中小・ベンチャー

建築棟数が倍増し、広告費は半分に。UターンしたWebマーケティング専任担当者が建設業界に起こしたデジタルシフト

仕事の特性や長年の商習慣から、まだまだデジタルシフトが進まない業界は多い。もちろん全てをデジタル化すれば良いわけではないものの、デジタルを活用することで生産性が向上したり、新たな可能性が見つかることもある。
今回は、地方、中小企業を支援するソウルドアウト株式会社代表取締役会長CGOの荻原猛氏が、新潟の建築業界のデジタルシフトについて、坂井建設株式会社マーケティング部部長、Webディレクターの古川和茂氏にお話を伺った。

「便利そう」という地道な空気作りから、デジタルで生産性を向上

荻原:古川さんは、坂井建設さんに入社されてからデジタルシフトに取り組まれたとお聞きしています。具体的にどんなことをされたのですか。

古川:取り組んだことは大きく2つ、生産性の向上とデジタルマーケティングの改善です。

以前は東京でシステムエンジニアやECサイト、メディアの管理者などをしており、家庭の事情などから39歳をすぎて地元である新潟にUターンしました。そこで紹介を受けて坂井建設に入社したんです。

坂井建設は創業時からの土木事業に加えて新たに住宅事業をはじめ、そちらの業績が伸びてきているところでした。私は住宅事業のWebマーケティング専任担当者としてジョインしたんです。

入ってみてまず、業界自体がアナログであることに驚きました。広告はチラシや看板が多かったですし、連絡手段すらFAXが主流。メールを使っていない職人さんもいらっしゃいました。これでは生産性が上がらないと感じ、デジタルの力を使って生産性向上に取り組んだんです。

最初にやったのは、ガラケーをスマホに変えることでした。システムの導入に理解のある社長だったので、スマホは会社に支給してもらえることになったんです。メールもクラウドに切り替えて、どこでも確認できるようにしました。

その上で、施工管理アプリ(ANDPAD)を導入しました。前職で関わりの合った人がアプリを作ったという情報が、SNSで偶然流れてきたんです。こんなツールがあるなら使おうと、早速連絡をとって導入を決めました。

その頃施工現場は全てがアナログで、色々な不都合が生じていました。例えば、図面を修正した時に紙で保管するため、どれが最新の図面かわからない。そのため、大量の書類が入った段ボール箱をいつも現場に持って行っていました。また、注文書や請求書も紙でやりとりしていて、わざわざ職人さんが移動コストをかけて会社まで取りに来ていたんです。さらに、現場にいる人とコミュニケーションを取るのも大変で、現場監督は四六時中職人さんと電話をして、合間にFAXを流している状態でしたね。そんな状態で全ての現場を見られるわけもなく、結果的にトラブルが増えてお客様に迷惑をかけてしまっていました。

アプリを使うことで、最新の図面を確認できたり、工事の進捗状況を把握することができます。請求書や注文書もオンラインでのやりとりが可能。加えて職人さん同士のコミュニケーションも取れるので、かなり業務が効率化でき、生産性が上がるはずだと考えました。
荻原:経営者の方々がデジタルシフトを望んでいたというのは大きいですね。とはいえ、これまでデジタルに取り組んでいなかった業界の方々や社員のみなさんには、すぐに受け入れられましたか。

古川:難しかったですね。これまで紙だったものがオンラインになるというだけで、アレルギーが出てしまう方がほとんどでした。年齢関係なく、業界的な特徴だと思いましたね。社員にも不慣れな方も多かったですし、何より外部の職人さんたちへの説明がかなり大変でした。

荻原:みなさんそこに苦労されると思いますが、どうやって進めていったんですか。

古川:アプリには色々な機能があったので使って欲しかったですが、FAXでやりとりしていた方に対していきなり使ってもらうのは難しいと思いました。そこでまず、「アプリを立ち上げて現場の写真を撮ってください」と一個だけ伝えることにしたんです。

工事のチャット上に、現場の写真を毎日アップしていく。それをなんとなく眺めるだけでも進捗状況が共有できるので、できそうなところから小さく始めて「なんとなく便利そうだな」という空気感を作ることが大事だと思ったんです。加えて、写真に絵を描ける機能などを紹介して、楽しい感じを出せるよう工夫しました。

荻原:素晴らしい。クイックヒットを打つことが大事ですよね。一回空気を作らないと、なかなか使用への流れは作れないと思います。

古川:ただ、説明するだけでもなかなか導入は進みませんでした。一度建設業界の大きな集まりの際に、職人さんに向けてアプリの導入について説明して申込者を募ったのですが、誰も申し込んでくれなくて。3ヶ月ほど経っても全然導入が進まなかったので、まずは関係性を作るために職人さんと飲みに行きました(笑)。

荻原:わかります(笑)。飲みに行かないと話なんか聞いてくれないんですよね。ITというと外来種がきたぞという感じになって、本当は役に立つためにやっていても、なかなか味方だと認識してもらえないんです。

古川:特にこの世界はそうですね。飲みの席で便利だから使ってくださいよと話して回りました。その場で登録しなくても、こういう人間がツールを導入したいという話をしていた、と覚えていてくれるだけでいいと思っていました。あとは空気ができれば自然と登録してくれるのではないかと思ったんです。

徐々に、社員の中からアプリが便利だから導入しようという空気が生まれ、職人さんも登録する人が増えていきました。結果として250社に導入してもらい、生産性が飛躍的に向上しましたね。1年くらいかかりました。

