アコム新社長 木下政孝氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授対談。デジタル時代においても求められる「お客さま第一義」とは何か
2021/6/24
2021年6月23日開催のアコム株式会社の株主総会および総会終了後の取締役会において、木下政孝氏が新社長に就任しました。1993年に業界で初めて自動契約機「むじんくん」を導入し、2016年に「イノベーション企画室」を設立するなど、金融業界でも積極的に新しい取り組みやデジタルシフトを推進してきたアコム。新社長である木下氏は今どんな想いで会社のトップに立つのか。激動のコロナ禍を経た上で見えた、デジタルでは担えない、人の役割とは何なのか。立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。
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*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。
「会社と社員を頼む」。6歳で創業者である祖父と交わした約束
木下:よろしくお願いいたします。
田中:6月23日に新社長にご選任されたばかりですが、今日6月24日に早速配信をさせていただきます。本日は、わざわざお越しくださいましてありがとうございます。
木下:社長になって最初の仕事を田中教授とご一緒させていただけることを、すごく嬉しく思っております。
田中:ありがとうございます。木下社長とは公私ともに親しくさせていただいており、コロナ禍の少し前、2020年1月には一緒にラスベガスのCES2020に行きました。それから、この一年間は一緒にプロジェクトに取り組んでおり、実は先週も二度お会いしています。
プロフィールをご紹介させていただくと、米国の大学をご卒業の後、コンサルティング会社にお勤めになり、その後、2005年にアコムに入社。2015年に常務、2017年に副社長を経験され、この度、2021年6月23日に、本当に待ちに待ったという感じだと思いますが、新社長に就任されました。
元々どこかのタイミングで社長になるという天命を受けていらっしゃると思いますが、新社長になられるまでの間、長かったですか、あるいは短かったですか?
木下:そうですね。2005年に入社をしてから16年という期間は、長かったといえば長かったですし、短かったといえば短かったと感じています。実際、前社長からそろそろ交代と言われたのが2020年の2月です。
田中:2020年の2月、そうですか。
木下:はい。一年半前でしたが、そう言われてから、社長だったらどう考えるのだろうと、より強く意識しながら、一年半を過ごしてきました。
田中:なるほど。2020年2月に今の会長から命を受けたということですが、元々、最初からどこかのタイミングで就任ということだったと思います。今振り返ってみると、社長になるということを一番意識されたタイミングは、2020年2月だったのか、あるいはもっと前だったのか、あるいは直近だったのか。どのタイミングで、その思いを一番強く持たれたのでしょうか?
木下:まず、少し過去を振り返らせていただくと、アコムという会社は、私の祖父が1936年、85年前に呉服屋として創業しています。
田中:それが特徴ですよね。
木下:はい。祖父は私が7歳の時に他界したのですが、その前年くらいに祖父から言われた言葉がありました。それは、三つの約束をしなさいということです。一つ目は「友達を大切にしなさい」。二つ目が「嘘をつくんじゃない」。三つ目が「会社と社員を頼むぞ」でした。
友達を大切にしなさいということに関しては、もちろん5歳・6歳の時も友達はいましたから、〇〇くん、〇〇ちゃんのことを大切にしなさいと言われているんだなと理解できました。また、嘘をついて父親や母親に叱られたこともありましたから、こういうことをしてはいけないということも理解していました。ですが、会社、社員を頼むぞというのは、なんだ?と。
田中:6歳の時ということですよね?
木下:そうです。祖父が勤めていた本社ビルに行き、社長室の椅子に座った写真があったので、きっとあの時は「この建物のことを頼むぞと言われた」と理解していたと思います。
田中:子どもですからね。物理的なものしかイメージできないですよね。
木下:はい。机のことかな、なんて思っていました。それで大学を卒業し、別の会社に入社しましたが、その時に、会社は、物を売ったりサービスを提供することによって、利益を上げる。そうすることによってお客さまを幸せにしながら、一緒に働いている社員も幸せにする。これが会社であり組織なんだということが、徐々に分かってきました。
そんな中で、祖父との約束を思い出したのです。そこで当時の社長、今の会長である私の父に、こういうことを思い出したから入社させて欲しい、と伝え入社しました。
ですから、「社長になる」ということは意識としては、ずっと心の中で持っていました。今思うと、前の会社に入社して会社というものがどういうものなのかがわかったタイミングで、アコムという会社のトップになるということを意識したのだと思います。
田中:なるほど。そうすると6歳の時におじいさまから言われたのが、帝王学の最初の一手だったということですね。
木下:そうかもしれないです。
尊敬する人は皆、Giver。木下社長が信念として大切にしてきた考え方とは
ご覧になっている方もご存知かもしれませんが、中国の古典で、帝王学として非常に有名な『貞観政要』という本があります。その『貞観政要』の最初の、「君道第一」という部分の、最初の文章を紹介させていただくと、「君たるの道は、必ず須らく先ず百姓(ひゃくせい)を存すべし。」とあります。
今の言葉で言うと、まずは君主、トップリーダーたるもの、社員のことを考えなければいけないということです。今でいうと社員以外にも顧客などのステークホルダーも含まれると思います。
私は木下社長とお付き合いさせていただく中で本当に思うのが、常に社員のことを思い、それを常に口に出されている。それはやはり、6歳の時におじいさまから言われたことが強く影響しているのだと思いますが、木下社長が社員を顧客と同じか、あるいは、それ以上に思われている原点というのは、その辺りにあるのでしょうか?
