近年暗号資産やブロックチェーンに関連して、急速に拡大しているのが「DeFi」と呼ばれる仕組みです。新しく登場した仕組みのためまだ認知度は低く、従来の銀行とどのように違うのか、どのような仕組みで稼げるのかなどわからないことも多いのではないでしょうか。そこで、DeFiとはいったいどのような仕組みなのか、特徴からメリット・デメリット、導入方法までわかりやすく解説します。
DeFiとは
最初にDeFiとはどのようなものなのか、概要から解説します。
分散型金融サービスのこと
DeFi(ディーファイ)とは、「Decentralized(分散型)」「Finance(金融)」の略です。おもに暗号資産をはじめとする資産取引に使われる金融システムのことを指します。
DeFiは取引記録をブロック単位で連綿と記録していく「ブロックチェーン」という仕組みと、ブロックチェーン上で動く「スマートコントラクト」という特定の条件が満たされたとき契約を自動で実行する仕組みの2つを利用して作られています。ブロックチェーンとスマートコントラクトを活用することで、銀行のような従来の金融機関と異なり特定の管理者がいなくても稼働できるため、無人取引ができるのが特徴です。たとえば銀行で送金する際は送金者→銀行→受取人、と間に必ず銀行が入ります。しかし、DeFiでは送金者→受取人と完全に利用者同士で取引を完結できる仕組みです。仲介者が入らないことで、従来の金融取引では考えられない自由な取引が可能になっています。
なお、DeFi=「分散型金融」の対義語としてはCeFi=「中央集権型金融」があります。CeFiは銀行のように、サーバーに取引情報を集め一括で管理する金融システムのことです。よく比べられるので、併せて覚えておくとよいでしょう。
市場が急速に拡大している
現在のDeFiにおける市場規模は、日本円にして約11兆円です。1年前には現在の20%ほどでしかなく、1年で5倍もの規模と驚異的な成長を見せています。誕生してから日が浅いにも関わらずあまりに速いスピードで成長していることもあり、バブル崩壊を懸念する声もあるほどです。
DeFiは後述する、従来のCeFiにはないさまざまな魅力から若年層を中心に注目が集まっています。新しく登場したシステムのため法整備が各国で追いついていないといった問題もありますが、今後も活用が期待されており、さらなる成長が見込まれます。
DeFiが注目されている理由
DeFiが急速に拡大していっている背景には、DeFi独自のメリットや利便性が関係しています。DeFiが注目されている理由についてわかりやすく解説します。
だれもが口座を開設できる
DeFiでは収入の低い人、定住していない人、銀行口座を作れない人などあらゆる人が口座を開設できます。日本では口座というと銀行口座がもっともなじみ深い存在ですが、世界的に見ると中国やアフリカ、インドなどを中心に約17億人もの人が銀行口座を所持していません。口座の開設や利用には費用がかかるため収入が低い人だと口座が作れず、銀行口座を持つ文化が根付いていない国もあります。しかし、そういった国や人々でも携帯電話は所持していることが多いです。
DeFiはインターネットとスマホやパソコンがあれば誰でも取引でき、口座開設も身分を問わないためこうした銀行口座を所持できない層にもマッチします。世界中あらゆる人が取引できるのがDeFiの魅力です。
手数料が安い
DeFiは取引手数料が銀行のような金融機関での取引に比べて安いです。金融機関では設備費や人件費、広告費などを回収するために利用者から手数料を取りますが、DeFiでは管理者がいないことからコストがかからないため、手数料を抑えられます。これまで手数料の高さから銀行口座を所持できなかった貧困層もDeFiを利用して取引ができるようになるのがメリットです。また、暗号資産売買時も手数料が低い分利益を多く得られるので、資産を増やしやすくなります。
金利が高く利回りがよい
DeFiは定期預金や株などに比べて利回りがよいです。DeFiでは従来の金融機関と異なり、人件費などのコストがかからないためその分を利益として還元できます。高ければ年20%にもなる利回りを得られるケースもあるほどです。
ただし、銀行にお金を預ければ元本割れすることなく確実に金利によって資産を増やせますが、DeFiでは暗号資産の価値が流動的であるため元本割れや暴落のリスクもあることは覚えておかなければなりません。
DeFiを利用するメリット
従来の金融システムにはないさまざまな特徴を持つDeFiですが、具体的にどのようなメリットがあるのか、どのような場面で利用できるのか解説します。
いつでも利用できる
