モビリティDXを推進する「株式会社Will Smart」〜IPOから読み解く、デジタルシフト #16〜

多くの企業が目標の一つとして掲げ、憧れ、夢を見る言葉、「上場」。これを達成した企業は資金調達の規模が大きくなり、さらなる挑戦ができるとともに、社会的に認められたという箔が付く。何百万社とある日本企業のなかで、上場企業は約3,800社。非常に狭き門を突破した、選ばれし企業たちだ。

本記事では、デジタルシフトを実現しながら、新規上場を果たした企業に焦点を当てていく。今回は、モビリティDXを推進する「株式会社Will Smart」を取り上げる。同社は、2024年4月16日に東証グロース市場に上場した。初値は1,580円で、公開価格の1,656円を下回った。

移動を支えるテクノロジーを提供する、「株式会社Will Smart」とは

株式会社Will Smartは、株式会社ゼンリンの子会社である株式会社ゼンリンデータコムの社内ベンチャー企業として2012年に設立された。当初から展開するデジタルサイネージ事業に加え、現在では、モビリティや公共交通、物流などの領域を中心に、AIやIoTの導入、DX支援などを行っている。特に、モビリティ分野に注力しており、事業推進のテーマには「『移動』を支えるテクノロジー企業」を掲げている。モビリティ業界の知見を有することで、コンサルティングからシステム開発、保守までをワンストップで行えることが強みで、「モビリティ業界に特化したIT企業」を謳っている。

具体的には、集合住宅におけるカーシェアシステムの開発や、複数のバス会社による共同経営に伴うデータ活用のシステム基盤の開発などを手掛けている。前者では、空きの増える駐車場を有効活用すべく、住民限定で利用できるカーシェアシステムを開発した。後者では、データの統合・管理・分析を実行するシステム基盤を開発し、複数社の共同経営をデータ活用という面から支援している。どちらも、モビリティ分野における社会課題の解決を目指す事例だ。

Will Smartは、2023年3月期の売上高が約8億1,300万円で、営業損失は約1億7,900万円だった。2024年3月期は売上高が約10億8,500万円、営業利益が約3,600万円となっている。

モビリティDXプラットフォーム「Will-MoBi」

同社は、2023年9月、モビリティDXプラットフォーム「Will-MoBi」の提供を開始した。「Will-MoBi」には、同社がこれまでに開発し、蓄積してきた技術がモジュール化されており、それらを組み合わせることで、フルスクラッチでの開発よりも短納期・低コストな開発を実現した。もちろん、カスタマイズした機能を追加することも可能だ。現在は、カーシェアリングシステムやデータサイエンスのための分析基盤の構築などがラインアップされている。同社は、「Will-MoBi」により、新たなモビリティサービスの立ち上げや、既存事業者の効率化・生産性向上を目指している。今後は、ライドシェアや物流、EV充電などの領域の機能をパッケージ化し、さらにラインアップを充実させていくとのことだ。

DXニーズが高まる地方の交通事情

Will Smartが、モビリティ領域のDXを推進するうえで視野に入れていることとして、地方での事業展開がある。地方の交通は、人口減少やコロナ禍による利用減などで、経営悪化や担い手不足という課題を抱え、交通サービスの維持が難しくなっている。同社は、このような社会課題を機会と捉え、事業の拡大を目指している。モビリティDXの推進により、効率性の向上や人手不足の解消を実現するとともに、地方の交通を充実させようとしているのだ。また、単にモビリティ企業各社と取り組みを進めるだけでなく、国や自治体も含めた連携を強化し、「地域交通でのMaaS実現」を目指すという。例として、カーシェアやライドシェアといった新たな移動手段の導入や、路線ダイヤの再編など、既存交通サービスの維持・改善などを想定している。長らく地方の交通の危機が叫ばれているが、有効な打ち手はまだ見出されていない。今後は、同社が実際に地域や自治体を巻き込んだ、実効性のある取り組みができるかどうかが注目される。

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