東京・中央区がロボットタウンに進化中!?ロボットベンチャーZMPが生み出すロボットで、街と生活はどう変わるのか

物流支援ロボット「CarriRo®(キャリロ)」に歩行速ロボ「RakuRo®(ラクロ®)」、宅配ロボ「DeliRo®(デリロ®)」や警備ロボ「PATORO®(パトロ®)」などを開発するZMPは20年の歴史を持つ老舗ロボットベンチャー。自動運転技術の先駆けとして、ヒトとモノの移動を自動化する数々のモビリティを提供しています。人型ロボットの開発に始まり、現在はロボットと人間がともに暮らす街づくりプロジェクトも積極的に推進中。ロボットが社会に進出することで、我々の生活はどう変わり、どう便利になるのか? 株式会社ZMPの代表取締役社長 谷口 恒氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- ZMPは配達や移動、見回りのための自動運転ロボットを開発している

- 屋内外を移動するロボットは、周囲の人間の理解が必要。社会にすぐ溶け込めるよう、親しみやすいデザインやスピードを意識している

- 現在は、ロボットを普及させるため各地で街づくりプロジェクトにも関わっている

- 人とロボットが共生すれば、移動や配送、高齢者が抱える買い物や散歩など、多くの問題の解決が進むと期待されている

人型ロボットへのこだわりをやめ、二輪移動の開発を進めたことで見えた可能性

―御社の「ヒトとモノの移動を自由にし、楽しく便利なライフスタイルを創造する」というミッションはどのように生まれたのでしょうか?

2001年の創業時から、ロボット技術やサービスで、楽しく便利なライフスタイルを創造するということを念頭に置いています。最初は人型ロボットの開発に取り組んでいたのですが、開発の途中で「移動を自動化すること」の大切さに気づきまして。自律移動というものに非常に価値があると気づいて、その開発を進めました。人やロボットが自由に移動できる技術を発展させて、最終的には楽しく便利なサービス、ロボットサービスを実現させることがゴールです。

―自律移動に価値があることに気がついたのは、なにがきっかけですか?

最初はHondaの「ASIMO(アシモ)」などに代表される、人間の形をして歩くことがおもしろいという、エンターテイメントロボットを開発していました。最初はおもしろいという視点からスタートしたのですが、やっぱりおもしろいだけでは事業は継続しないんです。だんだん売り上げも鈍化して、お客様に継続して使っていただけるような価値を見出せませんでした。

実は、開発にあたり一番コストになっているのが、二足歩行の足の部分でした。おもしろいけど、移動という点ではあまり実用的ではない。ちょっとした段差でも倒れてしまいます。そんなこともあり、おもしろさから離れて、自由に移動できるようにしようと、二足歩行ではない二輪のロボットの開発をすることにしました。車輪だから当然倒れることもないし、その場で回転もできて小回りが効きます。

当時はiPodに代表される、音楽デバイスが一気に普及し始めたころでした。そこで2007年に開発したのが、iPodを搭載できる「miuro ®(ミューロ)」という自律移動する音楽ロボットです。目覚めたときも、リビングでくつろいでいるときも、自分が家のどこにいてもロボットが移動してきて、iPodで音楽が流せるというもので、銀座のApple Storeでも発売されました。そこで移動の価値に気づいたんです。

ロボットは人間社会にとって新参者。「サザエさんの三河屋」をコンセプトに、人の役に立ち、愛される存在を目指す

―音楽ロボットが原点にあるんですね。御社はこれまで数多くの自律移動ロボットを開発してきましたが、どのようなものがあるのでしょうか?

車の自動運転の開発にはまだまだ時間がかかる見込みなので、2016年に工場と倉庫の中で働く「CarriRo®(キャリロ)」という物流支援ロボットをリリースしました。最初は台車のロボットだったのが、パレットを運んだり、パレットを棚に積み込んだり、今はいろいろなニーズに対応して、250以上の企業にご利用いただいています。工場、倉庫の物流ではCarriRo®の導入が進んでいますね。

その次が、自宅まで荷物を届けてくれる「DeliRo®(デリロ®)」という宅配ロボットです。いずれも実証実験の段階ですが、日本郵便と連携してゆうパックを届けてみたり、東京都中央区の佃・月島地域でENEOSと連携してフードデリバリーなんかやってみたり。デリバリーでは、大手のコンビニから地元のメロンパン屋、タピオカ屋、海苔巻き店、少し離れた築地の仕出し屋も参加してくれました。街のENEOSにDeliRo®を置いて、そこが物流のハブになったらおもしろいなと。同地区では他にも「RakuRo®(ラクロ®)」という1人用の自動運転ロボットの住民向けシェアリングサービスを実施して、今では600人近くの方に会員になっていただいてます。あとは、地下鉄や地下街でパトロールと消毒を自動で行う「PATORO®(パトロ®)」というロボットもあり、コロナウイルス対策としても使用されています。

―今ご紹介いただいたDeliRo®やPATORO®、RakuRo®などのロボットはどれも非常に親しみやすい見た目ですが、デザインをする上でかわいらしさにはこだわったのでしょうか?

