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【Society5.0の未来】今、日本に必要なのはSociety5.0社会におけるビジョンを示せる経営者。

2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で初めて登場した「Society 5.0」という言葉。これまで、実感を持てる人が少なかった新しい暮らし方ですが、コロナ禍により時計の針が進み、その実現への道のりも早まったように思えます。改めて、Society 5.0とはどんな社会なのか。そして、その新しい社会の中で日本は、個人は、どうあるべきなのか。株式会社SIGNATE代表取締役社長の齊藤 秀氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- Society5.0とは、フィジカルな現実世界とデジタルとが極限まで融合し、データが限りなくコンピューターの上に載るサイバーフィジカルシステム(CPS)が構築され、その環境の中で人々は特別なアクションを行わずとも情報やサービスを享受できるという社会のビジョンである。
- デジタルシフトとは、Society4.0からSociety5.0へ移行する際の重要なプロセスである
- Society4.0からSociety5.0への移行のキーとなるのは、基盤となるデータの整備
- Society5.0は、CPSに適応した企業体とエンパワーメントされた個人が担っていく。

Society5.0に移行するために必要な変化がデジタルシフト

ー改めて、Society5.0について教えてください。

これからやってくる新しい社会のあり方を指す言葉です。フィジカルな現実空間とデジタルとが極限まで融合し、現実社会が限りなくコンピューターの上に載るのがサイバーフィジカルシステム(CPS)で、その上でどういう世界になるかが「society5.0」が描くビジョンです。

Society1.0〜4.0までは、産業に革命が起きたタイミングに合わせて分かれています。Society1.0は狩猟社会のことで、農耕が始まるとSociety2.0に変わり、蒸気機関が出現し、エネルギー革命が起こるとSociety3.0へ移り変わりました。さらに、インターネットが発明されICTが発達することでSociety4.0の情報社会へとシフトしたのです。
そして、これから進んでいくパラダイムシフトがSociety5.0です。これまでは情報を取得するために、コンピューターや通信機器を活用し、手作業で欲しい情報を引き出すことが必要でした。それがSociety5.0の世界では、限りなく無意識のうちに必要な情報が受け取れるようになります。AIなど高度なテクノロジーが自律的に動き、人間が特別なアクションを行わずともサービスを提供してくれるようになるのです。

また、地球環境問題、食料、地域格差、高齢化など現代社会が抱える課題も、Society5.0の世界観の実現により解決していこうというのが政府の提言です。その一例がスマートシティ、スマート農業、オンライン診療などですね。

ーSociety5.0を実現するには何が必要なのでしょうか?

Society4.0から5.0に移行するために必要な変化こそがデジタルシフトです。その上でSociety5.0の成立には、まずは通信網などのインフラが重要です。これまで鉄道や飛行機などのインフラが整備されることによって高度経済成長が起きたように、高速通信網が整備されることで大量のデータを流せるようになることが必要だと思います。高速通信が可能になることで、今までなかったようなUXやCXが誕生することでしょう。

通信網の整備と合わせてデータの集積や流通も重要です。現状、サイバー空間のデータの多くをAmazonやGoogleが集積していますが、今後どのようなプレイヤーが役割を担うのかは、まだ誰にも分かりません。

今後の社会においてデータインフラは、国家にとって極めて重要な位置づけになるため、関連業界の中で主要なプレイヤーが共同で 国と連携しながら検討が進められています。

Society5.0社会を担うビジョンを示せる経営者が重要に

ーSociety4.0からSociety5.0への移行は今後スムーズに進むのでしょうか?