木下:今までその繋がりは考えていませんでしたが、友達、仲間、一緒に戦うメンバー、社員というところで、ひょっとしたら繋がっているのかもしれないですね。
田中:なるほど。そうするとおじいさまから言われた三つの約束の一つ目と三つ目がうまくマッチして、大切にされていたのかもしれないですね。
木下:はい、そうかもしれません。
田中:このタイミングで新社長になられたのは満を持してという感じがしますし、本当に色々な意味で知識的なことだけでなく、教養や礼儀、礼節なども含めた帝王学的な教育を受けて来られたと思います。それからお名前が「政孝さん」ということでおそらく名前にもそういった思いが込められていると思います。
あえて、リーダーとしてではなく人として、これまでご自身が大切にしてこられたことを伺います。最初の三つの約束のお話もそうですし、普段やり取りされている中でも誠実や高潔、義理などを大切にされていると存じ上げておりますが、改めて人として大切にしてきたことには、どのようなものがあるでしょうか。
木下: 持っているものを与える、持っているものをシェアする「Giver」であることがすごく大切だと思っています。これに関しては、自分自身の知り合いで、「この方好きだな」と感じる方を100人ほど思い浮かべてみたんですね。もちろん田中教授もその中に入っています。
その方々に対して、「何で自分はこの方たちを好きなんだろう」と考え、全部書いてみて、最大公約数的にこれだろう、と思った特徴が、「Giver」であるということ、人に対して、惜しみなく自分の人脈、持っているリソースを提供してくださるという共通点です。自分もこうなりたいと思い、「Giver」であり続けたいということを信念にしています。
前例踏襲への違和感を現場から発信し続ける。「質問魔」木下社長が問いを大切にする理由
そういう意味では木下社長も、非常に謙虚でいらっしゃるし、それから「質問魔」ですよね。好奇心旺盛で、常に質問をたくさんされる印象があります。そういう意味では、本当に人の意見や声に耳を傾ける方だなと思ってきたのですが、その辺りの原点はどこにあるのでしょうか?
木下:確かによく質問するというのは周りの方にも仰っていただきます。そもそもいろいろな人が何かをやってる時に、何をやっているのかに興味がありますし、加えて、なぜそれをやっているのかも知りたくなるのです。物事を構造的に理解ができないと、納得がいかないのです。それに加え、質問したことに対する答えに違和感を覚えたときに、この違和感が解決されないと、これもまた、納得がいかないのです。それをずっと追求してきたのだと思います。
田中:そこも誠実というところなんでしょうね。東洋哲学にしても西洋哲学にしてもいろいろ深く探っていくと、誠実とは思っていることと言っていること、やっていることの三つが一致する、という非常に厳密な定義です。そういう意味では、本当に自分が理解をするまで尋ね続けるという、誠実な姿勢の表れが質問魔につながっているのかもしれませんね。
木下:誠実と言っていただけると嬉しいですが、当時、社員からはこんな面倒くさい奴はいないぞと思われていたと思います。人間、考えることは結構億劫だったりしますし、自分はこういう風にしなさいと上司に言われているがゆえにやっていて、疑問にも思っていなかったことに対し、何でやっているのですか?と、社長の息子に聞かれるわけですから。
田中:それが今や社長ですからね。ご性格としては大らかでいらっしゃる一方で、曖昧なことを言ったら必ず質問されますので、私も常にお仕事で木下社長と対峙させていただく時はそういう意識がすごく強かったです。多分、部下の方も同じだと思いますが、必ず納得するまで理解するまで聞いてこられますから、きっと木下社長に対してはしっかり答えられるように準備しようと、人一倍思われてるのではないかと思います。その辺りはご自分でいかがでしょうか?
