話題のハッシュタグ「#リモワノウハウ語るよ」が書籍化! 『リモートワーク大全』著者に聞く、快適な在宅勤務のコツ

多くの人が突如としてリモートワークを余儀なくされた2020年。ツイッター上では「#リモワノウハウ語るよ」というハッシュタグが登場し、そこで語られる実践的なリモワノウハウが大きな反響を呼びました。そこで今回は同ハッシュタグの発案者であり、先月『リモートワーク大全』を上梓したばかりのシックス・アパート株式会社 広報、壽 かおりさんにインタビュー。リモートワークを成功させ、働く人と企業の双方がメリットを享受するにはどうすればいいのか。そのコツを伺いました。

ざっくりまとめ

- シックス・アパートのリモートワークのルールは「ルールは最小限に」。社員の自主性に委ねている
- 「#リモワノウハウ語るよ」のタグで人気だったのは、仕事のルーティーンの作り方、作業姿勢について
- 円滑なコミュニケーション維持のポイントは、オンラインとリアルを使い分けること。雑談を意識的に増やすこと
- リモートワークのマネジメントにおいて最も重要なのは「相手を信頼すること」
- リモートワークは「感染症対策」だけではなく、これからの時代に求められる新しい働き方

2011年からリモートワーク開始、「ルールは最小限に」がルール

──そもそもシックス・アパート様はいつ頃からリモートワークに取り組んできたのでしょうか?

2011年です。東日本大震災に伴う節電対策の一貫として、2011年の7〜9月にかけて週に一日、オフィス以外で働く日を設けたことが、最初の取り組みですね。これが好評で、それ以来2015年まで、夏場の3ヶ月間限定で週に一日のリモートワークを実践するようになりました。

リモートワークを働き方の中心に据えるようになったのは2016年夏です。親会社からの独立に伴い、小さなチームとなる新組織での働き方を見直すことになったのがきっかけでした。そのひとつとして、オフィスのサイズを大幅に縮小し、全社員が毎日リモートワーク、必要な時のみ出社する働き方に切り替えました。2011年からの5年間でセキュリティシステムの導入や、チャットやイントラブログを活用したコミュニケーション、業務ツールのクラウド化など、リモートワークの基本的な仕組みを構築してきていたので、チャレンジングな取り組みであることは認識しつつ、大きな不安はありませんでした。
──リモートワークの本格的な導入にあたって、社内ルールなど設けましたか?

強いていうなら「ルールは最小限に」がルールで、社員の自主性に委ねられた部分が大きかったですね。勤務規定の「出社・退社」を「勤務開始・終了」に書き換えたことと、毎月1.5万円のリモートワーク手当を新設した以外には、これまでと大きく変わりはありません。社員それぞれが、個人のQOL(生活の質)を重視しつつ、チームの一員としての自分の職務を果たせる働き方を自分で作っていきました。その結果、ある社員は遠方に暮らす家族の闘病をサポートしながら働くことができました。また別の社員は、秋田の実家に長期間滞在してワーケーションを先取りするような働き方を実践しました。勤務時間を少しずらして、夕方から地元の小学生バレーボールチームのコーチとして活躍している社員もいます。ITチームが全員で温泉地へ赴き、そこから仕事をする、なんていうこともありましたね。つまりリモートワークの導入によって、社員それぞれが自分にあった働き方を自由に選べるようになったのです。

あなたの作業姿勢は大丈夫?ダイニングテーブルで仕事をしている人へのツイートも人気に

──そうやって社員のみなさまがボトムアップで取り組むなかで「#リモワノウハウ語るよ」タグへとつながる知見が蓄積されていったのですね。ちなみにこのタグは、どういった経緯で生まれたのでしょうか?

