DX戦略

寺社仏閣の事前予約、「京都観光快適度マップ」で変貌する京都観光 コロナ禍でDXを推進した京都市観光協会の取り組みとは?

コロナ禍において多くの観光地で観光客が大幅に減少するなか、デジタルシフトを推進し、一度目の緊急事態宣言の解除とともにいち早く回復の兆しをみせた古都京都。今では、寺社仏閣をはじめ50以上の施設で、拝観の事前予約ができたり、三密回避の情報を事前に確認することができたりするなど、京都の観光はデジタルによって大きく変貌しています。その背景には「京都の観光のデジタル化」をミッションの一つに掲げ、市内全体のデジタルシフトに取り組んできた京都市観光協会の存在がありました。観光客の安心・安全を最優先しながら、各事業体の収益を向上させるために、どのような施策に取り組んできたのか。同協会の担当部長 濱﨑麻智様、デジタルシフト・広報統括官 小笠原昌彦様にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

-コロナ禍において京都の観光事業のデジタル化を促すため、デジタル化を望む事業者と、ノウハウやサービスを有する企業をマッチングする「デジタルお悩み相談所」を開設
-三密回避のために、寺社仏閣などで事前予約システムを導入。ソーシャルディスタンスを保ちつつ、観光客を誘致できる環境を整備
-「京都観光快適度マップ」では、観光客自ら、日・時間別 混雑を回避した観光快適度の予測データなどをチェックできる
-外出自粛時には、SNS上で積極的に情報を発信。自粛明け早期の客足回復を促す
-デジタルシフトで、コロナ禍以前とは違う京都観光が可能に

デジタル弱者も取り残さない!「デジタルお悩み相談所」で、旅館・寺社仏閣等のデジタルシフトを支援

——「京都観光のデジタル化」を進める背景には、どのような課題があったのでしょうか?

小笠原:そもそも京都はデジタル化がなかなか進まない観光地でした。お客様も事業者の方々も年齢層が高めで、街全体にデジタルなコミュニケーションと距離があったように感じています。紙ベースでデータを管理している施設もまだまだありました。

そうしたなかでコロナ禍により「三密を回避して、安全・安心を確保したい」というお客様のニーズが急速に高まっていきます。同時に事業者側にも「対面でお客様とコミュニケーションできなくなった分を、オンラインでカバーしたい」というニーズが生まれます。これら双方のニーズに応えるために、私たちとしてもスピード感を持ってデジタル化の支援に取り組んでいくこととなりました。

——具体的にはどのような取り組みを実施したのでしょうか?

小笠原:まずは京都市観光協会に入会してくださっている約1,500社の会員様を対象に、デジタル化を希望する事業者と、デジタル技術に関するサービスやノウハウを有した企業とをマッチングする「デジタルお悩み相談所」を開設しました。相談所に寄せられる相談は、本当に多岐に渡ります。「Wi-Fiを導入したい」「Instagramに挑戦したい」という基礎的なものから、「ECサイトを開設したい」や「オンラインイベントに集客したい」まで、事業者ごとの課題感にあわせて、どんな悩みにもお応えしていきたいというのが私たちのスタンスです。

小笠原:「デジタルお悩み相談所」の開設にあたっては、この取り組みに対する認知をいかに広げるかにも気を配りました。Webサイトやメールの告知だけでは、最も相談所を利用していただきたいデジタルコミュニケーションを苦手とする層へのアプローチが不十分になってしまいます。そこで職員が個別に電話をかけるなどして、利用を促していきました。すると「実はずっと悩んでいて……」という声がポロポロと出てきたんです。

特に旅館を運営されている会員様からの反響は大きかったですね。同じ宿泊業でもホテルやゲストハウスに比べて、働かれてる方の高齢化が進んでいますから「何から手をつけていいかわからない状態」になっていたのだと思います。それが今回の相談所をきっかけに、独自のECサイトを構築することになった旅館もあるほどですから、コロナ禍で意識が変わったことは事実だと思います。

寺社仏閣の「事前予約システム」導入で、混雑を避けて拝観が可能に

——先ほどお話にあった、事前予約システムについて、詳しく教えてください。

濱﨑:主に、寺社仏閣の特別公開拝観やプライベートツアー等導入いただいております。これまで京都では紅葉の時期などに、一部の寺院にお客様が集中してしまうことが多々ありました。しかし、感染リスクを下げて安全に観光してもらうためには、なんとしてでも混雑を回避しなくてはなりません。そこで導入したのが、Webからの事前予約システムです。予約者数は時間帯ごとに上限を設けました。ただし、人数制限をするだけだと、拝観いただける観光客数は減少してしまいますよね。そこで、住職さんがお寺の由来などをガイドするプライベートツアーや、お寺の施設内でアフタヌーンティーを楽しめるプランなど、プラスαの体験ができる付加価値のついたパッケージプランを設定しました。その結果、混雑を回避するだけでなく、「普段はできない非日常の体験ができた」と、お客様の満足度も高めることができた。これまでに寺社仏閣をはじめ、50以上の施設で同様の事前予約システムを導入していただいています。

小笠原:ハイシーズンの混雑回避については、実は以前から議論を進めていたテーマなんです。実際に2019年には、市内中心部や嵯峨嵐山、清水など人気エリアを対象に、Web上で混雑度を確認できるサービスをスタートしていました。2020年にはこのサービスを「京都観光快適度マップ」としてリニューアル。対象エリアを一気に拡大するとともに、気候条件などから三密を回避できる観光快適度を予測するシステムも実装することで、お客様の行動変容を促していきました。

外出自粛期間中にもSNSで積極的に情報発信、自粛明け早期の客足回復を促す

——情報発信については、どのような取り組みがありましたか?

