キャッシュが潤沢ではない小規模事業者にも成長の機会を。BASEとバンカブルはなぜ金融事業を手掛けたのか

コロナ禍を経てEC市場が成長の一途を辿る一方、中小規模の事業者は円安やインフレ、既存金融機関による慣習に阻まれ、厳しいビジネス環境に身を置いています。特に、事前投資が必要な事業や広告出稿によりビジネスの伸長を目指す場合、現預金が多い、もしくは資金調達の手段を多く持っている大企業が有利になる側面があり、中小企業のビジネス成長に大きな影響を及ぼしています。

そのような環境下におかれている中小規模の事業者を支援しているのが、ECで事業を行う個人や中小企業の資金繰りをサポートする「YELL BANK」を運営するBASE株式会社と、Web広告の出稿費用を4回の分割・後払いにできる「AD YELL」を運営する株式会社バンカブルです。両社はなぜ、中小規模事業者の企業成長を支援するビジネスを展開しているのか、両社が金融事業をはじめたきっかけや今後の展望とは。BASE株式会社 上級執行役員で決済・金融事業を統括する髙橋 直氏と、株式会社バンカブル 代表取締役社長の髙瀬 大輔氏にお話を伺いました。

コロナ禍で小規模企業のEC市場参入が拡大

——コロナ禍によって、EC市場はどう変化しているのでしょうか。

髙橋:BASEグループ全体では、コロナ禍の巣ごもり需要で2020年から流通取引総額が急激に伸長しました。そのまま需要は増えてはいますが、伸び率自体は通常に戻ってきています。ただ、サービス内容の違いにより影響の濃淡があります。EC事業のネットショップ作成サービス「BASE」はEC市場全体の動きとそう違いはありません。一方で、オンライン決済サービスである「PAY.JP」は、ここ最近、サービス提供はリアルで決済はオンラインで行う事業、例えばフィットネスジムの決済などの利用も増え、EC決済需要と合わせて利益を伸ばし続けています。

髙瀬:弊社のお客さまには、もともとEC上で販売されている企業さまもいらっしゃれば、対面でビジネスをしていたけれども、環境変化によってBASEさんなどのプラットフォームを利用して、売り場をオンラインに移した比較的小規模な企業さまもいらっしゃいます。 どちらの企業さまにとっても、ECでモノを販売する際に、広告によって生活者に商品やサービスを知ってもらう行為は必須です。しかし、通常の広告投資は先にお金が出ていくため、どこまで広告費を投じてよいものかと悩んでいる企業さまが多くいらっしゃいます。そうした企業さまにとって、弊社の広告の出稿費用の分割・後払いサービスの需要は非常に増加しています。弊社は思想として、町の団子屋さんや『下町ロケット』に登場するような中小企業を支援したいと思い、ビジネスをスタートしています。そういう意味でも、弊社のビジネス環境にとって、結果的にコロナ禍が追い風になったといえそうです。

伸長するEC市場で金融事業を始めたきっかけとは

——BASEはYELL BANK、バンカブルはAD YELLと、どちらも金融事業を行っています。この事業の立ち上げの理由はなんでしょうか?

髙橋:BASEグループの金融事業は対象者によってサービス内容に違いはあるものの、一貫しているのが「インターネット上のお金の流れを最適化する」という目的です。例えば、先日、購入者向けショッピングサービス「Pay ID」でBNPL(後払い決済)を始めたのですが、これはEC購入の際のエンドユーザーのペインポイント解消を目的としたものです。「カード番号、有効期限などを入力する……」といったECにおけるクレジットカード決済の煩雑さをBNPLによって解消することができます。

YELL BANKは、ショップの将来債権を我々が買い取ることで事業者に対して即時の資金調達を実現する資金調達サービスです。売上から支払率に応じた金額が支払われます。ショップは個人やスモールチームで運用していることがほとんどで、その多くが先立つ広告費や材料費などの資金繰りに苦労しています。にも関わらず、過去実績が不足していることで銀行からの融資が受けられなかったり、キャッシュフロー周りのリテラシーに乏しく資金調達ができていなかったりという現状が見受けられました。YELL BANKは、その課題に対するソリューションとしてリリースしたものです。キャッシュフローの回転率を高めて、売上が立つ時期を早めたり、売上額に対する確度をあげたりすることができると考えています。

