AWS、工業・製造業向けに5つの機械学習サービスを発表

Amazon.com, Inc.の関連会社であるAmazon Web Services, Inc.(AWS)は、「AWS re:Invent」にて、Amazon Monitron、Amazon Lookout for Equipment、AWS Panorama Appliance、AWS Panoramaソフトウェア開発キット(SDK)、Amazon Lookout for Visionを発表した。

この5つの新しい機械学習サービスはいずれも、工業や製造業の顧客が生産工程にインテリジェンスを組み込むことができるサービスで、業務効率、品質管理、セキュリティ、職場の安全性の向上に活用できる。これらのサービスは、高度な機械学習、センサー解析、コンピュータビジョンの機能を組み合わせ、工業や製造業の顧客が抱える共通の技術的な課題に対応し、現在利用可能なクラウドからエッジまでの産業向け機械学習サービスを提供する最も包括的な製品群だ。これこそ、何十万もの顧客がAWSの機械学習サービスを選び、様々な業界のあらゆる規模の顧客がAWSの提供する機械学習サービスを事業戦略の中核に据えている理由だという。

より多くの企業が、製造工場、配送センター、食品加工工場などの現場に機械学習サービスの導入を検討している。こうした顧客にとって、データは自社の複雑な生産工程を密接につなぎ合わせる役割を果たしている。たとえ小さな問題でも、予期しない大きな問題になりかねないため、各生産工程は、通常密接に連携しており、わずかな許容誤差で運用されている。施設内で運用している機器のデータを分析することで、顧客がこの課題に対応するのに役立つ。多くの顧客はAWS IoT SiteWiseのようなサービスを活用して産業用機器からデータを収集し、パフォーマンスメトリックをリアルタイムで取得してきた。産業データの収集と分析にクラウドを使い始めた顧客は、データを有効に活用し、業務効率をさらに高めるために機械学習を組み込む方法はないかと模索し始めた。コストを削減し、業務効率を高めるために、機械学習を使って予知保全の実現に役立てたいと望む顧客もいれば、インターネットに接続していない場合や、レイテンシーを極力減らすことを重要視する場合に、エッジでコンピュータビジョンを使用し、製品の欠陥を見つけ、職場の安全性を高めたいと望む顧客もいる。こうしたニーズや機会の変化の中で、製造業の企業はAWSに、クラウド、産業用エッジ、機械学習を一緒にまとめて活用し、製造現場で生成される莫大な量のデータからさらに多くの価値を得る方法を期待しているとのことだ。