日本で新型コロナウイルスの感染が拡大しはじめた2月頃から、「シックス・アパートさんは以前からリモートワークを導入しているそうだけれど、実際のところどうなの?」といった感じで、知人から個人的にリモートワークについて相談されることが増えてきたんです。当時は緊急事態宣言も出る前でしたから、リモートワークを取り入れている企業はまだまだ少数で、みなさん戸惑っていたのだと思います。

そうした相談には個別にお応えしていたのですが、どこかでまとめてノウハウをシェアするべきだと思い、ひとまず実験として個人のツイッターアカウントで、リモートワークに関する情報を発信してみることにしました。だからプロフィール上で「シックス・アパートの広報」と明かしてはいたものの、当初は私が勝手に始めた取り組みだったのです。

2020年2月17日に初めて「#リモワノウハウ語るよ」ダグで投稿すると、当日のうちに200件以上リツイートされるなど、想像以上の反響がありました。同僚たちからも「こんな話もしてみたら?」とアイデアをもらったので、それらも投稿することになり、結果的に会社を巻き込んでの取り組みとなっていった形です。
──特に反響の大きかったツイートはありますか?

数字だけを見るとツイートごとに大きな差はないのですが、「早めに仕事開始しよう」「早めに終わろう」「タイマーかけて集中しよう」といった仕事のルーティーンの作り方に関するノウハウは、多くの方に求められていたという実感がありますね。

作業姿勢に関するノウハウも好評でした。例えばダイニングテーブルにノートパソコンを置いて作業しているとすると、視線が下向きになってしまい、腰や首に負担がかかってしまいます。そんなときは雑誌などをパソコンの下に置いて高さを調整し、外付けキーボードやマウスを使用するだけで、ずいぶん疲れにくくなるはずですよ。

円滑なコミュニケーションを維持するために

──リモートワークの大きな課題として「社員同士のコミュニケーション不足」を挙げる方も多いと思うのですが、壽さんはその点をどうお考えですか?

会うべきときには会える環境を用意しておくことがポイントだと考えています。それは弊社がコンパクトながらも物理的なオフィスを残した理由でもあります。例えば「プロジェクトが佳境だから、この一週間はチームメンバーがオフィスに集まって作業にあたろう」といったように、リモートワークとオフィスワークをフレキシブルに使い分けていくことが重要です。

また新入社員は入社後1ヶ月間、メンターとなる上司とともにオフィスで働いています。その間にOJTで業務に不可欠なスキルを身につけられますし、1ヶ月間出社すれば、ほとんどの社員と顔を合わせることができましたからね。それがその後の人間関係の基盤となるわけです。

ただしこれらはいずれも、コロナ禍以前だったからできたこと。感染が拡大しているタイミングでは、同じようにはいかないでしょうね。
──コロナ禍という特殊な状況ならではの難しさですよね。

そうですね。ただオンラインのみでのやりとりについても、工夫すればコミュニケーションの質を高めることはできると考えています。

まず基本的には、自分が抱えているタスクの進捗や課題をこまめに共有すること。真面目に働いていることは姿ではなく、こまめな発信で見せていくべきだと思います。朝礼や終礼のように、チャット上などで定期的に報告をする仕組みをつくると良いでしょう。

また、背景や意図を省かず丁寧にテキストで伝えるローコンテクストな伝え方も重要です。受け取る側も察したり、忖度したり、空気を読んだりするのではなく、書いてある言葉の通り受け取りましょう。

一方で、仕事とは関係のない雑談は存分にハイコンテクストにやっています。実際に弊社ではよく社員同士がSlack上で雑談をしています。オンライン会議でも、仕事と直接関係のないお喋りの時間が、会議そのものより長くなってしまうことも度々です(笑)。一見無駄な時間に見えるかもしれませんが、実はこういったやりとりが帰属意識の醸成につながり、コミュニケーションの質を高めてくれているのです。

仕事に関するやりとりは、後から読んでも理解できるようにローコンテクストな情報としてテキストでわかりやすく発信する。その一方で、ハイコンテクストなやりとりができる関係性を維持するために、積極的に雑談もしていく。どちらかだけでなく、両方を十分に意識することがリモートワークにおけるコミュニケーションのコツになります。

まずは信じてみる。それがリモートワーク成功の鍵。

──マネジメントに関してはどうでしょうか? 例えば、リモートワークに移行すると、評価制度が成果主義的にならざるを得ないと言われていますよね。

もちろん成果も大事です。ただ私たちは、仕事の「プロセス」についても変わらず大切にしていきたい。ほとんどの業務で、タスク管理ツールなどで進捗報告や作業時間といった「プロセス」を可視化しています。さらに社員一人ひとりがどんな風に仕事に取り組んでいるのかを把握するために、上司と部下が1on1でミーティングする機会を設けています。

