aNordVPN、世界の子どものネットリテラシーやオンラインいじめなどの調査データを公開

NordVPNは、オンラインいじめに関する世界の主要な機関のいくつかから、一連のデータセットとレポートを収集して分類したと発表した。この調査データは、世界と比較して、日本のオンラインいじめとデジタル・エンパシーの現状についての社会対話を拡大するのに役立つことを願って提示しているという。

リモートワークやオンライン授業が普及するなか、デジタルに対するリテラシーやスキルが重要視されるようになった。世界における日本の子どものインターネット体験は、どういう位置づけになっているのか。日本と世界のネットいじめについての調査や、インターネットリテラシーの世界基準のDQ(デジタルインテリジェンス)に関する指標を、インフォグラフィックを使って発表している。

■日本の子どものネットいじめは過去5年間で95%増に

2020年10月に発表された文部科学省のデータによると、日本の子どものネットいじめは、2014年からの5年間で95%増と、増加の一途をたどっている。2019年度の子どものネットいじめは、前年度比1,590件増の17,924件で、過去最多となったとのこと。いじめの認知件数全体も61万2,496件と同じく過去最多だったという。
出典元:プレスリリース
SNSやLINEなどでのいじめについては、外部から見えにくいため、周りの大人が気づきにくいこともあり、日本のネットいじめの実数は、はるかに多い可能性もあるとのことだ。

■世界の中で、日本はネットいじめの最も少ない国というデータ

世界に目を向けてみると、国内でのネットいじめの増加傾向に対して、日本は31カ国中最もネットいじめが少ない国、というデータがあるという。
出典元:プレスリリース
これは、世界経済フォーラムと連携の元、DQ Instituteによって2020年2月に発表された「The Child Online Safety Index (COSI)」のスコアの一つ。COSIとは、世界各国の子どもたちのオンライン上の安全性を可視化する指標だ。

COSIの「ネットいじめ(Cyberbullying)」の指標は、子どもや青少年のネットいじめ行為への関与の頻度、ネットいじめで被害者になる頻度、ネットいじめの影響を受けた子どもの割合、から算出されている。スコアが高いほど、ネットいじめが少ない国となる。日本は98というスコアで世界のトップとなり、COSIの調査対象の30カ国で、ネットいじめが一番少ない国ということになるという。

NordVPNがDQ Instituteに行ったインタビューでは、日本の「ネットいじめ(Cyberbullying)」のスコアに関して、“礼儀正しく、礼節を重んじるといった日本文化の特徴もネットいじめが他国と比較して少ない要因として考えられる。”と独自の見解を示していた。ただし、COSIは子どもたち自身のアンケート回答により算出されるので、実際にネットいじめの影響を受けた子どもが、正直に回答していないケースも想定される。よって正確には、「日本は子どもや青少年が、ネットいじめを最も少なく申告した国」と言ったほうが良いかもしれないとのことだ。

■規律あるデジタル利用で、日本の子どもは世界最高ランク

COSIの「規律あるデジタル利用(Disciplined Digital Use)」という指標では、日本の子どもは世界最高ランクとなっている。「規律あるデジタル利用」は、「過剰なディスプレイ視聴時間」、「SNSとゲームへの依存」、「子どものモバイル所有」の3つから構成されている。
出典元:プレスリリース
・「過剰なディスプレイ視聴時間」
「過剰なディスプレイ視聴時間(Excessive Screen Time)」は、テレビやビデオゲームを含む電子機器のディスプレイ視聴が、週に40時間を超える子どもと青少年の割合を表している。スコアが高いほど、過剰なディスプレイ視聴時間の少ない国になる。日本は世界2位となっており、子どものインターネット利用時間が他国に比べて低いことを示唆している。米国国立衛生研究所の研究によると、1日に2時間以上電子機器を使用している子どもは、思考力や言語能力のテストで低い点数を記録。また、7時間以上ディスプレイを見ている子どもは、批判的思考や推論に関係する大脳皮質の厚さも少なくなっていたとのことだ。この観点から見ると、日本の子どものディスプレイ視聴時間は安全圏と言えそうだという。

・「SNSとゲームへの依存」
「SNSとゲームへの依存(High Social Media & Gaming Activity)」はスコアが高いほど、ソーシャルメディアやゲームに費やす時間が少ないことを示している。日本の子どもは、世界で最もSNSやゲームに依存していないという結果になっているとのことだ。

・「子どものモバイル所有」
「子どものモバイル所有(Mobile Ownership for Children)」は、スマートフォンを所有している子ども(8〜12歳)の割合を示している。日本は世界2位となっており、小学生のスマートフォン所持率が世界的にみて少ない状況がうかがえる。NTTドコモのモバイル社会研究所の2019年の調査によると、子どもの年代別スマートフォン所有率は、小学生53.6%、中学生75.4%、高校生92.4%となっている。日本の保護者は、小学生時代はケータイを選び、中学生になることを契機にスマートフォンに切り替えているという実態がうかがえる。この調査では、保護者の4割がSNSの年齢制限について知らなかったと回答。また、スマートフォンを持っている小学生の約3割が、SNSを通じて知らない人とやり取りをした経験があると回答しているという。日本の保護者は、子どものスマートフォンを物理的に制限するのみで、デジタルインテリジェンスについては十分でない可能性があるとのことだ。