■Amazon MonitronとAmazon Lookout for Equipmentで機械学習を活用した予知保全が可能に

工業・製造業の企業が今直面している大きな課題は、既存の設備の継続的なメンテナンスだという。従来、ほとんどの設備のメンテナンスは、機械が壊れた後や問題が起きてから対応するか、機械が壊れていないことを定期的に確認し予防的にメンテナンスするかのいずれかだ。問題が起きてから対応すると、結果として莫大なコストとダウンタイムが発生することが多く、一方、予防的なメンテナンスは費用がかかり、過剰メンテナンスになるか、あるいは頻繁にメンテナンスを行わない限りは予防ができない可能性がある。そのため、機器のメンテナンスが必要な時を予測し対応する予知保全は、より確実なソリューションとなるという。しかし、予知保全を機能させるためには、企業では従来、熟練した技術者とデータサイエンティストが、複雑なソリューションをゼロから作る必要があった。例えば、用途に応じて適切なセンサーを見つけ出して調達し、IoTゲートウェイ(データを集計して送信するデバイス)に接続する必要がある。企業はその後、その監視システムをテストして、データをオンプレミスのインフラ、もしくはクラウドへ転送して処理をする。そこで初めて、データサイエンティストが学習モデルを構築し、パターンや異常がないか、データを分析し、異常値を発見した時のアラートシステムを作ることができる。中には、設備全体にセンサーを数多くインストールし、接続、ストレージ、分析やアラートなどに必要なインフラも実装して多額の投資をしてきた企業もある。しかし、そうした企業でさえ、初歩的なデータ分析や単純なモデル化のアプローチをしていることが多く、費用が高いだけでなく、異常な状態を検知することに関しては、高度な機械学習モデルに比べると、非効率なことがしばしばあるという。非常に正確な予知保全を可能にするような機械学習モデルを構築し、精度を高めていく専門知識を持ったスタッフが、大半の企業で不足している。その結果、予知保全の実装に成功している企業は非常に少なく、成功した企業は、内製ソリューションを保守し負担を軽減しながら、投資したものをさらに活用する方法を探している。そこで、今回発表したAWS機械学習サービスが役に立つとのことだ。
・既存のセンサーネットワークを持っていない顧客は、センサー、ゲートウェイ、機械学習サービスで構成されるエンドツーエンドのマシンモニタリングシステムのAmazon Monitronにより、異常を検知して産業機器のメンテナンスが必要な時を予測することが可能だ。Amazon Monitronは、顧客が高度な機械学習駆動型の予防保全システムをゼロから構築するコストと複雑性を取り除き、ビジネスの中核である製造、サプライチェーン、オペレーションなどに集中することを可能とする。Amazon Monitronは、振動や温度などの異常な変動をもとに機器が正常に動作していない時を検知し、予防的メンテナンスが必要かどうかを顧客が判断できるよう、点検すべき時を知らせる。このエンドツーエンドのシステムには、振動と温度のデータを取得するIoTセンサー、データを集計してAWSに送信するゲートウェイ、設備の異常パターンを検知し、数分で結果を届ける機械学習クラウドサービスが含まれており、顧客には機械学習もクラウドの経験も必要ない。Amazon Monitronがあれば、メンテナンス技術者は数時間で機器の健全性の確認することができ、しかも開発作業も特別な研修も不要。Amazon Monitronは、工業・製造環境で使われるベアリング、モーター、ポンプ、コンベアベルトなど、さまざまな回転装置に使用することができる。用途は幅広く、データセンターで使われる冷却ファンや送水ポンプなどの数台の重要な機械の監視から、製造システムやコンベアシステムのある製造施設の大規模なインストールまで様々だ。Amazon Monitronには、現場のメンテナンス技術者がリアルタイムで設備の運転を監視できるようにするモバイルアプリも含まれている。モバイルアプリがあれば、技術者は様々な機器全体の中で、設備の異常な状態についてアラートを受けとることができ、その機器の健全性をチェックし、メンテナンスの必要性を判断できる。技術者はモバイルアプリのアラートの正確さについてフィードバックを入力することでシステムの精度を上げることができ、Amazon Monitronはフィードバックから継続的に繰り返し改善していくとのことだ。
・既存のセンサーはあるものの、機械学習モデルの構築を望まない顧客は、センサーのデータをAWSに送信することで、Amazon Lookout for Equipmentが、モデルの構築、機器の異常検知および予測を行う。まず、顧客はAmazon Simple Storage Service(S3)にセンサーデータをアップロードし、S3のロケーションをAmazon Lookout for Equipmentに提供する。Amazon Lookout for Equipmentは、AWS IoT SiteWiseからデータを引き出すことも可能で、OSIsoftなどのよく使われる機械運用システムともシームレスに動作する。Amazon Lookout for Equipmentは、データを分析し、正常もしくは健全なパターンを評価し、それら全データを使用した学習結果から、顧客の環境向けにカスタマイズしたモデルを構築する。そして、Amazon Lookout for Equipmentは、構築された機械学習モデルを使って、既存センサーから入ってくるデータを分析して、マシン故障の警告サインを早期に特定する。これにより、顧客は予知保全を行うことができ、経費の節約、生産性の向上、そして製造工程での故障を防ぐことが可能だ。Amazon Lookout for Equipmentは顧客が既存のセンサーからより多くの価値を得ることを可能にし、顧客の生産工程全体の実質的な向上となるようなタイムリーな意思決定をするのに役立つという。

■AWS Panoramaはコンピュータビジョンを元に、生産工程と職場の安全性の向上を実現

多くの工業・製造業の顧客が、施設や機器のライブ映像を画像認識することで、モニタリングや目視での外観検査を自動化し、リアルタイムで意思決定をしたいと望んでいる。たとえば、顧客は日常的に微粉砕機やレーザ工具などの高速プロセスをチェックして調整が必要かどうかを判断したり、現場や機材置き場などで、歩行者やフォークリフトが指定の作業ゾーン内で作業するなど法令遵守しているかどうかを確認したり、施設内でソーシャルディスタンスが取れているか、PPEが使われているかなど、作業員の安全を評価したりする必要がある。しかし、現在使われている一般的な監視方法は人手に頼っており、エラーが起こりやすく、規模の拡大が困難だ。顧客はクラウドにコンピュータビジョンモデルを構築して、ライブ映像を監視し分析することもできる。しかし、製造拠点の多くは、遠隔もしくは周りに何もないような場所にあり、通信ネットワークへの接続性は遅いか、費用が高いか、あるいは全く存在しないかだ。この問題は、製造したパーツの品質やセキュリティフィードを手作業でチェックしているような生産工程にとってはさらに難しくなる。たとえば、もし高速スループットの製造ラインで品質の問題が発生した場合、顧客はすぐに知ることで、早期に解決し費用を抑えたいと思うという。この種の映像は、クラウド上でコンピュータビジョンを使えば自動で処理が可能だが、映像は帯域が広く、アップロードに時間がかかる。その結果、顧客は大変ながらもリアルタイムで映像フィードを監視する必要があり、エラーが起こりやすいうえ、費用も高くつく。そうしたモデルを実行するスマートカメラを使用したいという希望もあるが、そうしたカメラを使って、正確性に優れ、低遅延のパフォーマンスを得ることは難しいこともあるという。結果、ほとんどの顧客は、カスタムコードで動くようにプログラム化することのできない、産業機械に統合されている単純なモデルを実行することになりかねないとのことだ。そこでAWSが提供するサービスがこれだ。
・AWS Panorama Applianceは、新しいハードウェアアプライアンスで、コンピュータビジョンを、顧客がすでにデプロイ済みの既存のオンプレミス型カメラに追加することができる。顧客がAWS Panorama Applianceを自社のネットワークに接続して起動すれば、デバイスが自動的にカメラストリームを認識し、既存の産業用カメラとの交信を開始する。AWS Panorama Applianceは、AWS機械学習サービスおよびIoT servicesと統合されており、オーダーメイドの機械学習モデルを作ったり、より精度の高い分析のために動画を取り込んだりするのに使える。AWS Panorama Applianceは、AWSの機械学習サービスをエッジに拡張し、ネットワークがない現場で顧客が利用することもできる。どのAWS Panorama Applianceも、コンピュータビジョンモデルを複数のカメラストリームに平行して実行することができるため、品質管理、パーツの識別、職場の安全確認などの用途に使える。AWS Panorama Applianceは、AWSおよび小売業界、製造業、建設業、その他の業界向けのサードパーティの学習済みコンピュータビジョンモデルと連携する。顧客がAmazon SageMaker内で開発したコンピュータビジョンモデルも、AWS Panorama Appliance上にデプロイすることができる。

