【業界展望】UUUM社買収はなぜ起こった!? 転換期を迎えた動画広告ビジネスの勝ち筋

多種多様な動画コンテンツを生み出し、もはや職業として確立されているYouTuber。なかでも、YouTuberビジネスにいち早く着目し、YouTubeチャンネルのサポートを中心に、インフルエンサーマーケティングや、グッズ・イベント事業、メディア事業などを展開する業界最大のマネジメント企業がUUUM社です。

そのUUUM社が、2023年8月にIT大手のフリークアウト社に買収され、業界に大きな衝撃を与えました。まさに、インフルエンサーマーケティングや動画広告市場の大きな転換点となる出来事といっても過言ではないでしょう。

企業とインフルエンサーの関係性、動画広告のあり方や必要性はどのように変わっていくのでしょうか。株式会社オプトにてコミュニケーションプランナーとして、様々な動画広告、動画市場をみてきた株式会社オプト プランニング統括室 コミュニケーションデザイン部の中村 駿介さんに、業界の行方や未来についてお話を伺いました。

SNSクリエイターのマネジメントビジネスは限界に

── 2023年8月に、テック企業のフリークアウト社が業界最大手のYouTuber事務所であるUUUM社を買収し、大きな話題を呼びました。Youtuberビジネスの転換期ともいわれるなかで、どのように業界の再編が進んでいくのでしょうか?

今回のUUUM社の買収は、SNSクリエイターを取り巻くマネジメントビジネスが限界を迎えていると言えるでしょう。SNSという開かれたプラットフォームが台頭したことで、事務所がタレントをマネジメントする必要性が薄れてきているわけです。UUUM社の創業期から、二人三脚で支えてきた一部のクリエイターを除き、クリエイター自身が事務所に所属する意味を見出せなくなってしまった。これが、企業成長を鈍化させた一因だと思っています。

一方で、インフルエンサーマーケティングは活況を呈しており、「縦型ショート動画」のニーズの高まりにより、動画広告の需要は飛躍的な伸びを見せています。

まず、従来はパソコンでの視聴を想定したアスペクト比(画面比率)が16:9の動画が主流でしたが、スマホでの動画視聴へのシフトにより、短尺で情報が集約されている縦型動画のニーズが高まりました。その結果、TikTokやInstagramのリール、YouTubeのショートやLINEのVOOM(ブーム)などの動画コンテンツが急増しています。

次にコネクテッドTV(CTV)の発展は広告運用にも影響をもたらしています。これまでのテレビCMは、ターゲットユーザーに対する広告効果のパフォーマンスを可視化できず、PDCAサイクルを回せないという課題がありました。しかし、CTVの登場で地上波での「放映」から、ネットでの「配信」に変わってきたことで、ユーザーのアクションを定量化することが可能になり、広告運用の最適化を図れるようになってきました。結果として、テレビデバイスでもデジタル広告のようにデータドリブンな広告配信や運用ができるようになったわけです。これらの理由により、クリエイターのマネジメントの必要性は薄れつつも、クリエイター自身の活躍の場は広がっているといえるでしょう。

フリークアウト社は国内IT企業の雄であり、UUUM社の抱えるクリエイターを傘下に置くことで、新たな広告プロダクトを生み出し、ビジネスを展開していくと予測しています。クリエイターの体験価値を最大化させ、多くのユーザーを巻き込めるコンテンツを創出していく。IT企業ならではのテクノロジーで支援するエコシステムを形成する狙いがあるのではないでしょうか。

変わるクリエイターと企業の関係性。

── クリエイターと企業の関係性は、これからどのように変わっていくとお考えですか?

