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“天下のトヨタ”への役員移籍で抱いた自動車業界への危機感。 「変化こそが唯一の永遠」、日野自動車社長・下氏が考える業界展望。

トラック・バスといった商用車を製造する自動車メーカー日野自動車株式会社にて代表取締役社長を務める下 義生氏。日野自動車から親会社のトヨタへ役員として移籍という異色の経歴をもつ下氏が変化の激しいモビリティ市場にて描く未来とは。全2回にわたり立教大学ビジネススクール 田中道昭教授との対談形式でお届けします。

今回は、下氏がトヨタ移籍で得た気づきや日野自動車の顧客志向の源泉にある考え、物流業界変革の展望などについてお話を伺いました。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

“天下のトヨタ”への役員移籍で抱いた自動車業界への危機感。「変化こそが唯一の永遠」、日野自動車社長・下氏が考える業界展望。

57歳でトヨタへ子会社から役員として移籍

田中:デジタルシフトタイムズの田中道昭です。本日はなかなかメディアに登場されない、素晴らしい経営者、日野自動車の下社長にまさに友情出演としてお越しいただきました。

日野自動車はプロ向けの商用車を作られている会社ということもあり、あまり一般には認知されていない部分もありますが、日本の自動車産業の中で、「CASE(Connected/コネクティッド、Autonomous/Automated/自動化、Shared/シェアリング、Electric/電動化)」という新しい潮流に対して一番使命感と問題意識を持たれている会社だと思います。さらに下社長の驚くご経歴として、プロパーで日野自動車に入社され、その後日野自動車から親会社であるトヨタ自動車の役員として移籍されていらっしゃいます。そういったお話も含め、まずはご自身の経歴からお教えいただければと思います。

:改めまして日野自動車の下でございます。私は1981年にプロパーで日野自動車に技術職として入社しました。2016年にトヨタに行くまでの30数年間、大きく三つの分野を担当しています。

最初は技術職として主にバスの設計を担当し、二つ目が企画関係、最後の10年は海外営業を担当しました。このまま日野自動車の中でさらにグローバル化を推進していきたいと思っている中で、トヨタへの移籍が決まったのです。当時は既に50代半ば、全く突然で予想外の出来事でした。今までの30数年、日野自動車の中で築き上げてきたものを全て捨て、新入社員の気持ちで子会社から親会社のトヨタに行きました。

トヨタではコーポレート部門で、アライアンスやトヨタグループ戦略など大変重要な仕事を担当させて頂きました。トヨタがカンパニー制を始めたのがちょうど2016年で、トヨタの中でもすごいスピードで改革をしている最中であり、私自身大変貴重な経験をさせてもらいました。

一番ありがたかったのは、コーポレート部門を担当させて頂いたからこそ豊田社長と話をする機会が定期的にあったことです。あれだけの業界トップの会社経営者が、すごい危機感を持って「トヨタは変わらなければいけない」と語るんです。そういう想いと熱量を目の当たりにし、1年後に日野に戻ってきた時に、自分の仕事をやっていく上で大変身に染みる教えを頂きました。

田中:そういう意味では、豊田社長は日本の自動車産業の中でも早くから、生きるか死ぬかという高い危機感をもたれていました。それを下さんも共有されて戻られたということですよね。

:当時はまだモビリティカンパニーという言葉を使っていませんでしたが、「モビリティカンパニーに変化する」という思いの源泉は当時から会社の中にありました。トヨタグループの中の日野自動車の立場として、思いを共有できたことは大変重要でした。

また、自分がいた日野自動車を外から客観的に見て、いいところや足りないところに気づけたことも大変良かったと思います。

田中:外から日野自動車を見た時に良かった点はどこですか。

:良かった点は、やはりチームワークですね。冒頭でおっしゃっていただいた通り、我々はトラック、バスの専門メーカーです。そういう意味では、例えばかっこいい乗用車を作って世間の注目を集めるのではなく、お客様、事業者様に使っていただくものをみんなで作り上げていく、という思いが強いです。よく「チーム日野」という言葉を使うのですが、チームワークはやはりいいと思いました。

