プラットフォーマー研究

後編: Amazonが描くコネクテッド・コマースの世界とペイメントの進化 【Amazon Payの日本責任者、井野川氏に聞く】

「Amazon.co.jp」を提供するアマゾンジャパン合同会社にて、現在、Amazon Pay事業本部 本部長を務める井野川拓也氏。販売事業者向けの商品の在庫保管・配送代行サービス「フルフィルメント by Amazon(FBA)」、広告サービス「スポンサープロダクト広告」、決済サービス「Amazon Pay」の立ち上げに携わった井野川氏はどのようにして本質的なデジタルシフトを成し遂げたのでしょうか。全2回にわたり立教大学ビジネススクール 田中道昭教授との対談形式でお届けします。

後半は、Amazonが立ち上げるサービスのベースにあるカスタマーセントリックの思想について触れ、Amazon Payを中心に購買体験がどのように変わるのか、展望も含めて伺いました。
前編はこちらから
*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

後編:Amazonが描くコネクテッド・コマースの世界とペイメントの進化【Amazon Payの日本責任者、井野川氏に聞く】

事業者さまの向こう側にいるお客さまを強く意識する

田中:今、井野川さんがやられているビジネスの直接的な営業上の顧客はBtoBの事業者様なわけですよね。

井野川:そうですね。

田中:Amazonの特徴は、BtoBのビジネスをされていても、その先にいるコンシューマーの方を意識し、二階層で顧客中心主義の意識を持って仕事をされているところだと思います。前編のお話の中でもそれを感じました。普段から両者が顧客だという意識を持って今のAmazon Payの事業をされているのでしょうか。

井野川:そうですね。我々は常に事業者さまのビジネスをお助けすることに加え、その先のお客さまにどんな価値を提供できるのかを考えています。

田中:Amazonの方々と一緒にお仕事させて頂いたり、お話をお伺いしていると、ある意味、直接的なクライアントであるBtoBのエンタープライズの方々以上に、コンシューマーの方々のことを中心に考えておられると感じます。そこはやはり相当意識されていらっしゃるのでしょうか?

井野川:はい、よりコンシューマーとしてのお客さまを優先するようにしています。ビジネスを立ち上げるときは、どう展開していくのか、優先順位付けの基準となるものを作ります。そのなかで、お客さまと事業者さまとで利益相反となったときは、コンシューマーとしてのお客さまを取るというのを先に定義しているんです。

田中:優先順位を先に定義されているわけですね。なるほど。

井野川:Amazon Payのビジネスを立ち上げるときも、その点に関する議論がありました。例えば決済フローを考える際、まずAmazonのアカウントを使ってログインいただき、全ての情報がAmazonのアカウントの中から自動的に表示され、クリックするだけで買える、というフローがお客さまにとって一番良いのではと思いました。

一方で、お客さまが商品を購入するフローにおいて、住所情報などを入力し、決済方法を選ぶところで初めてAmazon Payが出てくるというやり方もあり、そちらの方がAmazon Payを導入する事業者さまにとっては導入が簡単でした。

どちらフローが良いのか議論をした結果、最終的には現在の、全ての情報がAmazonのアカウントの中から自動的に表示され、クリックするだけで買えるフローになりました。こちらの方が実装は難しいのですが、お客さまが困っている課題解決を優先した方がいいよねとなったんです。

田中:なるほど。やはり常にコンシューマー、最後の顧客の利益を見ているのですね。

井野川:そうですね。それが長期的には、販売事業者さまの利益にもなると思っています。

田中:そういう確信があるからこそ、胸を張って出来るんでしょうね。

社内文章でもプレスリリースを活用。お客さまの何を解決するのか常に意識する

田中:本社の方にお話をお伺いしたとき、社内の文書でもプレスリリースや、Frequently Asked Questions(FAQ)を作ると言っていました。それもカスタマーセントリックの表れだろうと思いますが、やはりそういう意識を持って社内の文書も作っているのですか。

井野川:そうですね。新しいサービスやプロダクトを立ち上げるときは、必ずプレスリリースを書いて、お客さまに対してどういう風に見えているのかをまず考えています。お客さまの何を解決するのかをまず明らかにするところからスタートするんです。それを見て、こういうお客さまのお困りごとを解決できるのであればやる価値がある、という形で話が進んでいきますね。

田中:そこまでこだわっているのはすごいですよね。今年の始めにCES(Consumer Electronics Show)にBeforeコロナの際に行きましたが、Amazon Web Services社のセッションでVice President(VP)の方が差別化をテーマにお話しされていました。そのVPの方が、多くの会社が、カスタマーセントリックや顧客中心主義と言っていますが、実際にできている会社はすごく少ないという話をしていまして、私も本当にそうだなと思っています。

Amazonの場合、カルチャーはもちろん、提供する商品やサービスの中にもカスタマーセントリックが練りこまれていると思います。井野川さん自身もそうだと思いますが、実際に働いている方の行動にも投影されていると思います。世の中の多くの会社がカスタマーセントリックを貫徹できていないなか、Amazonができている、その違いはどこから生じているのでしょうか?