すぐには移行できないのかなと思います。AIなどのテクノロジーが社会実装される前に、まずは元々のデータ自体がちゃんと揃っている必要があり、その整備に時間がかかるからです。

なので、Society5.0への移行は大きなムーブメントではあるものの、まずは、従前から起きている、紙で扱っていた情報が電子化され、手続きなどがインターネットにシフトするといった、物理的に存在するものをサイバー 空間上に移植する動きが、より進んでいくと考えています。

しかし、日本のような大国においては、それすらも、まだまだ時間がかかることが予想されます。新型コロナウイルスへの対応を見ても、日本に課題があることは明らかです。例えば台湾では、マスクのニーズが高まった際、迅速に在庫情報が公開されるシステムが開発され、市井の混乱を避けることができました。しかし日本では、そのような対応は叶わず、品切れや不必要な行列がしばしばみられました。さらに感染者数など基本的な数字も正確に把握できない状態でした。コロナの実態ひとつにしてもコンピューター上での再現率が極めて低いためCPSが構築できないのです。

政府が提言しているSociety5.0というのはコンセプトであり、Society5.0をどう実現していくかは具体的な議論が必要です。特に産業におけるその実現には、ビジョンを示す経営者たちが必要です。 テスラCEOのイーロン・マスクなど、ビジョナリーな人たちはその片鱗を見いだし、ありたい姿を可視化し、多くの人々の共感を得ることで、実装の力に変えています。未来について先行き不透明な世界のなか、日本の経営者も具体的なビジョンをどれだけ示せるかが鍵だと思います。

ーすでにSociety5.0への移行が始まっている事例があれば教えてください。

世界中で社会変革が起きていますが、分野によって進むスピードが違います。例えば医療分野は、人間にとって最も大事な領域の一つですので、CPSの構築が注目されています。

例えば、ウェアラブルデバイスを通じていろんな生体情報を取得できるようになると、体調の変化にいち早く気づけるようになります。事実、研究段階ではありますが、Apple社は、Apple watchによる心疾患の予兆検出に成功しています。CPSを前提にすることで、これまでとはまったく次元の違う、リアルタイム健康診断が可能になるのです。人間の健康に対する考え方が変わるかもしれませんね。

また、近年、病気の治療にも情報サービスが有用であることが示されつつあります。例えば、禁煙治療用のスマホアプリが、臨床試験を経て、今年国内で承認を取得しました。
従来、医薬品産業では、化学やバイオテクノロジー関連の企業の独壇場でしたが、これからは、情報産業のプレイヤーとの競争が避けられない状況です。同じように特定の産業のビジネスを情報産業が担うというような現象がいろんな分野で発生しつつあるのが現状です。

Society5.0の主体は超国家的企業体とエンパワーメントされた個人が担う

ーSociety5.0で主体となるのは誰なのでしょうか?

例えばGAFAなど、一国を凌ぐような超国家的企業体とエンパワーメントされた個人に二極化すると思います。 ソーシャルネットワークの力を持ち、新しい技術やスキルを習得した個人が、民主的にSociety5.0へのシフトを促す力となり得ます。

一方で、超国家的企業体がSociety5.0のマクロのデザインやビジョンに大きな影響を与えるでしょう。人間中心的な社会を目指すというのが、日本が掲げるSociety5.0の大きなポイントですので、政府は完全な市場原理に任せるだけではなく、人間中心の世界を目指しながら、規制をかけたり個人に対してどう向き合うかを考えていく必要があると思います。

― GAFAなど、米中の企業が超国家的企業として覇権を握っていますが、日本企業の勝ち筋はあるでしょうか?

アメリカの企業は新しいコンセプトや体験などを提示するのは早いですよね。資本も大きく、物事を切り拓いていく力は強いですが、産業が成熟するフェーズにおいては最初に作った人が必ず勝つとも限りません。例えば、自動車はイギリスやアメリカで発明され発展しましたが、今はトヨタなどの日系企業群が世界ナンバーワンです。同じことが成り立つかはわかりませんが可能性はあります。CPS上でのものづくりや顧客体験の最大化は、後からでも極めれば逆転できると思います。世界トップシェアを争っているような日本企業にしてみれば、方法をCPSにシフトすることで、引き続き世界における存在感を示し続けることができると考えます。人間中心の新しい社会全体の変革は、エンパワーメントされた個人がボトムアップで推進していくという世界観が訪れると思います。
齊藤 秀
株式会社SIGNATE 代表取締役社長

オプトCAOを経て現職。幅広い業種のAI開発、データ分析、共同研究、コンサルテーション業務に従事。データサイエンティスト育成及び政府データ活用関連の委員に多数就任。博士(システム生命科学)。筑波大学人工知能科学センター客員教授、国立がん研究センター研究所客員研究員。

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