トヨタでの経験で見えたもの

田中:​今の点を最初に深堀りしたいと思うんですが、私も色々な自動車メーカーの方とお付き合いしていて、普通だとBtoCで乗用車を作られている会社の方がそういった志向が強いのかなと。

日野自動車の特徴は BtoBのエンタープライズで使うようなトラックに精通しているにもかかわらず、その先の顧客志向が非常に強い会社だなと思ったんですが、むしろBtoBの商用車を作ってるからこそ顧客志向が強いという面もあるのでしょうか。

:私たちは、基本受注生産ですから提供する商品を使ってくださっている全てのお客様の名前がわかっています。そういう意味では、使ってくださるお客様の要望を常にお伺いしているわけです。また、トラックは多品種少量という生産方式になりますが、お客様は様々な物流形態に合わせて車を使い分けており、その最適な仕様の検討においても、常にお客様のことを考えるという思考が育ちやすいと思います。

田中:日頃から顧客の顔が見えているのですね。

:見えています。ただ外から見てみると、お客様のことが見えていると思っていたものの、まだまだ足りないと思いました。

田中:トヨタと日野自動車ではどのあたりが違ったのでしょうか。

:良くも悪くもトヨタグループにいる日野自動車という安心感があります。一方でここ数年「CASE」のように、様々な技術革新で世の中が変わってきている時に、外に学ぶ、武者修行するというマインドは弱かったなと思います。

田中:そういう意味では社長自ら、社長になる前に武者修行に行った形ですね。

:そうですね。私自身は30数年のキャリアを日野自動車で過ごしています。親会社・子会社の関係ですし、同じ自動車業界だからそれほどの違いはないだろうと思われるかもしれませんが、やはりトラックの専門メーカーと乗用車のメーカーは、業種が異なるくらい違います。そういう意味ではキャリアを一回全部ゼロにした感覚で、自分自身の五感がすごく研ぎ澄まされましたね。新しい場所に一人で行き、何を自分の判断基準の軸に置くべきかなど、様々なことが勉強になりました。

田中:そういう意味では、2018年のCESで豊田社長が自動車会社ではなくてモビリティーカンパニーになるんだと語られ、MONET Technologiesの前身となるような話をされていました。そして自動車業界の新潮流である「CASE」、CはConnect、つながるですし、AはAutonomous、自動化、Sはシェアリングサービス、最後のEはEV、EVだけではなく環境問題と言っても良いかもしれないですけど。これらの取り組みはBtoCの普通の乗用車よりはバスとかトラックとか商用車から始まっているわけで、まさに日本の自動車産業の中で下社長がそこのリーダー役を担われていると思います。そういう新しい潮流が商用車である、トヨタグループの中の日野自動車から始まるということまで見越しての人選だったのでしょうか。

下:それはわかりませんが、仕事をする中でトヨタが技術的に目指しているものの理解はすごく深まりました。同時にそういう技術の出口としてトラックやバスが先行することは、トヨタにいた時から感じており、認識を共有できたことでその後に繋がったと思います。

私自身、日野自動車に入ったのは、トラック・バスは社会インフラであり社会の中で生かされる商品だと思っていたからです。そういう観点で考えた時、環境問題や安全性に対しても、技術や様々な社会システムとの連動で解決していかなければいけません。これらニーズとCASE技術の出口は多分一致してると思います。

田中:事業自体が社会的課題に直接対峙しているという感じですよね。インフラやロジスティクスを担うなど、そのあたりCASEという自動車産業の新潮流がインフラやロジスティクスを担う商用車の分野からきているということは、当然機会であると同時に、競争が集中してすごく大変なことだと思います。

岡倉天心に学ぶ、企業の変化力の重要性

田中:以前好きな言葉をお伺いした時に、非常に素晴らしい言葉を伺いました。あの後私も実はその本を読ませていただいたんです。好きな言葉、座右の銘をご披露いただいてもよろしいですか。まさにデジタルシフトにぴったりの言葉です。

下:「変化こそが唯一の永遠である」という岡倉天心の「茶の本」の中に書いてある言葉です。私自身がずっと思っていたことを、素敵な言葉で表現されていると感じています。同じ本のに「歴史の中に未来の秘密がある」という言葉もあり、過去に学ぶべきことは多いと思いますね。