そうですね。CarriRo®は倉庫や工場で働く裏方ですが、DeliRo®やPATORO®は、街の中、ときにはマンションの中に入ってくる存在です。今流行りのクールでシンプルなデザインだとなんか怖いというか。鉄の塊みたいなロボットが勝手に動いていたら邪魔だ、という人もいますし、そんな無機的なロボットが我が物顔で歩道を歩いていたら、クレームも出てくると思うんですよね。ですから、デザインにはこだわっています。
ロボットは人間社会からすれば新参者です。そんなロボットを作るときの私のコンセプトは「謙虚で健気に愛らしくするべき」です。人間と同じ速度で移動してかわいらしさも弱さも見せつつ、理解を得られるようなロボット作りをしています。

―その視点はすごくおもしろいですね。常に低姿勢で周囲の人間に配慮していくということですよね。

ロボットが街中を移動してると、たまに小学生に囲まれて立往生してしまうんですよ(笑)。そこに女の子が来て、道を開けるように男の子たちに注意しているような光景も見られます。そして次第に子どもたちもRakuRo®、DeliRo®という名を覚えて手を振ってくれるようになっています。街の人気者になることはすごく大切です。それを見た保護者も理解してくれるし、高齢者の方含めてみんな微笑ましく思ってくれる。そういう環境づくりが大事です。

ロボットの移動中は、人間と同じで、目がずっと動いてるんですよ。前から人を検知すると、視線が動いてウィンクとかいろんなパターンがあるんです。「こんにちは」というあいさつもします。人間同士、都会だとあいさつする習慣はないけど、ロボットはずっと街で仕事をさせてもらう立場なので。コンセプトは「サザエさんの三河屋」です。みんなにあいさつをして、街の人の役に立つような。そういう存在にしたいと思っています。

地域住民の足としても活躍!中央区では大病院を自動運転ロボットで繋ぐ「医療ベルト構想プロジェクト」も

―サザエさんの三河屋というコンセプトは、非常によくイメージが伝わります。先ほどのお話にあった中央区の佃・月島地区でのプロジェクトについて詳しく教えてください。

佃・月島は高齢者が多くて、皆さん車の免許を返納されているので、マンションの駐車場も非常に空きが目立つ状況なんですね。そこに自動運転ロボットのニーズがあると思い、空いた駐車場に弊社のロボットを置かせてもらって、地域住民の足として活用してもらいたく、始めたものです。

街の目抜き通りにショールームを開設したら、街の人の関心が非常に高くて。特に小さい子どもが興味を示して乗ってくれたんですよ。その子どもが祖父母に勧めて、最初はいぶかしげだったおじいちゃんが、孫に勧められると思わず乗ってしまうという。足を悪くして塞ぎ込んでいた高齢者が、ロボットを利用することで街に出るようになるなど、そんな効果もあるんだなという新しい発見でしたね。

もうひとつ驚いたのが、一企業が補助金もなく街でこんなサービスを展開することに、関心を持ってテレビ局が取材してくれたことです。さらに、テレビが取り上げてくれたことで、地域の大きな整形外科がRakuRo®に興味を持ってくれました。周辺には聖路加国際病院とか慈恵医大晴海トリトンクリニックなど大きな病院もあり、現在それらをRakuRo®で結ぶ「中央区医療ベルト構想」というプロジェクトを一緒に立ち上げています。

―予期せぬところから生まれた新しいニーズが、形になりつつあるんですね。

そうですね。この地区の最寄りの大江戸線は地中深くて、電車で通う患者さんの負担になっていました。この地域の患者さんのことを良く知る地元の医師が、上記の構想を提案してくれたことで、地域社会が動き出した感があり、私たちとしてもすごくうれしく思っています。

