デジタルシフト時代に地方銀行は生き残れるのか!? 活路を見出すビジネスモデルとは【セミナーレポート】

デジタルによって金融業界が大きく変化していく中で、窮地に立たせされる地方銀行に焦点を当てたセミナーを取材。講師はハーバードビジネススクール招待講師の平野敦士カール氏。デジタルシフト待ったなしの金融業界の実情に迫る。

フィンテックベンチャーの台頭や、Amazonなどの巨大プラットフォーマーの参入――。
金融業界に激変が起こる中、地方銀行は従来のビジネスモデルで生き残れるのだろうか?
「地方銀行が生き残っていくためには、この2、3年が勝負である」と警鐘を鳴らすのは、経営コンサルタントで、株式会社ネットストラテジー代表取締役社長の平野敦士カール氏。その真相を探るべく、平野氏が登壇した、株式会社エムティーアイのセミナーをレポートする。

①地方銀行を取り巻く経営環境の変化

「はっきりいって将来性はありません。きわめて厳しいのが現実です」

平野氏は冒頭から厳しい語り口で、地方銀行を取り巻く経営環境を解説した。

「まずは金融緩和の継続ですよね。日銀は9月19日にも、また金融を緩和するという趣旨のことを言っていますので、この状況は当面変わらないと思います。…金融緩和の場合、その影響で地方経済も弱るということですね。あとはもちろん人口減少に少子高齢化。預貸金利鞘の縮小。銀行は預金を受け入れて貸し出しをするわけですけれども、金利は今0.15くらいになっていますね。このままいくとほとんど生きていくのは難しいなと、正直思います。どの銀行も同じようなサービスを展開していますから、銀行の宿命といえます。これをどう乗り越えていくかというのが今日の大きなテーマです」

こうした状況には、金融庁も頭を悩ませている。

19年8月に公表された金融行政方針によれば、全国の地方銀行105行のうち、およそ半分にあたる45行が、貸し出しや手数料ビジネスなどの「本業」で、連続赤字に陥っているというのだ。伝統的な金融ビジネスが成り立たなくなりつつある中で、金融庁は地銀の経営への関与を強めていく方針だ。将来にわたる収益性・健全性の確保の観点から懸念のある地域金融機関に対しては、「早期警戒制度」を活用することも視野に入れる。

「早期警戒制度」とは、金融庁が金融機関の経営状況を監視し、経営状況に応じて是正措置をとる制度のことだ。地方銀行の経営に対する不信感の現れであるといっても過言ではないだろう。
参考:利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)
https://www.fsa.go.jp/news/r1/20190828.html

②なぜフィンテックベンチャーが伸びているのか?

フィンテックベンチャーという新たな競合の台頭が、この状況に拍車をかけていると平野氏は続ける。

「今後は、デジタル銀行あるいはスマホ銀行が強くなる。スマホ銀行が世界市場規模の大体年11%くらいまで拡大するという試算もあります、5年後には倍くらいになるという状況になっているわけですね。…間違いなく今後はデジタル銀行の時代になっていくだろうというふうに思います」

では、フィンテックベンチャーが伸びている要因とは何なのか。

「銀行はあるのに、なんでわざわざフィンテックを使うんだろうと思いますよね。最近の議論はここが忘れ去られているような気がしているんです。私が思うには、利用者に銀行に対する不満があるということだと思います。フィンテックの誕生にはリーマンショックで中小企業が資金調達できなくなったという背景があったんですね。欧米の場合にはフィンテックのベンチャーがおきたわけです。日本の場合は、ノンバンクがそれに対応した。なので、あんまりフィンテックがでてこなかった」

「なぜフィンテックがもてはやされているかというと、やはり高い手数料のある大手銀行への不満、あるいはスマートフォンの普及によって若者の支持を得たこと。大体の銀行は、店舗が混んでいたら待たされますし、土日は休みですよね。融資に関しても大量の資料の提出が求められる。…これは、ユーザーにとっては、かなりの疑問があるんじゃないかと私は思います。…銀行は、今持っているサービスにお客様は本当に満足しているのかどうかという原点に立ち返るべきだと思うんですね」

