2020年一層加速するデジタルシフトーー変化し続ける企業が取り組んでいること

いよいよ2020年がやってきた。日本経済の行く末を大きく左右する一年になるだろう。デジタルシフトカンパニーを標ぼうするオプトホールディング代表取締役社長 グループCEOの鉢嶺 登 氏に、2020年に日本企業が持続可能な成長軌道にのっていくために取り組みたい変革の打ち手を伺った。

1994年㈱オプト(現:㈱オプトホールディング)設立。2004年、ジャスダック上場。2013年、東証一部へ市場変更。インターネット広告代理店の枠にとどまらず、日本企業のデジタルシフトを支援する会社として業務を拡大し、幅広いサービスを提供している。また、自ら新規事業の立ち上げや、ベンチャー企業の投資育成に努めている。著書に『GAFAに克つデジタルシフト~経営者のためのデジタル人材革命~』など複数作。

GAFAに日本企業は対抗できるのか?

2019年、年末の経済ニュースを飾ったのは、LINEとヤフーの経営統合でした。孫正義社長の率いるソフトバンクグループが大胆な打ち手を続ける背景にあるのは、米国のプラットフォーマーに対する危機感に他なりません。

GAFA(グーグル、アップル、アマゾン、フェイスブック)をはじめ、世界的プラットフォーマーのほぼすべては米国企業です。近年では、BATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)など中国企業の台頭も凄まじい。

なぜ、こうした企業が日本からは生まれにくいのか?これには、言語圏人口による優位性が関係しています。英語や中国語の使用人口は10億人以上。日本の人口を1億人とすると、同様のサービスをそれぞれの言語で生み出したとしても、売上規模にも単純計算で10倍の差が出ます。これは、サービスを提供する企業の利益や時価総額、ひいては資金調達額、研究開発費にも同等以上の差をもたらします。圧倒的な資金力とユーザーデータの活用で日々進化していく巨大言語圏のサービスを前に、日本発のサービスが打ち勝つことは難しいのが実情なのです。

こうした状況を打開する一手として“イノベーション”があげられます。従来の固定概念を打ち砕くような技術の開発が望まれますが、日本は最先端技術の分野でも遅れを取ってしまっているのです。

不足するAI人材に“シェア”という答え

全世界の特許数を、2017年時点のデータで比較してみると、トップは中国の138万件(前年比14.2%)、2位はアメリカの60.7万件(前年比0.2%)です。ついで3位は日本ですが、件数で比較すると、31.8万件と大きな差をつけられてしまっています。

また、これからのイノベーションで重要な役割を果たすAI人材についても同じことが言えるのです。

ELEMENT AI の「2019 Global AI talent report」によると、2万2400人のトップAI人材の中で、約半数が米国(1万295人)、次いで中国(2525人)が1割を占めています。イギリス(1475人)やドイツ(935人)、カナダ(815人)が続き、日本は805人で6位。全体に占める割合はわずか3.6%程度なのです。

こうした状況に対し、2020年度から日本の小学校でもプログラミング教育が必修化されますが、教員のスキル不足や、IT環境の後れ、研究開発費の不足等など課題は山積です。

それでは、日本はどうすればよいのか?

そもそもの人口が少ない日本では、技術を共有するオープンイノベーションが大切です。そして、限られたAI人材のスキルそのものをシェアできる環境が必要でしょう。

実は、AIのオープンイノベーションプラットフォームは主要各国にできつつあります。米国Kaggle(google傘下)が世界的にも有名です。企業や研究者がデータをプラットフォーム上に投稿し、世界中のAI人材がデータを予測するモデリングの構築や、分析手法の最適化を競い合っています。いわば、最適なAIの開発を競い合う場なのです。

日本では、「SIGNATE」が同様のサービスを提供しています。すでに25,000人以上のAI技術者が登録しているプラットフォームです。

「SIGNATE」は、AI開発のプラットフォームになるだけでなく、AI人材が情報を公開し学び合う場となっているなど、AI人材の教育に役立っています。

こうしたプラットフォームによって、限られたAI人材のスキルを誰もが利用できる環境が整えば、日本は唯一最大のアドバンテージを発揮できるのです。それは課題先進国であるということ。高度経済成長を遂げた日本は、少子高齢化や労働力不足など、AIやロボット等の技術を活用できる機会にあふれています。目の前にあるニーズは、同じ課題に直面しつつある先進国に先行しイノベーションを起こす原動力となるでしょう。

脅威か?好機か?GAFA対抗シミュレーション待ったなし

さて、AI人材をシェアすることで、イノベーションを増やすことができたとしても、GAFAをはじめとしたプラットフォーマーに日本企業が勝つには、前段でお話したように構造的な難しさが残ります。

では、2020年という経済の節目たる年に、日本企業が打つべき手とは何なのか?

多くの企業様を支援する中で、気づくのは、プラットフォーマーの脅威を漠然と捉えずに、しっかりと分析することが重要です。

「GAFAが参入して来たら、どうする?」というシミュレーションができているでしょうか?今後プラットフォーマーの影響はあらゆる産業に及びます。実際日本ではリクルート、海外ではDBS銀行などがそのようにして、独自の戦略で、変革を遂げることに成功しています。しかし、先日アパレル業界の経営者セミナーに参加したときは、自信を持ってGAFA対策を打てていると回答できた経営者は、残念ながらほとんどいらっしゃいませんでした。

GAFAによって小売、アパレル、自動車、メディア、物流などは業界構造も勢力図も大きく塗り替えられる可能性が高いでしょう。電力、一部金融、一部ヘルスケア、なども同様です。ただ、その変化がどのように進むかは、すでに先行事例があるのです。

米国ではアマゾンエフェクトにより、小売、アパレル業界が大打撃を受けています。その一方で元気な小売、アパレル企業が生まれていることをご存知でしょうか?新しい発想で、アマゾンがもたらす利便性とも異なる価値を顧客へ提供する企業が注目されつつあるのです。私自身頻繁に米国を視察しますが、実際に店舗でサービスを体験すると様々なヒントが得られます。これだけネットが普及しても、体験によって得られる情報には価値があるのです。変化が激しい時代だからこそ、経営者が自ら視察し体験することが、ますます重要になってきます。

もちろん、直接には影響を受けない、つまりGAFAが自社の産業に参入してこないという業種もあります。それらの企業は、純粋にGAFAをインフラとして活用することを検討すべきです。GAFAが持つ膨大な数のユーザーとデータを生かさない手はありません。

日本企業にとって脅威ともいえる存在ですが、その動向を注視し、分析し、自社とのかかわりあい方を真剣に考えることが何より肝要なのです。

2019年、私は、日本の経営者がプラットフォーマーの脅威に気づき、真っ向から向き合うためのお手伝いができればと、事業においても個人としても活動を続けてきました。2020年は、その一歩先に進みたい。デジタル産業革命の中、日本社会が持続的に成長していくための戦略を、皆さんと描き実行していきたいと思います。

著書紹介

GAFAに克つデジタルシフト 経営者のためのデジタル人材革命 | 鉢嶺 登

デジタルシフトの支援をしてきた鉢嶺登氏が、失敗事例を分析し、実体験から現時点での最良の方法とするノウハウをまとめた、経営者に贈る実践書。

販売サイトへ

Special Features

連載特集
See More