■日本の子どものデジタルインテリジェンス教育の機会は世界最低ランク

COSIの「指導と教育(Guidance & Education)」という項目は、保護者や学校が子どもに適切なデジタル利用の指導を施しているかを評価するものだが、日本は世界最低ランクとなっている。日本の子どもがインターネットの安全な使い方について、家庭や学校で指導を受ける機会は、他国と比べて圧倒的に少ない状況となっているとのことだ。
出典元:プレスリリース
・「保護者による指導スコア」
「保護者による指導スコア(Parental Guidance score)」は、子どものメディア利用に関して親がどのような影響を与え、指導しているかを測定している。スコアが高いほど、保護者の指導のレベルが高いことを示している。日本は保護者による子どもの指導スコアは、世界ワースト3位となっている。これは日本の保護者自身の、ITリテラシーやデジタルインテリジェンスが低い可能性が高いとのことだ。

・「オンライン安全教育スコア」
「オンライン安全教育スコア(Online Safety Education Score)」は、学校によるオンライン安全教育の提供状況を測定している。スコアが高いほど、学校のオンライン安全教育のレベルが高いことを示している。日本は学校によるオンライン安全教育のスコアは、世界ワースト5位となっている。「The Child Online Safety Index (COSI)」を発表したDQ Instituteに調査結果についてインタビューしたところ、“日本には既に強固なデジタル文化が定着しているため、家庭や学校での特別な指導の必要性はあまり高くないかもしれない”と述べる一方で、“日本の子どもに、デジタルシティズンシップ(情報技術の利用における適切で責任ある行動規範)についての教育を受けたことがあるか調査を行った際、多くの子どもは否定的な回答をすることが多かった”と、日本の子どもに対する安全なオンライン利用の教育・指導の少なさを強調していたという。また、今回NordVPNがインタビューを行った岐阜県の学校教員によると、2013年の「いじめ防止対策推進法」施行以来、学校における安全なインターネット使用についての指導は増えてきているとのことだ。しかし、文部科学省や教育委員会などがそのように現場に指示をすることが増えたのも、近年子どものネットトラブルが特に目立ってきたからであり、予期されるトラブルを未然に防ごうというよりは、後手に回っている感じがあると述べているとのことだ。

日本のデジタルインテリジェンス教育の現状として、保護者の子どものデジタル利用への無関心と、学校外のネットいじめなどのトラブルも、すべて学校による解決を期待するといった行動が多く見られると指摘されている。もちろん、安全なネット・携帯の使い方を家庭でしっかり教育している保護者もいるので、一概にはそうとは言えないようだ。また、文部科学省のいじめの認知件数の集計結果について、「何をいじめとするか」という定義があいまいで、各学校や個人によっていじめの捉え方が大きく異なるため、数字として表れている結果が完全に正しいということはない、と注意を促しているとのことだ。

■日本の子どもの「デジタル・エンパシー」は30カ国中24位と低ランクに

COSIのデータによると、ネットいじめの日本のスコアは世界トップとなる一方で、「デジタル・エンパシー(共感力)」については、世界平均を大きく下回っている。日本の子どもの「デジタル・エンパシー」は、30カ国中24位という結果になっている。
出典元:プレスリリース
「デジタル・エンパシー(Digital Empathy)」の指標は、子どもたちのオンラインでの他者への思いやりに関する能力や知識を測定している。共感に関する知識、ネット上の荒らしのメカニズム、オンラインで偏見を持たず思いやりのあるコミュニケーションを行うするスキル、子どもが他人の感情にどの程度共感できるかを評価する「共感力」を主な基準として算出されている。

他国に比べ、ネットいじめは少ないのにも関わらず、デジタル・エンパシーの指標でこれだけ低いスコアとなっているのは意外かもしれない。その理由の一つとして、やはりオンライン安全教育のレベルが低いことが挙げられるという。また、共感力は他者との円滑なコミュニケーションに欠かせない能力の一つだが、子どものコミュニケーション能力自体が核家族化の進行やITの発達によって低下しているとも言われている。エンパシーとは、“もし自分が相手の立場だったら”と考えてみる想像力と言える。デジタル・エンパシーの低さは、子どもだけでなく、日本人全体に言える傾向とも考えられるという。たとえば、満足度の高いユーザーエクスペリエンス(UX)を生み出すには、共感力によりユーザー心理に寄り添ったデザインやユーザーインターフェイス(UI)が必須となる。どんなに多機能な製品でも、UIが使いにくいものは、顧客満足度が低くなり、売れなくなってしまう。従来の日本では、高品質な製品さえつくっていれば、必ず売れるはずだという思い込みが強く、ユーザーの使い勝手を想像する共感力に欠けていた側面があったのかもしれないとのことだ。

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