YouTuberなどインフルエンサーを抱えるマネジメント事務所はスケーラビリティを追求するため、インフルエンサーマーケティングをノウハウ化し、汎用性に富んだパッケージビジネスを展開しようと考えますが、クリエイターは個としての市場認知とマネタイズを重視しており、こうした方向性や考え方の違いが“歪み”を生みやすくしています。

今後、企業としてはマネジメントビジネス一辺倒にならず、プラットフォームやテクノロジーもセットで提供しなければ、競争優位性が失われてしまうでしょう。クリエイターについても、稼げる人とそうでない人の格差がより一層広がっていくと思っています。クリエイターのなかでも自分の独自性を発掘し、物販や配信でのマネタイズなど、企業に頼らなくても収益化につなげられるスキルを持つ人だけが、稼げるような時代になると捉えています。

加えて、2023年10月からステルスマーケティング(ステマ)の規制法が施行されたことで、健全な広告ビジネスが求められるようになりました。つまり、広告主側がインフルエンサーをある種“メディア”として扱っていたのに対し、今後は一人ひとりのインフルエンサーを“パートナー”と捉え、持続的な関係性を考える必要がでてきた。広告主とインフルエンサーは、スポット案件にアサインする側・される側という関係から脱却し、win-winかつ対等な関係性を構築することが重要だと思います。インフルエンサー自身も力を持つようになったことで、仮にインフルエンサーの世界観と合わない仕事を依頼した場合には、広告主が意図しないアウトプットになることも多分にあると思っています。

企業がクリエイターと共創してUGC※を追求することが勝機につながる

── このように市況が変わるなかで、どのようなビジネスチャンスが生まれるのでしょうか?

ビジネスチャンスを考える上で押さえておくべきことは「クリエイターのパワーが強くなった」ことです。かつてのテレビがメディアの中心だった頃は、ユーザーが情報を得たりエンタメを楽しんだりする場合にテレビ番組を追っていました。そうなると、芸能事務所に所属するタレントは、テレビ番組に出演することで名前を売ってもらわなければならなかったわけです。それが時代とともに、プラットフォームが「クローズド」から「オープン」に移り変わり、ユーザーがSNSを使ってクリエイターの動向を追えるようになった。また、クリエイター自身もコンテンツをつくれるようになったことで、事務所に頼らなくても、自分の才覚をもって稼ぐことが可能になったのです。

その結果、先述した「稼げるクリエイター」と「稼げないクリエイター」の二極化が広がっていくからこそ、そこを埋めていくビジネスが求められるのではと考えています。例えば、ツールベンダーや広告会社がクリエイターと手を組み、互いに共創しながらユーザーが求めるコンテンツを追求していく流れも、今後さらに加速していくと思っています。その最たる例が、まさにフリークアウト社によるUUUM社の買収の件ですが、企業の内部にクリエイターを置いたり提携を結んだりすることで、クリエイターが培ってきた知見や審美眼がテクノロジーで後押しされ、これまでにないユニークなコンテンツ生成が実現できるのではないでしょうか。ユーザーの志向やトレンドが変わってもクリエイターがつくる「本物のUGC」は、ユーザーにとって魅力的なものになる確率が高まると言えるでしょう。

しかし、クリエイターが生み出したコンテンツをトレースした「UGC風なもの」は、コンテンツのブームや流行り廃りが激しいゆえにキャッチアップが大変で、どんなものをつくればユーザーに刺さるのかが読みづらくなっています。どの企業もUGCの「解」を求めていますが、それを一番知っているのがクリエイターなので、いかに企業とクリエイターがコンテンツを生み出し、ユーザーを巻き込んでいけるかが肝になるのではないでしょうか。

※ UGC:User Generated Content(ユーザー生成コンテンツ)の略。企業側ではなく消費者であるユーザーによって制作・発信されるコンテンツのことを指す。

中村 駿介

株式会社オプト プランニング統括室 コミュニケーションデザイン部

2015年オプトに入社。コミュニケーションプランナーとして、“テクノロジーとクリエイティビティの融合から生まれる持続的なコミュニケーション”をテーマに活動。2021年より、ストラテジー、クリエイティブ、メディアを包括するプランニング領域の統括に就任。

Article Tags

Special Features

連載特集
See More