木下:そうですね。私は16年・17年前の入社時、まず支店に配属されたのですが、今ではもうなくなっている、とある業務がありました。それは何かというと、その支店が持っている銀行口座の通帳を銀行ATMに持っていって、毎回、記帳するというものです。その記帳した内容をもって支店長が、このお客さまはちゃんと入金してくださっているということをチェックする業務があったんですね。
しかし、すでに銀行とアコムのホストシステムは連携していて、どなたかが入金された場合、アコムの画面を開いたら分かるわけです。それでも通帳を記帳するという業務がずっと残っていました。これは何のためにやっているのかが全く分からなかった。
当時、280店舗ほど有人店舗がありまして、お昼に一回記帳に行き、さらに銀行が閉まった後にもう一度行くわけです。ひとつの支店に一つの銀行ではなくて、地方銀行や信金など、複数の口座を開設していますから三つや四つ行くわけです。一回行くのに30分ほどかかるので、一日一時間かかるわけです。それで280店舗あるわけですから280時間かかり、営業日数がざっくり220日とした時、一年間で6万時間もかかっていると。一人当たりの時給単価が仮に1,500円だったとしたら、それだけでもう1億円弱ですよね。その社員はその一時間の価値は出せないわけですから、仮に3倍の価値を出さなければいけないと考えると、機会損失として3億か4億使っていたわけです。
そこで、そのお店の支店長に対して、「これっていらないですよね」と言ってみたのですが支店長は答えられないわけです。「確かに木下さんが言ってることはよく分かる。でも昨日もやってたから今日もやろう」と言われるわけです。でも、納得がいかないのです。その後、支店長の上席のマネージャーに同じことを言ってみる。そうするとマネージャーは、「わからんことはない、でも先週もやっていたから今週もやろう」と。
田中:今度は先週になったわけですね(笑)。
木下:そうなんです。先週やっていたからといっても、必要なければやる必要はないですよね。だからこそ今度は、一か月に一回ほど臨店という形で支店に来るマネージャーの上席であるシニアマネージャーに言ってみたのです。そうすると「うーん、わからんでもない、でも先月もやってたから今月もやろう」と。
田中:マネジメントサイクルがわかる話ですね。
木下:そうですよね。そのぐらい人間というものは昨日やっていたこと、もしくは先週やっていたこと、先月やっていたことに対して、あまり疑問を持たない。ルーティン化していることに対しては、やるものだと思い込んでいる。
最後、その上の部長が来た時に同じ話をしたら「おお、わかった。これは確かに必要ないかもしれない、どうなるかわからないけど、自分の配下だけは一回やめてみよう」となりました。実行した時に何が起こったか。何も起こらなかったんですよ。
ここで私が学んだのは、やっぱり自分がおかしいなと思ったことに対しては執着を持って行動すべきだということです。そうすることによって、いつか正しく変わることがある。もちろん全て自分が正しいわけではないのですが、おかしいなということに対して返ってきた回答に納得できなければ、何かしらヒントや改善する余地がある。それを入社して一年目で経験しましたし、こういうところから、かなり世の中の常識とアコムの非常識のギャップを見つけることができ、色々なことを改善できたと思っています。
社員一人ひとりが、今の時代に合わせて理念を意味づける。ボトムアップの理念浸透
もう一度、先ほどの『貞観政要』という本に戻ると、冒頭の「創業と守成、どちらの方が難しいのか」というくだり※が非常に有名です。当時だと創業は天下を取ること。守成はその後何十年も何百年も守ることです。どちらの方が難しいのかという話の中で、どちらも難しいけれども、自分たちは天下を取ったので、その先をしっかり守っていこうというような文脈で語られています。
※今、草創の難きは、既に以に往けり。守文の難きは、当に公等と之を慎まんことを思うべし。(君道第一 第三章)
そういう意味では、大きな会社を創業して、ここまで保ってこられた会長やおじいさまは大変だったと思いますし、その一方で今やMUFGグループの一翼を担い、ましてや本当に激動の時代の中で新社長になられた、守成も大変だと思います。創業と守成という観点でいうと、このタイミングで社長に就任され守っていく、あるいはさらに高めていくために、どんな難しさを感じていらっしゃいますか?