井野川:そうですね。まず、カスタマーセントリックであるための仕組みができあがっているところはあると思います。その一つは先ほど田中先生もおっしゃられたような、いろんなサービスを立ち上げるときに、まずお客さまに対して解決できる課題は何かを考えることがあります。また、ビジネスとして何を優先するのかを考えたとき、お客さまだということがビジネスを進めるうえで、すぐわかるようにもなっています。

田中:本当に、カルチャーでもあり、ルールでもあり、仕組みでもある。徹底しているということですね。

井野川:そうですね。とにかく必ず、お客さまを大切にする企業文化を保つようにしていますね。

田中:そういう意味では、多分Amazon Payの中にも、いろんなカスタマーセントリックの魂が練り込まれていると思います。いくつかAmazon Payの中で、ここは本当にカスタマーセントリックにこだわっているというところを教えてください。

井野川:まずは我々のサービスのデザインから意識しています。いろんなサイトでお買い物をするとき、お客さまが何度も住所や電話番号、クレジットカード番号を入力するのはすごく大変ですからね。

また、いろんなサイトでお買い物をし、そのサイトごとにIDやパスワード作っても覚えられないじゃないですか。そういった課題の解決をゴールにし、そこから製品のデザインやフローを決めていきました。

さらに、Amazonのサイトで買うとマーケットプレイス保証が付くのですが、それと同じものが、他社さまのECサイトでAmazon Payを使っていただいた場合も適用されるようになっています。お客さまにとってはすごく安心できるポイントです。例えば、そんなに有名ではないサイトでお買い物するとき、何かトラブルになったらやだなと、不安に思うことがあると思います。そのときAmazon Payを使っていれば、もし事業者さまとの間に万一のことが起こって、お金が返金されないことがあっても、Amazonが返金しますので安心してお買い物ができます。

田中:なるほど。それに関係する話として、以前、井野川さんからお話をお伺いしたとき、これもベゾスCEOがおっしゃっているところだと思いますが、Amazonのビジネスの本質として「顧客の購買や顧客の判断の手助けをする」というものがあるというお話を繰り返しておられたのが印象的でした。そのお話をシェアして頂いてもよろしいですか?

井野川:ベゾスは、我々の仕事は物を売る、売上をあげる、ということではなく「お客様さまの購買判断を助けること」だと言います。例えば、我々の製品の良い評価も悪い評価も包み隠さず出して、それによってお客さまがご自身でその商品の良い点も悪い点も見比べ、より正しい判断ができるようにしています。

単に売上だけ考えると、悪い評価がない方が一時的な売上は上がるかもしれません。しかし長期的視点でものを考えたとき、お客さまが悲しい思いをされることは防がなければいけません。我々の仕事は単に売上を上げることではなく、お客さまに対するより良いサービスをご提供すること。お客さまの購買判断を手助けすることなのです。

Amazon Payをキーにして「コネクテッド・コマース」の世界を作る

田中:「繋がる」「コネクトする」「コネクティビティ」といったキーワードについてもお伺いしたいと思います。自動車の世界での「CASE(ケース)」の「C」はコネクトですし、今年のCESでトヨタの豊田社長が発表された「Woven City」もコネクティッドシティでした。

井野川さんはコネクテッド・コマースという表現をされて取り組まれています。最初にお伺いしたとき、Digitl Shift Timesで触れるのに面白いテーマだなと思いました。コネクテッド・コマースの世界について、ご説明いただいてもよろしいですか。

井野川:今、購買体験をするうえでは、いろんなチャネルがあります。例えばオンラインのチャネル、実店舗のチャネルなどに加え、デバイスも様々です。今まで、オンラインでの買い物はPCでされることが多かったですが、どんどんスマホの利用が増えています。さらにAmazon Alexaといった音声サービスも生まれました。

田中:この絵だけでもいろんなものがconnectされていますね。
(世界で活用されているAmazon Payによるconnectを可視化したイメージ)

(世界で活用されているAmazon Payによるconnectを可視化したイメージ)