DeFiは24時間365日利用できます。銀行であれば営業時間内でしか利用できず、ネットバンキングであってもメンテナンスやサーバーダウンのリスクがありますが、DeFiならこれらの問題とは無縁です。DeFiは管理者がいないため、営業時間のような概念がありません。また、取引情報は常に全世界のノードに記録されることで整合性を保っており、1つのサーバーで管理されているわけではないためサーバーダウンも起こりません。インターネット環境とデバイスさえあれば、国も時間も場所も関係なく取引できます。
送金がスピーディーにできる
DeFiを利用すると送金がスピーディーに行えます。DeFiの取引を記録するためのブロックチェーンは、オープンソースで誰でも記録を閲覧できるため非常に透明性が高いのが特徴です。一度取引が記録されたら書き換えもできないため、取引記録が正しいという証明にもなります。会社の決算もDeFiを利用すれば正しい記録がすぐにわかるので、業務の効率化に役立つでしょう。ネットワーク上の取引で国境がなく手数料も低いため、国際送金もほとんどラグなく簡単に行えます。
レンディングで資産運用ができる
DeFiでは「レンディング」により資産を増やすこともできます。レンディングとは、取引所を介して保有する暗号資産を貸し出し、金利を得ることです。レンディングによる金利は年に1~5%もあります。現在、日本国内では定期預金の金利が0.002%~0.1%程度なので、レンディングの金利がどれほど高いかよくわかるでしょう。また、レンディングは一度預ければ放置でよく、難しい知識を必要としないため初心者向きの方法でもあります。
ただし、暗号資産を貸し出している最中に取引所が破綻すると、貸し出していた暗号資産は凍結されてしまうリスクもあります。暗号資産やその取引はまだ新しい仕組みで、法的には穴があったり守られなかったりするケースもあるため注意が必要です。
融資が受けやすい
DeFiを利用すれば、世界中の人から融資を受けられます。DeFiのシステムは国をまたぎ、世界中あらゆる国籍の人間が利用可能です。また、従来の方法で国際送金するよりもずっと手数料が安く済みます。たとえば、従来の方法では「A国からB国まで5万円送金するのに手数料が10万円かかる」「難民を支援したいのに支援団体や経由する金融機関に手数料として中抜きされてしまう」といった問題が多々発生していましたが、DeFiを利用すれば手数料のことをほとんど考えずに直接難民へ届けられるのがメリットです。全世界、あらゆる人が融資を受けられます。
また、DeFiではレンディングを利用すれば、レンディングで預けた資産を担保にして別の仮想通貨を借り入れることも可能です。
税金対策ができる
資金調達の際、仮想通貨を売るのではなくDeFiのレンディングを活用することで節税もできます。国内では仮想通貨の取引で得た利益も課税対象です。国内での所得税は収入が高くなるほど税率も上がる累進課税方式になっており、最大で45%に達します。また、住民税が10%かかるため、仮想通貨を売却しても最大で55%と、半分以上が税金としてとられる計算です。
しかし、DeFiでは暗号資産を担保にできるため、仮想通貨を売るのではなく、レンディングで資産を預け担保にした上でお金を借りることもできます。資産を預け入れることで金利を受け取れるので、その点でも資産調達に役立つでしょう。仮想通貨を直接売ると課税対象になりますが、借りるのであれば税はかからないため節税になります。
匿名性を保てる
DeFiの取引自体は身分証明が不要なので、取引の匿名性を保てるのがメリットです。これにより貧困層や難民など、銀行口座を所持できない人、身分を証明できない人、資産がない人でも取引が可能になります。ただし、犯罪者でも取引できるのでDeFiが資金洗浄やテロ資金の捻出などに利用されるリスクが懸念されており、今後の課題となっています。
なお、DeFiの利用に身分証明は不要ですが、イーサリアムを購入するために国内で取引所の口座開設をする場合は、基本的にKYC(「Know Your Customer」=本人確認)が必要なので身分証明書を提出しなくてはなりません。
DeFiを始めるのに必要な準備
DeFi自体は簡単な方法で始めることができます。まずは準備からしていきましょう。
イーサリアムを購入する
まずはイーサリアムを扱う暗号資産取引所からお好みのものを見つけ、口座を開設してイーサリアムを購入しましょう。DeFiはスマートコントラクトを利用して取引されるため、イーサリアムのようにスマートコントラクトに対応した仮想通貨を用意する必要があります。アイオーエスティーやメイカーなどスマートコントラクトを利用した仮想通貨はいくつもありますが、DeFiは基本的にイーサリアムのブロックチェーンを利用しているためイーサリアムを購入するのが適切です。
口座開設には法律上本人確認が必要なので、身分証明書を用意しましょう。国内の取引所か海外の取引所かなど、取引所によってもルールが若干変わりますが、必要な個人情報さえ揃っていれば審査は基本的にありません。
仮想通貨ウォレットにイーサリアムを送金する