新しいニーズといえばもうひとつ。佃地区は花見の名所なんですが、RakuRo®を使い、複数人で花見を開催してたら、その光景を見た高齢者施設の入居者さんから「うちの施設でもやってほしい」という依頼がありました。そこは有名で規模も大きい施設ですが、コロナで1年以上散歩に行けていなかったそうです。散歩に行きたくても、ただでさえ人で不足なことに加えて、消毒や感染対策で手が回らず行けてないと。そこで、高齢者施設のお花見大会を請け負ったこともあります。これも現地の皆さんの希望から始まった取り組みですね。

―自動運転の話は技術的な面にフォーカスされがちですが、お話を伺う限り人間とロボットの共生といいますか、ロボットに対する人間の障壁をいかに取り除くことが重要かということを実感しました。

はい。家庭用のロボットと違って、自動運転のロボットは街を走って、不特定多数の人間と接するものですから。なにより市民の方の理解が必要ですし、道交法といった法律や警察をはじめとする関係各所の方々が関係くださっています。

そういう意味では街づくりに加わらないといけないんですね。昨年から「ロボタウン」という街の構想をしていまして。ゼネコンと組んで、これから建設されるマンションや病院、商業施設、学校の建設なんかにも関わっています。例えば、古いマンションのエレベーターにロボットを乗せるにはいろいろ問題がありますが、これから建てる建造物はデリバリーなどのロボットが内部に入ってくることを想定して設計された、ロボットありきの建造物が多くなっています。

人とロボットが共生する街づくりが実現できれば、社会が抱える諸問題の解決につながる

―ロボットの開発から街づくりに進出するようになったんですね。

街中には複数のロボットが配置されますから、それらをクラウドで管理する「ROBO-HI®(ロボハイ®)」というシステムも開発しています。例えば、エレベーターにロボットが1台入ったら、次のロボットが入れないよう制御したり、早朝とか昼間の空いてる時間はロボットも住民用エレベーターを利用するけれど、混んでる時間には荷物用エレベーターを使うようにしたり。そういう優先順位を制御しています。セキュリティゲートも非接触の無線で通れるようにするなど、ビル全体のマネジメントにも関わっていますね。

―2001年の創業時に、街づくりのことまでは考えていましたか?

いえ、まったく考えてなかったです。当時は家電製品と同じ感覚でロボットを売るという発想でしたからね。スマホのようにみんなが利用すればたくさん売れるけど、飽きられたら売上が伸びない。それはエンターテインメントロボットで学んだことですけどね。常におもしろさを追求するのは大変なんです。

―ロボット開発と街づくりについて、今後の展望を教えてください。

物流のラストワンマイル問題、何年も前から物流クライシスと言われていますが、そこを解決したいです。コロナ禍で長距離ドライバーに対する言われなき差別なども露呈しましたし、下請け業者が低賃金で働いている現状もあります。ロボットであれば深夜でもオンデマンドで配達できます。社会を変えていくためにも、そういう重労働はロボットに変えていく。変えないといけない。それによって解放された人が、もっと創造的な仕事に就く。ロボットを開発する企業として、それは使命だと思っています。

街づくりに関しては欧州のように歩行者中心、人間中心の街づくりをしていきます。街の中心に車が入ってくること自体が危ないし、今の日本は小さい子が安心して歩けるような歩道ではないんですよ。自転車でさえ、かなり速い速度で走ってますからね。速度によって区分けをして、街の中心は歩行者と人間と同じ速度のロボットが中心で、その周囲を車や自転車などが移動する。人とロボットが共生することで、移動の問題、買い物の問題とか、高齢者の一人歩きや健康問題などは一気に解決に進みます。歩行者を中心としたウォーカブルな街。歩いていて楽しい街を作っていきたいですね。

谷口 恒

株式会社ZMP 代表取締役社長

2001年にZMPを創業。家庭向け二足歩行ロボットや音楽ロボット開発・販売を手掛け、2008年から自動車分野へ進出。メーカーや研究機関向けに自律走行車両の提供を行う。現在、「RoboCar® Mini EV Bus」などの「RoboCar®」シリーズ、物流業界のワークスタイルを変革する台車ロボ「CarriRo®」及び無人フォーク「CarriRo® Fork」、ラストワンマイルのデリバリーを自動化する無人宅配ロボ「DeliRo®」、高齢者の移動を快適にする歩行速モビリティ「RakuRo®」、無人警備・消毒ロボット「PATORO®」など、様々な分野へのロボット技術の展開『Robot of Everything』戦略を進めている。
2019年3月、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了、美術博士。

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