井野川:そうですね。これからも車や家電商品などいろんなものにどんどん導入され、チャネルやデバイスを超えて、繋がっていくと思うんですよね。そのときにAmazonやAmazon Payをキーにして、それらを統合してより良い購買体験をご提供できたらいいなというのがコンセプトです。

音声でのショッピングで、購買体験はさらに向上する

田中:これはAlexaが搭載されたEchoシリーズなどのデバイスを使っていないと実感するのが難しいかもしれませんが、「ただ話しかけるだけ」という顧客体験は本当に優れていると思います。私は日本で発売開始後すぐに買いました。先ほどもお話ししたように3台使っていて、本当に愛用しています。一番使うのは音楽を聞くときですかね。ただ話しかけるだけで、音楽をかけてくれ、音量を調整してくれます。また、NHKニュースをかけてもらったり、時間を教えてもらったりもします。

購買のシーンで最初に使ったのは、実はチョコレートを買ったときでした。話しかけてAmazon.co.jp上で買い物ができたときはすごく衝撃的でしたね。音声での買い物や決済について、井野川さんはどのようにお考えですか?

井野川:すごく便利だと思います。そういった購買体験がいろんなものに広がっていくと、世の中がどんどん便利になるのかなと思います。

田中:おすすめしてもらって「違う」と言うと、また他のものをレコメンドしてくれ、その中から選ぶこともできます。強調したいのは、音声で何かしてくれるのは、究極のカスタマーエクスペリエンスだと思っています。

ただ思っただけで相手に伝わるのはちょっと行き過ぎですよね。自宅で、家族とコミュニケーションをとるのも、話すのが基本だと思うので、音声というのは、究極だなと思っています。そこはやっぱり、こだわりがあるのでしょうね。

井野川:そうですね。お客さまの体験がより便利、簡単になるのが重要だと思っています。昔だとPCを使っていたところから、スマホを使うようになり、次は、ディスプレイだけになっているかもしれません。普通に人と話すような形で何か話をしていて、「じゃあこれ買って」と言うだけで買えるように、5年後、10年後にそうなっていると便利なのではないかなと思います。
田中:私はいろんな本や記事の中で、ベゾスCEOの頭の中を覗き込むときっとこうなんじゃないかということを勝手ながらお話しさせていただいているのですが、カスタマーエクスペリエンスに関して言うと、マーケティングの世界で言われているフリクションレスと言うよりは先ほどもお話ししたように、Amazon Goでは買い物をしていることすら感じさせない、決済していることすら感じさせないくらい自然なところまで進化しています。

今年CESに行ってきて、重要なテーマの一つが「アンビエントコンピューティング」だったのですが、この世界になるとプロセス自体がなくなる。多分3年後、5年後、Amazonのペイメントの世界もプロセス自体がなくなるとかになってくるかもしれないと予想しています。

Amazon Payで、いつでもどこでも簡単にお買い物ができる世界に

田中:日本のAmazon Payの責任者としては、日本においてAmazon Payを、さらにどうしていきたいと思われているのでしょうか?

井野川:お客さまが使いたいと思われる場所でどこでも、簡単に使えるようにしていきたいと思っています。さらに、使える場所や、いろんなチャネル、デバイスを超えて、いつでもどこでも簡単に使える環境を作ることができればと思っています。

田中:なるほど。Amazon Payを米国と日本で比較したとき、この分野は米国よりも進んでないとか、こういう部分は未開拓だなど何か違いはあるのでしょうか?

井野川:Amazon Payだとそんなにないですね。サービス開始時期は日本の方がだいぶ遅いですが、多くの日本のお客さまに選んでいただいている実感はありますね。

田中:日本の事業者さんが急激に導入しているという感じですか?

井野川:そうですね。

田中:デジタルトランスフォーメーションやデジタルシフトは、遅ればせながら日本でも非常に重要なキーになっていると思いますし、その最先端の企業がAmazonだと思います。Amazonのデジタルシフトは本質的で、事業の本質自体をアップデートするところにデジタルを使っています。

最後にメッセージをいただくとすると、デジタルトランスフォーメーション、デジタルシフトを進めていく上で、日本企業にとっては何が鍵になると思いますか?

井野川:そうですね。しがらみがあってやりにくいこともあると思いますが、やるべきことが2 way decisionなら、やってみてダメだったら戻れます。なので、まずは勇気を持って一歩踏み出すことが重要だと思います。

田中:まずはやってみるというところですね。

井野川:はい。

田中:本当に井野川さんのお話は日本においてデジタルシフトを志向される方の、参考になったと思います。本当にありがとうございました。

井野川:こちらこそありがとうございました。

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