荻原:どうしてもそれくらいかかりますよね。数ヶ月やって諦めるのではなく、長期で取り組む覚悟が必要ですね。

専任担当者を採用する覚悟

荻原:デジタルマーケティングについてはいかがでしたか。

古川:最初に課せられたのは、10件程度しか問い合わせがなかったホームページで、1ヶ月の資料請求を倍増させることでした。それまでほとんど取り組んでいなかったので、ブログの内容をリライトしたり、資料請求のメリットに訴求できるフォームを作ったりなど、色々な観点でホームページの見直しを図りました。大手メディアにも出稿し、ページへの流入数も増やしましたね。御社にお手伝いいただきながらランディングページも見直しました。基本をしっかりやることで、スムーズに成果を出すことができましたね。

結果として、入社当時はチラシや看板が多く、リアル:Web=8:2だった広告費の比率を、Web中心の2:8に変えるまでになりました。成果としても、入社当時は年間80棟程度だった建築数を、160棟に倍増させることができたんです。しかも、かけている広告費は約半分になりました。

荻原:それはかなりすごいですね。成果が出たからこそ、Webにかける広告費を増やせたんですか。

古川:そうですね、効果が出たことで発言しやすくなりました。県内の住宅事業者にもベンチマークされるような存在感を出せるようになり、私自身は県外の工務店様のコンサルティングも任せていただけるようになっています。

荻原:そういった効果が出せたのは、何が一番大きな要因ですか。

古川:Web専任担当者として任せていただいたことです。もちろん、規模によって採用が難しい企業様もいらっしゃるとは思いますが、やっぱり専任担当者だからこそ、自社のことを考え、本気でマーケティングに注力できたと思いますね。

荻原:それは非常に大きいですね。本当はどの企業も、もうデジタルシフトしなくてはいけないんですよ。思い立ったが吉日で、早くデジタル人材を採用しなければならないと思います。

古川:採用しようと思ってもすぐに人材が見つかるとは限りませんからね。採用するための土壌を作ることが大事だと思います。

荻原:採用を決めてからも人材は見つからないかもしれないし、見つかったとしても今度は育てなければならない。登るべき山は、実は採用活動を始めてからもたくさんあるんですよね。だからやろうかどうか迷っている場合ではなく、やるしかないと思います。

古川:その通りですね。あとは、社長がデジタル領域を一任してくれたことも大きかったです。もちろん担当者への信用が前提ですが、わからない部分を変にハンドリングしようとせず、任せることで成果が出やすくなると感じています。

「きつい・汚い・危険」3Kの業界に、デジタルシフトで「かっこいい」のKを

荻原:最後に、今後の展望を教えてください。

古川:今、日本は少子高齢化が進んでいて、新潟も人口が減っています。その煽りを一番に受けているのは私たちがいる建設業界ではないかと思うんです。建設業界はこれまで「きつい・汚い・危険」の3Kと言われていて、若者の就職先としてあまりイメージがよくない状況でした。でもその3Kは、デジタルのツールなどを活用することで解消できるのではないかと思うのです。

例えば「きつい」のは、アナログなやりとりが多くコミュニケーションが煩雑なのが大きな要因だと思うんですよね。アプリのようなツールを導入することでそれを効率化し、業務時間を短縮して緩和することができるのではないかと思っています。そういったきつさが改善されていけば、帰るときは机をまっさらにするとか、大工用具を元ある場所に戻すなど職場を綺麗に保つことができ、「汚い」も解消できるはずです。

実際、弊社では定期的に現場をパトロールして環境を綺麗に保つようチェックしています。「危険」は現場のイメージが強いからだと思うのですが、実際のところ建設業といっても営業や設計、デザインなど様々な仕事があり、いつも現場に出ているわけではないんです。そういった内情を発信していくことで、イメージが変わるのではないかと思っています。

荻原:デジタルをうまく活用していくことで、業界自体が変わる。

古川:変われると思います。私はたまたまご縁があって建設業界にいるだけかもしれませんが、どうせならこの業界をよくしたいなと思い始めているんです。3Kではなく、「かっこいい」のKを付け足したいと思っているんですよね。

しっかりデジタルシフトも進んでいて、イケてる感がある。そう思ってもらえるために、他県の工務店のコンサルティングを通して、デジタル化を進めようと考えています。自社のノウハウを他社にも展開して成功事例をつくり、みんな一緒にやりません?という空気感を広げていきたいです。そうすれば、業界自体のデジタルに対するリテラシーも上がるし、イメージも変わっていくはず。「建設業界に関わるのは結構かっこいいじゃん」と多くの人に思ってもらえるよう、取り組みを進めていきたいです。

プロフィール

古川和茂(Kazushige Furukawa)
坂井建設株式会社
マーケティング部部長 Webディレクター
鹿島建設のグループ会社にて工程管理ソフトウェアの開発などに携わる。その後、法人向け販売会社・インターネット広告代理店・ゲーム/映像制作会社に移る。ジャンルは違うものの一貫してITやWEBテクノロジーに関わるキャリアを歩み、地元新潟県の坂井建設株式会社に入社。
荻原 猛 (Takeshi Ogiwara)
ソウルドアウト株式会社
代表取締役会長CGO
1973年生まれ。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士(マーケティング専攻)大学卒業後、起業。2000年6月に株式会社オプトに入社。2006年4月に広告部門の執行役員に就任。2009年にソウルドアウト株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。著書に『ネットビジネス・ケースブック』(2017年 同文舘出版 田中洋共著)がある。2019年3月より代表取締役会長CGO(=Chief Growth Officer、最高事業成長責任者)に就任。