いずれにしてもリモートワークでのマネジメントにおいて最も肝心なのは、相手を信頼することです。疑うことをベースとしたリモートワークは、監視のための管理コストがどんどん膨らんでしまいます。逆に「信頼」を前提に仕組みをつくっていけば管理コストを削減できます。社員にとっても「サボっていないか常に監視されている」よりも、「会社に信頼され自由を与えられている」と実感できる環境の方が、モチベーションも高まりますよね。
──「信頼」はマネジメントに限らず、リモートワーク化を進める上で重要なキーワードになりそうですね。

仰る通りです。私たちが2016年からのリモートワーク経験を踏まえて作成した「SAWS(Six Apart らしい Working Style)」の行動指針でも、まず初めに「信頼、性善説に基づいて、無駄を省いて、本質的な働き方をしよう」と明記しています。「信頼」こそリモートワーク成功の鍵を握っていると言っても過言ではないでしょう。

ちなみにこの行動指針は、他社が行動指針を作る際にベースとして無償でご利用いただけます(クリエイティブ・コモンズの「表示(CC BY 4.0)」の条件でライセンス)。全文は弊社Webサイト内の書籍紹介ページ上で公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

リモートワークで、もっと自由な社会を

──壽さんは先日、そうしたリモートワークのノウハウをまとめた『リモートワーク大全』を上梓されました。この一冊にはどのような思いが込められているのでしょうか?

まずはやはり、今リモートワークに試行錯誤されている方をサポートしたい。そのために、リモートチームの働き方やワークスペース作りだけでなく、家族や暮らしにも目を向けた105個のノウハウを書籍に詰め込みました。リモートワークは「感染症対策」だけではなく、これからの時代に求められる新しい働き方です。シックス・アパート社員の多くが、この働き方のおかげで家族や趣味など自分の時間をより充実させることができ、その分仕事にも邁進できていると実感しています。

働く場所と時間をフレキシブルに選べるリモートワークであれば、育児やご家族のケアといったライフステージの変化にも柔軟に対応できるでしょう。通勤という負担から解放されれば、シニアが活躍できる職場も広がるはずです。海外の方と働いたり、逆に日本に住む人が海外で働いたりする機会もどんどん増えていくでしょう。

住む場所や年齢、国籍、ライフステージに捉われず、より多くの方が社会で活躍できる。そんな社会の実現を加速する一冊になれば幸いです。

リモートワーク大全 | 壽 かおり

会議、打ち合わせ、ツール、家族との付き合い方、体調管理、ストレス、時間管理……リモートワークに必要な事すべて

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、「会社に出社しない」働き方を導入し、リモートワーク・テレワークを実施する会社が増えてきている。なかには出社の義務をなくしている、あるいは出社日数を大幅に減らしている会社もあり、リモートワーク・テレワークを取り入れた働き方が浸透しつつある。
一方で、急遽リモートワーク・テレワークを導入したこともあり、導入した企業だけでなく、実際に働く社員からも戸惑いやストレスの増大、コミュニケーション不足などの問題点が言われている。
本書は、主に一般のビジネスパーソンが、リモートワーク・テレワーク時に必要なことがすべて書かれた一冊。ツールやアプリ、会議・打ち合わせの効率的なやり方から、家族や子どもとの接し方まで、本書を読むだけで、リモートワーク・テレワークに必要なことがすべて身に付きます。

詳細はこちら

壽 かおり

シックス・アパート株式会社 広報
Six Apart ブログ編集長

2010年、シックス・アパート株式会社に入社。2014年より同社の広報・マーケティング担当、オウンドメディア「Six Apart ブログ」編集長に就任。「SAWS」と名付けた、リモートワークを前提とした働き方を積極的に発信してきた。2019年には、会社としてテレワーク先駆者百選 総務大臣賞を受賞。著書に『リモートワーク大全』。

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