DX戦略

売上95%減、倒産危機からのV字回復。レジャー業界のDXを牽引するアソビューの軌跡

遊園地から博物館に美術館、そば打ち体験からスキューバダイビングまで、およそ「遊び」と呼べるものを、ジャンルレスで網羅する日本最大級の遊び予約サイト「アソビュー!」。昨年から続くコロナ禍でレジャー業界は大きな打撃を受け、一時は同社の売上も昨対比95%マイナスというどん底にまで沈みました。
第1回目の緊急事態宣言直後に、キャッシュフローの確保と従業員の雇用を守るため、社員出向やコンサル事業の発案、前売り応援チケットの発売など、生き残りをかけた施策を打ち出しつつ、大型レジャー施設に向けた感染予防対策の一手として、日時指定の電子チケットシステムをわずか1ヶ月でリリース。入場者数を制限することで人の密集を防ぎ、行列の解消にもつながる、コロナ時代に対応したサービスを実現しました。
アソビュー株式会社の取締役執行役員営業本部長を務める米山 寛氏は、「コロナの時代を生き残るには、レジャー業界もDX化が不可欠」と語ります。激動の1年を振り返りながら、レジャー業界がDXを導入することのメリットと必然性、同社の今後の展望についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 「アソビュー!」は、レジャー・遊びのスポットを予約できるポータルサイト。2020年からのコロナ禍で、一時的に売上がほぼゼロにまで落ち込んだ

- その後、コロナの時代に対応した、電子チケットによる日時指定システムを短期で完成させ、V字回復に成功

- DXを推進することにより、これまでブラックボックスだった顧客データの基盤が構築できれば、マーケティングや業務改善などの施策にも展開可能

- 今後はレジャー施設全体のDXやマーケティング戦略など上流工程に携わりながら二人三脚で業界全体のDXを推進させていく

コロナで売上がほぼゼロに。社員の出向、コンサルへの転換などさまざまな施策を展開

―「アソビュー!」のサービス概要について教えてください。

アソビュー!はレジャー・アクティビティ施設とユーザーをマッチングするサービスです。現在、国内には小規模から大規模まで含めて、10万以上の遊びを提供する事業者が存在すると言われていますが、アソビュー!ではそのうち約8,000の事業者と契約をしています。人気のテーマパークから動物園に水族館、陶芸やガラス細工教室、スキューバダイビングやシュノーケリングまで400以上の体験を取り扱っています。また、私どもはアソビュー!以外にも、レジャー施設向けにチケット販売管理のSaaS事業、小規模施設向けには、予約管理や販促の効率化の支援を行うSaaS事業を手がけ、中型・大型施設には集客や業務効率の向上を目的にしたDX推進支援も行っています。

―新型コロナウイルスの影響によりレジャー業界は大きな打撃を受けたかと思います。当時の御社の状況を教えていただけますか?

当時の状況は大変すぎて一部覚えていないところもあるのですが(笑)、本格的に危険を感じたのは、一斉休校が始まった去年の3月くらいからですね。そこから世の中的に「これは危ないな」という空気になってきたことを覚えています。レジャー施設では2月の中旬に大手施設が休業され、そこから連鎖的に各施設の休業が相次ぎました。4月に入ると緊急事態宣言が発令されて、その頃には弊社も売上などの指標が限りなくゼロに近づいていき、これで終わったかもという想いが頭をよぎりましたね。当時はワクチンの見通しも立っておらず、新型コロナウイルスについては得体の知れないものという不安だけがありました。

―そこからコストの削減にはじまり、社員の出向、コンサル事業の発案、前売り応援チケットの発売などの施策を打ち出していかれたんですね。

3月の中頃から従業員に対しリモート勤務を推奨しましたが、4月の前半にはいよいよ危機的な状況になってきたので、販管費を大きく下げ、従業員の雇用を存続させるため、一時的に他社へ出向させることができないかと動き始めました。これは代表の山野が、ビジョンに共感して入社してくれた従業員を解雇したくないという強い想いから発案したプロジェクトで、彼が中心になって動き、4月の下旬には社員の出向先が徐々に決定していきました。

コンサル事業は、弊社がこれまで培ってきたノウハウでクライアントの課題解決ができないかと考えて生まれたものです。コロナの終息が見えるまでは、なんとしても食いつながなければいけない。どんな仕事でも取ってくることを目的に「野武士コンサル」のコードネームで活動し、ご好評をいただきました。