フィンテックの脅威を実感する例として、平野氏は海外の事例についても触れている。例えば以下のような新興サービスが目立っている。
「ネオバンク」
銀行業務ライセンスを取得せず、既存銀行と提携して、オンライン上で金融サービスを提供する。

「チャレンジャーバンク」
各国規制当局の規制緩和によって、銀行業務ライセンスを取得し、主にモバイルを活用した金融サービス。
これに加えてGAFAやアリババ、テンセントといったプラットフォーム企業の参入も注視すべきだと平野氏は語る。Facebookが独自の仮想通貨「リブラ」を発表したことは記憶に新しい。地方銀行のライバルは増える一方だ。

ここまで、主にBtoCの話が中心だったが、平野氏は「BtoBでもモバイル対応が課題になる」と話す。

「実は法人営業でもネットとスマホが中心になっています。2014年のグーグルの調査によると、法人の購買担当者の半数が既にミレニアル世代になっているんですね。いわゆるスマホ世代です。BtoCに限らずBtoBでの、フィンテック活用、モバイル採用というのが非常に重要になっているんです」

③銀行業務はアンバンドル化する

こうした変化の先に予想されるのが、銀行業務のアンバンドル化である。アンバンドルとは、一括して提供されていた商品やサービスを、解体あるいは細分化することだが、銀行業務のアンバンドル化とは一体どういうことだろうか。

「要は預金するとか、為替とか外為とか送金とか決済とか、このいろんな部分をバラバラのプレーヤーが行うような世界になってくると思います。今、銀行はその全てができているわけですが、これがバラバラになっていく。…電子マネーが浸透していますが、やはり強いのは実需を持っているプレーヤーだということです。…今後はさらに大きなプラットフォーマー企業がお客さんとの接点を独占する可能性もある。金融機関は土管化(※1)する可能性が極めて高いでしょう」

※1:土管化:通信事業者がサービスやコンテンツの提供をせず、コンテンツ提供者に通信インフラを提供するだけになる、ということを意味する通称。

④提言――金融機関の新しいビジネスモデル

地方銀行を取り巻く環境がこれほど変化する中、その活路はどこにあるのだろうか。平野氏がキーワードに掲げたのは「顧客接点の死守」と「新しいビジネスモデルの構築」だ。

「今ある顧客接点を強化して自社ブランドによるフィンテックサービスの提供を行うことでお客さんのライフタイムバリューを高めるビジネスモデルを構築すべきです。地方銀行は「人材」と「信用」。この2つがダントツにある。地方にいけば地銀に就職する方は最も優秀な人材で、信頼もあります。この2つは、なかなかお金では買えないものなんですね。今の段階だったら、まだそこに強みがある。それを元に自社ブランドで、フィンテックサービスを提供し、スマホファーストへの大胆な戦略変換が重要だと思います」

2017年に銀行法の改正によって、オープンAPI(※2)推進の土壌が整っている。近年ではオープンバンキングという言葉が生まれ、国内のメガバンクも精力的にサービスを打ち出している。国内での差別化を図るためにも、地方銀行の活路は、元来培ってきた、地域における信頼をベースに自社ブランドで展開することで、地域に特化したプラットフォーマーになれる可能性を示唆しているのだ。

※2:オープンAPIとは、API(Application Programming Interface)の公開により、システムの接続仕様を明らかにし、提携企業先からのアクセスを認めること。金融機関が他の事業者と連携し、各々が保有するデータやサービスを連携させて価値を提供すること。
【講師プロフィール】
平野敦士カール(CarlA.Hirano)
経営コンサルタント、作家、株式会社ネットストラテジー代表取締役社長、社団法人プラットフォーム戦略協会代表理事。東京大学経済学部卒業。日本興業銀行、NTTドコモiモード企画部担当部長を経て2007年ハーバードビジネススクール准教授とコンサルティング&研修会社株式会社ネットストラテジーを創業。主な著書に『プラットフォーム戦略』(東洋経済新報社)。
セミナー情報
19年9月20日開催「金融機関の新しいビジネスモデル〜金融機関のプラットフォーム戦略®とは〜」/主催:株式会社エムティーアイ

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