DX戦略

組織デザインがデジタルシフトの成否を決める

出版事業を根幹から揺るがす環境変化に対応し、業績を回復させた講談社。組織再編や事業領域の拡張を経て、2018年11月期には2期ぶりの増収増益を実現した。
なぜ老舗企業がいち早くデジタルシフトに成功したのか? どのようにビジネスモデルを再構築したのか? 前編に引き続き、講談社のメディアビジネス領域に従事する長崎亘宏氏へインタビュー。デジタルシフトを支援するオプトの米谷昌登氏もまじえて、話を聞いた。

自社の強みを見つめ直し、新たな活用法を考案

―ここからはオプトの米谷さんにも参加してもらいます。講談社の長崎さんへ質問はありますか。

米谷:ずっと気になっていることがあります。なぜ、出版業界の中で講談社のデジタルシフトが進んでいるのですか?

長崎:トップダウンによる構造改革、そしてマンガという資産が大きかったのでしょうね。講談社はコミック誌と単行本のラインナップが多く、デジタルとの親和性も高い。そこが発火点になり、電子コンテンツ化が進んでいきました。さらにグローバルに通用するので、版権ビジネスの海外展開にもつながっています。

ただし、弊社だけが先行しているわけじゃないですよ。ドワンゴと経営統合したカドカワ、阪急コミュニケーションズの出版事業を引き継いだCCCメディアハウスなど、業界再編も含めたデジタルシフトが進んでいます。

米谷:一般企業はどこから始めればいいですか?

長崎:メディアに限りますが、まずは自社の強みを見つめ直すのがいいでしょう。いわゆる資産の仕訳です。弊社の場合、コンテンツだけでなく、メディアのイメージや信頼性も資産といえます。そういった強みを棚卸しして、新たな活用法を考えました。もうひとつの観点は読者という資産です。私たちにとっては優良な顧客であり、広告主にとっては価値あるオーディエンスとなります。

その際、敵と味方の概念も変わります。デジタル広告においては、競合範囲が広がるからです。同業他社に加えて、テレビ、新聞、ラジオ、屋外広告、デジタルプラットフォーマーも競合相手になります。また逆に協業相手になるケースも。

プラットフォーマーは敵か味方か

―Amazonは出版社の取引先ですが、広告分野にも進出しています。デジタル革命は巨大プラットフォーマーにくわえて、「漫画村」などの新たな脅威も生み出しました。どう対峙していきますか?

長崎:違法な海賊版サイトは出版社だけでなく、知的財産を扱う会社すべての問題といえるでしょう。作家やクリエイターの知財を守るための議論や制度確立が進むことを願います。一方でこうした海賊版サイトの収入源が広告であるケースについては、広告業界を挙げてその問題に立ち向かうべきかと思います。

北米ではAmazonと作家が直接契約するケースもあり、それが懸念されますが、日本では各出版社がもつ編集力と、作家に寄り添うという独自のマネジメントスタイルが今後も重要になります。Amazonの本当の脅威は膨大なユーザーデータです。弊社は広告分野でも取引しておりますが、お互いの役割や仕組みを理解しながら、うまくプラットフォーマーとつきあうつもりです。

―講談社のデジタルシフトをオプトが支援していると聞きました。具体的に、どんなことを行っているのですか?

米谷:デジタルマーケティングの支援です。クライアントに近い弊社の立場を活かして、講談社の広告価値を翻訳しています。そこでポイントになるのは質。広告会社はPVや再生回数など量的な指標をアピールしがちなんです。でも、講談社など出版社の強みは質の高さにある。まだ途上ですが、さまざまな質的指標を設計・測定してクライアントに伝えています。

長崎:弊社はこれまで、編集力、魅力的なコンテンツ、良質な読者をアピールしてきました。いわば“信じていた価値”です。でも、明確な価値として数値化できていなかった。ふわっとしていたんですよ。それらを‟信じられる価値”に可視化するために取り組んでおり、オプトの支援も受けています。

米谷:今後は企業の組織・人材面の支援も視野に入れています。多くの企業は未だデジタルシフトに抵抗を感じているようです。それはビジネスモデル自体もそうですし、組織や人そのものの場合もあります。そういったアレルギー反応を和らげたり、デジタルネイティブな人材を送りこんだりして、体制づくりを支援したいと考えています。

出版ビジネスを活性化させる、逆ピラミッド構造

長崎:誤解が生じないように補足させてください。私たちは紙のビジネスを軽んじているわけではありません。むしろ、重視しています。書籍や雑誌を手にとって読みたい人、デバイス経由で読みたい人、どちらの顧客ニーズにも等しく対応しています。さらに、デジタルシフトの先にある、紙のビジネスチャンスもあると考えています。

もともと、出版社の考え方はピラミッド構造だといえます。紙の書籍や雑誌を頂点として、電子書籍や定額制の読み放題サービス、マイクロコンテンツ課金へと階層が裾野へ拡がっていく。有料の紙媒体をベースにした二次利用、三次利用です。でも、時としてこれは窮屈な構造ではないでしょうか?

