力を入れています。5月に開催された「G7広島サミット」でも、生成AIの活用に関して話し合われました。その結果、生成AIに関する国際的なルールづくりを進める枠組み「広島AIプロセス」の立ち上げが決まりました。9月には「広島AIプロセス」の閣僚級会合が開かれ、「G7広島AIプロセス G7デジタル・技術閣僚声明」が採択されるなど、現在も引き続き議論が進められており、11月〜12月頃に再度、閣僚級会合が開催される予定です。生成AIはすでに国を越えた悪用も発生しているため、G7はもちろんのこと、他の国々とも連携し国際的なルールを構築することが期待されています。

「デジタル敗戦国」日本は巻き返しを図れるか

以上の政策に加え、岸田首相は9月に行われた内閣改造に合わせて開かれた記者会見で、デジタル田園都市、行革、規制改革などを束ねる司令塔として「デジタル行財政改革会議」を新たに設置すると発表し、そのリーダーに河野 太郎デジタル大臣を指名しました。河野大臣は新設されたデジタル行財政改革担当大臣を兼務します。同時に岸田首相は、この会議を設置する問題意識として「コロナのときのデジタル敗戦は二度と繰り返さない。デジタルを力として地方経済の成長を図り、同時に、利用者目線を第一に据えて、国と地方の行財政の仕組みを変えていく」と語りました。デジタル行財政改革会議は10月に初会合が開かれ、これらの領域について議論を進めるとしています。生成AIの到来により社会全体が大きく変わろうとするなか、「デジタル敗戦国」と言われた日本が巻き返しを図ることができるのか、Digital Shift Timesでは今後も日本政府の動向を注視していきます。

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