前売り応援チケットとは、今すぐには使えない代わりに、先々の入園権利を少しだけお得な価格で提供したものです。レジャー施設の中でも水族館や動物園は、ハードの維持に加えて、魚や動物の飼育費も必要になるので大きなコストを要します。このとき発売した四国水族館さんの応援チケットは約2,000枚が即完売して、大きな手応えを感じましたね。

しかし、これらの施策によって業績は瞬間的に上がりますが、持続的な利益にはなかなかつながりませんでした。ちょうどその頃、緊急事態宣言後のコロナ対策として「入場制限を行い、人の密集に配慮をして運営することがレジャー施設に求められるのではないか」という情報が入ってきたので、それを機に日時指定で来場者数の入場制限が可能な電子チケットシステムの開発に着手しました。

トップダウンによる迅速な経営判断で、日時指定の電子チケットシステムを1カ月でリリース

―そのシステムはどのくらいの期間で完成させたのでしょうか?

もともと弊社にはラフティングやダイビングなど、小規模なアクティビティ向けの予約システムがありました。ただ、大規模な遊園地や水族館の入場者はその比ではありません。大量の申し込みを処理する効率性が求められるので、大きく手を加える必要がありましたが、全社のリソースを投入し、5月に開発を着手して6月にはレジャー施設のお客様にご使用いただける形でリリースすることができました。100%完全な形で日時指定システムをリリースしようとしたら、この期間ではできなかったでしょう。

この短期間で実現できた要因として、山野のリーダーシップも大きかったですね。現場からも「日時指定システムを開発するべき」という声が挙がっていましたが、社を挙げて短期で開発しようと決めたのは山野です。普段は風通しの良い社風である弊社ですが、当時は有事だからこそ、意思決定を山野に一任する形で物事を進めていきました。

意思決定のもう一つの要因に、システムをいち早く完成させれば、ビジネスのゲームチェンジを起こせるという見込みがありました。日時を指定するシステムは複雑な構成なので、市場の独占化が起きやすいんです。
従来のいつでも入場可能なチケットなら、販売チャネルは多い方がメリットがあります。けれども、日時指定システムとなると一社で完結させる必要が出てきます。多くの施設が日時指定システムを導入し、弊社の市場シェアを広げることができれば、そこでゲームチェンジができる。
とにかく他社よりも早く普及させてゲームのルールを変えてしまおう。そういったビジネス上の狙いもありました。一時はほぼゼロにまで下がった売上ですが、2020年の8月には昨対比で232%の成長率をマークしました。

―密を避けるというコロナ対策以外に、電子チケット化によるメリットはどのようなものがあるのでしょうか?

ご導入いただく施設側、ご利用いただく来園者側双方にメリットがあるのではと考えています。
施設側にとって大きいのは顧客データの活用です。今までのレジャー施設は顧客データを収集するタッチポイントがありませんでした。あったとしても、窓口で券を販売するときに性別とだいたいの年齢が分かる程度でした。しかし、電子チケットを導入いただくことにより、チケット購入者の属性データが収集できます。蓄積した顧客データは新たなマーケティング戦略だけでなく、施設の改善などに活用できるでしょう。

利用者にとってのメリットは待ち時間の解消です。人気のテーマパークでは入場時や人気アトラクションでの行列が常態化していますが、事前に電子チケットを購入しておけば券売所に行かなくてもダイレクトに入場でき、入り口でまごつくこともありません。
そして、前売りチケットが売れるということは、施設からすれば来場確定者が増えることになります。そのインセンティブとして、従来のチケットよりもディスカウントして提供できるわけです。

DXで得た顧客データの活用は、次の一手につながる

―レジャー施設がDXを推進するために、どのようなことから始めるとよいのでしょうか?