小笠原:二度目の緊急事態宣言下ではアンケート結果から最適な観光プランを診断する「I miss Kyoto キャンペーン」などを仕掛け、SNS上での話題作りに努めました。

また情報を発信するだけではなく、旅行系サイトのPV数やSNSのキーワードを分析し、潜在的な訪問意向を可視化した「京都観光意向指数(通称:行こう指数)」を開発し、現在も一ヶ月ごとに指数を発表しています。すると見えてきたのが、行こう指数が落ち込んだ緊急事態宣言下においても、「京都旅行ツイート数指数」は大きく下がることはなく、特にSNS上での京都への訪問意向は維持されていたいう事実です。これは各事業者の日頃からの情報発信の成果かと思います。

さらに分析すると、緊急事態宣言下に行こう指数を構成する「京都旅行ツイート数指数」をいかにキープするかが、緊急事態宣言解除後の客足の回復と密接に結びついていることも見えてきました。「自粛期間中も話題を提供しつづけた方が、その後の回復が早い」という体感を数字で示したわけです。これによって情報発信へのモチベーションがさらに高まるのではないかと期待しています。

——「行こう指数」の取り組みは、需要予測にも役立ちそうですね。

濱﨑:おっしゃる通りです。実際に需要予測を実現するために、行こう指数と実際の訪問者数の相関関係をより明らかにしていく必要があると思います。いずれは海外からの需要も予想できるようにしたい。そうなれば各事業者の事業計画などにも活用できるはずです。

——そのほかに京都全体のデジタルリテラシーを高めるために、取り組んでいることはありますか?

小笠原:事業者向けに「京都観光オンラインアカデミー」という動画講座をスタートしました。ここではデジタルマーケティングから、SNSで映えるフォトジェニックな写真の撮り方、OTA(Online Travel Agency 実店舗を持たずインターネット上で取引を行う旅行代理点)を通じた販売戦略まで、幅広くデジタルスキルを学べます。ちなみに京都観光の基礎知識や、外国語について学べる講座も揃えていますので、京都で観光に携わるすべての人にご利用いただきたいコンテンツです。

コロナ禍で京都は変貌する。観光客の一極集中をデジタルで解決

——「デジタル化」によって、京都にどんな変化が起きていますか?

小笠原:お客様と事業者のコミュニケーションはより求められてくると思いますね。私たちは「より一層『安心・安全』な京都観光を実現するための新型コロナウイルス感染症対策宣言」という独自のガイドラインを設け、これに賛同していただいた飲食店や宿泊施設でお客様へのアンケートを実施しています。

同時にアンケートに回答した施設へメッセージを送ることができる機能を設けたところ、非常に多くのお客様から、各事業者へのあたたかな応援の言葉をいただくことができました。それは事業者の励みになることはもちろん、どういった気遣いがお客様の安心につながるのかが分かり、施設側はさらに安全対策が進めやすくなります。また、その対策を事業者同士のネットワークでシェアしていただく。そうした好循環が生まれつつあることは、私たちにとっても非常に喜ばしいことです。

——今後の展望を教えてください。

小笠原:まず大切なのは、この街をコロナ禍以前の環境に戻さないことでしょう。コロナ禍以前の京都は、インバウンド需要の増大なども相まって局地的な混雑が発生し、地域住民の方やインフラに負荷をかけてしまっていました。ある意味でコロナ禍は、京都が抱えていたこうした課題を解決するための転機になったと捉えています。今後もデジタルツールを活用し、観光エリアやピークタイムの分散を促しつつ、事業者がしっかりと収益を上げられる仕組みを整えていきたいですね。

濱﨑:混雑を回避することは、まだ知られていない京都を再発見するきっかけにもなるのではないでしょうか。例えば、京都には2,000を超える寺社があると言われていますが、人気の観光地として認知されているのは、そのなかのごく一部。小規模でも観光客に良さを知っていただきたいと考えている寺社もありますので、これからも京都観光の奥深さをより多くの方に感じていただける機会を提供していきたいと思っています。

今後は、京都観光快適度マップや事前予約システム、SNSでの情報発信などをうまく連携させることで、これまで注目されていなかったスポットにも光を当てていきたい。デジタルはあくまでツールです。実際にこの街を訪れたお客様に「京都って、こんな魅力もあったんだ!」と気づいてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。
小笠原 昌彦
公益社団法人 京都市観光協会
広報・プロモーション課 デジタルシフト・広報統括官

大学卒業後、広告代理店において企業製品やサービスのWEBプロモーションや消費者とのコミュニケーションの設計に携わった後、米国への留学を経て、インターネットメディアを運営する事業会社に転職。事業会社では、同社が獲得したデータやネットワークを活かして、独自のソリューションとして企業や省庁、自治体へ提供する新規事業の戦略設計を担う。2019年4月より現職。広報・プロモーション課にてデジタルシフト・広報統括官として従事。
濱﨑 麻智
公益社団法人 京都市観光協会
担当部長

大学卒業後、大手鉄道会社に入社し自治体や地域の事業者と連携して観光コンテンツや観光列車、訪日外国人向け乗車券等の開発、国内外の旅行会社セールス等を担当し、2020年11月より現職。主として都市内観光事業者と連携した観光コンテンツの企画や販路開拓、今年で55回目を迎えた「京の冬の旅」等の観光キャンペーンの企画運営、観光エリア分散化事業「とっておきの京都プロジェクト」等の国内誘致事業を推進。

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