木下:完全にゼロからの創業という意味では、私は今後経験するのかどうか分かりませんが、守成の中でも第二の創業というものはあると思っています。お客さまのニーズや使い方は、どんどん変わっていますので、その中で、いかにお客さまにより便利に使っていただけるかを、もう一度深掘りし進化させるという意味で、やらなければいけないことはたくさんあると思っています。
加えて、世の中にはたくさんの国々がありますから、日本だけではなく、海外での創業も積極的に行っていきたいと考えています。
田中:なるほど。すでにアジア展開もされていますが、他の海外もさらに見据えているのですね。
アコム、特に木下社長とお仕事させていただいて思うのは、企業理念が特徴の一つだということです。ご紹介させていただくと、アコムの企業理念は「アコムは人間尊重の精神とお客さま第一義に基づき 創造と革新の経営を通じて 楽しく豊かなパーソナルライフの実現と生活文化の向上に貢献する」というものです。この理念に対する皆さんの思いが非常に強いですし、常にここに立ち返って仕事をされていらっしゃると思います。まずは、この理念にかける思いや、あるいはそれぞれのパーツにおいて重要な点、また、この変化の激しい時代の中で、どういう風にアップデート、深化させようと思っていらっしゃるのか、まずはその辺りをお聞かせいただけますか?
木下:はい。この企業理念の中には四つの特徴があります。今おっしゃっていただいたように、「人間尊重の精神」、「お客さま第一義」、「創造と革新の経営」、そして、我々のレゾンデートル(存在理由)である「楽しく豊かなパーソナルライフの実現と生活文化の向上に貢献する」というものがあります。
やはり、これらの一つひとつの言葉は、今の令和の時代にあった意味づけをしていかなければいけないと思っています。また、それぞれの言葉に込められた意味に関しては、上からトップダウンで理解をしてもらうだけではなく、社員一人ひとりが自分にとっての「創造や革新の経営」とは何か、アコムという会社にとっての「創造と革新の経営」とは何か、自分の小さな組織の中における「創造と革新の経営」とは何かを、自らの言葉で話ができるように、今、社員に対するセッションを行っているところです。
コロナ禍で、リモートという手段でしか開催できなくなってしまったのですが、各役員が20人ほどの社員を集めて座談会形式でセッションを行っています。役員はトップダウンで教えるのではなく、あくまでも引き出し役として、「あなたにとっての創造と革新の経営とは何か?」「あなたにとってのお客さま第一義とはどういうことか?」「人間尊重の精神で、今まで自分がその精神に反してしまったことはあるか?」などを思考するセッションを2、3年前から半日かけて行っています。
田中:素晴らしいですね。
木下:そうすることによって、ただ単に言葉として頭の中にあるものではなく、自分で考えて作り上げた企業理念が出来上がる。これをシェアすることによって自分自身がアコムに所属している、アコムグループで仕事をしているという意識が強まる。そうすると、やはり仕事に対してのやりがいや働きがい、誇りなどが生まれ、より働くことに対して自信と自負を持てるのではないかと考えています。
田中:なるほど。素晴らしいですね。私の一冊目の本は『ミッションの経営学』ですし、それから3年前には『「ミッション」は武器になる』という本を出させていただきました。ミッションや理念に対する想いは非常に強いのですが、一方でやはりミッションや理念はどうあるべきなのかというと、会社だけの目標ではなく、そこで働いている社員一人ひとりの、自己実現上の目標になるかどうか。一人ひとりがそれを捉えた上でどういう目標にするのかが非常に重要だと思っています。そういう意味では、非常に理想的な定着を促されていると思います。
延滞率・書類提出率がコロナ禍で変化。デジタル時代に見出した、デジタル化せず人がすべき仕事
ご存知の通り、Amazonのジェフ・ベゾスは常にカスタマーセントリックを「Listen, Invent, Customise」の3つで定義しています。まずは顧客の声に耳を傾け、顧客のニーズとインサイトが分かったらインベント、イノベーションを起こしていく。それから最終的には一人ひとりにカスタマイズして、テクノロジーで一人ひとりを中核に据える、ということです。
そういう意味では、この「お客さま第一義」自体が、テクノロジーが進化している時代の中で一番アップデートが迫られているところだと思うのですが、この令和の時代、「お客さま第一義」はどういう風にアップデートしていくべきでしょうか?