髙瀬:AD YELLのサービス開始に関してはグループとしての視点と、私個人の体験が影響しています。バンカブルを擁するデジタルホールディングスは29年間広告をメインとしており、多くのEC事業者を支援した経験もあります。そのなかで自分たちのアセットを活かしながら、グループとして次はどのように成長すべきかを考えたときに、「グループ内のVCと広告事業がそれぞれ単独では順調なものの、うまくシナジーを生み出せていない」という部分に目がいきました。広告マーケティングの知見とEC事業者に関する知見、両方を持つ我々であれば広告とファイナンスでシナジーをつくっていけるのではないかと考えたことが、ビジネス視点でのAD YELL立ち上げの理由です。

一方で個人的な体験として、私は新卒で入社した事業会社で営業やマーケティングを経験したのち、2社目でスタートアップの立ち上げを行っています。その際、限りある財源を使う立場にあり、開発に回すべきか、採用に使うべきか、広告に投資すべきかという分配を常に試行錯誤しながら行っていました。その後、広告代理店に転職してみると今度は、かつての自分と同じように、財務諸表の観点や与信の問題から融資に上限があり広告に投資しきれない、アクセルを踏んでいきたいのに踏み切れない、そのように苦労されている企業が非常に多いことを目の当たりにしたのです。生活者の手に届けば必ず世の中をよくしてくれるであろう商品が、「広告にお金をかけられない、やり方が分からない」という理由で日の目を見ずに消えていってしまう様子には、やりきれなさを感じました。このような私自身の原体験も、AD YELL立ち上げ理由の一つになっています。

銀行にはできない、両社が提供できる価値

——共通して融資のお話がありましたが、銀行融資は個人やスモールチームにおいては障壁やデメリットが大きいのでしょうか?

髙橋:銀行融資自体は事業者にとって重要な資金調達手段の1つですが、借り手によっては障壁があると感じています。取引履歴が蓄積されている事業者はリスクが少ないと判断されて低い金利で借り入れができますが、リスク評価ができない新しい事業者は高い金利を背負ってチャレンジするか、そもそも融資自体の審査がおりない、というのが現在の銀行融資の構図です。

髙瀬:もちろん、銀行からの融資は受けられるのであれば受けたほうがよいと考えています。一方で、金融機関もリスクテイクして我々の預金を失うわけにはいかないので、慎重に石橋を叩いてファイナンスすることは極めて正しい行為ですよね。ただ、資金繰りに本当に困っている事業者は確実に存在しています。そのジレンマを埋めるのが我々バンカブルやYELL BANKのサービスなのではないでしょうか。

髙橋:そうですね。まさにその部分が、銀行には出せない我々のサービスの価値であると考えています。EC取引が全てBASEを通して行われているので、取引に関するデータが蓄積されています。そのデータと独自のアルゴリズムを使うことで、精緻な将来売上の予測と最適な債権買取額の算出ができるのです。予測を精緻にしていくことは、未回収リスクの回避にもなります。

髙瀬:我々はBASEのようなプラットフォームを持っていませんが、EC事業に関する広告実績やリターン予測などの知見を過去29年分持っています。ゆえに広告に関しては、既存金融機関が担保価値をつけられない部分に対してバリューを見出すことができ、サポートの意思決定が可能になります。YELL BANKと同じく、ある程度のリスクがある前提のサービスなので、いかに予測や審査を精緻に行っていくかは重要です。

——AD YELLはBtoBのBNPLですよね。新規の事業者にとってありがたい仕組みですが、すぐに受け入れられたのでしょうか?