似たような言葉に「型破り」という言葉があります。型が分かっているから型破りができるわけですね。人は、過去起きたことをどういう形で乗り越えてきたかを学ぶ必要があると思います。

様々な変化が起きていく中で、その環境に順応するためには変化をしていかなければなりません。「変化こそ唯一の永遠である」というのは、逆を言うと変化をしないものは必ずいつかは滅びるという捉え方だと思うんですね。世の中が、もっと広く地球環境など様々なものが変化し、順応・対応していく。そのために自らがもっともっと変化しなきゃいけないという思いがあります。大変好きな言葉で、社長になってから社員に対して随分伝えました。

田中:そういう意味では、表では簡単そうに見えていることは、裏側では相当いろんなことやっているからそう見えるということですよね。例えば、ユニクロの柳井さんはベーシックに拘っています。ベーシックだからこそ実はものすごく変化している。変化してるからこそ、常にベーシックでいることができる。あるいは、ベーシックこそ、実は常に進化しているところがありますよね。

下:おっしゃる通りで、表裏一体の関係だと思います。意識して変化という言葉を使ったのは、特に会社という組織では変化するのは結局は人だからです。人間はどちらかと言うと保守的になりがちなので、口酸っぱく言い続けた結果少し変化できるぐらいだと思います。ですからチャレンジはずっと続けないといけません。

田中:DXの企業研究をしていると、やはり成功している会社の共通点はそこに尽きると思うんです。最近の事例でいくと、ご存知の通り、アメリカの小売最大手のウォルマートはここ数年でDXがうまくいきつつあり、評価が非常に高まっています。徹底的に研究してみると、当然店舗のアップデートなど色々な施策をされていますが、ウォルマートがDXに成功している最大の理由は、やはりCEOが文化の刷新から手をつけたことだと思います。

3、4年前まで社名がウォルマートストアーズだったんですが、ストアーズを外し、同じタイミングでテクノロジー企業になると宣言されて、色々な改革をしている。変化を志向し、企業文化の刷新にまで手を付けたのが実は最大の理由だと思っています。変化を社員に訴求することは、実はCASEを実現していく上での入り口ですよね。

下:私たちも従来のものづくりに加え、お客様が本当に困られているドライバー不足などの課題にダイレクトにソリューションを提供していくことを新規事業としてはじめています。

変化していかなければならない時に組織の階層がたくさんあると、うまくいきません。ですから、新規事業やそれらを支えるDXに関しては、組織的に社長直轄でやっています。


田中:直轄でその指名もされ、それから社員に手を挙げてもらったりして、本当に優秀な方が集まっていますね。

下:日野自動車70余年の歴史の中で、初めて社内公募をしました。他の企業様から見れば遅れているという感じですが、メーカー系でそれをやるのはなかなか難しかったんです。公募をするとやはり意欲ある人がきてくれますので、特に新しいことをやる時にはこれが一番大事ですね。

物流業界の人手不足を解決するためのオープンなプラットフォーム構成

田中:最近では物流という文脈でスタートアップ企業に投資をされるなど、様々な取り組みをされていらっしゃいますよね。人手不足、物流、そういったものを解決していくためのお取り組み、Hacobuとのオープンなデジタル物流情報プラットフォーム構築に向けたデータ連携について伺わせてください。

下:私はよく社内で「今顕在化しはじめていて、10年後〜30年後に必ず大きな課題になることがわかっているものは、今から手をつけていくべきだ」と言っています。将来を予測するのは中々難しいですが、日本でいうと人口減は確実です。労働人口が減っていく中で、人が動かなくなってもモノは動きます。まさにこのコロナ禍で起きていることとも言えます。

今後、ドライバー不足、整備士不足はもっと深刻になっていくと思います。そういう課題に対して今から手を打てることは何か。従来ドライバーの方がされている仕事の中で、運ぶことの効率化はもちろん、運ぶこと以外、例えば荷物の積み下ろしなどについても、もっと楽に効率化する方法を考えていくべきだと思います。