口座を開設したら、イーサリアムを購入するための準備をします。仮想通貨のウォレットを用意し、取引所のアカウントに資金を送金しましょう。証券取引をする際に証券口座から入出金し、そのお金で株を売買するのと同じです。取引所のアカウントに資金を入れたら、その資金を使ってイーサリアムを購入できます。あとは購入したイーサリアムを使って、DeFiでの取引を始めましょう。
イーサリアム系のウォレットには有名な「Metamask」や国産の「tokenPocket」などいくつかの種類がありますが、特に理由がなければユーザー数の多いMetamaskを利用するのがおすすめです。Metamaskは2020年10月時点でユーザー数が100万ほどでしたが、2022年1月には3,000万を超えており今後も成長が見込まれます。
DeFiを利用する際の注意点
最後に、DeFiを利用する前に確認しておくべき注意事項について解説します。
ウォレットのパスワードは再発行してもらえない
DeFiを利用する上で絶対に失くしてはいけないのが、ウォレットの「秘密鍵」です。DeFiには銀行口座にたとえると口座番号にあたる「公開鍵」と、パスワードや暗証番号にあたる「秘密鍵」の2つがあります。このうち秘密鍵は仮に忘れてしまっても二度と再発行してもらえません。銀行であれば銀行の窓口に問い合わせれば再発行してもらえますが、DeFiにおいては管理者が存在しないことから問い合わせ先がなく、再発行できない仕組みです。仮にウォレットに100億円の資産があったとしても、秘密鍵を忘れてしまえば永遠に資産を移動させることはできず、実質凍結状態になります。暗号鍵は紛失・流出しないように厳重に管理しましょう。
ハッキングのリスクがある
DeFiはおもにインターネットを利用して電子的に取引するため、ハッキングのリスクがあります。実際、過去には2018年1月の「コインチェック事件」や2021年8月の「ポリネットワーク事件」など、仮想通貨の取引所がハッキングを受け、多額の仮想通貨が流出する事件が度々起きています。取引所には多数のユーザーのウォレット情報が集まるため、ハッキングの標的にされやすいです。オンラインで管理するホットウォレットとオフラインで管理するコールドウォレットを組み合わせることで、仮にハッキングされたとしても資産が流出するのを防ぐ仕組みもありますが、絶対ではありません。ネットバンキングやオンライン通販において個人情報流出のリスクがあるのと同じで、DeFiもまたハッキングのリスクがあると理解した上でDeFiを利用しましょう。
補償制度が整っていない
DeFiは非中央集権型の取引ができる性質上、管理者が存在しないためいざトラブルが起きたときでも補償してくれる人がいません。わかりやすく例えるなら、初対面の人から個人的に物を購入し、「お金を振り込んだのに商品を送ってもらえない」といった事態になっても誰も助けてくれないのと同じことです。オークションならオークションの管理者が、クレジットカードならカード会社が不正取引を監視していますが、DeFiにはそういった管理者が存在しないためすべて自己責任となります。これはDeFiの課題でもありますが、現状では自分で自分の身を守る以外のすべはありません。
詐欺師に狙われる可能性がある
DeFiの普及拡大に伴い関連した詐欺被害も増えているため、騙されないように注意が必要です。DeFiでは銀行での定期預金や株取引などに比べても利回りがよく、実際に年利20%と従来の金融商品では考えられないような利益を得られるケースもあります。そのため、あやしい投資の話を聞いても信じてしまう人も少なくありません。よくある詐欺の手口としては、たとえば新規で発行されるトークンを購入させ、お金を集めた後でうやむやにするICO詐欺や、マイニングプールを装って資金を集めた後、実際には採掘せずに逃げるマイニング詐欺などがあります。あるいは、メールで偽サイトに誘導しIDやパスワード、秘密鍵などを入力させ、暗号資産を盗むフィッシング詐欺やエアドロップ詐欺などもあります。
DeFiでは補償制度がなく詐欺被害にあっても自己責任が基本なので、美味しい話に騙されないよう、仕組みやルールがわからないことには手を出さず、知識をつけて自分で自分の資産を守る必要があります。
まとめ:課題は残っているがDefiは将来性が高く利用価値がある
DeFiは世界中あらゆる人々が資産や身分に関係なく、いつでも利用でき、透明性が高く利便性が高いのが魅力です。従来の金融機関における、営業時間内でしか取引できない・サーバーダウンのリスクなども解決しており、これまで難しかったラグのない国際送金や難民への金銭的な直接支援、世界中からの融資なども期待できます。
まだ登場して間もないため法整備の面や補償など各種の課題はありますが、市場規模は1年で5倍もの伸びを見せており将来性が非常に高いといえます。まだDeFiを体験したことがない方は、まずは口座開設をしてその仕組みに触れてみましょう。