お客様属性や満足度の可視化から始めるのがよいと思います。弊社では、レジャー施設のDX推進を目的にした「アソビュー!レジャークラウドアナリティクス」というサービスを提供しています。どのような利用者が、いつチケットを購入して何日後に足を運んでくれているのか。利用者の属性や動向など、DXで取得できるデータを一元管理し、リアルタイムに可視化することで、マーケティングやプロモーションに活用していただくことができます。利用企業からは、非常に好評をいただいています。

また、「レジャークラウドリサーチ」というサービスでは、電子チケット購入者への満足度のアンケートも行っています。来場の翌日に、コンテンツやスタッフ対応に関するアンケートを送ると、だいたい5~10%の方にご回答いただけるので、来場者の満足度などが可視化できます。これまでレジャー施設は、ゲストに対して高いホスピタリティを提供してきましたが、その効果の可視化が難しく、口コミに依存するといったようにブラックボックス化されていました。施設のコンテンツごとの満足度調査により、詳細な顧客分析が可能になります。

サービスの導入以外だと、プロモーションのデジタル化も一つだと思います。レジャー施設の多くは、これまでテレビCMなどのマスプロモーションにお金をかけてきましたが、近年はデジタルマーケティングへのシフトが進んでいます。どのセグメントにどのような広告を配信して、どれだけの効果があったのか。それらのデータを検証して、企画立案に活かすことができます。その他にも、宿泊施設を併設したレジャー施設の場合は、宿泊者と施設利用者のIDの突合し、一元管理してエンゲージメントを高めていく、といった複合的な施策も考えられます。

―顧客データの活用が、サービスの改善につながった事例があれば教えてください。

これは一例ですが、某テーパマークでは主に子どもを対象にしたショーなどのイベントを午後に開催していました。ところが、ファミリーのお客様の来場ピークの時間帯は午前中で、平均2〜3時間であることがデータからわかりました。そこで、ショーイベントの時間帯を午後から午前に変更し、お客様満足度が向上したという事例があります。

大切なのは顧客起点。単なる電子チケット屋ではなく、レジャー業界全体のDXを推進

―大規模な施設以外でも、例えば、個人がやっている体験教室など小規模事業者もDXは効果的でしょうか?

はい、事業規模に関わらず、効果的だと考えています。例えば、小人数で運営している陶芸教室などの場合、ろくろを回している最中だと申し込みの電話に出ることができません。けれども、Webから申し込みができるようになるだけで、機会損失を防ぐことができます。レジャー業界は、これからDXの必要性にますます直面していくと思います。
これまで多くの事業者にとってアソビューは、電子チケットを販売するパートナーのような立ち位置でしたが、コロナ禍を契機に変化が見えてきました。DX推進が重要テーマになったためです。例えば、来場者データを活用した施設リニューアルや大規模プロモーションの企画立案、パーク内消費額の向上施策の検討など、より上流のご相談をいただくことも増えてきましたし、レジャー業界全体のDXを推進していきたいですね。

―人手が足りず、デジタルを苦手としている小規模事業者も多いかと思います。DXの推進に向けて、何を大切にするべきなのでしょうか?

大切なのは顧客起点に立って考えることだと思います。これだけ世の人々がスマホで情報収集をしている現在、DXの導入は必然でしょう。「自分たちはこうだから」ではなく、顧客のライフスタイルと向き合えばスマホの重要性が分かるはずです。長引く自粛生活の中で、消費者は安心安全にレジャーを楽しめる方法を探しています。入場制限をはじめとする感染対策が万全の施設で、リスクを避けて遊ぶ。それを実現するためにDXは避けて通れない道だと考えます。

―御社の今後の展望を教えてください。

「衣食住」と言いますが、その後に「遊」を続け「衣食住遊」として、遊びがなくてはならないインフラであることを提案していきたいです。「ウェルビーイング」とも言われますが、身体的にも精神的にも満たされた状態を維持するために遊びの要素は欠かせません。物質的な豊かさだけでは心身の健康は満たせません。余暇をどうやって有意義に過ごすか。それが問われる時代になるのではないでしょうか。そこを充実させるのが遊びでありたいと考えています。そして、短期的な目標としては、2025年にアソビュー!の利用者を4,000万人に引き上げる。この2つの目標をもとに走り続けています。
米山 寛
取締役 執行役員 CRO・営業本部長

2001年、エン・ジャパン株式会社に入社。大手・ベンチャー企業の人材採用、育成など幅広く従事し、関西支社長、新規事業責任者を歴任。
2013年、株式会社インディバルに入社。新規事業の営業部長、事業責任者を経て、2015年、アソビュー株式会社に参画。営業領域の執行役員を経て、2019年より現職。

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