・AWS Panoramaソフトウェア開発キット(SDK)は、ハードウェアベンダーがエッジ側で有意義なコンピュータビジョンモデルを実行できる新たなカメラの構築を可能にするものだ。AWS Panorama SDKを使用して構築されたカメラでは、高速で運転しているベルトコンベア上の破損したパーツを検知したり、機械が指定された作業区域以外のところにあることを検出したりといった用途にコンピュータビジョンモデルを使うことができる。こうしたカメラは、NVIDIAやAmbarella製のコンピュータビジョン用チップの使用が可能だ。AWS Panorama SDKを使うことで、メーカーは問題を見つけるための高解像度の高品質ビデオを処理できるコンピュータビジョンモデルをカメラに搭載することができる。またイーサネットで電源を供給し、現場周辺に設置するような低価格のデバイスに、より高度なモデルを構築することも可能だ。顧客はAmazon SageMakerで独自のモデルを学習させ、クリック1つでAWS Panorama SDKを使って製造したカメラにデプロイすることができる。また、Lambda機能を追加して、テキストもしくはEメールで、潜在的な問題に対してアラートを送るよう、AWS Panorama SDKを使ってカメラを作ることもできる。また、AWSはPPE検知やソーシャルディスタンス確保といったタスクにはあらかじめ構築したモデルを提供しており、顧客は機械学習作業や特別な最適化なしで、こうしたモデルを数分でデプロイすることも可能だ。

■Amazon Lookout for Visionは、画像や動画から自動的に素早く、そして正確に異常を検出できるサービスを低価格で提供

AWSの顧客がコンピュータビジョンをカメラにデプロイして使う用途の一つが、品質管理だ。工業・製造業の企業は、常に品質管理を維持するための努力が欠かせない。製造業だけをとってみても、エラーを見過ごしてしまったために生産ラインが停止した際に発生した追加費用と売上損失は、毎年何百万ドルにも及ぶ。製造工程の外観検査は通常、人によって行われ、冗長で一貫性のない作業になりかねない。コンピュータビジョンは、一貫して欠陥を認識するのに必要な速度と正確性をもたらすが、実装するには複雑で、かつ機械学習モデルを構築、デプロイ、管理するデータサイエンティストチームが必要だ。このために、機械学習を搭載した外観異常検出システムは多くの企業にとって手の届かないものとなっている。そこで、AWSはこうした企業を次のように支援する。

・Amazon Lookout for Visionは、異常や欠陥を見つけるために、1時間あたり何千もの画像処理が可能な機械学習を使用した、高精度で低価格の異常検出ソリューションだ。顧客は機械部品の亀裂、パネルのへこみ、不規則な形、製品の色間違いなどの異常を識別できるよう、まとめてもしくはリアルタイムでカメラの画像をAmazon Lookout for Visionに送信する。そうすることで、Amazon Lookout for Visionが基準値から外れた画像を報告するので、顧客は適切に対処できる。Amazon Lookout for Visionは精巧なため、作業環境の変化によってカメラアングル、ポーズ、照明などが変わっても対応できる。その結果、基準値となる「合格」画像をわずか30枚提供するだけで、顧客は正確にかつ一貫して機械部品もしくは製造している製品を評価できる。また、Amazon Lookout for VisionはAmazon Panorama Appliances上でも稼働する。顧客は本日からAWSでAmazon Lookout for Visionを実行することができ、来年初頭からは、Amazon Lookout for VisionをAmazon Panorama Appliancesや他のAWS Panoramaデバイス上で実行できるようになり、インターネットの接続が制限されている、あるいは全く接続できないところでもAmazon Lookout for Visionを使うことができるようになるとのことだ。

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