デジタルの時代には、逆ピラミッド構造も存在します。たとえばWebメディア『現代ビジネス』の場合、多数のユーザーが無料の記事を読んでいます。間口を拡げた上で、有料会員限定のサービスを設けています。さらに、連載記事をもとに書籍化し、書店で販売もしています。つまり、無料のメディアで多くの読者を集め、一部の読者に課金して、最終的に紙のパッケージ商品も買っていただいています。同様の試みは他の出版社でも見られます。ピラミッドと逆ピラミッド、それぞれのビジネスは併走すると思います。

―結局、紙で利益を得る?

長崎:ええ。じつは収益性が高いのです。最近の例では、写真集がわかりやすいでしょう。「乃木坂46」白石麻衣さんの写真集「パスポート」は増刷を重ねて、累計発行部数36万部を突破。大きな反響を生んだ要因のひとつにSNSによるプロモーションが挙げられます。Twitterの専用アカウントを開設し、写真集の一部画像や撮影のエピソードを拡散しています。

オフィシャルに無料でコンテンツを配信して、バズらせて、母集団を増やす。すると、一定のファンベースが形成され、最終的に写真集の購入に至る。こういった手法は出版業界の得意とするところ。オンラインゲームのリアルイベント、アイドルの握手会など、他の業種も構造は同じです。

―講談社は2015年にデジタル本棚サービス「codigi(コデジ)」を開始し、2018年に終了しています。これは従来型ピラミッド構造の考え方ですよね?

長崎:そうですね。「codigi」は紙の雑誌を購入した読者に、無料で電子版を提供するサービス。当時は雑誌の購読者を最上位顧客と考え、デジタル施策による満足度の向上と囲い込みを画策していました。

BtoC領域でのチャレンジは現在も続いていますが、BtoB領域、とくに広告ビジネスについても、いろいろな試行錯誤があります。昨年、デジタル広告収入の中期的な目標であった年商20億円を達成できましたが、私たちが取り組んだ当初(2010年当時)はごくわずか。量より質といっても、PV、広告在庫ともに小さなレベルからスタートしました。

その組織改変は本当に意識まで変えるのか?

―これからデジタルシフトに挑むマネジメント層に対して、アドバイスをお願いします。

長崎:繰り返しになるのですが、仕分けと可視化が重要だと思います。弊社の場合、5年間かけて紙とデジタルの編集部を分離しました。従来の組織では、紙の編集部内に“デジマ”を設置していました。それでは意識の転換が起きにくいばかりか、各々の利益や功績がわかりづらくなるんですよ。失敗も見えづらいので、改善も遅くなる。だから先ず、新規チームを独立させることをおススメします。

―同じチームで連携するのではなく、むしろ分けるべきだと。

長崎:連携以前に、それぞれの自立が必要ではないでしょうか。広告ビジネスもまた同様で、営業内での紙とデジタル広告の安易なセット売りは避けなくてはいけません。新聞社など他メディアでも同様の動きはありますが、弊社はデジタル広告の専門部署を配備しています。弊社上半期の広告収入において、デジタル広告比率は50%を超えました。そうなると、“プライマリーメディア”はデジタルになるかもしれませんが、紙をさらに“プレミアムメディア”化させることで、それらの価値を両立することが重要だと捉えています。また、そうした価値の再編は若いリーダーたちによって行われるべきだと思います。

―講談社はデジタルシフトに挑戦し、ビジネス領域を拡張しています。今後の構想を教えてください。

長崎:「ソーシャル×コンテンツ」をビジネス化したいですね。昨年12月、弊社は雑誌『FRaU』SDGs(持続可能な開発目標)特集号を発刊し、大きな話題を呼びました。これは雑誌編集者のアジェンダ設定力を活かした好例。今後は広告を超えて、人々と企業をつなぐ方法を模索していきます。

米谷:デジタルシフトの次ですよね。もう一度リアルに戻って、社会と融合する。弊社も今後はデジタル分野に留まらず、ビジネスの根幹からクライアントを支援していきたいと思います。

プロフィール

長崎 亘宏(Nobuhiro Nagasaki)
株式会社 講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 IT戦略企画室 室次長
デルフィス、マッキャンエリクソンでのメディアプランニング職を経て、2006年講談社に入社。2010年より、雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」設立・運営に従事。2014年より、JIAAネイティブ広告部会座長として、ガイドラインや広告効果指標を整備。2017年より、日本ABC協会雑誌ブランド指標ワーキンググループのリーダーとしてメディアデータの再編に従事。第3回Webグランプリ「Web 人 of the year」受賞。
米谷 昌登(Masato Yonetani)
株式会社オプト メディアコンテンツ部 コンテンツ制作部 部長
2003年オプト入社。デジタルマーケティングの営業として5年間従事。
その後、大手総合代理店にてマス×デジタルの統合プロデュースを5年。
2013年からはオプトにてオンラインビデオ事業本部長として業界に先駆けて50名規模の動画専門部署を立ち上げ。2016年からは動画コンテンツの新規事業に従事。ハウツー動画サービス、バーティカルメディアの立ち上げなどを担当。YouTube認定資格所有、経産省「始動~NEXT INNOVATOR~」1期生

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