木下:そうですね。二つの意味でアップデートと深化を深めていかなければいけないと思っています。
先に深化の方をお話しさせていただきたいと思うんですけれども、弊社の社員は全員が「お客さま第一義」というものが非常に大切な、心に持つべきものだと理解をしてくれています。特に今回、2020年の始まりから今に至るまで続いているコロナ禍は、世の中の人たちを苦しませている状況です。そんな中で我々はご融資をしていますので、そのお客さまから返済をしていただく必要があります。
お客さまとコールセンターの社員が話をしている応対ログを私も聞くのですが、お客さまが泣きながら当社の社員におっしゃっていたことがありました。それは何かというと、他社は「返済日は今日ですから」という一点張りで全く聞いてくれなかったが、アコムだけは違った、と。アコムだけは自分の状況を理解してくれて、しっかりとどういう風に生活をしたらいいのかなど、返済のことはさておいて自分のことを気にかけてくれた、と。だから、もう本当に感謝してやまないんだ、というようなお話をしてくださっているのを聞きました。これを聞いて、重要なのはこれだと思ったのです。
この後、もう一つデジタルの話をさせていただきますが、デジタルはデジタルでもちろん重要ですが、この業種は、やはり他のリテール事業と少し違っています。何が違うかというと、「申し込みをしていただく=契約」ではないですし、「契約をしていただく=利益」ではないわけです。そのお客さまにご融資をする、融資させていただいた後、お利息と一緒に元金を返済していただいて、我々は利益をいただいています。
お客さまは、常に毎回お支払いができるという状況でない方もいらっしゃいます。そのような時に、いかにお客さまに心から寄り添い、お客さまが心から、アコムに対してはちゃんと支払いをしようとか、アコムともう少し長い取引をしようと思っていただけるか。こういうことをできることこそが「お客さま第一義」であると思うのですね。
この点についてデジタルでは、やはりお客さまに、アコムはそういう対応をしてくれるという心からの感動を与えることはできないと思っています。アプリを使っていて、このアプリ便利だと思うことはあるかもしれませんが、アプリを使って涙を流す、ということはないと思うのです。そうなった時に、今いる社員がいかにお客さまに心から寄り添い、アコムのおかげでうまくお金を使えたとお客さまに思っていただけるコミュニケーションを取ることができるか、それが「お客さま第一義」の深化であるというふうに考えています。
田中:なるほど。そこがデジタルネイティブ企業との徹底的な差別化要因でしょうし、元々、木下社長はデジタル化を推進している一方で、やはり「人がすべきこと」と「デジタルがすべきこと」を徹底的に考え抜いていますよね。そういう意味では引き続き「人が絶対にやるべきこと」と、「デジタルでできること」、どういう風に峻別をされていらっしゃるのでしょうか。
木下:今回のコロナでわかったことで。今まさに田中教授がおっしゃっていただいたように、我々の中でデジタル化は全面的に進めていかなければいけないですが、少なくとも1、2年という時間軸の中では、この部分はデジタル化できないよね、というものがありました。
具体的には、昨年の4月・5月、当社においても社員を出社させることができなかった時期がありました。コールセンターも、通常時と比べて40%の出社にするなど、60%の社員は出社していない状況でした。その時、我々としてはお客さまからご連絡をいただいた電話はきちんと受けますが、当社からのご連絡は一旦ストップしました。
止めたのは、先ほど申し上げたように、ご延滞されているお客さまに対してのご連絡です。また、この業種・業界には貸金業法という法律があり、その法律の中で年収の1/3までしかご融資ができないので、年収を証明いただくために収入証明書をお客さまに提出していただく必要があります。この有効期限が3年で切れてしまうので、そのタイミングでお客さまに再提出いただけるよう、ご連絡するという業務があります。
ご延滞されているお客さまに対しては、メールやショートメールなどで、自動で「本日がお支払日です」「3日後がお支払い期日です」というメッセージを送らせていただいておりました。しかし、我々からお電話をしてお客さまに寄り添うようなコミュニケーションが取れなくなったことで、延滞されるお客さまが増えました。
もう一つの収入証明書等を提出していただけませんかというご連絡も、電話でのご連絡が止まったことによって提出が減りました。
私の理解ですと、お客さまの心を動かして行動していただくということに関しては、デジタルでできる方もいらっしゃるとは思いますが、そうではない方もいらっしゃいます。この点に関してはこの1、2年の時間軸においては人が引き続きやらなければならないと思います。
一方で、デジタルで世の中はどんどん便利になってきていますから、面倒くさいことは嫌だと感じる人も増えている。教授の本にも書かれていましたが、わざわざお店に行くというのはすごく面倒くさい、電話も実はそうかもしれません。デジタルでご対応していただける方に関しては煩わしさを排除しながら、シームレスなコミュニケーションをとる。そのためにはデジタルが重要であると十分理解をしていますので、デジタル化が適している部分とそうでない部分を見極め、改善していくことが必要だと考えています。
田中:なるほど。どう返済していただくのか、回収というところもデジタルネイティブ企業と比べると、アコムの競争優位の本質だと思います。