Hacobuの佐々木社長と話をしていて一気に盛り上がった話があります。今日本には6万社を超えるトラック事業者様がありますが、その半分はトラックを約10台、10人以下で経営する事業者様です。この6万社を超えるトラック事業者様同士には、データのつながりがありません。こういった部分にも物流における非効率が起きています。ドライバー不足や整備士不足と合わせて、俯瞰して見て改革をすべきです。Amazonをはじめとしてどんなに素晴らしいシステムネットワークがあっても、最後の運ぶ工程でモノが運べなくなる。そういう危機感があります。そこにはデジタルの力が重要になってくると思います。

田中:佐々木社長と下社長が組んだら非常に面白いことになるなと思います。事業として目指されているのはどういう状態なのでしょうか。やはりまずは日野自動車の中から始まると思うのですが、他の事業者にも横断的に広がっていく必要があるのではないでしょうか。

下:情報がデジタル技術の力で効率化する時に、情報を一社、二社だけで抱え込んではダメです。佐々木社長とはオープンな形を目指すということで意見が一致しており、例えば他のOEMのメーカーとも連携できるところはしていきたいと思います。規格づくり一つをとってもヨーロッパなどと比べると日本は遅れていますので、行政とも一体となって進めていく必要があると思います。

物流の始まりから終わりまでの非効率を無くしたい

田中:Hacobuの佐々木社長から直接お話をお伺いして、やっぱり日本の業界ではトラックの運転手の方は運転すれば良いだけではなく、いろんな荷物のやり取りで場合によっては半日ぐらい待たされる。運転以外の仕事の負荷がものすごくかかっていると伺っています。そういう課題も含めて解決しようということですよね。

下:そうですね。私の理想は、物流の始まりから終わりまで、「AtoZ」の全てで非効率なものを効率化していくことです。例えば我々はメーカーですが、部品が入荷し、車を作って、その車を販売会社に納めるという中にも非効率はたくさんあります。その前工程まで含めればもっとです。こういった課題を最適化していきたいです。そうすれば労働人口が減っていく中でも今以上のアウトプットを目指せるのではないかと考えています。

田中:やはりデジタル化がもたらす生産性の向上は相当大きいですよね。

下:大きいと思います。

田中:今、下社長が物流のAtoZという話をされましたが、昨年8月に中国に行った時に非常に驚いたのが、中国最大の物流会社の倉庫では、トラックが入ってきて倉庫を出ていくまで、全部、自動なんです。普通はどこかで遮断されてしまう。でもそれが入ってから出るまで自動だと、ものすごい生産性が高いですよね。日本で同じような事をされている経営者の方に伺うと、日本でも規格を統一すればできるけれども、現状での規格はそれぞれの会社で分かれていますし、既存の仕組みが壊れてしまうかもしれないですよね。

しかし中国の会社は、最初は壊れてしまうかもしれないけれども非常に高速な PDCAを回して、2、3ヶ月後ぐらいには問題なくできるようにしてしまう。その辺の発想の違いもあるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。

下:全くその通りですね。具体的な事例で言うと、弊社が設立している新会社NEXT Logistics JAPANではいくつかの事業者様と一緒になって、近畿・中部・関東で拠点間輸送の効率化を目指しています。狙いは1台あたりの効率化、積載効率をもっとあげることです。

例えばビールメーカーのパレットとお菓子メーカーのパレットでは大きさが全然違います。それらを例えば共通パレットにする、段積みができるような構造にするなどの工夫ができれば、より効率化は可能です。業界を超え、枠組みを超えて見えてくるものはまだまだあります。例えばビールメーカーは重量が基準なのに対して、お菓子メーカーは容積こそ大きいものの、重量は軽くてほとんど空気を運んでいるようなものです。重量も容積も最適な状態を目指し、一人のドライバーが効率良く最適に荷物を運ぶことを目指したいですね。

田中:日野自動車は、自動車メーカーでありながら、トラックの提供だけではなく、物流にも貢献しようとしているわけですね。それはまさにトヨタ自動車が自動車メーカーからモビリティに進んでいるのと同じような感じですよね。

下:そうですね。そういう思いでお声掛けをすると、一緒になって是非やろうと言って頂けるパートナーの方が増えてきます。我々はそういう方々と一緒に取り組まなければいけないという思いが、一歩踏み出してみてより強くなりましたね。

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