髙瀬:数字的な部分での判断は現状難しいですが、肌感としては想像以上に受け入れられていると感じます。ご利用いただいている事業者の方々からは「もっと早く出して欲しかった」「このサービスを出してくれてありがとう」など、BtoCビジネスのような反応をもらうことが多いです。事業立ち上がりの推進力として、事業者から事業者への紹介が多かったことも、事業の方向性は間違っていなかったという我々の自信になりました。

BNPLという言葉が先走ってしまうと、不安要素やデメリットを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、あくまでペインの解消に向けた方法の一つなのですよね。我々もBNPLをやろうとしていたわけではありません。元金がないなかでも広告投資を可能にする環境をつくるという目的を達成しようとすると、分割・後払いという方法が我々のリスク緩和も考慮の上で最適だったのです。

——多くの事業者をサポートするなかで、印象的な利用事例はありますか?

髙瀬:九州の漁業が盛んなエリアにある企業で、普段は市場に出回らない魚を料理パッケージにして届けることで地域のビジネスの復興につなげたい、という目的を持っている事業者さまが、上手にAD YELLを使ってくださっていました。サブスクというビジネスモデルの特性上、広告経由で会員になってくださったタイミングで広告費の支払いがされても、売上が立つのは、お客さまの初月入金の決済が行われるタイミングのため、タイムラグが長く発生する傾向にあります。そのタイムラグにAD YELLの分割払いをご利用いただくことで、運転資金の圧迫を抑えています。

企業活動では商品開発費や採用費も必要になるため、現預金体力には限界があります。AD YELLを利用することで、売上という結果がついてきて今度はこういう投資をしてみたい、という相談をお客様より次々といただいています。

髙橋:BASEをご利用くださっているショップのなかには原材料が高額な商品があるのですが、そういったショップの方々からは満足の声をいただいています。例えば革製品などですね。加工作業のキャパシティはあるのに、キャッシュがないために原材料の仕入れができずに販売の機会を損失する可能性がある。そのような事態を避けることができた事例がありました。

BASEとバンカブルが見据える、EC市場と歩む未来

——BASE、バンカブルの今後の展望についてお聞かせください。

髙橋:我々はミッションとして “Payment to the People, Power to the People.” 、つまりインターネットを通じたエンパワーメントを掲げています。Peopleは、エンパワーメントの対象となりますが、自分の人生にオーナーシップを持っている・持ちたい方々と定義しています。BASEのユーザーにおいては、ショップを運営している個人や事業者と購入者になります。Paymentとは価値交換の手段のことです。これまでの10年はいかにPeople(エンパワーメントする相手)を増やしていくかという部分を重要視していましたが、今後はさらにPayment(エンパワーメントを促進する手段)を付加価値として積み上げていく戦略にシフトしていきます。金融事業は、Paymentの一つですね。

髙瀬:現在、インターネット広告市場は3兆円を超えているといわれており、EC分野に限っても6,000億円を超えています。仮にEC市場の広告投資に対するシェアを我々が100%カバーできたとしても、まだまだ他業界では資金繰りに悩む事業者があふれているのです。EC市場の広告投資と同じく、既存金融機関がなかなか担保価値を見いだせない部分に対して我々がアプローチしていき、サポートできる領域を広げていきたいと考えています。誰しもがバッターボックスに立つ機会を与えられ、チャレンジできる世界をつくる、その一端を担えればと思っています。

髙橋 直

BASE株式会社 上級執行役員

新卒で三井住友カード株式会社へ入社し、戦略提携や事業開発業務に従事。国内外IT企業との資本業務提携や電子マネー事業・決済プラットフォーム事業等の立ち上げに参画。2022年4月1日にBASE株式会社に入社、同日付で執行役員に就任。
BASEグループの決済・金融を中心とした戦略事業を担当し、ショッピングサービス「Pay ID」、オンライン決済サービス「PAY.JP」、ショップ向け資金調達サービスである「YELL BANK」の管掌と併せ、経営戦略室を兼任しグループ全体の戦略立案・実行に従事。2023年3月24日付で上級執行役員に就任。

髙瀬 大輔

株式会社バンカブル 代表取締役社長

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月より株式会社バンカブルの代表取締役社長に就任。
“新たな金融のカタチを創る” をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」を展開中。

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